業務や通勤で怪我を負った時、その労働者は労災保険から一定の補償を受け取ることができます。しかし、この補償はどんな場合でも給付されるわけではありません。
労災保険の補償を受け取るためには、まずその怪我が「労災である」と労基署に認定を受ける必要があります。
では、どのような怪我であれば、労災認定を受けられるのでしょうか。
今回は、怪我を負った場合の労災の認定基準について詳しく解説します。
労災保険制度とは?
そもそも労災保険とは、次のような制度を指します。
【労災保険】
労働者が、業務に起因した事故などにより、怪我や病気、死亡といった災害を被った場合(労働災害)に、必要な補償を行う公的保険制度。 正式名称を労働者災害補償保険という。 |
業務上の事由による労働者の傷病・死亡を補償するのが、労災保険の役割です。
この労災保険は、「業務災害」と「通勤災害」の2種類に分類されます。
【業務災害】
労働者が業務中に負った傷病・死亡のこと 【通勤災害】 労働者が通勤中に負った傷病・死亡のこと |
業務災害か通勤災害かによって、労災保険の認定基準や手続きは異なります。
それぞれの認定基準については、後の章で詳しくご紹介します。
労災認定については、 「労災認定とは?給付の種類、手続き方法、認定のポイントを解説」で詳しくご説明しています。
労災保険の対象は全ての労働者
労災保険の補償対象となるのは、「すべての労働者」です。この労働者とは、労働基準法第9条で「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定められています。
つまり、会社や事業主に雇用されて働き、給料を受け取っている人はすべて労働者であり、労災保険の対象となるのです。この対象には、社員はもちろん、アルバイトやパートなどの非正規労働者も含まれます。
また労災保険への加入義務は、労働者を雇用している事業主に発生します。保険料についても、全額事業主が支払うこととなり、労働者自身の負担はありません。
業務中の怪我の労災認定の基準
業務中に負った怪我は、労災の中でも「業務災害」に分類されます。
ただし、「業務災害」として労災認定を受けるためには、その状態・状況が次の2つの要件を満たしている必要があります。
【業務災害の認定要件】
①「業務起因性」が認められる ②「業務遂行性」が認められる 業務起因性・・・負った傷病・死亡と業務に一定の関係性が認められること 業務遂行性・・・事業主(会社)の支配・管理下において負った傷病・死亡であること |
業務災害は、業務起因性と業務遂行性の両方が認められた場合に認定されます。このどちらも認められない場合はもちろん、片方だけしか認められない場合も、業務災害としての労災認定はされません。
業務遂行性の3類型
業務災害の認定要件のひとつである業務遂行性は、次の3つの類型に分類されます。その内容と認定基準についても確認しておきましょう。
【業務遂行性の3つの類型】
①事業主の支配・管理下で業務に従事しているケース(例:担当業務を行っていた、業務中にトイレに行った など) →特別な事情がない限り、業務災害と認められる。ただし、私的行為や恣意的行為、また故意の災害、個人的な怨恨による暴行などについては、業務災害と認められない。 ②事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していないケース(例:休憩中に社内で休んでいた、通勤にあたって会社の送迎バスに乗っていた など) →事業所設備の管理不足による災害は業務災害と認められるが、私的行為による災害については認められない。 ③事業主の支配下にあるが、管理下を離れ業務に従事しているケース(例:出張により事業所から離れた場所で業務を遂行していた、荷物の配達のため事業所の外に出ていた など) →積極的に私的行為を行うなどの特別な事情がない限り、業務災害と認められる。 |
労災の発生状況は、ケースごとに異なります。業務災害としての労災認定を受けられるかどうかは、上記の基準がもとになり、その具体的な判断は労働基準監督署が行います。
通勤中の怪我の労災認定の基準
次に、「通勤災害」として労災認定を受けるための基準を確認していきましょう。
通勤災害の認定基準は、「労働者が怪我を負ったのが通勤中であること」です。
要件はこのひとつだけですが、ここでは「通勤」の定義について確認しておく必要があります。
【通勤とは】
就業に際し、労働者が次のような移動を、合理的な経路かつ方法によって行うこと。ただし、業務の性質を有するものを除く。 ①住居と就業場所との間の往復 ②就業場所から他の就業場所への移動 ③一号に掲げる往復に先行または後続する住居間の移動(家族が暮らす住居と単身赴任先との間の移動など) 労働者が、上記移動の経路を逸脱したり中断したりした場合、逸脱また中断の間、およびその後の移動通勤としない。 |
上記は、労働者災害補償保険法で定められている通勤の定義であり、この要件を満たした状況下での事故による怪我は、通勤災害として労災認定されます。
また、ここでいう「合理的な経路かつ方法」とは、2地点の往復に際し、一般的に認められる経路や方法のこと。もし、特別な理由もなく遠回りをしたり、本来バスや電車に乗るべき経路を徒歩で帰ったりした場合などは、この要件を満たさず、労災認定が受けられない可能性があります。
