仕事中に怪我をすると、①労災補償金と②賠償金の2種類をもらえる可能性があります。
労災保険から労災補償金をきちんともらえていますか?
会社から労災補償金では補填されない部分の賠償金をもらえていますか?
今回は、労災事故に遭った場合にもらえる金額について詳しく見ていきましょう。
1.労災に遭った場合にもらえる金額の内訳
(1)労災保険給付金
仕事中に怪我や病気にあった場合(労働災害)には、労災保険から法で定められた給付金(労災補償金)が支給されます。
しかし、この労災補償金は必要最低限度の金額であるため損害の全額補填にはなりません。
例えば、労災補償金の場合は休業補償や将来の逸失利益は一部しか支給されず慰謝料は支給されません。
労災補償金とは、本来会社が支払うべきお金の一部を労災保険から支給する制度になります。
(2)損害賠償金
仕事中の怪我や病気に対して会社に責任(安全配慮義務違反)がある場合には、会社は労働者の損害の全部を賠償金として支払う義務があります。
労働者の全損害からすでに支給された労災補償金を差し引いた金額を請求出来ます。
多くの場合には、休業中の賃金の4割相当分、入院や通院中の慰謝料、後遺症が残った場合の慰謝料や逸失利益を請求出来ます。
2.労災保険から支給される給付金と会社に請求出来る賠償金の具体例
月給40万円(1日あたり1万3150円)、年間賞与80万円の労働者(32歳)が業務中に右手親指(後遺障害等級表第10級7号)を失い6ヶ月間休業した場合
<労災保険から支給される給付金概要>
①療養補償給付金
怪我の治療のために必要な病院代です。
治療費は労災から全額支給されます。
②休業補償給付金
休業した期間の給料の約6割が支給されます。
40万円×6ヶ月×60%=144万円が支給されます。
③休業特別支給金
休業した期間の給料の約2割が支給されます。
40万円×6ヶ月×20%=48万円が支給されます。
④障害補償給付金
月給の約302日分が支給されます。
1万3150円×302日=397万1300円が支給されます。
⑤障害特別支給一時金
年間賞与の約302日分が支給されます。
80万円÷365日×302日=66万1917円が支給されます。
⑥障害特別支給金
障害に応じた定額が支給されます。
後遺障害10級の場合=39万円が支給されます。
労災保険から労災補償金として②③④⑤⑥の合計約694万3217円+①治療費が支給されます。
<会社に請求出来る損害金概要>
⑦休業損害金
休業した期間の給料の全額から①休業補償給金を差し引いた残りの金額を請求出来ます。
本件の場合、40万円×6ヶ月+80万円÷2-144万(①)=136万円を請求できます。
⑧通院慰謝料
怪我や病気により通院した期間に応じた慰謝料を請求出来ます。
本件の場合、約116万円を請求できます。
⑨後遺障害慰謝料
後遺障害(右手親指の喪失)が残ることに対する慰謝料を請求出来ます。
本件の場合、約550万円を請求できます。
⑩後遺障害逸失利益
後遺障害(右手親指の喪失)が残り労働能力喪失することに伴う今後(67歳まで)の賃金の減少分(逸失利益)から③障害給付金を差し引いた額を請求出来ます。
労働能力喪失率27%×年収560万円×16.193(35年の中間利息控除)-397万1300円=2051万2516円を請求できます。
労災保険から支給される労災補償金とは別に、会社に損害賠償金としての⑦⑧⑨⑩の合計2853万2516円を請求出来ます。
およそ3000万円となると、会社側もそう簡単に支払ってきません。事案によって金額については様々ですが、会社に対し損害賠償を請求するとなると、相当の準備をし、ある程度の時間がかかることを認識した上で行う必要があります。訴訟の提起まですることを視野に入れて、弁護士に頼んだ方が得策でしょう。
3.会社に対する損害賠償請求の手段
請求の手段としては、交渉・労働審判・訴訟の3つがあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
法律事務所テオリアの弁護士は、面談の時点で、依頼者様の要望、会社の態度や資力、証拠など様々な観点から、どの手段で請求するのが最適か見通しをつけてお伝えしており、この段階で手段の確認をさせて頂きます。
以下に説明する手段では、当事務所の手続きの流れとして、説明致します。
(1)交渉
交渉では、まず初めに「請求書・通知書」という損害賠償の請求を求める書面を内容証明郵便という日付を記録した郵便で相手方に送付し、相手方の回答を待ちます。
相手方から回答された支払金額について、弁護士が妥当と判断し、依頼者様もご納得頂ける場合はここで解決となります。労災の損害賠償請求の事案では、金額が大きいこともあり、ほとんど交渉では解決しません。交渉で解決しない場合、労働審判か訴訟へ移行します。
(2)労働審判
労働審判は、裁判所における話し合い(審理)で解決を図る制度で、3回までの審理で終結するため通常の訴訟より早期解決が見込めます。
特徴として、労働現場に詳しい第三者(労働者側代表:労働組合役員、使用者側代表:経営者や役員)が労働審判員として加わるため実情に沿った判断が可能となり、使用者側代表として参加する労働審判員が会社側の担当者を叱咤、説得してくれる場合もあります。ただし、少なくとも第1回目の審理には依頼者様ご本人が弁護士と共に出廷して頂く必要があり、会社の担当者と顔を合わせたくない方には不向きな手段です。
「調停」という和解を目指して審理が行われますが、調停の内容に当事者が納得しない場合は、通常の訴訟へ移行します。
(3)訴訟
訴訟は、解決までに半年以上かかることが多いのですが、証拠をきちんと確保している場合、労働審判よりも多くの請求金額が認められるというメリットがあります。また、労働審判とは異なり、依頼者様ご本人の出廷はほとんど必要ありません。
早期解決のため、訴訟中に和解が成立することが多いのですが、和解が成立しない場合は判決を仰ぎます。
なお、ご相談の段階で、悪質な会社と判断した場合や、事案が複雑な場合などは、交渉等の手段を経ないで直ちに訴訟の提起をおすすめすることがあります。交渉に時間をかけるより、早急に訴訟を提起し、裁判所からの正式な書面を本社に送達させる方が、より効果があって早期解決につながるケースが多いためです。
会社に対する損害賠償を請求するには、いくつもの要件を満たす必要があり、その判断は非常に複雑です。また、労災申請のための証拠を収集するだけでも膨大な手間と労力がかかることが予想されます。
当事務所では、労災を多く取り扱っておりますので、病院を受診する際のポイントからお教えいたしますし、証拠の収集についてアドバイス、場合によっては証拠の整理、調査も行います。
請求後の見通しについても、受給できる金額、弁護士費用について、受任前に詳細にご説明します。
会社に対する損害賠償請求をを考えの際、是非すぐに当事務所にご相談ください。