労災保険の障害等級(9級)

労災保険の障害等級(9級)

労災の9級等級とは?

労働能力喪失率35%の後遺症が残るもの

労働者災害補償保険法施行規則の表に9級に該当する項目が詳しく定められており、いずれかの要件を満たす必要があります。いずれの要件も労働能力喪失率35%の後遺症が残る場合です。下記表を詳しく見ていきましょう。

労災保険の障害等級(9級)

障害等級9級給付内容身体障害
1同391日分
※一回のみ
両眼の視力が〇・六以下になったもの
2一眼の視力が〇・〇六以下になったもの
3両眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの
4両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
5鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
6そしやく及び言語の機能に障害を残すもの
6の2両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
6の3一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
7一耳の聴力を全く失ったもの
7の2神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
7の3胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
8一手の母指又は母指以外の二の手指を失ったもの
9一手の母指を含み二の手指又は母指以外の三の手指の用を廃したもの
10一足の第一の足指を含み二以上の足指を失ったもの
11一足の足指の全部の用を廃したもの
11の2外貌に相当程度の醜状を残すもの
12生殖器に著しい障害を残すもの

目の障害に関して

1.両眼の視力が〇・六以下になったもの

2.一眼の視力が〇・〇六以下になったもの

一眼の視力が〇・〇六以下になったもの

視力の測定は、原則として、万国式試視力表によります。実際上これと同程度と認められる文字、図形等の指標を用いた試視力表または視力測定表を用いてもよいとされています。

万国式試視力表は、5mの距離にある直径7.5mmの図形(ランドルト環)を約200ルクスの明るさにおいて、その切れ目が見分けられる場合に視力を1.0とし、被検者の見分けられる最小の図形をこれと比較して、その視力を推定します。例えば、2倍の大きさの図形しか見分けられなければ視力0.5、10倍の大きさの図形しか見分けられなければ視力0.1となります。

「視力」とは、矯正視力をいいます。ただし、矯正が不能な場合には裸眼視力になります。 矯正視力には、眼鏡による矯正、医学的に使用可能なコンタクトレンズによる矯正または眼内レンズによる矯正によって得られた視力が含まれます。

3.両眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの

両眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの

視野とは、眼前の1点を見つめていて、同時に見える外界の広さをいいます。

(1)視野の測定は、ゴールドマン型視野計によります。

(2)「半盲症」、「視野狭さく」、「視野変状」とは、V/4指標による8方向の視野の角度の合計が、正常視野の角度の60%以下になった場合をいいます。また、暗点は絶対暗点を採用し、比較暗点は採用されません。

4.両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの

両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの

「まぶたに著しい欠損を残すもの」とは、閉瞼時(普通にまぶたを閉じた場合)に、角膜を完全に覆い得ない程度のものをいいます。

鼻の障害に関して

5.鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの

鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの

(1)「鼻の欠損」とは、鼻軟骨部の全部または大部分の欠損をいいます。また、「機能に著しい障害を残すもの」とは、鼻呼吸困難または嗅覚脱失をいいます。

(2)鼻の欠損が、鼻軟骨部の全部または大部分に達しないものであっても、これが、「外貌における単なる醜状」の程度に該当するものである場合は、第12級14号として認定されます。

(3)鼻の欠損は、一方では「外貌の醜状」としてもとらえられますが、それぞれの等級を併合することなく、いずれか上位の等級によることになります。

(4)鼻の欠損を外貌の醜状障害としてとらえる場合であって、鼻以外の顔面にも瘢痕等を存する場合にあっては、鼻の欠損と顔面の瘢痕などを併せて、その程度により「単なる醜状」か「相当程度の醜状」か「著しい醜状」かを判断することになります。

