仕事中に交通事故に遭ってしまったら

仕事中(あるいは通勤途中)に労働者が交通事故にあって怪我をした場合、労働者は「第三者行為災害」により被災したとして労災申請を行うことができます。
労働者は労災保険に基づく給付請求権に加え、第三者である加害者に対し、不法行為責任(民法709条)及び自賠責法3条に基づく損害賠償請求権を有することになります。

この場合、両者から損害賠償を受けられるとすると、損害額の二重取りになってしまいます。また、本来損害のてん補は、政府ではなく加害者本人が負担すべきと考えられます。
このため、交通事故の際の労災保険に基づく給付と、損害賠償請求については、支払い調整が行われ、労働者の二重取りを防ぐ制度となっています。

具体的には、先に政府が労災保険給付をしたとき、政府は、被災者が第三者に対して有する損害賠償請求権を労災保険給付の科学の限度で取得します(求償)。他方、被災者が第三者から先に損害賠償を受けたときは、政府はその価額の限度で労災保険給付をしないことができます(控除)。これは労災保険法第12条の4に明示されています。

1.第三者行為災害に基づく労災申請の手続き

では、交通事故にあって労災保険給付を請求したい場合、具体的にどのような書類をどこに提出すれば良いのか、見ていきましょう。被災者と第三者(加害者)双方に、提出が必要な書類があります。

まず、被災者が提出する書類は、第三者行為災害届です。
これは、被災者が所属する事業場を管轄する労働基準監督署に提出する必要があり、支払い調整を適正に行うため、原則として労災保険給付に関する請求書に先だってもしくは同時に提出する必要があります。
さらに、第三者行為災害届に必要な添付書類があります。

まずは交通事故証明書が必要で、自動車安全運転センターにおいて交付証明を受けなければなりません。なお、警察署へ届け出ていない等の理由により証明書の提出ができない場合には、交通事故発生届の提出が必要です。
次に、被災者本人が署名した、念書(兼同意書)が必要です。被災者が不用意に示談をすれば、労災給付を受けられなくなったり、すでに受け取った労災保険給付を回収されるなど思わぬ損失をこうむる場合があります。このような事態を避けるため、念書に記載された注意事項をよく読んで理解しなければなりません。
他に、示談が行われた場合は「示談書の謄本」、仮渡金又は賠償金を受けている場合は「自賠責保険等の損害賠償金等支払証明書又は保険金支払通知書」、被災者が死亡した場合は「死体検案書」又は「死亡診断書」及び「戸籍謄本」が必要となります。

交通事故を発生させた加害者は、「第三者行為災害報告書」を提出するよう労働基準監督署から求められます。これは、第三者に関する事項、災害発生状況および損害賠償金の支払い状況などを確認するため必要な書類ですので、提出を求められると速やかに提出する必要があります。

2.労災保険と自賠責保険どちらを申請すべきか?

仕事中に交通事故が起きて怪我をした際、労災保険の給付と自賠責保険に基づく損害賠償額の支払い、どちらを申請すべきでしょうか
労働基準監督署の取り扱いでは、原則として自賠責保険の支払いを労災保険の給付に先行させるよう取り扱うよう求める通達が出ています。これは、受給者の保険の二重取りを防ぐためです。

しかし、前記通達がありつつも、労働者は必ずしも自賠責保険の支払いから請求しなければならないわけではありません。
別の通達で、「自賠責先行の原則を踏まえつつ、第一当事者等の意向が労災保険を希望するものであれば、労災保険の給付を自賠責保険等による保険金支払よりも先行させることとしているところであるが、労災保険の給付請求と自賠責保険等の保険金支払請求のどちらを先行させるかについては、第一当事者等がその自由意思に基づき決定するものであるため、その意思に反して強制に及ぶようなことのないよう留意すること」とあります。
したがって、労働者本人が望めば労災保険の給付申請を先に行うことができるのです。

自賠責保険と労災保険、どちらから保険金の支払いを受けた方が良いのでしょうか。被災者が自由に選べるとはいえ、悩むところです。
結論から言えば、ケースバイケースでしょう。

