雇用保険と労災保険から成る労働保険は、労働者として働く人々の、生活の安定を守るために制定されている保険です。
しかし、「自分が労働保険の対象なのかわからない」「雇用保険と労災保険の違いは?」など、実際の内容についてあまり理解できていないという方は、多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、労働保険について、基本的な内容や条件、手続き方法等を詳しくご説明します。
労働保険とは?
まずは、労働保険についてご説明しましょう。
労働保険とは、労働者がさまざまな理由で働けなくなった場合に備えた、公的保険制度です。労働者を雇用する事業主に加入が義務付けられているもので、対象となる労働者が怪我や病気で働けなくなったり、また失業したりした場合には、その労働者は条件に応じた保険の給付を受けられます。
また、この労働保険の内容は、大きく「雇用保険」と「労災保険」に分けられます。
雇用保険とは
労働者が失業して所得がなくなった場合に適用される保険制度。生活の安定や再就職の支援を目的として、失業給付金や教育訓練給付金等が給付されます。「失業保険」とも呼ばれています。
ただし、労働者が雇用保険に加入するためには、一定の条件を満たしていなくてはなりません。
労災保険とは
労働災害補償保険のこと。労働者が、業務を起因とした怪我や病気に遭った場合に適用される保険制度で、治療のための医療費や働けない間の休業補償等が給付されます。
労災保険は、ほぼ全ての労働者に加入が義務付けられています。
失業してしまったり仕事による怪我や病気で働けなくなってしまったりした場合に、所得が全くなくなってしまっては、労働者の生活は立ち行かなくなってしまいます。それを防ぐために、雇用保険と労災保険は存在しているのです。
このように、労働保険によって、「失業」と「怪我や病気」の面から、労働者は生活を守られています。
雇用保険の加入条件、対象者、保険料について
ここからは、労働保険の中の雇用保険について詳しく見ていきましょう。
雇用保険の加入条件
雇用保険の主な加入条件は、以下の3つです。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上、続けて雇用される見込みがあること
- 学生ではないこと(ただし、卒業予定の学生が、内定をもらった会社で卒業前に勤務を始め、この先も勤務を続けていくことが明白である場合には、雇用保険加入可能)
これら全てを満たしている労働者のみ、雇用保険に加入することができます。
雇用保険の対象者
雇用保険は労働者を雇用している全ての事業に対して加入が義務付けられており、「雇用によって得た収入によって生活をする人」に対して適用されています。そのため、正社員はもちろん、パートやアルバイトなどの雇用形態であっても、先述の加入条件を満たしていれば、雇用保険の適用対象となります。
ただし、以下のようなケースは雇用保険の対象者、つまり被保険者にはあたりません。
雇用保険の被保険者にならないケース
- 4ヶ月以内の期間を予定した季節的事業において雇用される季節的労働者
- 離職後、他の法令等によって受ける諸給与が失業給付の額を超える公務員
- 外国で雇用関係が成立した後に日本に来て、国内にある事業所で勤務し、雇用関係が終了する前に帰国することが明らかである在日外国人
- 法人の代表権・業務執行権を有する役員(例外有り)
- 学生(例外有り)
- その人の賃金を家計のメインとしておらず、31日以上続けて雇用される見込みのない臨時内職員
- 雇用関係が明らかでない生命保険会社等の外務員
- 条件を満たさない派遣労働者や短時間労働者
- 事業主と同居している親族(例外有り)
- 授産施設の作業員
条件を満たして長期に渡って働く一般的な労働者であれば、大部分が雇用保険の対象となりますが、上記のような例外はあるので注意しておきましょう。
雇用保険の保険料
雇用保険の保険料は、事業主と労働者が毎月支払うことになっています。そして、保険料については、毎年厚生労働省から保険料率が発表されており、この率に応じて保険料の支払いを行うことになります。
令和2年度における雇用保険の保険料率は、以下のように定められています。
