労災の申請を労働基準監督署にする方法|申請できる怪我や病気、受け取れる給付も解説

業務中・通勤中の怪我や業務に起因する病気は労災(労働災害)であり、労災保険の補償対象となります。そして、労災保険の補償を受ける際に、被災労働者が請求手続きを行う先が、労働基準監督署です。
請求を受け、労働基準監督署が労災認定を行えば、労災に遭った労働者は労災補償を受けることができます。

ではこの時、被災労働者は労働基準監督署に対し、どのような手続きを行えばいいのでしょうか。手続きは会社が対応してくれることも多いですが、被災労働者自身で手続きを行うことも可能です。申請できる労災保険の概要や手続きの内容は理解しておいた方がいいでしょう。

そこで今回は、労働基準監督署に対する労災認定手続きを中心に、労災保険の給付の種類や注意点など、労災に関する基本事項について解説していきます。

労働基準監督署とは

労働基準監督署は、労働に関する監督指導や手続きを担う機関です。厚生労働省の第一線組織にあたり、全国に321の署が分布しています。

労働条件や法律違反の申告を受け、現場に立ち入って監督指導を行ったり、捜索・差押・逮捕を行ったりと、労働基準監督署の役割は多岐に渡りますが、その中でも重要な役割のひとつが、労災関連業務です。

労働基準監督署では、被災労働者やその遺族の請求により、労災に関する調査を行い、労災認定の可否を判断します。そして、労働基準監督署が労災であると認定した案件に対しては、労災保険給付を実施します。

また、労働基準監督署には相談窓口や電話・メール相談窓口も設置されており、労働関連のトラブルに対するサポートも行っています。

どのような怪我や病気なら、労災を申請できる?

前述の通り、業務中・通勤中の怪我や業務に起因する病気は労災であり、労災申請および労災給付の受給が可能です。ここでは、具体的にどのような怪我や病気が労災申請の対象になるのか見ていきましょう。

労災の種類は2種類

労災申請の対象となる労災の種類は、その時の状況によって大きく以下の2種に分けられます。

①業務災害
業務に起因する、労働者の怪我や病気、死亡

②通勤災害
通勤・帰宅中に発生した、労働者の怪我や病気、死亡

業務災害か通勤災害かで、労災認定の要件は異なります。

業務災害の労災認定要件

業務災害の労災認定要件は、下記の2つです。

◆業務起因性
業務と傷病の間に一定の因果関係が認められること。

◆業務遂行性
労働契約を結んだ事業主の管理下で起こった傷病であること。

この2要件両方が認められる怪我や病気、死亡は業務災害にあたり、労災申請の対象になります。

業務災害になる怪我や病気の例

・業務で使用していた機械に巻き込まれ、腕を怪我した。
・炎天下での引越し作業中、重度の日射病にかかり死亡した。
・業務中にトイレに行くため階段を降りている途中で足を踏み外し、落下。足を骨折した。
・参加必須の社内行事で怪我をした。 等

通勤災害の労災認定要件

通勤災害の労災認定は、事故に遭った時の状況が以下の「通勤」の要件を満たしているかどうかで判断されます。

◆通勤の定義
就業に際し、下記の移動を合理的な経路・方法で行うこと。ただし、業務の性質を有するものを除く。
1.住居と就業の場所との間の往復
2.就業の場所から他の就業の場所への移動
3.住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動

ただし、合理的な経路を逸脱・中断した場合でも、厚生労働省が定める日常生活で必要な例外行為に関しては、逸脱又は中断の間を除いて、合理的な経路に戻った後には再び通勤と判断されます。

通勤の定義に該当する状況での怪我や病気、死亡は通勤災害にあたり、労災申請の対象になります。

通勤災害になる怪我や病気の例

・通勤のため駅に向かっている最中に車に轢かれ怪我をした。
・会社から帰宅中、自宅の最寄駅のホームで転倒し、腰を痛めた。
・会社から帰宅途中にスーパーで夕食や食材を買い、その後通勤経路に戻って歩いている最中、事故に遭った。 等

