働く人々の多くは、労災保険に加入しています。労災にあったら労災保険で補償を受けられることは、ほとんどの人が知っているでしょう。
しかし、実際に労災にあった時に、どのような流れで申請手続きをすればいいか理解している方は、少ないのではないでしょうか。
そこで今回は、労災の申請手続きを流れに沿ってご紹介しましょう。
手続き1 労災が発生したことを会社に連絡する
業務中や通勤中に労災が発生したら、まずは労災が発生したことを会社に連絡しなければなりません。
会社への労災報告で伝えること
労災保険への加入は、会社の事業主に義務付けられているものであり、保険料も事業主が納めています。事業主には労災防止義務や労災発生報告義務があり、また労災申請手続きも会社側が行うのが一般的であることから、会社および事業主は労災の現状を速やかに把握する必要があります。
労災発生時には、以下のことを会社に知らせるようにしましょう。
- 労災が発生した日時
- 誰が怪我を負ったのか
- 怪我の状態や部位
- 労災発生状況とその把握者
報告や申請手続きを進めるには、労災の詳しい状況把握が必須です。なるべく明確に状況を伝え、難しい場合にはその場にいた状況把握者の協力を求めましょう。
労災かどうかの判断
では、負ったケガが労災かどうかはどのように判断すれば良いのでしょうか。
労災かどうかは、労災認定における2つの判断基準をもって判断します。
- 労災認定の判断基準
- ①業務遂行性の有無(労働契約に基づき、労働者が事業主の支配下にある状況のこと。)
②業務起因性の有無(起こった傷病が業務に起因すること。)
「業務遂行性」と「業務起因性」の両方が認められる場合、そのケガは労災となります。
例えば、仕事中に階段から落ちてケガをした場合には業務遂行性も業務起因性も認められます。一方、仕事の休憩中に職場でボール遊びをしていた場合のケガでは、職場という環境における業務遂行性はあっても、私的行為であるボール遊びに業務起因性は認められません。
また、通勤中の労災(通勤災害)の場合には、「就業に際し、合理的なルートでの通勤であること」が条件となります。
手続き2 労災(指定)病院を受診する
労災でケガを負ったら、ケガの治療のため、病院で診察を受ける必要があります。ケガの状態によっては、会社への連絡よりも先に病院へ行く必要がある場合もあるでしょう。その場合は、もちろん先に治療を受け、治療後に会社へ報告する形でも問題ありません。
病院での対応は、労災(指定)病院を受診するか、労災(指定)病院以外の病院を受診するかによって異なります。ただし、労災には健康保険が使えないので、どちらの場合でも窓口で労災の旨を告げ、健康保険証を出して治療を受けないよう気をつけましょう。
労災(指定)病院を受診する場合
労災(指定)病院とは、労働局に指定されている病院のことです。労災による傷病の治療を労災(指定)病院で受けた場合には、労災保険の給付対象となる治療費を労働者が負担したり立て替えたりする必要はありません。治療費は、手続き後に労災保険から直接労災(指定)病院に支払われます。
またこの場合、療養(補償)給付を受けるための請求手続きは、書類を受診した労災(指定)病院に提出するだけで済みます。
労災(指定)病院以外を受診する場合
労災(指定)病院以外の病院を受診する場合には、労働者は一旦治療費を全額立て替えなければなりません。労災の治療には健康保険が使えないので、健康保険証を使って治療を受けないよう注意してください。よって、労災(指定)病院以外の病院を受診する場合には、労働者は治療費の10割を一旦病院の窓口で支払うことになります。
その後、医師の証明をもらった請求書類と領収書を労働基準監督署に提出し労災が認められれば、立て替えた治療費は口座振込で還付されます。
手続き3 労働基準監督署に必要書類を提出する
ここからは、労災申請の手続きに入ります。
基本的には会社が手続きを担いますが、会社が手続きを行わない場合は、労働者自身、またはその家族が手続きすることも可能です。もし会社が手続きに協力的でなく、会社側の書類記入欄を記入しない場合には、提出時に労働基準監督署窓口へ会社の協力が得られない旨を伝えましょう。
労災の認定を受け、労災保険の補償を受けるためには、定められた機関に申請書類を提出しなければなりません。書類の種類と提出先は、申請する給付の種類によって異なります。
労災給付の申請書類と提出先
給付の種類 | 書類の種類 | 提出先 | |
