仕事中の事故や業務負担による発病など、業務を原因とする労働者の死亡は毎年起こっています。業務に起因する労働者の死亡は労災にあたり、労災補償の対象です。しかし、労働者が死亡している場合、本人が補償を受け取ることができないため、その遺族に対して補償が行われることになります。
そこで今回は、労災による労働者の死亡時に遺族が受け取れる労災保険の補償について解説していきます。
遺族が受け取れる労災保険給付
労災で労働者が死亡してしまった時に、遺族が受け取れる労災保険の給付には、以下のようなものがあります。
・遺族(補償)年金
・遺族(補償)一時金
・葬祭料(葬祭給付)
・遺族(補償)等年金前払一時金
・労災就学等援護費
・長期家族介護者援護金
これらは種類の異なる給付で、それぞれに給付条件や給付額も異なります。
厚生労働省の発行の資料「遺族(補償)等給付 葬祭料等(葬祭給付)の請求手続き」をもとに、詳しく見ていきましょう。
遺族(補償)年金
遺族(補償)年金は、業務や通勤によって亡くなった労働者の遺族に支給される遺族(補償)給付の一種です。
遺族(補償)年金の支給金額
遺族(補償)年金の給付金額は、「遺族(補償)年金+遺族特別支給金+遺族特別年金」で算出されます。
表の遺族数とは、受給権者本人およびその受給権者と生計を同じくしている受給資格者の人数のことで、遺族数によって支給額が変わります。
遺族数 | 遺族(補償)年金 | 遺族特別支給金(一時金) | 遺族特別年金 |
1人 | 給付基礎日額の153日分
(遺族が55歳以上の妻、または一定の障害状態にある妻の場合は、給付基礎日額の175日分) |
300万円 | 算定基礎日額の153日分
(遺族が55歳以上の妻、または一定の障害状態にある妻の場合は、給付基礎日額の175日分) |
2人 | 給付基礎日額の201日分 | 算定基礎日額の201日分 | |
3人 | 給付基礎日額の223日分 | 算定基礎日額の223日分 | |
4人以上 | 給付基礎日額の245日分 | 算定基礎日額の245日分 |
遺族(補償)年金の受給資格
遺族(補償)年金の受給資格者は、被災労働者が死亡した時、被災労働者の収入によって生計をたてていた(共稼ぎを含む)配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹です。ただし、妻以外は一定の高齢か年少、障害の状態にある場合に限られます。
また、遺族(補償)年金の受給権には以下のような優先順位があり、このうち最先順位の遺族が遺族(補償)年金の受給権者になります。
◆遺族(補償)年金の受給権者最先順位
①妻、または60歳以上か、一定の障害がある夫
②18歳に達する日以降の最初の3月31日までの間にある、または一定の障害がある子
③60歳以上、または一定の障害がある父母。
④18歳に達する日以降の最初の3月31日までの間にある、または一定の障害がある孫
⑤60歳以上、または一定の障害がある祖父母
⑥18歳に達する日以降の最初の3月31日までの間にある、または60歳以上、または一定の障害がある兄弟姉妹
⑦55歳以上60歳未満の夫
⑧55歳以上60歳未満の父母
⑨55歳以上60歳未満の祖父母
⑩55歳以上60歳未満の兄弟姉妹
※最先順位者が受給権を失うと、次の順位の人が受給権者となる。
※一定の障害とは、障害等級第5級以上の身体障害を指す。
この最先順位によると、複数人の遺族が受給権者になる可能性があります。その場合は、支給額が受給権者の人数で等分されます。
遺族(補償)一時金
遺族(補償)一時金は、遺族(補償)年金と同じく、業務や通勤によって亡くなった労働者の遺族に支給される遺族(補償)給付の一種です。
遺族(補償)一時金は、以下のような場合に支給されます。
◆遺族(補償)一時金が支給されるケース
①被災労働者死亡時、遺族(補償)年金を受け取る遺族がいない場合
②遺族(補償)年金の受給権者が最後の順位の者まで失権した時に、受給権者だった遺族全員に支払われた遺族(補償)年金および遺族(補償)等年金前払一時金の総額が、給付基礎日額1,000日分未満の場合
遺族(補償)一時金の支給金額
遺族(補償)一時金の給付金額は、「遺族(補償)一時金+遺族特別支給金+遺族特別年金」で算出されます。また、その金額は、上記①のケースと②のケースで異なります。
①被災労働者死亡時、遺族(補償)年金を受け取る遺族がいない場合
遺族(補償)一時金 | 遺族特別支給金 | 遺族特別年金 |
給付基礎日額の1,000日分 | 300万円 | 算定基礎日額の1,000日分 |
②遺族(補償)年金の受給権者が最後の順位の者まで失権した時に、受給権者だった遺族全員に支払われた遺族(補償)年金および遺族(補償)等年金前払一時金の総額が、給付基礎日額1,000日分未満の場合
遺族(補償)一時金 | 遺族特別支給金 | 遺族特別年金 |
給付基礎日額の1,000日分から、既に支払われた遺族(補償)年金等を差し引いた金額 | なし | 給付基礎日額の1,000日分から、既に支払われた遺族特別年金を差し引いた金額 |
遺族(補償)一時金の受給資格
遺族(補償)一時金の受給資格者は、以下です。
◆遺族(補償)一時金の受給権者最先順位
①配偶者
