労災における損害賠償請求とは?どのような種類の損害賠償が請求できるか

業務に起因する傷病や通勤中の怪我は、労災として労災保険の補償対象になります。また、労災に遭った被災労働者は、事業主や労災の原因を作った相手に対し、損害賠償請求を行うことも可能です。
とはいえ、労災の損害賠償請求は、どんな場合にでも行えるわけではありません。

そこで今回は、労災における損害賠償請求について、どんな場合にどんな損害賠償請求を行えるのか解説していきます。

労災の損害賠償請求の根拠

労災における損害賠償請求は、会社や第三者の過失が認められる場合に行えます。その具体的な根拠となるのが、以下の4つです。

・安全配慮義務違反
・使用者責任
・工作物責任
・第三者行為災害

順に見ていきましょう。

安全配慮義務違反

安全配慮義務違反とは、定められている安全配慮義務を使用者が怠ったという法律違反行為です。
労働契約法では、使用者の安全配慮義務について、以下のように定められています。

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
(労働契約法第5条)

例えば、劣悪な環境での労働、施設や設備の不良、長時間労働などによって発生した労災は、使用者の安全配慮義務が十分でないと考えられます。

安全配慮義務を怠ったことにより労災が発生した場合には、被災労働者は安全配慮義務違反を根拠に、損害賠償を行うことが可能です。

使用者責任

使用者責任とは、会社が雇用している従業員が業務中に他人へ損害を与えた場合に、会社や監督者もその第三者に対する賠償責任を負うという決まりです。
民法では、以下のように定められています。

「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」
(民法第715条)

例えば、従業員が、設備操作ミスで他の従業員に怪我を負わせたり、ハラスメント行為を行ったり、暴力を振るったりした場合には、会社や監督者は使用者責任に問われる可能性があります。このような背景に基づく労災の場合、被災労働者は使用者責任を根拠に、会社や監督者へ損害賠償を請求することが可能です。

ただし、従業員が起こしたすべての事故や過失について、使用者責任が発生するわけではありません。会社や監督者が、従業員に十分な注意や指導を行っていた場合には、使用者責任には問われません。

工作物責任

工作物責任とは、工作物の設置や保存に瑕疵があることによって、他人に損害を与えた場合、その工作物の所有者が賠償責任を負うというものです。
民法では以下のように定められています。

「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。」
(民法第717条)

例えば、工事現場の足場が崩れたり、ワイヤー設備が落下したりして従業員が怪我を負った場合には、これらの工作物を設置し保存していた会社が事故の責任に問われる可能性があります。
このような労災に遭った被災労働者は、工作物責任を根拠に、会社へ損害賠償責任を請求することが可能です。

第三者行為災害

第三者行為災害とは、労災の原因が第三者(当事者(労災保険の受給権者、事業主、政府)以外の人)にある場合のことを指します。この場合、第三者は被災労働者に対して、損害賠償責任を持つことになります。
また、第三者行為災害における法律の裏付けとしては、民法709条が挙げられます。

「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
(民法第709条)

例としては、通勤中に第三者の車と接触する交通事故に遭ったり、業務中に第三者から暴力を受けたりといったことが、第三者行為災害にあたります。

労災の損害賠償の種類

労災における損害賠償は、大きく以下の2種類に分けられます。

・財産的損害
・精神的損害

それぞれ詳しく見ていきましょう。

財産的損害

労災での財産的損害とは、労災によって被った金銭面での損害のことです。財産的損害は「積極損害」と「消極損害」の2種に分けられます。

積極損害 消極損害
概要 労災に遭っていなければ出費することがなかったであろう費用のこと 労災に遭っていなければ、被災労働者が将来得るはずだった利益の喪失のこと
具体例 治療費関係費、介護費用、葬儀関係費等 休業損害(休業による減収分)、逸失利益(労災に遭っていなければ得られたであろう将来的な収入)

精神的損害

労災での精神的損害とは、被災労働者が労災によって被った精神的な苦痛による損害を指します。
精神的損害に対する損害賠償として支払われるのが、慰謝料です。

・入通院慰謝料
・後遺障害慰謝料
・死亡慰謝料

慰謝料には上記の3種があり、それぞれ「入通院」「後遺障害」「死亡」に対する被災労働者やその遺族の苦痛に対する賠償として支払われます。

過失相殺、素因減額について

損害賠償請求については、事故の状況や被災労働者の健康状態によって、「過失相殺」や「素因減額」が行われる可能性があります。その場合、賠償額は減額されることになります。

◆過失相殺
労災事故にあたって、被災労働者自身にも過失がある場合に、発生した損害のうちの一部を控除すること。加害者と被災労働者の過失割合を明確にし、全体の賠償額から被災労働者の過失割合分を差し引くことになる。

◆素因減額
被災労働者がもともと既往症などの特殊性(素因)を持っていて、それにより労災による傷病の症状が深刻化している場合に、素因を配慮して損害賠償金額を減額すること。

過失相殺や素因減額による賠償額の減額は、加害者側から主張されることが多く、認められた場合の減額割合はケースバイケースです。

また、損害賠償金と労災補償給付を受け取る場合には、支給額の調整が行われることがあります。これは、同一の事由による二重補償を防ぐためです。

損害賠償請求は、いつできる?

労災の損害賠償請求は、被災労働者の損害賠償額が確定した時に行うことになります。

損害賠償額は、全体の損害から労災補償給付として受け取った額を差し引いた額です。そのため、症状が固定し、給付額が明確になるまで、損害賠償額は確定しません。
例えば、傷病の場合は治療をし、障害が残った場合には障害(補償)給付を受けてから、死亡の場合は遺族が葬祭料や遺族(補償)給付を受けてからになるでしょう。

まとめ

損害賠償請求は、被災労働者に認められた権利です。今回ご紹介したように、会社や事業主、第三者の過失により労災を被った場合には、労災補償の給付を受けるだけでなく、損害賠償請求を行うことも検討しましょう。

とはいえ、損害賠償請求の手続きを自分だけで進めるのは困難です。損害賠償請求を行いたい場合は、必ず弁護士に相談するようにしましょう。専門知識や経験に長けた弁護士の手を借りれば、損害賠償請求の手続きはスムーズに進み、被災労働者は治療に専念することができます。