労働者が業務に起因して怪我や病気を負うことを、労災と呼びます。
労災には業務中の出来事を起因とする「業務災害」と通勤中の出来事を起因とする「通勤災害」があり、どちらの場合でも労災保険からの給付金の支給を受けることができます。
労災保険からの給付金にはいくつかの種類がありますが、その中でも労災の傷病によって休業を余儀なくされた時に支払われるのが、休業(補償)給付です。休業(補償)給付は、休業している被災労働者の生活を支える重要な給付金です。
では、この休業(補償)は、いつもらえるのでしょうか。
今回は、休業(補償)給付がもらえる時期と給付に時間がかかる原因について、詳しく解説します。
労災の休業補償はいつもらえる?
労災で休業して賃金を得られなくなった時、「休業補償はいつもらえるのだろう」と不安になる人は多いでしょう。
ここではまず、労災の休業補償が支給されるタイミングについてご説明します。
労災の休業補償とは?
労災の休業補償とは、労災保険から支給される休業(補償)給付のことを指します。労災による傷病で休業し、賃金を得ることができない労働者に対する給付金です。
休業(補償)給付では、休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の8割(うち2割は休業特別支給金)が支給されます。休業1〜3日目までは給付金はでませんが、業務災害の場合であれば、この3日間は会社側に休業補償義務が設けられています。
労災の休業補償、初回は請求から1ヵ月が目安
休業(補償)給付の初回振込のタイミングは、請求手続きを行ってから1ヵ月が目安です。振込が行われる前には、決定額を記した支給決定通知が自宅に届くので、必ず確認するようにしてください。
ただし、休業(補償)給付の初回振込には、場合によっては1ヵ月以上かかることもあり、振込のタイミングは一概には言えません。時には支給決定までに数ヶ月を要することも、また不支給が決定されることもあります。
不支給が決定された場合は、不支給決定通知が自宅に届きます。
初回以降は1ヶ月を目安に請求を
休業(補償)給付を受け取るには、初回以降も労働者による請求手続きが必要で、振込は請求ごとに行われます。
とはいえ、「休業何日分ごとに請求を行う」という決まりは定められていません。よって、被災労働者は数日分ごとに請求を行うことも、休業全日分を後からまとめて請求することも可能です。
しかし、労働基準法施行規則(第39条)に「休業補償は、毎月1回以上、これを行わなければならない」という規定があることを考えると、1ヵ月単位で毎月請求を行うのが一般的でしょう。
また、請求手続きのタイミングが決まっていないのと同様に、初回以降の休業(補償)給付の振込のタイミングも決まっていません。毎月固定の支給日や振込曜日等は定まっていないのです。
このように、休業(補償)給付の振込のタイミングはケースによって異なり、「必ずこの支給日・曜日に振り込まれる」というような決まりはありません。振込までに時間がかかることもあるため、なるべく早めに手続きを済ませておくことをおすすめします。
労災の休業(補償)給付の計算方法
労災の休業(補償)給付は、次の3つの要件を満たしている場合に支給されます。
【休業(補償)給付の支給要件】
1.労災による傷病を負っている
2.働くことができない
3.賃金を受けていない
この要件を満たして受け取ることができる給付金額は、次の計算方法で算出できます。
・給付基礎日額×休業(補償)給付60%
・給付基礎日額×休業特別支給金20%
つまり、被災労働者は給付基礎日額の8割を受け取ることができるのです。
この給付基礎日額とは、労働基準法の平均賃金にあたるもの。労災発生前の賃金を基準に算出されます。
休業給付の詳しい計算方法は、こちらの記事をご覧ください。「労災の休業補償の計算方法を詳しく解説|賃金の総額や土日のカウントについて」
【労災の休業補償、まだもらえないの?と感じたら】給付決定や振込に時間がかかる要因
先ほど、労災の休業(補償)給付は、振込のタイミングが決まっていないとご紹介しました。目安は1ヵ月ですが、3ヵ月以上かかる例もあると言われています。
では、目安よりも休業(補償)給付の支給が遅い場合、その要因としてはどのようなことが考えられるのでしょうか。