②被災労働者の死亡当時に、被災労働者の収入で生計をたてていた子・父母・孫・祖父母
③その他の子・父母・孫・祖父母
④兄弟姉妹
上記の上から順に優先順位が高く、最先順位者が遺族(補償)一時金の受給権者になります(複数人可)。
また、②の優先順位は、①子②父母③孫④祖父母の順になります。
遺族(補償)等年金前払一時金
遺族(補償)等年金前払一時金は、遺族(補償)年金を受け取ることになった遺族が、遺族(補償)年金の前払いを受けられる制度のことです。そのため、受給資格は遺族(補償)年金と同じで、前払いの回数は1回と定められています。
遺族(補償)等年金前払一時金の金額
遺族(補償)等年金前払一時金として前払いを受ける額は、給付基礎日額の200日分・400日分・600日分・800日分・1,000日分の5種から選択することができます。
前払いを受けた後は、前払いの金額に達するまで、毎月の遺族(補償)年金の支給が停止されます。
葬祭料(葬祭給付)
葬祭料および葬祭給付は、亡くなった被災労働者の葬祭を行うにあたって、葬祭を行う人に対し支給される給付金です。
通常葬祭は遺族が行うため、葬祭料(葬祭給付)支給の対象となるのも遺族です。しかし、被災労働者に遺族がなく、会社等が葬祭を行った場合には、その会社等に支払われることになります。
葬祭料(葬祭給付)の支給金額
葬祭料(葬祭給付)の支給額は、以下のように定められています。
◆葬祭料(葬祭給付)の支給額
・315,000+給付基礎日額の30日分
もしくは
・給付基礎日額の60日分(どちらか多い方)
315,000円に給付基礎日額30日分を合わせた金額が給付基礎日額の60日分未満の場合には、給付基礎日額の60日分が支給額とされます。
労災就学等援護費
労災就学等援護費は、被災労働者の社会復帰や遺族のサポートを目的とする、労災保険の社会復帰促進事業として支給されている給付金です。
労災就学等援護費には、「労災就学援護費」と「労災就労保育援護費」の2種類があり、以下のような場合に支給されます。
◆ 労災就学等援護費が支給されるケース
①生計を同じくしている子が、小学校・中学校・高校・大学・高等専門学校・特別支援学校等の学校に在学中、または就労のためにこの子を保育所等に預けている場合
②遺族(補償)年金を受給している本人が在学中、または保育所等に預けられている場合
ただし、支給には一定の要件を満たす必要があります。
労災就学等援護費の支給対象
労災就学等援護費の支給対象は被災労働者の遺族だけではありません。労災によって傷病を被った方も対象になります。
◆労災就学等援護費の支給対象者
・遺族(補償)年金の受給者
・第1級〜第3級の障害(補償)年金受給者
・傷病(補償)年金受給者
上記のいずれかに該当する方やその子が、学校教育法第1条に定められている学校に在学していて、その学費の支払いが困難な場合、また就労のため子を保育園等に預けていて、その保育費の支払いが困難な場合に、労災就学等援護費は支給されます。
労災就学等援護費の支給金額
労災就学等援護費の支給金額は、下表のように定められています。
小学校 | 14,000円 |
中学校 | 18,000円(通信の場合は15,000円) |
高校等 | 17,000円(通信の場合は14,000円) |
大学等 | 39,000円(通信の場合は30,000円) |
保育 | 13,000円 |
長期家族介護者援護金
長期家族介護者援護金も、労災保険の社会復帰促進事業として支給されている給付金です。
障害等級第1級、または第2級の障害(補償)年金、もしくは傷病等級第1級、または第2級の傷病(補償)年金を10年以上受給していた被災労働者が、業務以外の原因で亡くなった場合、その遺族に支給されます。
長期家族介護者援護金の支給金額は100万円で、受給権のある遺族が複数人いる場合には、等分することになります。
ただし、支給には一定の要件を満たす必要があります。
会社に対する損害賠償請求
労災で亡くなった労働者の遺族は、使用者や第三者を相手に損害賠償請求を行うこともできます。
ただし、損害賠償と労災補償を両方満額で受け取ることはできません。同一の理由によって損害賠償と労災補償両方を受け取ると、遺族が二重で補償を受けることになり、公平性が損なわれるためです。
そのため、労災による補償を遺族が受け取った場合には、損害賠償責任のある使用者や第三者は、遺族が受け取った労災補償分の賠償を免れることになります。
労災保険と損害賠償においては、公平性を保つために、損益相殺としてこのような対応が行われています。
まとめ
労災事故における遺族への補償についてご紹介しました。このような補償は、予期せず家族を失った遺族の生活を支えるために、非常に重要な役割を果たしています。
ただし、補償を受けるには申請手続きが必要です。万が一に備え、どのような補償があるか把握しておくようにしてください。
また、労災トラブルに巻き込まれたり損害賠償請求を検討したりしている方は、弁護士への相談も視野に入れましょう。労災の複雑な手続きや辛い悩みは、弁護士のサポートによって解決できる可能性があります。速やかに、そしてより希望に合った解決を目指すなら、労災案件に特化した弁護士事務所へ一度ご連絡ください。