パワハラで労災認定される3つの条件|慰謝料請求についても解説

近年、ハラスメントに対する社会の意識は大きく変わろうとしています。

その代表的なものが、パワーハラスメント、いわゆるパワハラ。コンプライアンスの一環として、パワハラを問題視し、然るべき対応を取っている会社は多いでしょう。

とはいえ、いまだにパワハラが横行し従業員が苦しんでいる職場があるのも事実です。

では、上司等のパワハラによって従業員が病気を負った場合、それは労災認定されるのでしょうか。

今回は、パワハラが原因の労災申請における条件やコツ、慰謝料請求について、わかりやすく解説します。

パワハラは労災認定される?

結論から述べると、パワハラを原因とした精神障害が労災認定される可能性はあります。

労災の基本的な要件は、「業務との起因性・遂行性が認められること。職場での業務中のパワハラによる精神障害は、起因性・遂行性ともに認められる可能性があると考えられます。

実際に、令和6年2月には、法律上でパワーハラスメントの定義が規定され、それに伴い、精神障害の労災認定基準として、パワーハラスメントの要件も明記されるようになりました。この認定基準を満たす場合、労働者の負った精神障害は労災と認定され、労災保険による補償の対象となります。

令和2年のパワハラと労災に関する法改正については、「「パワハラ」が労災認定基準に明記|令和2年6月の改正内容を解説」をご一読ください。

パワハラの定義

令和2年の改正労働施策総合推進法施行のもと、パワハラについては法律上の定義が規定されました。そこでは、パワハラの定義として次の3つのポイントを挙げています。

  1. 優越的な関係を背景とした
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
  3. 就業環境を害すること(身体的・精神的な苦痛を与えること)

優越的な関係が背景にあることが、パワハラの特徴です。具体的な背景としては、上司・部下間、片方が経験や知識を有する同僚間、集団・個人間などの関係性が考えられます。

この優越的関係が背景にない場合のハラスメントは、パワハラではなく、モラハラ(モラルハラスメント)となります。

厚生労働省は、上記のポイントにもとづくパワハラの判断は、社会通念や平均的な労働者の感じ方を基準に行われるとしています。客観的に見たときに、「業務上必要である」「適正な指示・指導である」と判断される場合には、それはパワハラにはなりません。

パワハラで労災認定される3つの条件

前述の改正法施行に伴い規定された「精神障害の労災認定基準」は、次の3つです。

  1. 対象となる精神障害と診断されていること 
  2. 発症前おおむね6ヵ月間に業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の心理的負荷により発症したものでないこと

この条件はもともと精神障害の労災認定基準とされてきたものですが、令和2年の法改正において、その判断に用いる心理的負荷評価表に「パワーハラスメント」が追加されました。

これにより、上記3つの条件の全てを満たす場合、労働者の負ったパワハラによる精神障害は、労災と認められることが明記されたのです。

ここでは、上記3つの条件について詳しく確認しておきましょう。

①対象となる精神障害と診断されていること

労災認定の対象となるのは、国際疾病分類第5章「精神および行動の障害」に記載されている精神障害のうち、「認知症や頭部外傷による障害」や「アルコール・薬物による障害」を除いたものです。

対象の疾病は10種類に分類されていますが、その中でもパワハラによる精神障害にあたる可能性があるのは、うつ病(気分・感情障害)や急性ストレス反応(神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害)等でしょう。

このような精神障害であると医師に診断されていることが、条件のひとつ目です。

②発症前おおむね6ヵ月間に業務による強い心理的負荷が認められること

精神障害の発症前に業務上で強い心理的負荷があったことも、労災認定の条件です。

ここでいう「強い心理的負荷」については、「業務による心理的負荷評価表」をもとに、起こった具体的出来事を評価表にあてはめて、強・中・弱の3つの強度で評価します。

このとき、心理的負荷が強であると評価された場合には、②の条件が認められることになります。

また、この条件については、発病前の6ヶ月についての評価が基本です。しかし、いじめやハラスメントのような出来事が継続的に繰り返される事案については、いじめやハラスメントが始まった時からの心理的負荷についての評価が行われます。

よって、「いつからハラスメントを受けているか」きちんと把握し、できるだけ証拠を残しておくことは、条件を満たすために有効でしょう。

③業務以外の心理的負荷により発症したものでないこと

最後の条件は、業務以外の心理的負荷が精神障害の原因ではないこと。プライベートではなく、業務が原因の発病だと言えるかどうかを評価する項目です。

この条件では、「業務以外の心理的負荷表」を用いて、プライベートの負荷を評価します。

労災認定を受けるには、この評価において、プライベートおよび個体側要因が認められないと評価されることが大切。これにより、発病は業務によるものであると証明できるためです。

