労災によるケガや病気で休業を余儀なくされた場合、多くの人が心配するのは、労災保険の給付金が支給されるまでの生活費ではないでしょうか。
「休業で給料が入らなくなると生活できない」「給付金はいつ支給されるのだろう」といった不安の声は、少なくありません。
今回は、労災保険の給付金が支給されるまでの生活費を確保する方法や、支給までの期間について、わかりやすく解説します。
目次
労災がおりるまでの生活費を確保する手段
労災がおりるまでの生活費を確保する手段としては、以下の2つが考えられます。
①会社による休業補償
労働基準法では、次のように定められています。
第七十五条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
第七十六条 労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。
(参考:e-Gov法令検索「労働基準法」)
つまり、業務災害による傷病で働けず、給与を受けていない労働者に対し、会社は平均賃金の60%を休業補償として支払わなければならないのです。
この規定を踏まえ、多くの会社では休業補償制度を用意しています。
会社の休業補償は、労災保険の給付に比べて手続きが早く進む場合があります。
そのため、労災保険の給付金が支給されるまでの生活費を補う手段として有効です。
なるべく早く補償を受け取るためには、労災発生後、速やかに人事・労務担当者へ相談することが重要です。
②貯蓄・有給休暇・保険
給与がなく、労災保険の給付金もおりない間は、どうしても貯蓄を切り崩しながら生活することになります。万が一に備え、日頃からある程度の期間生活できるだけの貯蓄をしておくことが大切です。
また、有給休暇が余っている場合には、それを休業に充てれば、給与を受け取ることができます。
さらに、個人で就業不能保険や所得補償保険に加入している場合であれば、保険からの給付金が出る可能性が高いです。なるべく早く請求手続きを行いましょう。
労災の補償内容
労災保険の補償には、以下の7種類が用意されています。
- 療養(補償)給付
- 休業(補償)給付
- 傷病(補償)年金
- 障害(補償)給付
- 介護(補償)給付
- 遺族(補償)給付
- 葬祭料(葬祭給付)
各補償の内容を詳しく見ていきましょう。
療養(補償)給付
労災による傷病の療養にかかる費用を支給する給付金です。
労働者が労災指定病院を受診した場合には、原則として自己負担なく治療や投薬を受けられます。
労災指定でない病院を受診した場合には、療養にかかった費用の支給を受けることができます。
休業(補償)給付
労災による傷病で働けず賃金を受けていない場合に、休業4日目から支給される給付金です。
休業(補償)給付は、給付基礎日額の60%です。これに加えて、特別支給金として給付基礎日額の20%が支給されるため、合計では給付基礎日額の80%相当となります。
傷病(補償)年金
療養開始後1年6か月を経過しても傷病が治ゆせず、その状態が所定の傷病等級に該当する場合に支給される給付です。
支給は年金形式で行われます。
傷病等級は1級から3級までの3段階で定められており、等級に応じて給付額が異なります。
障害(補償)給付
労災による傷病が治ゆ(症状固定)した後、所定の障害等級に該当する障害が残った場合に支給される給付です。
障害等級は1〜14級まであり、1〜7級が年金式、8〜14級が一時金式となります。
介護(補償)給付
傷病(補償)年金または障害(補償)年金の受給者のうち、一定の条件を満たし、現に介護を受けている方に支給される給付です。
状態によって常時介護と随時介護に分けられ、それぞれ給付の上限額が異なります。
遺族(補償)給付
労災で亡くなった労働者の遺族(受給資格者)に支給される給付金です。
支給額は、遺族の人数などに応じて異なります。
葬祭料(葬祭給付)
労災で亡くなった労働者の葬祭を執り行った者に対し支給される給付金です。
支給金額は「315,000円+給付基礎日額の30日分」もしくは「給付基礎日額の60日分」のうち、金額が高い方となります。
労災で傷病手当金は受給できる?