療養(補償)給付 | 労災(指定)病院にかかった場合 | 療養補償給付たる療養の給付請求書 (様式第5号)療養給付たる療養の給付請求書 (様式第16号の3) | 受診した病院 |
労災(指定)病院以外の病院にかかった場合 | 療養補償給付たる療養の費用請求書 (様式第7号)療養給付たる療養の費用請求書 (様式第16号の5) | 労働基準監督署 | |
休業(補償)給付 | 休業補償給付支給請求書(様式8号)休業給付支給請求書(様式16号の7) | 労働基準監督署 | |
障害(補償)給付 | 障害補償給付支給請求書(10号)障害給付支給請求書(16号の7) | 労働基準監督署 | |
遺族(補償)給付 | 年金 | 遺族補償年金支給請求書(様式12号)遺族年金支給請求書(様式16号の8) | 労働基準監督署 |
一時金 | 遺族補償一時金支給請求書(様式15号)遺族一時金支給請求書(様式16号の9) | 労働基準監督署 | |
葬祭料(葬祭給付) | 葬祭料請求書(様式16号)葬祭給付請求書(様式16号の10) | 労働基準監督署 | |
介護(補償)給付 | 介護補償給付・介護給付支給請求書(様式16号の2の2) | 労働基準監督署 | |
二次健康診断等給付 | 二次健康診断等給付請求書(様式16号の10の2) | 健診給付病院 |
給付に応じた書類を用意したら、必要事項を記入し、添付書類を用意の上、指定の提出先に提出しましょう。書類は労働基準監督署の窓口で受け取れる他、ホームページからのダウンロードも可能です。
各給付の申請には2年もしくは5年の時効があるので、手続きのタイミングには注意しましょう。
手続き4 労働基準監督署による調査・確認
書類を提出したら、労働基準監督署による労災事故の調査が始まります。
労働基準監督署は会社や病院に聞き取りを行ったり、労働者本人と面談したりして、事故の実態を把握し、労災の認定・非認定を決定します。労働者は面接時に明確な説明ができるよう、準備をしておきましょう。
決定が出るまでの調査期間はケースによって異なりますが、1ヶ月〜3ヶ月が一般的でしょう。ただし、判断が難しいケースについては、より長い期間を必要とする可能性もあります。
手続き5 労災保険給付の決定
労災認定・非認定の決定、つまり労災保険給付の支給・不支給の決定が出たら、労働基準監督署から支給決定通知もしくは不支給決定通知が届きます。支給が決定した場合には、各種給付金が支給されます。
一方、不支給が決定し、その決定に不服がある場合には、3ヶ月以内であれば労働者災害補償保険審査官に対する「審査請求」が可能です。
また、労働者災害補償保険審査官の決定に不服がある場合、もしくは審査請求後3ヶ月経っても決定がない場合には、労働保険審査会に対し「再審査請求」を行えます。
さらに、労働保険審査会の決定に不服がある場合、もしくは再審査請求後3ヶ月経っても決定がない場合などには、地方裁判所に対し「取消訴訟の提起」を行えます。
労災給付・不給付決定に不服がある場合の手続き
手続き | 期限 | 請求先 |
①審査請求 | 保険給付に関する決定があったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月以内 | 労働者災害補償保険審査官 |
②再審査請求 | 審査官の決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2ヶ月以内 審査請求後3ヶ月経っても審査官の決定がない場合 | 労働保険審査会 |
③取消訴訟の提起 | 裁決があったことを知った日の翌日から起算して6ヶ月以内(裁決があった日から1年を経過した場合を除く) 再審査請求後3ヶ月経っても審査会の決定がない場合 その他正当な理由がある場合 | 地方裁判所 |
まとめ
労災の手続きは、ほとんどの場合会社が行うため、そこまで複雑ではありません。ただし、労働者やその家族が手続きを行わなくてはならないこともあるため、手続きの流れは知っておくようにしましょう。
とはいえ、労災発生時には傷病の治療や心のケアで、労災の手続きどころではない場合もあるでしょう。そんな場合には、労災案件に強い弁護士にご相談ください。弁護士は、労災の手続きをサポートするだけでなく、依頼によっては会社が協力的でない場合の対処や労災の証拠集めも担います。無理に自身で抱え込まず、法律のプロの手を借りることも視野に入れ、納得のいく解決を目指しましょう。