くも膜下出血の労災・損害賠償請求|3つの判例でわかる認定基準

くも膜下出血の労災・損害賠償請求|3つの判例でわかる認定基準

労働者が仕事中や通勤中にくも膜下出血で倒れたり死亡したりした場合、労働者本人またその家族は労災申請により、労災保険の補償を受けられる可能性があります。

ただし、くも膜下出血が労災と認められるためには、一定の要件を満たさなければなりません。

そこで今回は、勤務中や通勤中のくも膜下出血について、労災とされる・されないの認定基準を実際の判例とともにわかりやすく解説します。会社への損害賠償請求の可否についてもご説明しますので、くも膜下出血でこれから労災申請しようとする人、また損害賠償請求を行おうと思っている人はご参考にお役立てください。

くも膜下出血の労災認定に関する3つの判例

まずは、くも膜下出血の労災認定に関する判例を3つご紹介します。

①ハヤシ事件

産業用ロボット製作会社の部長として働いていた労働者がくも膜下出血により死亡し、労災認定を受けました。これについて、遺族は会社に対し、安全配慮義務違反を理由とした損害賠償を請求すべく、訴訟を提起しました。

判決および考慮された事情

裁判所は会社の安全配慮義務違反を認定。労災保険の給付分を相殺し、労働者の喫煙を考慮して減額した上で、会社に賠償金の支払いを命じました。

この判決にあたって重視された事情は以下のとおりです。

  • 労働者は少なくとも過去1年間毎月80時間を超えるかそれに近い長時間労働を続けており、十分な休暇も取れていなかった
  • 長時間労働により心身の健康が損なわれることは周知の事実であるが、会社は改善を図らず、その状態を放置していた
  • 労働者には毎日20〜30本の喫煙習慣があった

考察

労働者は長期間にわたり過重労働を行なっていて、それを放置した会社の労務管理は杜撰なものでした。労働と疾病に因果関係があることは明らかであったことから、裁判所は会社の安全配慮義務違反を認めました。

ただし、遺族が労災保険から遺族補償年金や葬祭料を受け取っていたこと、また労働者に喫煙習慣があったことを踏まえ、実際に支払われる賠償金額は減額となりました。

(参考:公益社団法人全国労働基準関係団体連合会 判例検索「ハヤシ事件」)

②中央労基署長(K社)くも膜下出血死事件

自動車部品製造会社で副社長として働いていた労働者が、会議中に痙攣性の発作を起こし、搬送された病院にて死亡しました。診断はくも膜下出血でした。

これを受け、遺族である妻は、疾病は業務上災害であるとして労災申請・給付金請求を行いました。しかし、労働基準監督署長は労災を認定せず、給付金を不支給としました。

遺族はこの決定を不服として、審査請求・再審査請求を行うものの棄却され、処分の取り消しを求め訴訟を提起しました。

判決および考慮された事情

結果として、裁判所は業務と発症の因果関係を認め、労災不認定・給付金不支給の決定を取り消しました。この判決にあたって重視された事情は以下のとおりです。

  • 労働者は、発症前2年間は毎月の時間外労働時間80時間前後を平均として、長時間労働を続けてきた
  • とりわけ発症前1ヶ月は過重労働が続いていた
  • 発症までの8年間は土日出勤がほとんどで、深夜の呼び出しにも対応していた
  • 業績不振と多様な業務内容により、唯一の日本人技術者として労働者の負う責任は大きかった
  • 脳動脈瘤以外の基礎疾患はなく、喫煙習慣もリスクファクターとしては小さいものであった

考察

この裁判では「業務が、血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、発症に至らせるほどの過重負荷になるものであったか否か」が判断の重要なポイントとなりました。

本件は、長期的・短期的な過重業務があったことが明らかであり、労働者の負った責任は大きく、その他特段のリスクファクターも認められなかったことから、業務と本件疾病の発症との間には相当因果関係があり業務起因性が認められると判断されました。

(参考:一般財団法人 女性労働協会「中央労基署長(K社)くも膜下出血死事件」)