労災保険で受け取れる給付とは

労災保険で受け取れる給付には下記の8種があり、被災労働者は傷病の状況に応じた給付を受給することができます。

①療養(補償)給付

病院での治療費や薬局での薬剤支給等、労災の怪我や病気に対する療養費用の補償

②休業(補償)給付

労災の怪我や病気による休業への補償

③障害(補償)給付

労災による怪我や病気が治ゆした後、規定の障害等級に該当する障害が残った場合に支給される補償

④傷病(補償)年金

療養(補償)給付を受給している労働者の怪我や病気が、療養を始めてから1年6か月経っても治ゆせず、その傷病の程度が規定の傷病等級に該当する場合に支給される補償

⑤介護(補償)給付

傷病(補償)年金、および障害(補償)年金を受給している労働者が、規定の障害・傷病等級に該当し、介護を受けている場合に支給される補償

⑥遺族(補償)給付

労災によって死亡した労働者の遺族に支給される補償

⑦葬祭料・葬祭給付

労災によって死亡した労働者の葬祭料に対する補償

⑧二次健康診断等給付金

一次健康診断の結果として異常の所見が認められた場合、二次健康診断と保健指導を1年度内に1回無料で受けられる

労災保険の申請方法

労災保険の申請から給付までは、「請求書の提出」「面談・調査」「労災認定の判定」「労災給付開始」の4つのステップで進みます。

1.請求書の提出

労災に遭って医療機関で治療を受け、労災保険の申請を行う段階になったら、まずは請求書を作成し、管轄の労働基準監督署に提出します。

申請する給付の種類によって請求書の種類は異なるので、間違わないように気をつけてください。請求書は、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。

また、この請求書には、事業主の証明が必要になります。
ただし、事業主の証明を受けられない場合は、空欄でも構いません。労働基準監督署への提出時に、事業主の証明を受けられなかった旨を伝えましょう。

2.面談・調査

請求書の内容を受け、労働基準監督署が調査を行います。本人との面談や関係者への聞き取り、病院への照会などによって、労働者が労災に遭った状況を把握します。

3.労災認定の判定

面談や調査の結果を受け、労働基準監督署が労災認定および労災補償の支給可否を判断します。この判断は、支給決定通知書の郵送によって、労働者に通知されます。

4.労災給付開始

労災の認定が受けられた場合には、申請した給付金の支給が開始されます。
労災の認定が受けられず給付金不支給となり、その結果に納得できない場合には、労働者は審査請求を行うことができます。

労災保険申請時の注意点

労災保険申請には、いくつかの注意点があります。ここでは、特に注意したい2つのポイントについて解説していきます。

労災保険の申請には時効がある

労災保険の申請には、時効があります。時効は給付の種類ごとに定められていて、時効を過ぎてからの労災申請は無効となります。

◆労災給付の時効
・療養(補償)給付・・・療養の費用を支出した日の翌日から2年
・休業(補償)給付・・・賃金を受けない休業した日ごとの翌日から2年
・障害(補償)給付・・・傷病が治癒した日の翌日から5年
・傷病(補償)給付・・・時効なし
・介護(補償)給付・・・介護を受けた月の翌月の1日から2年
・遺族(補償)給付・・・被災労働者が亡くなった日の翌日から5年
・葬祭料・葬祭給付・・・被災労働者が亡くなった日の翌日から2年
・二次健康診断等給付金・・・一次健康診断の受診日から3ヶ月

損害賠償請求も視野に

労災給付では、療養や休業に対する給付が行われますが、慰謝料は給付されません。労災給付だけでは、補償が十分でない場合もあるでしょう。

そこで視野に入れたいのが、労災の原因となった第三者や会社に対する損害賠償請求です。
損害賠償請求で第三者や会社の過失が認められれば、被災労働者は慰謝料を受け取ることができます。

まとめ

労災に遭った時の労災給付は、被災労働者の生活を支える重要な補償です。給付を受けるためには、まずは管轄の労働基準監督署へ、請求する給付金の請求書を提出しましょう。くれぐれも、請求をしないまま時効を過ぎてしまわないよう気をつけてください。

また、労災にあたっては、労災保険の補償を受けるだけではなく、会社や第三者に対する損害賠償請求も検討可能です。
とはいえ、損害賠償請求を被災労働者自らが行うのは困難でしょう。損害賠償請求を行う際には、弁護士にご相談ください。労災案件の実績豊富な弁護士に依頼すれば、専門知識が必要な損害賠償請求がスムーズに進められます。