熱中症で労災認定を受けるには

梅雨も明け、本格的に暑い季節になってきました。特に今年は梅雨明けの時期が例年になく早く、
暑い時期が長くなることが予想されます。このような時期に、炎天下で作業を続けたりして熱中症になった場合、一定の要件を満たせば労災認定されます。今回は、熱中症の労災認定について詳しく見ていきたいと思います。

1.そもそも熱中症とは何か

労災が認定される、業務上疾病とは、労働基準法施行規則第 35 条別表 1 の 2 に定められており、その 1 つに「暑熱な場所における業務による熱中症」があります。
「熱中症」とは、高温多湿な環境下で、体温調節機能等が低下したり水分塩分のバランスが著しく崩れるなどにより発症する障害の総称をいい、医学的には熱射病、熱けいれん、熱疲労等に分類されています。

 

2.熱中症が認められる要件は

公益財団法人労災保険情報センターによれば、熱中症の認定要件はおおむね次のとおりです。

【一般的認定要件】

1. 業務上の突発的又はその発生状態を時間的、場所的に明確にし得る原因が存在すること
2. 当該原因の性質、強度、これが身体に作用した部位、災害発生後発病までの時間的間隔等から災害と疾病との間に因果関係が認められること
3. 業務に起因しない他の原因により発病(又は増悪)したものでないこと

【医学的診断要件】

1. 作業条件及び温湿度条件等の把握
2. 一般症状の視診(けいれん、意識障害等)及び体温の測定
3. 作業中に発生した頭蓋内出血、脳貧血、てんかん等による意識障害等との鑑別診断

また、夏季における屋外労働者の日射病が業務上疾病に該当するか否かについては、「作業環境、労働時間、作業内容、本人の身体の状況及び被服の状況その他作業場の温湿度等の総合的判断により決定されるべきものである。」との通達があります(昭26.11.17 基災収第 3196 号)。

 

3.熱中症になりやすい職場や作業の環境、本人の状態

前述のとおり、労災として認定されるには、作業中に業務に起因して熱中症を発症したことが必要となり、発症に関して個人の特性(持病など)が存在しないことが必要です。
これを判断にあたって、職場の環境、作業の内容、時期、本人の状態について検討しなければなりません。

(1)熱中症を生じやすい職場の特徴

・炎天下の屋外作業や屋内作業でも炉や発熱体があるなど、通常より高温多湿である場合
・労働者が自分の症状に合わせて休憩等を取りにくい場合
・高い身体負荷がかかる身体活動が長時間持続する場合
・保護具の着用等により体熱が放散しにくい場合

(2)熱中症を生じやすい作業環境の特徴

・高温・多湿で、発熱体から放射される赤外線による熱(輻射熱)があり、無風な状態
・熱中症が生じやすい典型的な作業とは、作業を始めた初日に身体への負荷が大きく、休憩を取らずに長時間にわたり連続して行う作業

(3)熱中症を生じやすい作業の特徴

・通気性や透湿性の悪い衣服や保護具を着用して行う作業
・梅雨から夏季になる時期で急に暑くなった作業

(4)労働者の健康状態

・糖尿病(尿に糖が漏れ出すことにより尿で失う水分が増加し脱水状態を生じやすくなります)
・高血圧症及び心疾患(水分及び塩分を尿中に出す作用のある薬を内服する場合に脱水状態を生じやすくなります)
・腎不全(塩分摂取を制限される場合に塩分不足になりやすくなります)
・精神、神経関係の疾患(自律神経に影響のある薬を内服する場合に発汗、体温調整が阻害されやすくなります)
・広範囲の皮膚疾患(発汗が不十分となる場合があります)
・感冒等で発熱している人、下痢等で脱水状態の人、皮下脂肪の厚い人

 

4.熱中症の予防と対策

労働者の熱中症を予防するために、会社側は様々な対策をする必要があります。この対策を講じていない場合、安全配慮義務違反があるとして損害賠償責任を負う場合がありますので、労働者はこのような対策が講じられていたか、チェックしておくと良いでしょう。
対策項目は、作業環境管理と作業管理に分けられます。

1. 作業環境管理

(1)作業場所の WBGT 値の低減

ア WBGT 基準値を超え、又は超えるおそれのある作業場所(以下「高温多湿作業場所」)においては、発熱体と労働者の間に熱を遮ることのできる遮へい物等を設けます。
イ 屋外の高温多湿作業場所においては、直射日光並びに周囲の壁面及び地面からの照り返しを遮ることができる簡易な屋根等を設けます。また、ミストシャワー等による散水設備の設置を検討します。
ウ 高温多湿作業場所に適度な通風又は冷房を行うための設備を設けます。また、屋内の高温多湿作業場所における当該設備は、除湿機能があることが望ましいところです。

(2) 休憩場所の整備等

ア 高温多湿作業場所の近隣に冷房を備えた休憩場所や日陰等の涼しい休憩場所を設けます。また、当該休憩場所は臥床することのできる広さを確保します。
イ 高温多湿作業場所又はその近隣に、氷、冷たいおしぼり、作業場所の近隣に、水風呂、シャ
ワー等、身体を適度に冷やすことのできる物品及び設備等を設けます。
ウ 水分及び塩分の補給が定期的かつ容易に行えるよう高温多湿作業場所に飲料水の備え付け等を行います。

2. 作業管理

(1) 作業時間の短縮等

作業休止時間や休憩時間を確保し、高温多湿作業場所の作業を連続して行う時間を短縮するこ
と、身体作業強度(代謝率レベル)が高い作業を避けること、作業場所を変更することなどの熱中症予防対策を、作業の状況等に応じて実施する必要があります。

(2) 熱への順化

高温多湿作業場所において労働者を作業に従事させる場合には、計画的に、熱への順化期間を設けることが望ましいところです。

(3) 水分及び塩分の摂取

自覚症状の有無にかかわらず、作業前後の摂取及び作業中の定期的な水分及び塩分の摂取の徹底を図ることが必要です。

(4) 服装等

熱を吸収し保熱しやすい服装は避け、透湿性及び通気性の良い服装を着用させます。また、こ
れらの機能を持つ体を冷却する服の着用も望ましいところです。
なお、直射日光下では通気性の良い帽子等を着用させます。

(5) 作業中の巡視

定期的な水分及び塩分の摂取に係る確認を行うとともに、労働者の健康状態を確認し、熱中症
を疑わせる兆候が表れた場合において速やかな作業の中断その他必要な措置を講ずること等を目的に、高温多湿作業場所の作業中は巡視を頻繁に行う必要があります。

 

5.熱中症の労災申請の手続き

通常の療養補償給付の申請に加え、『熱中症災害発生状況等報告書』という用紙を労働基準監督署に提出報告します。
具体的には、発症した年月日及び時間、発症時の就業場所、作業環境、当日の服装等、当日の作業内容、当日の業務の流れ、症状の出現状況とその後の経過、当日の体調等、既往症、熱中症が発症したと思われる理由、現在の症状を記載します。

熱中症は、めまいや頭痛にとどまらず、重度の場合は意識障害や死に至るケースもある病気です。
熱中症を疑われる労働者の方、ご家族の方が労災申請を検討される場合は、通院しながらの手続きとなることも多いため、時間的、身体的に大変な負担になります。
弁護士法人法律事務所テオリアでは、労災申請の手続きだけでなく、会社側に対し損害賠償請求を検討することも可能です。ご相談の段階で申請書の記載内容、今後の見通しや、請求できる見込みの金額について詳細にアドバイスすることもできます。ご相談は無料ですので、是非お気軽にご相談ください。