労災保険はいつまでもらえる?休業補償期間を詳しく解説

休業補償は、労災保険の給付金の一種です。
この補償は、労災による休業で賃金を得られなくなった人にとって、大きな意味を持ちます。

しかし注意しておきたいのが、休業補償は永遠にもらえるわけではないという点。では、この給付はいつまでもらえるのでしょうか。

今回は、その点を詳しく解説します。

休業補償はいつまでもらえるのか?

休業(補償)給付は、労災により休業を余儀なくされた方の生活を支える給付金です。その支給要件は、次の3つです。

1. 労災による傷病で療養中である
2. その傷病のせいで働くことができない
3. 賃金を受けていない

上記の要件を全て満たす限り、休業補償の給付は続きます。
ただし、ひとつでも該当しない要件が発生すれば、給付は停止されます。

傷病が治癒すると補償は停止される

傷病が治癒した時には、休業補償の支給は停止されます。これにより、「傷病の療養中である」という要件が満たされなくなるからです。

この時気をつけておきたいのが、ここで言う「治癒」は完治を意味しないという点。治癒とは、「傷病の状態が安定し、一般的な医学的治療を行なってもその効果が期待できなくなった状態」を指します。
よって、治療の効果が期待できなくなった時には、症状が残っていても、休業補償は停止されます。

ただし、治癒後に残った後遺症が規定の障害等級に当てはまる時には、障害(補償)給付の支給が開始されます。その内容は等級によって異なり、等級第1級〜7級は年金型、第8級〜14級は一時金型の給付金が支給されます。

1年6ヶ月後には傷病年金への切り替えも

傷病の治療を開始してから1年6ヶ月経ってもその傷病が治らず、またその症状が規定の障害等級に当てはまる時には、傷病(補償)年金の支給が始まります。
傷病年金と休業補償は併用できないので、前者の支給が始まれば、後者は停止されます。

ただし、傷病年金を受け取りながら、療養費を補償する療養(補償)給付の受け取りを続けることは可能です。

(労災の休業期間が打ち切りになるケースについては、こちらで詳しく解説しています。「労災の休業補償期間はいつまでか?打ち切りになるケースとは?」

出勤しながら通院する場合の休業補償

労災に遭った方の中には、傷病の療養中であっても完全に休業せず、出勤しながら週の何日か、また何時間かだけ通院し療養する方もいるでしょう。
この場合、休業補償を受け取ることはできるのでしょうか。

通院費のみの支給も可能

結論から述べると、出勤しながら通院する場合でも、先ほどご紹介した3つの要件さえ満たせば、休業補償は受け取れます。

例えば、通常週5日勤務のうち3日は出勤し、2日は通院する時なら、賃金の出ない2日間は休業補償の対象になります。
また、午前中は病院に行き、午後は出勤した場合であれば、「給付基礎日額」から「その日の実働に対して支払われた賃金」を引いた金額の60%が休業補償として支給されます。

ただし、「その日の実働に対して支払われた賃金」が「給付基礎日額」の100分の60以上の額になる時には、その日は「賃金を受けていない」という要件を満たしていないとされ、休業補償の支給は行われません。
さらに、通院日に給付金の額以上の賃金を受け取っている場合にも、休業補償は支給されません。この場合、「働くことができない」という要件が認められず、補償が停止されることも考えられます。

新型コロナウイルスに感染した場合の休業補償

2020年以降、新型コロナウイルスの蔓延が問題になっています。

この新型コロナウイルスへの感染についても、次のようなケースでは、労災補償が適用されます。

 感染経路が明らかに業務によるものである場合
 感染リスクの高い職業に就いており、業務によって感染した可能性が高い場合
 医療従事者(業務外での感染が明らかな場合を除く)

また、新型コロナウイルスについては感染による後遺症も補償の対象です。
詳しくは、厚生労働省のリーフレットをご確認ください。

休業補償期間に関するQ&A

休業補償とその期間に関しては、次のような疑問を持つ方が多いです。

 休日は休業補償の対象になる?
 退職しても休業補償はもらえる?
 休業補償はいつ振り込まれる?

ここからは、これら3つの疑問を順に解決していきます。

休日は休業補償の対象になる?