傷病手当金とは、業務外の傷病で休業した場合に、健康保険から出る給付金のことです。健康保険の補償は、原則業務外の傷病が対象となる点に注意が必要です。
一方の労災保険は、業務に起因する傷病を補償対象とするものです。
つまり、労災による傷病の場合、健康保険は使えず、労災保険を使う必要があるのです。したがって、労災による傷病で健康保険からの傷病手当金を受け取ることはできません。
ただし、労災認定の可否がすぐに判断されず、審査に時間がかかる場合もあります。そのような場合には、生活費を確保するため、いったん健康保険へ申請し、傷病手当金を受けることも検討しましょう。
労災が認定され、給付金がおりたときには、受け取った傷病手当金を健康保険へ返還することになります。
労災がおりるまでの期間
請求手続きを行ってから労災の給付金がおりるまでの期間の目安は、以下のとおりです。
- 療養(補償)給付:約1ヶ月〜
- 休業(補償)給付:約1ヶ月〜
- 障害(補償)給付:約3ヶ月〜
ただし、上記はあくまで目安です。
労災であることがはっきりしているような事案で書類の不備もない場合であれば、1ヶ月程度で療養(補償)給付や休業(補償)給付が振り込まれることがあります。
一方で、労災に当たるかどうかについて慎重な調査が必要な場合、また書類不備によって差し戻しとなった場合には、審査や手続きに数か月を要することもあります。
特に精神疾患については、業務との因果関係を明確に示すことが難しいため慎重な審査が必要となり、労災認定・不認定の判断を出すまでに相当な期間を要します。
労災による休業にあたっては、労災保険の給付金がおりるまでの1ヶ月〜数ヶ月の生活費を確保することが非常に重要になります。
労災が認定となった場合には、「支給決定通知」または「支払振込通知」が送付されるので、内容を確認の上、振込口座も確認するようにしましょう。
労災がおりるまでの生活が苦しい場合の対処法
会社の休業補償や貯蓄を利用しても、労災がおりるまでの生活が苦しい場合には、以下のような対処法を検討する必要があります。
労災上積補償制度を利用する
「労災上積補償制度」とは、労働者が労災に遭った場合に、労災保険から給付金に上乗せして、会社や労働組合が一定の補償を行う制度のことです。この制度を利用すれば、労災がおりるまでの生活費を確保できる可能性があります。
ただし、労災上積補償制度の運用は会社・労働組合の任意であり、どの会社・労働組合でも制度が導入されているわけではありません。
制度の利用を検討する際には、就業規則を確認したり、人事・労務担当者に問い合わせたりして、制度の有無や利用の可否を確認しましょう。
自治体の貸付制度を利用する
労災保険の給付金が支給されるまでの生活費に不安がある場合には、各自治体の「生活福祉資金貸付制度」を利用するのも一つの方法です。
生活福祉資金貸付制度とは、生活に困り一時的に資金が必要な方へ、各都道府県の社会福祉協議会が生活費等の貸付を行う制度です。
ただし、この制度の対象となるのは、低所得者世帯、障害者世帯、または高齢者世帯に限られます。
条件を満たさない場合、制度を利用できない点に注意が必要です。
このほかにも、国や自治体にはさまざまな支援制度があります。まずは役所の窓口で相談するとよいでしょう。
金融機関から融資を受ける
カードローンやフリーローンを利用すれば、金融機関からの融資という形で、生活費を補填できます。
ただし、ローンの利用には審査があり、誰でも審査に通るわけではない点には注意が必要です。カードローンは、比較的短期間で審査が完了し、少額から借り入れできるものもあります。
直近の生活費が不足している場合には、選択肢の一つとして検討できます。
とはいえ、金融機関から融資を受ける場合には、金利が発生する点をよく理解しておく必要があります。銀行カードローンの金利は、一般に年1.5%〜15.0%程度に設定されることが多いとされています。
消費者金融のカードローンよりは低いものの、使いすぎは後の生活を圧迫することになるため、計画性を持って利用することが大切です。
まとめ
労災の給付金がおりるまでは、スムーズに手続きが進んだ場合でも、1ヶ月前後かかります。この間に「労災がおりるまでの生活費を確保できるかどうか」は、傷病を負った労働者にとって重要な問題です。
万が一に備え、十分な貯蓄をしておくことが理想です。しかし、会社の休業補償制度や労災上積補償制度、自治体や銀行からの貸付を利用することで、足りない生活費を補える可能性があります。
利用できる制度や条件はそれぞれ異なるため、まずは人事・労務担当者や役所、銀行に問い合わせてみると良いでしょう。
労災に遭った場合、「会社が労災を隠そうとする」「労災申請を理由に上司から不当な扱いを受ける」などのトラブルが生じることもあります。
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