(1)自賠責保険を選択するメリット

自賠責保険は仮渡金制度があり、労災保険給付より支払いの幅が広いと言えます。例えば労災保険では給付が行われない慰謝料が支払われ、療養費の対象が労災保険より幅広くなっています。また、休業損害が原則として100%支給されます。(他方労災保険では、休業補償給付60%+休業特別支給金20%の80%にとどまります。)これが、自賠責保険のメリットです。
なお、自賠責を選んだ場合であっても、労災保険の申請により支給される特別支給金を請求することができます。特別支給金とは、休業特別支給金をはじめ、傷病特別支給金、障害特別支給金、遺族特別支給金、傷病特別支給金、障害特別年金、遺族特別年金、障害特別一時金、遺族特別一時金があります。これらは社会復帰促進により支給されるものであって、保険給付ではないため、支払い調整の対象外となるのです。

(2)労災保険を選択するメリット

他方、労災保険を申請した方が良い場合もあります。

まずは、被災者自身に7割以上の過失が認められる場合です。
自賠責保険においては、被害者の救済を目的とする強制加入保険という性質上、被災者に多少の過失があった程度では補償金額の減額はされません。しかし、被災者に「重大な過失」すなわち7割以上の過失がある場合、過失割合に応じて保険金額が減額されます。
具体的には、事故により被災者が死亡または後遺障害を負った場合、過失が7~8割であれば20%の減額、8~9割であれば30%の減額、9~10割であれば50%減額され、被災者が後遺障害を負わない程度の怪我を負った場合、過失が8割以上であれば20%減額されます。

他方、労災保険においては被災者の過失は全く考慮されませんので、どんなに過失があったとしても満額支給されることになります。これは、労災保険の、業務上の事由(又は通勤)による労働者の負傷等に対して迅速かつ公正な保護をし、労働者の福祉の増進に寄与するという確固たる目的に基づくものです。

3.もし、加害者が任意保険に加入していない場合は?

自賠責保険は、最低限度の損害を補償する制度であるため、補償されるのは事故相手が死亡したり怪我をした場合に限られます。さらに補償金額に上限があり、死亡の場合は3000万円、怪我をした場合には120万円以上は補償されません。
他方、自動車保険などの任意保険では、物損事故の場合でも補償されますし、人身事故の場合でも自賠責保険で補えない部分の金額の補償を受けることができます。
自動車を運転する人は、自動車保険などの任意保険にも加入しているのが通常でしょう。
ところが、自動車保険の更新手続きを忘れているケースもあります。そのような場合、十分な資力のある人がたまたま加害者であれば損害の賠償を受けることができますが、そうではない場合、実際上賠償を受けることが困難となるでしょう。

また、自動車の所有者に事故の発生について非が認められないときが考えられます。
自動車損害賠償保障法3条によれば、「自己のために自動車を運行の用に供する者」を運行供用者として、その運行により他人の生命または身体を害したときは損害賠償責任を負う旨の定めがあります。ここにいう運行供用者とは、自動車の所有者のみならず、自動車を無償で借り受けている者等が該当します。ところが、車が盗難にあい、所有者の知らないところで勝手に交通事故を起こされたような場合、所有者に対して運行供用者責任を問うことはできず、自賠責保険を請求することは難しいでしょう。

さらに、労災認定の方が、後遺障害の認定に際し、基準が緩くなりがちという点もあります。
これは、労災認定が労働能力の喪失に着目した基準によるもので、特に、高次脳機能障害(交通事故により脳外傷のため脳が損傷されたために認知機能に障害が起きた状態)の場合、後遺症認定されやすい傾向にあります。等級が上がれば上がるほど給付される金額も多くなるため、基準が緩やかな労災保険を使用すべき場合があると言えるでしょう。

4.おわりに

このように、交通事故に際して労災保険を使うか自賠責保険を使うかは、場合によって異なり、判断が難しい場合があります。法律事務所テオリアではおひとり様ごとに個別の見積もり表を作成し、
今後の流れに応じてどのような費用が掛かるか、受給できる見込みの金額と、弁護士報酬を提示しており、受任の段階で費用と流れの大まかな見通しが立ちます。
また、交通事故の場合、第三者行為災害届の記載をはじめ、過失割合の判断や示談の交渉など、弁護士に相談すべき場面が多いです。裏を返せば弁護士に一任すれば安心できる事柄であると言えるでしょう。業務中あるいは通勤途中に交通事故にあわれた際、なるべく早めに、弁護士にお気軽にご相談ください。


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