休業補償給付は、労災で休業を余儀なくされた人の生活を守るための重要な給付金です。
ただし、これを受け取るには一定の条件を満たす必要があります。そのため、労災で休業しても休業補償給付をもらえないケースは存在します。
そこで今回は、休業補償給付をもらえる条件や期間、金額の計算などについて詳しく解説します。「給付金をもらえないかも?」というよくある疑問も解決していくので、労災の休業補償給付について不安や疑問がある方はぜひご一読ください。
労災の休業補償給付をもらえる条件
業務中や通勤中に負った怪我や病気は、労災と呼ばれます。労災による療養や休業は労災保険の補償対象で、被害に遭った労働者は労災保険からの給付金を受け取ることができます。
この給付金にはいくつかの種類がありますが、その中でも労災による休業に対する補償として給付されるものに、「休業補償給付※」があります。
※業務災害の場合は休業補償給付、通勤災害の場合は休業給付と呼び方が変わりますが、この記事では両方をまとめて休業補償給付と表現します。
休業(補償)給付は、次の3つの条件を満たした場合に支給されます。
【休業(補償)給付の3条件】
①業務上の事由、または通勤による傷病(労災)の療養中である
②労働することができない
③賃金を受けていない
この3つの条件をひとつでも満たしていない場合、休業補償給付はもらえません。
例えば、労災の療養中で働けない状態でも、会社から賃金をもらっている場合には、労災保険の休業補償給付は支給されません。また、労災による傷病が治癒し療養中でなくなった場合にも、休業補償給付の支給は打ち切りとなります(ただし、治癒後一定の後遺障害が残った場合には、障害補償給付の支給を受けられる可能性があります)。
労災の休業補償給付がもらえる期間
次に、労災保険の休業補償給付がもらえる期間について解説していきましょう。
休業補償給付がもらえる期間は、「休業4日目〜前述の3条件を満たしている間」です。
休業補償給付の支給には待機期間があります。休業した最初の3日間はこの待機期間にあたり、休業補償給付の補償対象にはなりません。
業務災害で休業した場合、この最初の3日間については、会社側が被災労働者に休業補償として「1日につき平均賃金の60%を支払うこと」が義務づけられています。
ただし、通勤災害や複数業務要因災害の場合には、この会社による休業補償は義務づけられていません。
また、休業補償給付の支給は、前章でご紹介した3つの条件を満たしている限り続きます。
しかし、療養を始めてから1年6ヶ月が経過しても傷病が治癒しておらず、その状態が規定の傷病等級に該当する場合には、給付金は傷病(補償)年金に切り替わります。
労災で会社を休む時に有給は使える?
労災で会社を休む場合には、有給休暇を使うこともできます。
労災保険の休業補償給付の金額は、「給付基礎日額の80%(休業補償給付+休業特別支給金)」です。一方の有給休暇では、100%の給与が出ます。
つまり、有給休暇を使って休職することで、被災労働者はより多くのお金をもらえることになります。
とはいえ、労災時でなくても有給休暇は使えるものです。別の機会に使うという人も多いでしょう。
労災による休業でどちらを利用するかは自由です。被災労働者自身が選択するようにしてください。
ただし、労災保険の休業補償給付と有給休暇による会社からの給与を両方受け取ることはできないのでご注意ください。
【ケース別に解説】労災の休業補償がもらえないかも?と思ったら
ここからは、「休業補償給付がもらえないかも?」と不安に思う人が多いケースを4つご紹介し、それぞれの問題を解決していきます。
ケース①労災の申請をしたのに、何の連絡もない。休業補償ももらえないかも?
