労災で休業中の給料はどうなる?休業補償・労災給付について解説

働く人々が業務中や通勤中に負った傷病のことを、労災と呼びます。労災の傷病は労災保険の補償対象であり、病院の受診にかかった費用や薬の購入にかかった費用などは、この補償から支払われます。

とはいえ、傷病の程度がひどければ、ただ病院に通うだけでなく、仕事自体を休業せざるを得なくなることもあるでしょう。このような場合、会社からの給料の支払いはどうなるのでしょうか。また労災保険からはどのような補償が出るのでしょうか。

今回は、労災で休業した場合の給料と補償について詳しく解説します。

給料と労災給付は同時にもらえるのか?

結論から述べると、労災による休業にあたっては、基本的に給料と労災給付を両方受け取ることはできません。

その理由を見ていきましょう。

休業補償の要件は「賃金を受けていない」こと

労災保険は、従業員を一人でも雇用する全ての事業主に加入が義務付けられている制度です。加入にあたって雇用形態は関係なく、その保険料は全額事業主が支払います。

この制度により、労災で傷病を負った労働者は、その状態に合った内容の補償を受けることができます。

労災保険に用意されている補償は、次の8つです。

  • 療養(補償)給付
  • 休業(補償)給付
  • 傷病(補償)年金
  • 障害(補償)給付
  • 介護(補償)給付
  • 葬祭料(葬祭給付)
  • 遺族(補償)給付
  • 二次健康診断等給付

このうち、労災による休業に関わる補償が「休業補償給付」というもの。この給付は、労災による傷病で休業することになった労働者に対し支払われるものです。

ただし、この補償を受け取るには、次の3つの要件を満たす必要があります。

【休業(補償)給付の受給要件】
  1. 労災による傷病の療養中である
  2. 働くことができない
  3. 賃金を受けていない

上記要件を全て満たしていれば、休業4日目から補償を受けることができます。
しかし、休業中に会社から給料を受けている場合には、この「賃金を受けていない」という要件を満たすことができず、休業補償給付は支払われません。
よって、労災による休業にあたっては、給料と労災給付(休業補償給付)を両方受け取ることはできないのです。

一部労働の場合は両方受け取れることも

労災に遭った人の中には、傷病の療養のためフルタイム勤務が難しく、1日のうち数時間だけ働いているという方もいるでしょう。その場合、会社から数時間分の給料は支払われているはずです。

このように、一部労働により一部だけ給料を得ている場合でも、休業補償給付は支給されないのでしょうか。

実は、このような一部労働の日は、「賃金を一部受けない日」として、休業補償給付の対象になることがあります。対象になるのは、「会社から支払われた一部賃金が平均賃金の60%未満である場合」です。

また通常、給付額のベースとなるのは「給付基礎日額」ですが、一部労働の場合は「給付基礎日額から一部労働により得た給料を引いた額」をベースに支給額が算出されます。

一部労働した場合の給付額=(給付基礎日額会社から支払われた給料)×80%

※休業補償給付60%+休業特別支給金20%

このように、休業補償給付には給料と給付どちらも受け取れるケースがあることを押さえておきましょう。

会社から支払われる休業補償

労災で休業した時には、労災保険からだけでなく、会社からも休業補償が支払われるケースがあります。

休業3日目まで

労災保険の休業補償給付は、休業4日目からが支給対象であり、休業3日目までは補償がありません。この期間を待機期間と呼びます。

この待機期間の3日間については、会社に休業補償が義務付けられています。その額は1日につき「平均賃金の60%」。

しかし実際には民法第536条2項に示された「給与の全額支払い」などを理由に、60%ではなく全額を補償する会社も多いです。

労災事故の過失が会社と労働者どちらにあったかによっても対応は異なるため、支払率についてはケースバイケースだと言えるでしょう。

待機期間の休業補償については、「労災の待期期間中の休業補償について詳しく解説」で詳しく解説しています。

会社側の4割負担

前述の通り、労災による休業4日目からは労災保険の休業補償給付が支給されます。その額は、給付基礎日額の60%です。

ただし、この場合においても民法第536条2項の「給与の全額支払い」の観点から、労災保険の休業補償給付から支払われない給付基礎日額の40%分を会社側が負担すべきだという考えがあります。実際に、労災保険では賄われない給付基礎日額の40%を会社負担で被災労働者に支払っている会社は多いようです。

