労災申請を会社に拒否された場合、どうすればいいのか?対処法を解説

労災申請の手続きでは、会社による証明が必要になります。また、被災した労働者の代わりに、一連の手続き自体を会社が担うケースも少なくはありません。
このように、労災の手続きには会社の協力が必要です。

しかし、被災労働者の中には、「会社に労災申請を拒否された」「労災を使うなと言われた」という方も少なくはありません。
このような場合には、どう対応すれば良いのでしょうか。
今回は、その対処法をご紹介します。

労災申請に会社の承認は必要ない

結論から述べると、労災申請に会社の承認は必要ありません。よって、承認が得られない場合には、被災労働者自身が手続きを進めて問題ありません。
その理由を詳しく解説します。

労災給付金請求書には事業主証明欄がある

業務中や通勤中に事故に遭い、傷病などを負った労働者は、労災保険から補償を受けることができます。
そのために必要なのが、労災申請という手続き。この手続きでは、該当する給付金の請求書を作成し、事業所を管轄する労働基準監督署へ提出しなければなりません

この時必要になるのが会社の証明、いわゆる「事業主証明」です。
労災給付金の請求書には、事業主の証明欄が設けられています。これは、「請求書の内容に間違いがない」ことを事業主が証明するもので、会社はこの欄に事業所の連絡先や事業主の氏名を記入しなければなりません。

必要事項を記入した上で事業主に証明をもらった請求書は、労基署の窓口で受け付けてもらえます。

事業主証明は空白でも受付可

労災申請にあたっては、会社側が労災申請を拒否し、この証明欄を記入してくれないケースがあります。請求書は、全ての欄を記入して提出するのが基本ですが、事業主の協力が得られない場合には、事業主証明欄が空白でも受け付けてもらうことは可能です。

労災保険の目的は、「労働者の傷病に対して迅速で公正な保護を行うこと」です。事業主証明欄が空白だからといって書類を差し戻し、保険給付の事務を進めないということは、この目的に反します。
そのため労基署では、会社の協力が得られず事業主証明欄が空白の書類であっても、そのまま受理することが原則となっています。

この場合、労基署は後日事業主に対し、「証明拒否理由書」の提出を求めます。
また、労災調査の過程でも、事業主に対する聞き取りを行います。

労災認定・不認定を決めるのは、労働基準監督署長です。この判断に、事業主の証明があるかどうかは影響しません
そもそも、労災に遭った時の労災申請は労働者の権利です。つまり、労災申請に会社の承認は必須ではないのです。

なぜ会社は労災申請を拒否するのか?

会社が労災申請を拒否するケースがあるのには、次のような理由があります。

  • 今後の保険料が上がるかもしれない
  • 手続きが面倒
  • 労災保険に加入していない
  • 法律違反を隠蔽したい
  • 会社の社会的信頼低下を避けたい
  • 元請け会社との関係性悪化を恐れている

労災保険の保険料には、一部メリット制が取り入れられています。メリット制の対象となる事業所では、労災の発生状況が支払う保険料に影響します。つまり、労災の発生が多いと、その分保険料も高くなるのです。
そのため、保険料が高くなることを恐れ、会社が労災申請を拒否するケースが見受けられます。

また、手続きが面倒だったり労災保険自体に加入していなかったり(これは法律違反です)するケースや、労災調査の過程でその他の法律違反が発覚することを恐れているケース、労災発生が公になることによる会社のイメージダウンを避けたいと考えているケースもあります。
建設業の下請け会社であれば、保険料を支払う元請け会社に気を遣って、従業員の労災を隠そうとすることもあるようです。

「労災隠し」にあたる可能性も

どんな理由であっても、労災を意図的に隠すことは許されません。これは「労災隠し」という犯罪にあたり、より厳しいペナルティの対象となります。労災隠しを起こせば、会社の信頼性も大きく低下するでしょう。

よって、会社が労災申請を拒否したからといって、被災労働者が会社の労災隠しに加担する必要はありません。労災申請は労働者の権利なので、自身で手続きを進めることも検討してください。