口の障害に関して

6.そしやく及び言語の機能に障害を残すもの

そしやく及び言語の機能に障害を残すもの

咀嚼機能の障害は、上下咬合(かみあわせ)および配列状態ならびに下顎の開閉運動等により総合的に判断します。

「咀嚼機能に障害を残すもの」とは、固形食物の中に咀嚼ができないものがあることまたは咀嚼が十分にできないものがあり、そのことが医学的に確認できる場合をいいます。

「言語の機能に障害を残すもの」とは、4種の語音のうち、1種が発音不能となったものをいいます。

耳の障害に関して

6の2.両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの

両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの

両耳の平均純音聴力レベルが60db以上のもの、又は両耳の平均純音聴力レベルが50db以上であり、且つ最高明瞭度が70%以下のものです。

6の3.一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの

一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの

1耳の平均純音聴力レベルが80db以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力レベルが50db以上のものをいいます。

7.一耳の聴力を全く失ったもの

一耳の聴力を全く失ったもの

1耳の平均純音聴力レベルが90db以上のものをいいます。

神経系統の障害に関して

7の2.神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

就労可能な職種の範囲が、相当な程度に制限されるものをいいます。例えば、てんかんやめまいのために、高所作業などが禁じられる状態です。

臓器の障害に関して

7の3.胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

胸腹部臓器の後遺障害には、①呼吸器の障害、②循環器の障害、③腹部臓器の障害、④泌尿器の障害、⑤生殖器の障害、があります。

9級の場合、⑤生殖器の障害は12号において別途規定されています。

呼吸器の障害に関して

(1)呼吸器の後遺障害

判定方法は、①動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果による判定、②スパイロメトリーの結果および呼吸困難の程度による判定、③運動負荷試験の結果による判定があります。

原則として、①に判定された等級に認定します。ただし、その等級が②または③により判定された等級より低い場合には、②または③により判定された等級により認定します。

9級の場合は①のみで判断し、動脈血酸素分圧が60Torr超〜70Torrで、動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲内(37Torr〜43Torrのもの)であれば認められます。

(2)循環器の後遺障害

循環器の後遺障害には、①心機能低下、②除細動器またはペースメーカーの植え込み、③心臓の弁の置換、④大動脈解離があり、9級の場合①②③により判断します。

①心機能低下(心筋梗塞、狭心症、心臓外傷等による)については、概ね6METs(※メッツ)を超える強度の身体活動が制限されるもの(例:平地を健康な人と同じ速度で歩くのは差し支えないものの、平地を急いで歩く、健康な人と同じ速度で階段を上るという身体活動が制限されるもの)であれば、9級と認められます。

②ペースメーカーの植え込みをすれば、9級となります。

③継続的に抗凝血薬療法を行うものであれば、9級となります。

(3)泌尿器の後遺障害

泌尿器の後遺障害には、①じん臓の障害、②尿管、膀胱および尿道の障害があります。

①じん臓の障害の等級
GFR値という、糸球体がろ過した原尿の量を指す値により判断します。9級となるのは以下の場合です。

  • 一側のじん臓の亡失があり、GFR値(ml/分)が50超~70の場合
  • 一側のじん臓の亡失がなく、GFR値(ml/分)が30超~50の場合

②尿管、膀胱および尿道の障害

  • 尿禁制型尿路変向術(禁制型リザボアおよび外尿道口形成術を除く)を行ったもの
  • 残尿が100ml以上あるもの
  • 切迫性尿失禁および腹圧性尿失禁のため、常時パッド等を装着しなければならないが、パッドの交換までは要しないもの

手の障害に関して

8.一手の母指又は母指以外の二の手指を失ったもの

一手の母指又は母指以外の二の手指を失ったもの

片手の親指、または、親指以外の2本の指を失った場合を言います。

「手指を失ったもの」とは、親指は指節間関節(IP)、その他の手指は近位指節間関節(PIP)以上を失ったものとされており、具体的には、次の場合がこれに該当します。

  • 手指を中手骨または基節骨で切断したもの
  • 近位指節間関節(PIP)《親指にあっては指節間関節(IP)》において、基節骨と中節骨とを離断したもの

9.一手の母指を含み二の手指又は母指以外の三の手指の用を廃したもの

一手の母指を含み二の手指又は母指以外の三の手指の用を廃したもの

片手の親指を含む2本の指、または親指以外の3本の指を廃したものを言います。

「手指の用を廃したもの」とは、手指の末節骨の半分以上を失い、または、中手指節関節(MP)もしくは近位指節間関節(PIP)《親指にあっては指節間関節(IP)》に著しい運動障害を残すものとされており、具体的には、次の場合がこれに該当します。

