アルバイトへの労災の適用

労災が適用される「労働者」とはアルバイトだから労災は適用されないと考えている事業者がいます。
労災保険は、原則として一人でも労働者を使用する事業は、業種の規模の如何を問わず、すべてに適用されます。

労災保険における労働者とは、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」を指し、労働者であればアルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ありません。
したがって、雇っている人数、期間や労働時間に関係なく、一日だけの短期アルバイトも含めすべての労働者に労災が適用されるのです。
近年在宅勤務など働く形態は様々で、どのような場合に「労働者」と言えるのか、判断が難しい場合があります。

ところが、労災が適用されるか適用されないかで、仕事中に病気や怪我をした際、受給できる金額が全く異なります。

仕事中に仕事が原因で怪我をしても、例えば自営業者であれば1円も貰えないのに対し、労働者であれば、治療費が全額支給され、休業補償給付として実質給料の8割が支給されるのです。
よって、「労働者」と言えるか否かは非常に重要な判断となるのです。

労働者をどのように判断するのか?

最初に述べた通り、労働基準法では、「労働者」を「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」と規定しています。

したがって、労働者と言えるかは、使用される、すなわち指揮監督下の労働という労務提供の形態と、賃金支払いという労務に対する対償性(報酬が提供された労務に対するものであるか)によって判断することになります。

指揮監督下の労働にあると言えるか、という観点と報酬が提供された労務に対するものであるかどうか、という観点二つの基準を合わせて「使用従属性」と言います。

ただ、現実には、指揮監督の程度や態様の多様性、報酬の性格の不明確さ等から、この二つの基準のみでは判断が困難な場合もあるため、そのような場合は「専属度」や「収入額」等様々な要素を考慮して判断することになり、4つの観点から判断します。

  • 使用従属性に関する判断基準
    ※(1)「指揮監督下の労務」であると言えるか指揮監督下の労務であるかを判断するにあたり、考慮すべき点は1仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、
  • 業務遂行上の指揮監督の有無
  • 拘束性の有無
  • 代替性の有無

1. 使用従属性に関する判断基準

仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無まず、仕事の依頼、業務従事の指示に対して諾否の自由を有していれば、他人に従属して労務を提供するとは言えず、対等な当事者間の関係となるので指揮監督下の労務にあるとは言えないでしょう。

他方、諾否の自由を有しない場合は指揮監督関係を推認させる重要な要素になりますが、これだけでは判断できません。包括的な仕事の一部である個々の具体的な仕事については、事実上拒否する事由が制限されるのが通常です。

したがって、仕事を頼んだ過程などの事実関係を確認することはもちろん、契約内容についても確認し、慎重に判断する必要があります。

2. 業務遂行上の指揮監督の有無

次に、業務の内容及び遂行方法について使用者の具体的な指揮命令を受けている場合は、指揮監督関係が推認されることになります。

指揮命令の程度が、通常注文者が行う程度の指示に留まる場合には、指揮監督下にあるとは言えないでしょう。

3. 拘束性の有無

勤務場所や勤務時間が指定され管理されていれば、一般的には指揮監督関係が認められると言えるでしょう。しかし、演奏など特有の業務の性質上、あるいは建設現場など、安全を確保する必要上、必然的に勤務場所や時間が指定される場合があります。

よって、その指定が業務の性質や安全を確保するためなのか、それとも業務の遂行を指揮命令する必要によるものかを見極める必要があります。

4. 代替性の有無

本人が自らの判断によって補助者を使うことが認められているなど労務提供の代替性が認められている場合には、指揮監督関係を否定する要素になりますが、これはあくまでも判断を補強する要素として、検討する観点と言えます。

報酬の労務対償性に関する判断基準労働基準法11条では、「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」とあります。
すなわち、使用者が労働者に対して支払うものであって、労働の対償であれば、名称を問わずに「賃金」と言えるのです。

報酬が時間給を基礎として計算されるなど労働の結果による差が少ないとか、欠勤した場合にはその分の報酬が控除されたり、残業をした場合には別の手当が支給されるなどの場合には、報酬が使用者の指揮命令の下、一定時間労務を提供することに対する対価すなわち「賃金」と判断されます。

判断基準使用従属性の判断が困難な場合、以下の要素があります

(1)事業者性の有無労働者は、機械、器具、原材料などの生産手段を有していないのが一般的ですが、傭車運転手(運送会社から委託され個人で運送業務を行う業者)のように高価なトラックを所有して労務を提供するような例もあります。
このような場合は、二つの基準のみならず、その者の「事業者性」の有無を合わせて判断することになります。

このとき、機械、器具の負担関係、報酬の額、その他の事案を考慮します。
すなわち、本人が所有する機械、器具が著しく高価な場合は、自らが事業経営を行う「事業者」としての性格が強いため、労働者性を弱める判断に働きます。

そして、報酬の額が、その企業の正規従業員に比べて著しく高額であるような場合は、「事業者」に対する代金の支払いと認められるため、労働者性を弱める要素となります。
その他、業務遂行中の損害に対して責任を負うとか、独自の商号使用が認められると「事業者」としての性格を補強することになります。

(2)専属性の程度他社の業務に従事することが制度上制約されていたり、事実上困難である場合には、専属性の程度が高いため、経済的にその企業に従属していると考えられ、労働者性が認められやすくなります。
また、報酬に固定給部分がある、業務の配分などにより事実上固定給となっている、その額が生計を維持する程度の額であるなど、報酬に生活保障的な要素が強いと認められる場合は、労働者性が認められやすくなります。

この他、採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様であること、報酬について給与所得としての源泉徴収を行っていること、労働保険の適用対象としていること、服務規律を適用していること、退職金制度や福利厚生を適用しているなどの事情が、労働者性を肯定する判断の補強材料となります。

アルバイトへの労災の適用のまとめ

このように、労働者性の判断は緻密な考察が必要となる場合があります。
契約内容が雇用契約か請負契約か、という形式的なものでは決まらず、先に述べた様々な判断材料を事実に照らして検討していく必要があるのです。

労災が適用されるかされないかで、給付される金額は雲泥の差です。
療養中の生活に直結する問題ですので、労働者に当たらないという理由で職場で労災の適用を拒否されたり協力してくれない場合は、迷わず弁護士に相談ください。


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