精神障害の労災認定基準については「うつ病で労災認定されるために必要な証拠は?診断書のもらい方も徹底解説」でもご説明しています。

パワハラで労災申請をする手順

パワハラによる精神障害に対し、労災認定と補償を受けるためには、労災保険の給付金請求手続きを行わなければなりません。労災保険の給付金には種類があるので、自身の状況に合った給付金用の用紙を用い、手続きを行いましょう。

この手続きの大まかな手順は、次のとおりです。

  1. 労災保険給付の請求書を作成する
  2. 医師から証明書をもらう
  3. 書類を提出する

まずは、自身が請求する給付金用の請求書を作成します。労災の種類(業務災害・通勤災害)、給付金の種類、また労災指定病院を受診したかどうかで、用いるべき書類の様式は異なるので注意しましょう。

また、請求書には会社の証明欄が設置されているので、会社に依頼してこの欄を埋めてもらうようにしてください(会社の協力を得られない場合には空白可)。

請求書が完成したら、労災指定病院を受診した場合には、その病院の窓口に書類を提出します。

労災指定以外の病院を受診した場合には、その病院に証明欄を埋めてもらってから、事業場を管轄する労働基準監督署に書類を提出しましょう。

このような手続きは、所属する会社側が代理で進めるのが慣習となっています。しかし、会社が対応してくれない場合には、被災した従業員本人で手続きを進めるようにしてください。

パワハラで労災認定された際の支給金額

パワハラによる精神障害が労災認定された場合に支給される代表的な労災保険給付金としては、「療養補償給付」「休業補償給付」「障害補償給付」などが挙げられます。

療養補償給付

療養補償給付は、労災による傷病の療養にかかる費用(およびサービス)を補償する給付金です。傷病の治療費や薬代、入院費、通院費などは、この給付から実費分が支給されます。

休業補償給付

休業補償給付は、労災による傷病で休業を余儀なくされた労働者に対し支給されるものです。

その金額は、給付基礎日額の60%。ただし、特別支給金が別に20%支給されるため、被災労働者は合わせて80%の給付を受けられます。

補償の対象となるのは休業の4日目からで、それまでの待機期間においては会社からの補償が行われます。

障害補償給付

労災による症状が治癒(症状固定)した時に、身体に一定の障害が残り、それが規定の障害等級に該当する場合には、障害補償給付から給付金が支給されます。

この給付は、年金型と一時金型の2種類。障害等級1〜7級までは年金型、8級〜14級までは一時金型となり、等級が上がるほど支給額は高くなります。

等級によって、給付基礎日額313日分〜56日分まで、支給金額および支給形態は大きく変わります。よって、障害補償給付の請求においては、正しい等級認定を受けることが非常に重要なポイントとなります。

パワハラで慰謝料を請求できる?

上司等からパワハラを受け、その行為が不法行為にあたる場合、被災労働者はその相手に対し、慰謝料を請求することができます。

また、社内でのパワハラについては、会社に対し慰謝料を請求できる可能性もあります。パワハラ環境を放置したことが、安全配慮義務違反にあたる可能性があるためです。

慰謝料請求を行う場合には、証拠収集・内容証明の送付・交渉・訴訟提起の順で手続きを進めます。この手続きにおいては、法律関連の知識や経験が必要になるので、労働問題を取り扱う弁護士の手を借りると良いでしょう。

また、交渉を有利に進めたり訴訟に勝ったりするためには、パワハラの証拠が重要です。ボイスレコーダーやメール、メモ、第三者の証言等、証拠になり得るものはなるべく多く確保しておくようにしてください。

この証拠集めについても、弁護士のアドバイスを受けると良いでしょう。

まとめ

パワハラによる精神障害について労災認定を受けるためのコツは、労災認定基準とされている3つの条件を満たすことにあります。これらの条件を満たせば、被災労働者は労災保険から然るべき補償を受けることができます。

また、パワハラについては民事で損害賠償請求を行い、相手や会社に対し慰謝料を求めることも可能です。

この手続きはやや複雑ですが、労働問題の実績豊富な弁護士に依頼すれば、代理手続き・交渉により、被災労働者は自らの負担を軽減することができるでしょう。