ここからは、休業(補償)給付の支給が遅い時に考えられる代表的な要因を3つ挙げていきます。
請求書に不備がある
休業(補償)給付を請求する際には、労働基準監督署へ請求書を提出します。この請求書に不備があった場合、請求書は差し戻しとなり、労災認定の審査は進みません。労働者は請求書の不備を直し、再提出しなければならず、結果として手続きに時間がかかり、給付金の振込が遅くなる可能性があります。
労災認定の判断が難しい
労災を認定するかどうかの判断が難しいケースでは、労働基準監督署側での調査や審議に時間がかかります。これに影響を受け、給付金の振込も遅くなる可能性があります。
特に、業務との因果関係が証明しにくい病気(精神疾患や心臓病等)の場合、業務との因果関係を調べるために時間がかかることが多いようです。
数ヵ月経っても振込も連絡もないような場合には、労働基準監督署に問い合わせてみるといいでしょう。
会社が手続きを進めていない
休業(補償)給付をはじめとした労災補償の請求手続きは、本来被災労働者自身が行うものですが、実際には労働者に代わって会社が手続きしてくれることが多いです。
しかし、中には会社が手続きを進めておらず、いつまで経っても給付金が振り込まれないというケースもあるようです。会社側が手続きを失念していただけなら手続きを再開してもらえば済みますが、会社が「労災保険を使わせたくない」とわざと手続きを進めない場合には注意が必要です。
労働者による労災保険の使用を、会社が止めることはできません。会社が意図的に手続きを進めない場合は、労働者自身が手続きを進めるようにしましょう。
労災の休業(補償)給付の申請方法
会社が手続きを進めてくれない場合、労働者はどのように給付金請求の手続きをすれば良いのでしょうか。
手続きの流れを3つのステップで見ていきましょう。
①請求書作成
請求書を用意し、必要事項を記入します。
業務災害の場合は「休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書 様式第8号」、通勤災害の場合は「休業給付支給請求書 様式16号の6」を使用します。請求書は厚生労働省のHPまたは労働基準監督署で取得可能です。
②証明欄記入
治療を受けた医師と事業主に請求書の証明欄を記入してもらいます。
事業主からの証明を受けられない場合には、空白にしておき、労働基準監督署提出時にその旨を伝えます。
③請求書提出
所轄の労働基準監督署窓口に請求書を提出します。
被災労働者自身が行う手続きはここまでです。後は労働基準監督署が調査し、給付金の支給・不支給を決定します。労災が認定され給付金の支給が決まった場合には支給決定通知が、労災と認められず不支給が決まった場合には不支給決定通知が自宅に届きます。
労災の休業補償はいつまでもらえる?
最後に、労災の休業(補償)給付はいつまでもらえるのかという点を確認しておきましょう。
労災の休業(補償)給付には、支給期限がありません。先ほど挙げた休業(補償)給付の支給要件を満たす限り、給付金を受け取り続けることが可能です。
ただし、労災事故から1年6ヵ月経っても傷病が治癒せず、その程度が規定の傷病等級に当てはまる場合には、休業(補償)給付は打ち切りとなり、代わりに傷病(補償)年金の支給が始まります。
休業補償の期間については、こちらの記事をご覧ください。「労災の休業補償期間はいつまでか?打ち切りになるケースとは?」
まとめ
労働者が労災で傷病を負い、休業することになった場合には、労災保険から休業(補償)給付が支給されます。休業(補償)給付の振込日は、初回は請求から1ヵ月が目安となっていますが、明確な支給日は決まっていません。初回以降も同様です。時には振込までに数ヵ月かかるケースもあることを、覚えておきましょう。
また、支給に時間がかかっている場合には、会社が手続きを進めていないことも考えられます。会社が労災保険の請求手続きを進めてくれない場合には、被災労働者自らが手続きを行うようにしてください。
会社が従業員に労災保険を使わせなかったり、労災の発生を隠したりすることは、労災隠しという違法行為にあたる可能性があります。このような被害を受けた場合には、速やかに弁護士にご相談ください。
弁護士は、労災の被害にあった方がきちんと補償を受けられるよう、全力でサポートを行います。