③横浜南労基署長・東京海上横浜支店事件

保険会社支店長の運転手として働いていた労働者が、早朝、支店長の迎えに行く途中でくも膜下出血を発症し、休業せざるを得ない状態になりました。

労働者は労災申請・給付金請求を行いましたが、労働基準監督署長が不支給決定を出したため、この決定を取り消すべく訴訟を提起しました。

判決および考慮された事情

一審では労働者の請求が認容されたものの、控訴審では一審の結果が取り消しとなりました。しかし、次の上告審にて再び労働者の請求が認容され、結果として控訴審判決は破棄されています。

この判決にあたって重視された事情は以下のとおりです。

  • 支店長が乗る自動車の運転という業務は、精神的緊張を伴うものである
  • 業務は早朝から深夜に及ぶ場合があり、拘束時間が長く、特に発症半年前以降は1日の平均時間外労働時間が7時間超かつ長距離を運転するなど、かなりの過重労働が常態化していた
  • 発症の前月の勤務はさらに過重な内容であった
  • 労働者は相当長期間当該業務に従事してきた
  • 脳動脈瘤・高血圧症の基礎疾患があったが、治療の必要性がない程度のものであった

考察

労働者は長期間にわたり、精神的緊張を伴う不規則な長時間労働を行なってきており、くも膜下出血を発症する前の数ヶ月間の労働は内容・時間ともに特に過重なものでした。

裁判所は、この業務が精神的・身体的にかなりの負荷となり慢性的な疲労をもたらしたことが推測されると判断。業務の負荷と発症の間に因果関係があることを肯定し、労働者の請求を認めました。

(参考:公益社団法人全国労働基準関係団体連合会 判例検索「横浜南労基署長・東京海上横浜支店事件」)

くも膜下出血による労災の認定基準

業務を原因としたくも膜下出血など脳の疾病については、厚生労働省が「脳・心疾患の労災認定」の中で、労災の認定基準を示しています。

対象疾病と認定基準となる要件は以下のとおりです。

【対象疾病】

◼︎脳血管疾患

  • 脳内出血(脳出血)
  • くも膜下出血
  • 脳梗塞
  • 高血圧性脳症

◼︎虚血性心疾患等

  • 心筋梗塞
  • 狭心症
  • 心停止(心臓性突然死を含む。)
  • 重篤な心不全
  • 大動脈解離

【認定基準となる要件】

以下のいずれかの「業務による明らかな過重負荷」を受けたことにより発症した脳・心臓疾患であること

  • 長期間の過重業務
  • 短期間の過重業務
  • 異常な出来事

ここからは、上記の各要件について詳しく解説していきます。

要件①長期間の過重業務

「長期間の過重業務」とは、「発症前の長期間にわたり、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと」を意味します。

評価期間は発症前のおおむね6ヶ月間で、判断は以下の項目により行われます。

  • 疲労の蓄積の有無:発症時の疲労の蓄積度合いはどの程度か
  • 特に過重な業務の有無:日常業務において特に身体的・精神的負荷を生じさせると認められる業務があるか
  • 過重負荷の有無:著しい疲労の蓄積をもたらす過重な業務に就労したか
  • 労働時間:発症前の1〜6ヶ月間にわたり月おおむね45時間以上の時間外労働が認められるか等※時間外労働が長くなるほど、業務と発症の関連性が強まる
  • 労働時間以外の負荷要因:労働時間以外の負荷要因がある場合には、労働時間とそれ以外の負荷要因を総合的に評価して判断する

上記項目については、「日常的に心理的負荷を伴う業務」や「心理的負荷を伴う具体的出来事」、「労働時間以外の負荷要因」をまとめた各表をもとにし、「長期間の過重業務の有無」について総合的な判断を行います。

各表は、厚生労働省「脳・心疾患の労災認定」をご確認ください。

要件②短期間の過重業務

「短期間の過重業務」とは、「発症の直前の時期に、特に過重な業務に就労したこと」を意味します。

評価期間は発症前のおおむね1週間で、判断は以下の項目により行われます。

  • 過重負荷の有無:特に過重な業務(身体的・精神的)に就労したと認められるか・特に過重な身体的、精神的負荷と認められる業務であるか
  • 業務と発症の時間的関連性:発症直前から前日までの間の業務が特に過重であるか、または発症前おおむね1週間以内に特に過重な業務が継続しているか
  • 業務の過重性の具体的評価:発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められるか、または発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められるか