労働者負担率 | 事業主負担率 | |
一般事業 | 3/1000 | 6/1000 |
農林水産・清酒製造 | 4/1000 | 7/1000 |
建設 | 4/1000 | 8/1000 |
つまり、もし一般事業で働く労働者の給与が30万円であったのなら、雇用保険料の負担は以下のようになります。
雇用保険料の労働者負担30万円×3/1000=900円雇用保険料の事業主負担30万円×6/1000=1800円
また、このようにして算出される雇用保険料は、労働者の場合給与から天引きされ、事業主がまとめて年度毎に納付することになっています。
雇用保険の加入手続きについて
雇用保険の加入手続きは、事業主が行います。
手続きに必要なのは、以下の書類です。
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
- 労働関係設立届控
- 労働保険概算保険料申告書控
- 履歴事項全部証明書原本
- 労働者名簿
これらを、従業員を雇用した翌日から10日以内に管轄の公共職業安定所へ提出することで、雇用保険の加入手続きは完了します。
労災保険の加入条件、対象者、保険料について
次に、労働保険の中の労災保険について詳しく見ていきましょう。
労災保険の加入条件
労災保険は、労働者を雇用する全ての事業主に加入が義務付けられています。雇用保険のように、労働期間や時間といった特別な加入条件はありません。全ての労働者が労災保険に加入しておらねばならず、加入を怠った状態で労災に関わる事故が発生した場合には、その事業所はペナルティの対象になることもあります。
労災保険の対象者
労災保険の対象となるのは、事業主に雇用されている全ての労働者です。勤務形態の制限はなく、パートやアルバイト、日雇い労働者であっても、労災保険は適用されます。
ただし、以下のようなケースは労災保険の対象外となります。
- 船舶所有者に雇用される船員労働者
- 官公署や国の直営事業所で働く者(例外有り)
- 法人の代表権・業務執行権を有する役員(例外有り)
- 事業主と同居している親族(例外有り)
- 海外派遣者
このうち、船舶労働者や官公署等で働く公務員については、労災とは異なる別の保険制度が適用されることになっています。
労災保険の保険料
労災保険の保険料は、全額事業主負担が原則です。
そして、労災保険料の額は、労働者の給与と労災保険料率によって定められています。この労災保険料率は事業によって定められている掛け率のことです。例を挙げてみましょう。
- 飲食業 3/1000
- 建設事業 9.5/1000
- 林業 60/1000
- 砕石業 49/1000
- 交通運輸事業 4/1000
- 通信業 2.5/1000
このように、労災保険料率は50以上の事業ごとに定められています。
もし、建設事業で働く労働者の給与が30万円であったのなら、事業主が納める労災保険料は以下のようになります。
- 労災保険料の事業主負担
- 30万円×9.5/1000=2850円
このようにして算出した労災保険料は、事業主が年度ごとに納付します。
労災保険の加入手続きについて
労災保険の加入手続きは、事業主が行います。
手続きに必要なのは、以下の書類です。
- 労働関係設立届
- 労働保険概算保険料申告書
- 履歴事項全部証明書写し
これらを、保険関係が成立した翌日から10日以内に、管轄の労働基準監督署へ提出することで、労災保険の加入手続きは完了します。
まとめ
雇用保険と労災保険について、ご紹介しました。
このように、多くの労働者は雇用保険と労災保険から成る労働保険によって守られています。
しかし、働き方によっては保険適用外になる場合があり、また自身の保険適用・不適用の判断が難しい場合もあるでしょう。さらに、保険加入を怠っている事業主はゼロではなく、労働者の中には雇用保険や労災保険について不安を抱えている方もいるのではないでしょうか。
このように、雇用保険や労災保険についての不安がある方は、一度弁護士に相談してみましょう。法律の専門家からのアドバイスを受けることは、速やかな問題の解決や不安の解消に繋がるはずです。
労働保険は万が一に備える、労働者にとって重要な制度です。そのため、不安や疑問は法律のプロに頼り、正しく解決しておきたいですね。