  • 手指の末節骨の長さの2分の1以上を失ったもの
  • 中手指節関節(MP)または近位指節間関節(PIP)《親指にあっては指節間関節(IP)》の可動域が、健側の可動域角度の2分の1以下に制限されるもの

親指については、橈側外転または掌側外転のいずれかが、健側の2分の1以下に制限されているものも「著しい運動障害を残すもの」となります。

また、手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚が完全に脱失したものも「手指の用を廃したもの」として取り扱われます。

これは、医学的に当該部位を支配する感覚神経が断裂し得ると判断される外傷を負った事実を確認するとともに、筋電計を用いた感覚神経伝導速度検査を行い、感覚神経活動電位(SNAP)が検出されないことを確認することによって認定します。

足の障害に関して

10.一足の第一の足指を含み二以上の足指を失ったもの

一足の第一の足指を含み二以上の足指を失ったもの

片足の親指を含む2本の指を失った場合を言います。

「足指を失ったもの」とは、その全部を失ったものとされており、具体的には、中足指節関節(MTP)から失ったものがこれに該当します。

11.一足の足指の全部の用を廃したもの

一足の足指の全部の用を廃したもの

片足の全ての指の用を廃したものを言います。

「足指の用を廃したもの」とは、親指は末節骨の半分以上、その他の足指は遠位指節間関節(DIP)以上を失ったもの、または、中足指節関節(MTP)もしくは近位指節間関節(PIP)《親指にあっては指節間関節(IP)》に著しい運動障害を残すものとされており、具体的には、次の場合がこれに該当します。

  • 親指の末節骨の長さの2分の1以上を失ったもの
  • 親指以外の足指を中節骨もしくは基節骨を切断したものまたは遠位指節間関節もしくは近位指節間関節において離断したもの
  • 中足指節関節または近位指節間関節(親指にあっては指節間関節)の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されるもの

顔の障害に関して

11の2.外貌に相当程度の醜状を残すもの

外貌に相当程度の醜状を残すもの

外貌における「相当程度の醜状」とは、原則として、顔面部の長さ5cm以上の線状痕で、人目につく程度以上のものをいいます。

生殖器の障害に関して

12.生殖器に著しい障害を残すもの

生殖器に著しい障害を残すもの

性交不能となるような場合で、男女別に以下の場合9級となります。

①男性の場合

  • 陰茎の大部分を欠損したもの(陰茎を膣に挿入することができないと認められるものに限る)
  • 勃起障害を残すもの
  • 射精障害を残すもの

②女性の場合

  • 膣口狭窄を残すもの(陰茎を膣に挿入することができないものと認められるものに限る)
  • 両側の卵管に閉塞、もしくは、癒着を残すもの、頸管に閉塞を残すもの、または子宮を失ったもの(画像所見により認められるものに限る)

9級に該当すると、いくらもらえる?

給付基礎日額の391日分が、一時金として支払われます。

給付基礎日額とは、原則として労働基準法の平均賃金に相当する額をいいます。平均賃金とは、原則として、事故が発生した日の直前3か月間にその労働者に対して支払われた金額の総額を、その期間の歴日数で割った、一日当たりの賃金額のことです。

試算例

賃金・月給20万円(賃金締切日が毎月末日、労働災害が10月に発生した場合)

→給付基礎日額は、20万円×3か月÷92日(7月:31日、8月:31日、9月:30日)≒6,521円73銭となります。
なお、給付基礎日額に1円未満の端数がある場合は、これを1円に切り上げるので、今回の額は6,522円になります。

労働災害により9級の後遺障害が残ったと認定された場合、障害保障給付金として
6,522円×391日=2,550,102円が支払われることになります。


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