「短期間の過重業務の有無」は、上記の点を総合的に見て判断することになります。

要件③異常な出来事

「異常な出来事」とは、「発症直前から前日までの間に、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと」を意味します。

評価期間は発症直前から前日で、判断は以下の項目により行われます。

  • 異常な出来事の有無:極度の精神的負荷・著しい身体的負荷・著しい作業環境の変化があったか
  • 過重負荷の有無:起こった出来事による身体的・精神的負荷が著しいと認められるか

「異常な出来事の有無」については、上記の点を総合的に見て判断することになります。

このように、脳・心臓疾患の労災認定についてはさまざまな要件が定められています。厚生労働省「脳・心疾患の労災認定」では、各要件の詳細とともに、労災認定・不認定の目安となるフローチャートも記載されているので、ぜひご確認ください。

労働時間が会社に改ざんされたら

業務が原因の傷病は、労災と認められることで、労災保険の補償対象となります。また、労災の発生について会社に法的責任がある場合は、損害賠償を請求できる可能性もあります。

しかし、そのような対応を恐れた会社が、労災認定や損害賠償請求を避けるため、労働者の労働時間を改ざんし労災隠しを行うケースがある点には注意が必要です。労災隠しは違法ですが、実際に労働者が労働時間の改ざんの被害に遭ったケースは少なくありません。

万が一、会社によって労働時間を改ざんされてしまった場合には、労働者側で実際の労働時間を示す証拠を集めることが重要です。証拠によって正しい労働時間を証明できれば、労災が認められる可能性があります。

具体的な証拠としては、以下のようなものが有効です。

  • タイムカード
  • 勤怠データ
  • 職場の入館・退館データ
  • シフト表
  • 業務日報
  • パソコンのログ
  • 業務メール・チャット・電話の履歴
  • 上司からの指示書
  • 給与明細の時間外手当欄
  • 通勤用ICカードの履歴
  • メモやカレンダー
  • 家族への帰宅メール など

証拠はなるべく多く確保しておくほど、証拠としての強度が上がります。特にメモや家族へのメールなどは客観的証拠として弱いので、他の証拠と合わせて強度を上げることが重要になります。

会社に対して損害賠償請求できるか

労災の発生について、会社に法的責任が認められる場合には、被災労働者は会社に対し損害賠償を請求できる可能性があります。

具体的な法的責任としては、以下のようなものが考えられます。

  • 安全配慮義務違反:労働者が安全に労働できるように配慮する義務に違反すること
  • 使用者責任:会社の従業員が第三者に損害を与えた場合に、使用者である会社も賠償責任を負うこと
  • 工作物責任:会社敷地内における工作物の瑕疵により第三者に損害を与えた場合、所有者である会社が賠償責任を負うこと

例えば、会社が労働者の過重労働を把握しながら放置した場合、会社の対応は「安全配慮義務違反」に該当する可能性があります。また、従業員が業務上の不注意で他の従業員にケガをさせたような場合には「使用者責任」を、社内にある階段の手すりが壊れていて従業員が落下しケガをしたような場合には「工作物責任」を問えると考えられます。

労災における会社への損害賠償請求では、このような法的根拠を挙げながら、交渉や訴訟を進めることになります。

そのためには法的知識にもとづく判断や手続きが必要になるため、労働問題を扱う弁護士に相談するようにしましょう。

まずは労災無料相談センターへ相談を

会社に対し損害賠償請求を検討している場合には、労働問題を扱っている弁護士事務所へ相談しましょう。

弁護士は、対応のアドバイスを行うだけでなく、依頼者に代わってあらゆる法的手続きを代行できます。弁護士が付くことで、会社側の態度が軟化し、交渉がスムーズに進む可能性も考えられます。

労災無料相談センターでは、労災トラブルや損害賠償に関するご依頼を受け付けています。問題解決の豊富な実績を持つ弁護士が、最適な解決を目指し、依頼者と伴走します。

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