労災による会社のペナルティは?

仕事を起因とするケガや病気を労災といいます。
労災は毎年多数発生しており、労災による死亡者も多く出ています。
では、労災が発生した場合、また労災に関する義務を会社が果たしていなかった場合、会社側にはどのようなペナルティが課せられるのでしょうか。
そこでここからは、「労災」と「労災隠し」、そして「労災保険未加入」における会社へのペナルティについてご説明しましょう。

労災が起きるとペナルティはあるのか

まずは、労災について知っておきましょう。
労災とは「労働災害」の略であり、以下のようなことを指します。

労災とは
勤務中、または通勤中に発生した事故や業務を起因として、従業員がケガ・病気を被ること。
業務中に発生した労災を指す「業務災害」と通勤中に発生した労災を指す「通勤災害」に分かれる。

万が一、労災被害に遭ってしまった場合には、その従業員は、労災保険(労働者災害補償保険) による一定の補償を受けることができます。補償内容はケガや病気の程度によって変わりますが、労災保険は従業員を雇用している事業者に加入が義務付けられているため、労災に遭った従業員には必ず適用されます。
このように、労災には保険制度が整えられています。
では、労災が起こった会社側に対しては、何らかの制度が適用されるのでしょうか。労災を起こしたことによるペナルティはあるのでしょうか。

結論から述べると、労災が起こった会社に対するペナルティは定められているものの、必ず課せられるわけではありません。
ペナルティを課せられるかどうかは、労災保険の支払い実績や、労災が起こった原因、つまり会社側の責任の有無などによります。
主なペナルティとして挙げられるのは、以下の4つでしょう。

  1. 労災保険料の増額
  2. 刑事罰
  3. 行政処分
  4. 指名停止処分(入札参加企業)

順にご説明しましょう。

労災保険料の増額

労災保険には、「メリット制」が一部導入されています。メリット制の場合、過去3年間の労災保険からの支払い額によって、翌年度の労災保険料が決められます。そのため、労災保険から支払われた額が多かった会社の保険料は、翌年から上がることになるのです。また、その増額幅は最大40%となっています。
固定費に当たる労災保険料の増額は、会社にとってのペナルティにあたると言えるでしょう。

刑事罰

重大な労災事故の場合、会社、および責任者に対し刑事罰が課せられることがあります。
特に多いのは労働安全衛生法違反や業務上過失致傷罪、業務上過失致死罪で、罰金刑の他、懲役刑が下る可能性もあります。

行政処分

許認可業種(国または自治体の許可を受けて営業する業種)については、重大な労災の発生は法令違反として、行政処分の対象とされる可能性があります。

指名停止処分

重大な労災が起こった会社が、国または自治体の入札に参加している場合、指名停止処分となる可能性があります。

このうち、もっとも多くの会社に関係するのは、労災保険料の増額でしょう。
加えて、労災が起こった会社は、労災被害の公表による社会的評価の低下や、労災被害者による慰謝料請求を受けることもあり、労災により会社が受けるペナルティは決して軽くはないと言えます。

労災隠しは犯罪。労災隠しのペナルティについて

労災の申請には、労働基準監督署への「療養補償給付たる療養の費用請求書」や「休業補償給付支給請求書」などの書類提出が必要です。
また、労災により従業員が死亡した場合や休業を要した場合には、会社は必ず労働基準監督署に「労働者死傷病報告書」を提出しなければなりません。
しかし、労災を起こした会社の中には、前章で挙げたようなペナルティや社会批判を恐れたり手続きを怠ったりして、労災の発生を隠蔽するケースがあります。そして特に、「労働者死傷病報告書」の提出を怠ったり、虚偽の内容を報告したりことは、労災隠しと言われます。
ただし、労災時の保険使用や発生報告は労働基準法により定められた義務であり、労災隠しは犯罪です。
万が一、悪質な労災隠しを行った場合、その会社には、労働安全衛生法により「50万円以下の罰金刑」に処されることが定められています。
また、行政機関からの指導や労災保険の保険料見直し(メリット制を受けている場合)、無災害表彰状の返還(建設事業無災害表彰を受けている場合)などが課せられることもあります。

労災保険に未加入の場合思わぬことに

労働基準法では、労働者が業務の中でケガや病気をした時には使用者側が「療養費を負担すること」、また労働者が業務の中のケガや病気により働けない時には「休業補償を行うこと」が定められています。そして、その確実な補償のために、使用者にとって労災保険への加入は義務とされています。
つまり、1人でも従業員を雇用する場合には、会社は必ず労災保険に加入し、保険料を納めなければならないのです。またその対象には、社員だけではなく、パートタイマーやアルバイト、日雇いなど、すべての労働者が含まれます。

しかし、もし会社側が労災保険に未加入であった場合はどうなるのでしょうか。

労災保険に未加入の会社に対しては、以下のような「費用徴収制度」が設けられています。

費用徴収制度とは
事業主が労災保険の加入を怠っている期間中に、労災が発生した場合、本来労災保険により労働者や遺族に給付される給付金の100%、もしくは40%を、事業主自身から費用徴収する制度。それとは別に、遡った保険料徴収も行われる。

このように、労災保険未加入の会社に対しては、労災保険が適用される事象が起こった場合に、費用徴収が行われます。
では、費用徴収にあたっての100%と40%という条件の違いは何なのでしょうか。

費用徴収100%の場合

行政機関から労災保険加入の指導を受けたにも関わらず手続きを行わない場合、会社(事業主)が故意に労災保険の加入手続きをしないものと認定されます。そして、その未加入期間中に労災が起こった場合には、会社(事業主)に対して100%の費用徴収がなされます。

費用徴収40%の場合

行政機関から労災保険加入の指導を受けてはいないものの、労災保険の適用事業となってから1年を経過しても加入手続きを行わない場合、会社(事業主)が重大な過失により労災保険の加入手続きをしないものと認定されます。そして、その未加入期間中に労災が起こった場合には、会社(事業主)に対して40%の費用徴収がなされます。

このように、労災保険に未加入の会社は、その期間中に労災が起こった場合に、本来保険で賄えるはずの費用を100%もしくは40%負担しなければなりません。
労災保険の加入義務怠慢は、このような費用負担の発生にも繋がるのです。

まとめ

労災に関する会社のペナルティについてご説明しました。
上記の通り、労災や労災保険については、その責任者となる会社(事業主)に対して、義務やペナルティが厳しく定められています。このようにして、労働者に対する補償が守られているのですね。

しかし、労災に関する手続きや補償については、難しい部分が多いのも事実です。どのように対応すべきかわからず、頭を抱えている事業主や従業員の方もいるのではないでしょうか。

そんな時には、弁護士に相談してみるのもひとつの方法です。弁護士なら、法律のプロとして、行うべき手続きや対応を的確にアドバイスすることができます。
労災保険や労災保険の制度は、労働者にとっても会社にとっても必要なものです。困った時にはプロの手を借りて、適切な対応を行うようにしたいですね。