(会社が労災保険の利用を嫌がる理由と対処法については、こちらで詳しく解説しています。「労災を会社が嫌がるのは、なぜ?労災隠しをされたら自分で労災申請を」

労災申請を会社に拒否された場合の対処法

労災申請を会社に拒否された場合の対処法としては、次の3つが考えられます。

  • 会社と交渉する
  • 労基署に相談する
  • 労働者自ら申請する

手続きに協力してもらえるよう、自身で会社に交渉するというのが、ひとつめの対処法です。
労働保険法では、労働者を雇用する会社に対し、労働者の労災申請手続きをサポートする義務を定めています。そのため、会社側は事業主証明欄の記入を行い、場合によっては手続き自体を代行するなどして、被災労働者の労災申請を助ける必要があります。
自身での交渉はハードルが高いかもしれませんが、交渉の余地があるようなら、手続きのサポートを受けられるようまずは担当者や事業主と話し合うようにしてください。

また、労基署に相談するというのもひとつの方法でしょう。
労基署には対面や電話での相談窓口が設置されています。事情を相談すれば、取るべき対応を教えてもらうことができます。

会社が交渉に応じないのであれば、自身で手続きを進めても問題ありません。
所定の請求書を用意し、必要事項を記入して、労働基準監督署へ提出してください。
先ほどご紹介した通り、事業主証明欄は空白で構いません。

労働者自ら労災申請する方法

労働者自身が労災申請を行う場合には、次のような手順で手続きを進めます。

  1. 厚生労働省のホームページから、支給を受ける給付金の請求書をダウンロードする
  2. 必要事項を記入する(添付書類がある場合にはそれも用意する)
  3. 事業所を管轄する労働基準監督署窓口に書類を提出する※ 会社に協力を得られない旨を伝える
  4. 労基署による調査結果を待つ

厚生労働省のホームページには、労災申請に必要な請求書が用意されています。業務災害が通勤災害か、どの給付金を請求するかによって使用する用紙は異なるので、間違えないよう注意しましょう。

請求書をダウンロードしたら、必要事項を記入し、事業主証明欄は空白のまま、管轄の労働基準監督署へ提出します。提出時には、窓口の担当者に「会社に労災申請を拒否され協力を得られない」ことを伝えるようにしてください。

その後労基署が調査し、労災認定・不認定が決定すれば、自宅に通知が届きます。労災認定となった場合には、給付金が振り込まれます。

上記は一般的な手続きの流れですが、療養(補償)給付申請の場合には医療機関の証明が必要になったり、受診した医療機関に書類を提出したりする場合もあります。

(労災申請に必要な書類については、こちらで詳しく解説しています。「労災申請の必要書類を解説|給付ごとに必要な様式と添付書類」

会社に対して慰謝料や損害賠償を請求することも可能

会社が労災申請を拒否する場合には、その背景に法律違反が隠されていることがあります。
労災の原因が会社の法律違反にある場合、労災被害に遭った労働者は、会社に対して損害賠償を請求することも可能です。

法律違反の例には、次のようなものがあります。

  • 安全配慮義務違反
  • 使用者責任
  • 工作物責任 など

このような法律違反が認められる場合には、これを理由とした損害賠償請求を行うことができます。

損害賠償請求では、労災保険では補償されない慰謝料を請求することも可能です。また、損害賠償請求と労災保険の請求は、補償内容が重複しない限り併用することもできます。
より手厚い補償を受けるためにも、労災に遭った場合には労災保険の申請だけでなく、損害賠償請求もご検討ください。

まとめ

労災申請を会社に拒否され、手続きの協力を得られない場合でも、被災労働者は申請を進めることができます。その場合には、自身で請求書を作成し、事業主証明欄を空白にしたまま、それを労働基準監督署に提出してください。会社の協力を得られない旨を受付の担当者に伝えれば、書類をそのまま受理してもらうことができます。

労災が発生したにも関わらず、会社が労災を隠蔽しようとするケースは、決して少なくはありません。また、その背景には会社の法律違反が潜んでいる可能性もあります。
このような場合には、弁護士の手を借りるのもひとつの方法です。弁護士は、適切なサポートで労災トラブルを早期解決へと導きます。また、損害賠償請求の手続きを担うことも可能です。
労災に関するお困りごとは、弁護士への相談もご検討ください。