請求書を労働基準監督署に提出し、労災の申請を行ったはずなのに、いつまで経っても連絡が来ず、休業補償をもらえないのではないかと不安に思うケースはよく見受けられます。
しかし、連絡がないからといって休業補償がもらえないということはありません。
労災申請を受け付けた後、労働基準監督署では労災と認定するかどうかの審査を行い、その結果を労働者に通知するのですが、この審査にはある程度時間がかかります。申請から休業補償の給付までにかかる時間は1ヶ月程度が目安ですが、案件によってはさらに長い時間がかかることもあり、一概には言えません。
どちらにしろ、労災申請後には、支給決定通知書または不支給決定通知書が労働者の元に届きます。そのため、労災が認められず休業補償が支給されないとしても、労働者に何の連絡もないということはありません。
ケース②労災の申請を会社がしてくれたらしいけど、何の連絡もない。休業補償をもらうために、自分も何か手続きが必要だった?
労災申請については、誰が手続きを行うべきなのか疑問に思う人も多いでしょう。
労災申請の手続きは、原則被災労働者本人(労働者が死亡している場合にはその遺族)が行うこととされています。しかし、実際には被災労働者に代わって会社が手続きをしてくれるケースが多いです。
前述の通り、労災申請後の審査にはある程度の時間がかかるため、会社が手続きをきちんとしてくれたのであればそのまま待つしかありません。不安な場合には、管轄の労働基準監督署に進捗について確認してみると良いでしょう。
万が一会社が手続きをしておらず、今後手続きを行うつもりもないという場合には、被災労働者自らが労災申請手続きを行う必要があります。厚生労働省ホームページから休業補償用の請求書をダウンロードし、必要事項を記入して、労働基準監督署の窓口に提出してください。
ケース③労災の申請をしたのに、まだ支給されない。労災のお金はいつ振り込まれる?
これも先ほどのケースと重複する部分がありますが、労災の休業補償についていつもらえるのか、いつ振り込まれるのか知っておきたいと思うのは当然ですよね。
しかし、休業補償がいつ振り込まれるのかは、明確に述べることはできません。振込自体は種類ごとに週1回程度行われているようですが、申請から振込までの目安は1ヶ月程度です。しかし中には3ヶ月以上かかるケースも存在します。
提出した書類に不備があれば、書類の差し戻しなどでさらに時間がかかるため、なるべく早く休業補償をもらうには、提出書類の確認を入念に行うことが大切です。
また審査の進捗状況が気になる場合には、管轄の労働基準監督署へ問い合わせてみてください。
ケース④労災の休業補償中に働いたら、休業補償はもらえなくなる?
最初の章でご紹介した、休業補償給付をもらうための3条件を思い出してみましょう。「①労災の療養中である」「②労働することができない」「③賃金を受けていない」の3つを全て満たしている場合に、休業補償はもらえます。
労災の休業補償を受け取っている期間に働いた場合、その労働に対し賃金が発生します。労働者は賃金を受け取ることになるため、「③賃金を受けていない」の条件は満たされず、労働した日は休業補償の対象にはなりません。
しかし、労災の療養のための通院日だけを休業補償の対象とすることは可能です。
例えば、週4日働き、1日は通院するという場合であれば、その1日の通院日に対し休業補償を支給することができるのです。ただし、この通院日についても、上記の3条件を満たす必要があります。
まとめ
労災の休業補償給付については、「もらえないのでは」と不安に思う方が多いです。休業補償は労災に遭って休業した方にとって生活の糧となるものですが、給付までにはある程度の時間がかかり、その進捗は労働者の目に見えないため、不安に思うのも仕方ありません。
ただし、何の連絡もなく休業補償の支給が行われないということはなく、休業補償がもらえる場合ももらえない場合も、必ず通知が届きます。通知・振込までは1ヶ月程度が目安ですが、1ヶ月を過ぎても何の連絡もない場合には、労働基準監督署へ問い合わせるのもひとつでしょう。
また、会社が労災を使わせてくれない、労働基準監督署の判断に不服があるなど、労災に関して問題や不安を抱えている方は、労災問題を手掛ける弁護士にご相談ください。法律の知識と経験を活かした対応により、速やかな問題解決をお手伝いさせていただきます。