3つの給付要件さえ満たしていれば、会社の所定休日も休業補償の対象となります。そのため、休業中は曜日に関係なく、毎日休業補償の請求権が発生します。

また、休業補償には待機期間があります。休業を始めてからの3日間がこの待機期間にあたり、その間は補償を受けることはできません。補償の対象となるのは、休業4日目からです。

この待機期間に曜日は影響しません。そのため、休業開始の3日間に会社の所定休日が含まれていた場合には、その日も待機期間に含まれます。
例えば、土日が休みの会社に勤めている人で、休業開始が金曜日だった場合には、金土日の3日間が待機期間で、月曜日からが休業補償の対象となります。

退職しても休業補償はもらえる?

労災保険法では、「保険給付を受ける権利は労働者の退職によって変更されることはない」と定められています。
よって、労災の休業中に会社を退職しても、休業補償が打ち切られることはなく、要件を満たす限りその支給は続きます。
さらに、会社を退職した後に休業補償の申請を行うことも可能です。

また、労働基準法では解雇制限が定められています。これは、「業務による傷病で休業している従業員の休業中およびその後30日間については、会社はその従業員を解雇することができない」というもの。この期間に会社側から退職を求められたとしても、それに応じる必要はありません。

ただし、通勤中に負った傷病(通勤災害)による休業時には、解雇制限は適用されません。

(退職後の労災申請については、こちらで詳しく解説しています。「退職後に労災申請はできるのか?退職したら労災の給付は終わるのか?」

休業補償はいつ振り込まれる?

休業補償の振り込み日は、明確に決められていません。申請のタイミングや労働基準監督署の手続きの進み具合によって、振り込み日は変わります。

また、もし申請書類に不備があった場合には、差し戻しが行われ、手続き完了が遅くなります。スムーズに手続きを進め、給付金を受け取るためにも、申請書類の不備には気をつけるようにしてください。

継続的に受給できる休業補償給付以外の給付金

労災保険で継続的に受給できるのは、休業補償だけではありません。次の5種も、要件さえ満たせば継続的に支給される給付金です。

【療養(補償)給付】
労災による傷病の治療費や薬代などに対する補償。
補償期間は、「傷病の発生から治癒まで」。【傷病(補償)年金】
労災による傷病が発生してから1年6ヶ月を 経っても傷病が治癒せず、その状態が規定の傷病等級に該当する場合の補償。
補償期間は、「傷病等級に該当し療養を続けている間」。

【障害(補償)給付】
労災による傷病が治癒した時に、身体に障害が残り、その程度が規定の障害等級に該当する場合の補償。
補償期間の規定はなく、被災生存者の生存中は継続して支給を受けられる。

【介護(補償)給付】
傷病(補償)年金または障害(補償)年金を受けている方のうち、「等級1級に該当する」または「2級の精神神経・胸腹部臓器の障害」を有していて、現在介護を受けている場合の補償。
補償期間は、「支給要件を満たす期間」で、この支給要件とは「一定の障害の状態に該当する」「現在介護を受けている」「病院や診療所に入院していない」「介護老人保健施設などに入所していない」の4つ。

【遺族(補償)年金】
労災によって亡くなった方の遺族に対する補償。
補償期間は「受給権者が失権するまで」。ただし、失権後は次の順位の遺族が受給権者となる。

上記のように、同じ継続して支給される給付金であっても、その補償期間は給付の種類によって異なり、また補償の対象や金額も異なります。

まとめ

休業補償では、「3つの支給要件に当てはまるかどうか」が重要な判断基準となります。この要件を満たす限り、基本的に補償は続きます。

ただし、他の給付への切り替えや出勤しながら通院する際の対応、休日の扱いなど、休業補償には注意しておかなければならない点が多数あります。万が一の労災への備えとして、これらの知識は頭に入れておくと良いでしょう。

労災被害にあたって、会社との間にトラブルが起きた場合、また会社への損害賠償請求を検討する場合には、弁護士にご相談ください。これらの対応は、法律の知識を持った弁護士が行うことで、スムーズにそして有利に進められる可能性があります。
傷病の治療に専念するためにも、専門的な対応には法律のプロの手を借りることを検討しましょう。