また、休業補償給付(給付基礎日額60%)の支給を受ける際には、同時に休業特別支給金(給付基礎日額の20%)が支給されるため、実際の支給額の合計は80%となります。

しかし、この休業特別支給金分を全額補償における会社負担分から差し引くことはできません。そのため、やはり会社は給付基礎日額の40%を負担することになります。

とはいえ、過去の判例では労災保険を利用せず会社の100%負担を求めるケースや従業員の過失が大きかったことから労災保険による60%負担のみで良いとするケースもあります。そのため、会社の負担率は一概には言えません。

通勤災害の場合

通勤中に遭った事故による怪我を通勤災害と呼びます。通勤災害は労災の一種であり、労災保険の補償対象になります。

しかし、この場合会社による補償義務はありません。

そのため、休業最初の3日間や4日目以降における4割の会社による補償は行われないのが一般的です。

休業した場合に支給される労災保険給付

ここからは、労災による休業時に受け取れる労災保険からの給付についてまとめていきます。

休業中に受け取れるのは療養補償給付と休業補償給付

労災で休業した場合に労災保険から支給されるのは、休業補償給付だけではありません。
被災労働者は、労災による傷病の療養費を補償する「療養補償給付」も同時に受け取ることができます。

【労災による休業時に受け取れる給付金】
療養補償給付
労災による傷病の療養にかかるサービス現物、もしくは費用を補償する給付金
(診察代や薬代、入院費、通院費など)
休業補償給付
労災による傷病の療養で働けず休業し、賃金を受けていない場合に、休業4日目から支給される給付金
支給額は給付基礎日額×80%(うち20%は特別支給金)

これらの給付金は、それぞれ請求手続きを行わなければなりません。用意する書類や請求手順には違いがあるので、不備や間違いのないよう気をつけましょう。

労災に関わるお金のことについては、「労災でもらえるお金を全て解説|労災保険の補償と損害賠償請求できるもの」でもご説明しています。

傷病補償年金・障害補償給付への切り替えも

労災による傷病で休業した場合、その傷病の状態によって、休業補償給付や療養補償給付から傷病補償年金、また障害補償給付へ給付の切り替えが行われる可能性があります。

傷病補償年金
労災による傷病の療養を開始してから1年6ヶ月経っても傷病が治癒(症状固定)しない時に、その傷病の程度が規定の傷病等級に該当する場合に支給される給付金。
療養補償給付は併給できるが、休業補償給付は併給不可。
障害補償給付
労災による傷病が治ゆ(症状固定)した時に、規定の障害等級に該当する障害が身体に残った場合に支給される給付金。
療養補償給付や休業補償給付との併給は不可。

傷病等級や障害等級については、厚生労働省のホームページでご確認ください。

まとめ

労災で休業した時の給料や補償の取り扱いは、労働者の生活に関わる重要なことです。ご紹介したように、基本的に休業補償給付と会社からの給料を同時にもらうことはできません。
いざという時に慌てることのないよう、労災時には「どんな補償を受け取れるのか」「会社からの補償はどうなるのか」など、基本的なお金の流れについては事前に把握しておくようにしましょう。

また、労災に関するトラブルに巻き込まれたり会社に対し損害賠償請求を検討したりしている際には、一度弁護士にご相談ください。

弁護士から法律に基づいたアドバイスやサポートを受けることで、労災問題の早期解決やより有利な損害賠償請求を目指すことができます。