仕事中に事故の加害者に!労災の求償とは?

業務を起因として起こった事故により、怪我や病気になることを、労災(労働災害)と呼びます。そして、労災による被災労働者は、労働保険(労働者災害補償保険)による補償を受けられます。このことは、多くの人がご存知でしょう。
しかし、労災保険における「求償」という言葉をご存知の方は、あまり多くないのではないでしょうか。「求償」は、被災労働者になってしまった場合にも、加害者側になってしまった場合にも、知っておいた方が良い言葉です。
そこで今回は、労災保険における「求償」について詳しくご説明しましょう。

労災保険の求償とは?

労災保険の求償とは、第三者行為災害による労災時に行われることがある政府の支払い調整方法のことです。まずは、第三者行為災害についてご説明しましょう。

第三者行為災害とは?
第三者行為災害とは、第三者の行為で起こった事故による労災を指します。つまり、仕事中に、第三者の過失を原因として引き起こされた事故によって受けた怪我や病気を、労災の中でも第三者行為災害と呼ぶのです。
また、ここで言う第三者とは、労災保険の対象となる政府や事業主、労災保険受給権者以外の労災保険の関係者以外の者という意味で第三者と言います。

このような、原因となった相手がいる場合の労災(第三者行為災害)時には、被災した労働者は、加害側にあたる相手(第三者)に対して、損害賠償請求を行うことができます。
ただし、労災保険による給付金が、第三者からの賠償よりも先に被災労働者に給付され、被災労働者の損失が補償された場合には、被災労働者の持っていた損害賠償請求権は、労災保険の給付額を限度に、政府へ移行することとなります。このようにして、被災労働者から政府へと損害賠償請求権が移行し、政府が第三者に対してその損害賠償請求権を行使することを、「求償」と呼ぶのです。
この「求償」は、労災保険を使用した場合には政府が行いますが、自賠責保険を使用した場合には保険会社が同様に行うことになります。
では、なぜ損害賠償請求権が、被災労働者から政府や保険会社へと移行するのでしょうか。その点については、次章で触れていきましょう。

労災保険と損害賠償請求の関係性

ここからは、労災保険と損害賠償請求の関係性についてご紹介します。
先述のように、第三者行為災害においては、損害賠償請求権が被災労働者から政府に移り、損害賠償請求を政府行う「求償」が行われることがあります。そして、「求償」が行われる理由としては、以下の2点が挙げられます。

  • 第三者行為災害における損害補てんは、政府ではなく第三者によって為されるべきだと考えられているため
  • 被災労働者が重複して損害補償を受けることを防ぐため

これを踏まえ、例を挙げてみましょう。

第三者行為災害における被災労働者をA、第三者をBとします。AはBに対する損害賠償請求権を持ちます。
この労災に対する補償として、先に労災保険(政府)からAに給付金が給付されました。しかしこの後、AがBからも賠償請求により賠償金を受け取れば、Aは同一の労災に対して、Bと労災保険(政府)両者からの損害てん補を受けることとなり、損害額以上の金銭を受けることになってしまいます。
そこで、第三者行為災害においては「政府ではなく、第三者が損害を補てんすべき」という点から、政府はAに労災保険の給付金を出した時に、AのBに対する損害賠償請求権を取得することになります。そして、後日政府からBへ、Aに給付した給付金分の損害賠償請求を行う(求償)ことで、労災保険(政府)によるAへの給付金分を賄うのです。

(厚生労働省「労災保険 第三者行為災害のしおり」より抜粋)

つまり、労災保険(政府)による賠償金の立て替えのようなものですね。労災保険の給付金を受け取り、損害賠償請求権を政府に渡せば、被災労働者は複雑な損害賠償手続きを自身でする必要がなく、療養に専念できます。

また、「求償」と対になる支払い調整方法として、「控除」というものがあります。
「控除」とは、労災よりも先に、被災労働者が第三者からの損害賠償を受け取った場合、その額を限度に、政府は労災保険の給付を行わなくていいという仕組みです。

(厚生労働省「労災保険 第三者行為災害のしおり」より抜粋)

「控除」も、被災労働者が重複して損害補償を受けることを防ぐために行われています。

第三者行為災害報告書とは?

第三者行為災害において必要になるのが、「第三者行為災害報告書」です。第三者行為災害においては、労働基準監督署や労働局に対するいくつかの書類を被災労働者側が提出しなくてはなりません。しかし、その中でも「第三者行為災害報告書」については、第三者にあたる人物が提出することとなっています。
「第三者行為災害報告書」には、第三者の情報や事故の発生状況、示談や損害賠償の状況などを詳しく記載します。この情報は労働局側の状況確認のために必要になるため、必ず速やかに提出するようにしましょう。

労災の求償を無視したらどうなる?

先程ご説明したように、被災労働者から移行した損害賠償請求権を政府が第三者へ行使することを、「求償」と呼びます。
では、もし第三者が「求償」による政府からの損害賠償請求を無視した場合にはどうなるのでしょうか。
労災の「求償」を無視した場合の具体例は挙げられませんが、一般的な損害賠償請求を無視し続けた場合には、被請求者に対する督促や裁判、財産の差押えなどが行われることがあります。ケースによって対応は違いますが、このような強制的処置が取られる可能性もゼロではないため、「求償」を無視することは決して望ましくはないでしょう。
第三者に債務履行能力がない場合には、支払猶予や債務免除が行われることもあるため、賠償金を支払えないという場合であっても、まずは労働基準監督署に連絡するようにしてください。

また、第三者として政府や労災保険からの「求償」を受けた場合、その第三者は「第三者行為災害報告書」を提出していなかったということが多いようです。「第三者行為災害報告書」には、自身の主張する過失割合を記載でき、労働基準監督署はその主張を加味した対応を行います。そのため、「求償」の過失割合に応じた減額は可能でしょう。もし「第三者行為災害報告書」を提出していなかった場合には、管轄の労働基準監督署に連絡し、報告書の提出や過失割合の主張を行うようにしましょう。

ただし、政府が損害や加害者を知った時から3年間求償を行使しない場合には、求償権は消滅します。つまり、求償の時効は3年になるのです。これは控除も同様です。
また、任意保険の求償権の時効は、合意成立から2年間となっています。

まとめ

第三者行為災害における「求償」について詳しくご紹介しました。
とはいえ、労災の中でも第三者行為災害については、扱い方や補償の流れ、手続きなどが複雑で、理解し難い点が多いかもしれません。特に、もし自身が被災労働者に、または加害側の第三者になってしまった時には、気が動転するものです。そんな中、自分だけで適切な対応をスムーズに行うことは難しいでしょう。
そこでおすすめしたいのが、弁護士の手を借りるという方法です。第三者行為災害にあったら、また第三者行為災害を発生させてしまったら、まずは法律を熟知した弁護士に助けを求めましょう。プロによるアドバイスやサポートを受けられれば、行わなくてはならない対応を間違うようなことはありません。
法律に関する困りごとは、法律のプロである弁護士に相談し、正しく速やかな解決を目指しましょう。