通勤の逸脱・中断について
前述の通勤の定義でご紹介した通り、労働者が通勤中にその経路を逸脱・中断した場合、その逸脱・中断の間やその後の移動は通勤とは判断されません。
つまり、通勤に際して寄り道をしてしまうと、通常の通勤経路逸脱後に起こった事故による怪我は、労災とは認められないのです。
ただし、次のような日常生活上必要な行為については、この例外です。このような場合、逸脱・中断の間を除いて、通常の通勤経路に戻った後は、再び通勤と認められます。
【厚生労働省が認める日常生活上必要な行為】
- 日用品の購入その他これに準ずる行為
- 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
- 選挙権の行使その他これに準ずる行為
- 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
(参考:厚生労働省 東京労働局「通勤災害について」)
この怪我は労災?具体例を紹介
ここからは、傷病の具体例を挙げ、それが労災認定されるのかどうか解説していきます。
【具体例】業務災害の労災認定・非認定
まずは、業務災害の労災認定・非認定事例について見ていきましょう。
事例1:業務の最中にトイレに行こうとして、途中の廊下で転倒し、骨折した
トイレなどの生理的行為は業務に付随するものであるため、業務中のトイレへの移動については、業務遂行性も業務起因性もが認められます。よって、業務災害が認められる可能性が高いです。
事例2:昼休み中に近くのコンビニに行き、その帰りに車に轢かれ怪我をした
事業所外に出ているため業務遂行性が認められず、昼休みの出来事であるため業務起因性も認められません。よって、このケースでは業務災害が認められない可能性が高いです。
事例3:配達業務で外を車で回っている最中に、車のドアで指を挟み、骨折した
この場合の労働者は、事業主の管理下を離れているものの支配下にはあるため、業務遂行性が認められます。また、業務中の怪我であり業務起因性も認められることから、業務災害と認定される可能性は高いと考えられます。
事例4:工場での業務の最中に、同僚の社員に殴られ、顔を負傷した
業務中に職場で起こった怪我であるため、業務遂行性と業務起因性は認められます。暴行のもととなる挑発行為や個人的な怨恨などがなければ、業務災害と認められる可能性は高いでしょう。
【具体例】通勤災害の労災認定・非認定
次に、通勤災害の労災認定・非認定事例を見ていきましょう。
事例1:終業後同僚と飲みに行き、その帰りに転倒して腰を痛めた
同僚と飲みに行くという行為は、通勤経路の逸脱・中断にあたります。そのため、逸脱・中断後の怪我については通勤災害とはなりません。
事例2:出勤時、自宅マンションのエントランスで滑り、足を骨折した
マンションやアパートの場合、自宅の扉を出たところからが通勤になります。マンションのエントランスは自宅の扉の外であり、通勤経路に含まれるため、このケースは通勤災害と認められる可能性が高いです。
事例3:前の日に泊まった友人の家から出社する最中に事故に遭って怪我を負った
友人の家からの出社は、一般的に合理的なルートとは言えず、通勤災害と認められない可能性が高いです。ただし、やむを得ない事情があった場合には、それが考慮される可能性もあります。
事例4:終業後、参加が義務付けられている会社の歓迎会に顔を出し、その帰りに階段から落ち打撲を負った
参加が義務付けられている会社の会合では、通常の飲み会と異なり、業務との関連性が発生します。そのため、その帰りの怪我については通勤災害と認められる可能性があります。
労災の怪我についての相談先
労災で怪我を負った場合の相談先としては、次のような機関が挙げられます。
- 労働基準監督署
- 総合労働相談コーナー
- 弁護士
- 社会保険労務士 など
労災のあらゆる調査や手続きを担うのは、労働基準監督署です。各署の相談窓口では労働に関するさまざまな問題を受け付けているので、労災について相談したい場合には、この窓口に出向くのがひとつの方法です。
また、各都道府県労働局などに設置されている総合労働相談コーナーを利用するのも手でしょう。ここでは、相談員に面談か電話で話をすることができます。
さらには、弁護士や社会保険労務士などに相談することも検討してください。民間の専門家に相談することで、より積極的な対応を期待できます。
弁護士の手を借りれば、会社へ損害賠償を行う際の手続きや交渉も任せることができるので、被災労働者自身の負担は軽減されるでしょう。
まとめ
労災の認定基準は、業務災害と通勤災害で大きく異なります。認定・不認定はケースによって異なり、またそれを判断するのは労働基準監督署長ですが、目安として自身でも認定基準を把握しておくようにしましょう。
また、「会社が労災を認めない」「会社に損害賠償を請求したい」といった場合には、弁護士にご相談ください。面倒な労災問題は、弁護士の手を借りることで、円滑かつ有利な解決を目指せます。
まずは無料相談や電話相談を利用し、専門家の意見を聞いてみましょう。