労災の休業補償に必要な書類とは?書き方・提出先について解説

労災保険には、休業による減収を補償する「休業(補償)給付」、いわゆる休業補償が整備されています。労災による傷病で休業を余儀なくされた労働者は、この補償を受けることができます。

ただし、そのためには必要書類を用意し、然るべき先に提出しなければなりません。

そこで今回は、労災の休業補償申請に必要な書類とその書き方や提出先について詳しく解説します。

休業補償とは

労災保険の休業補償とは、労災による休業に対して支給される給付金です。
正式には、この給付金は、業務災害の場合は「休業補償給付」、通勤災害の場合は「休業給付」と呼ばれます。

被災労働者が休業補償を受けるためには、次の3つの要件を満たす必要があります。

①労災による傷病の療養中であること
②働ける状態にないこと
③賃金を受けていないこと

上記の全てを満たしている場合、休業4日目からが休業補償の給付対象となります(業務災害の場合、休業3日目までは事業主に補償責任が生じます)。

休業補償については、「労災の休業補償とは?」でも詳しくご紹介しています。

労働者災害補償保険法改正による変更点

令和2年9月に、労働者災害補償保険法の改正法が施行されました。この改正では、休業補償の給付額や労災認定の評価の基準が変わります。
具体的な変更点は、以下の2点です。

【労災で休業した場合、障害が残った場合、亡くなった場合などの給付額】
 これまで・・・労災事故が起こった勤務先の賃金額だけをもとに給付額を決定
 令和2年9月以降・・・すべての勤務先の賃金額を合算した額をもとに給付額を決定

【労災認定における勤務先の負荷(労働時間やストレスなど)の評価】
 これまで・・・勤務先ごとに負荷を個別評価して労災認定の可否を判断
 令和2年9月以降・・・勤務先ごとに負荷を個別評価して労災認定できない場合には、すべての勤務先の負荷を総合的に評価して労災認定の可否を判断

今後、複数の事業所で働く方が休業補償などの補償を受ける際には、この変更点が影響するのでご注意ください。

休業補償の申請に必要な書類

労災保険では、補償の種類によって申請時に提出する書類が異なります。
休業補償の申請では、次の書類が必要になります。

【業務災害の場合】
休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書(様式第8号)
【通勤災害の場合】
休業給付支給請求書(様式第16号6)

上記の請求書は、厚生労働省のWebサイトから入手可能です。

また、次の場合においては追加の添付書類も必要になります。

同じ事由で障害厚生年金や障害基礎年金などを受け取っている場合・・・年金の支給額を証明できる書類
「賃金を受けなかった日」に、傷病の療養のために一部休業した日が含まれる場合・・・様式第8号、または第16号の6の別紙2
複数事業労働者の場合・・・様式第8号、または第16号で記入した以外の事業場に関する別紙1〜3

これらの書類は、まとめて労働基準監督署(長)へ提出します。
書類提出による補償申請のタイミングは自由ですが、長期に渡る休業補償については、1ヶ月ごとに手続きを行うのが一般的です。

申請書類の提出先と提出期限

休業補償の申請書類は、労働者自身が所属する事業所を管轄する労働基準監督署(長)へ提出します。
書類作成から提出までの手続きは原則労働者本人が行うことになっていますが、実際には会社が代理ですべての手続きを行ってくれることも多いです。自身で手続きを行う場合には、提出先を間違えないよう気をつけてください。

また、申請書類の提出期限としては、「時効」を意識しておく必要があります。
労災申請には、補償の種類ごとに時効が設定されていて、休業補償の場合の時効は2年。起算日は「賃金を受けない日の翌日」で、請求権は「賃金を受けない日ごと」に発生します。

時効を過ぎると請求書は消失し、労災保険の補償を受けることはできなくなってしまいます。
申請のタイミング自体は自由ですが、時効を過ぎてしまわないよう気をつけましょう。

休業補償給付支給請求書(様式第8号)の書き方

ここからは、休業補償給付支給請求書(様式第8号)の書き方を見ていきましょう。

表面の書き方

請求書の表面では、以下の項目を記入します。

②労働保険番号
労災保険加入時に事業所ごとに割り当てられる14桁の番号
⑤労働者の性別
被災労働者本人の性別(男性は1、女性は3と記入)
⑥労働者の生年月日
被災労働者本人の生年月日
⑦負傷又は発病年月日
怪我また発病した年月日
精神疾患や脳・心臓疾患など具体的な発病年月日の特定が難しい場合は、初診日を記載しておく
⑫労働者の氏名、住所
被災労働者本人の氏名、郵便番号、住所
姓と名の間は1マス空けて記入する
⑲療養のため労働できなかった期間
休業期間の初日と末日を記入する
この初日の記入には3日間の待機期間を含めて記入する
末日には見込みではなく、実際に休んだ日を記入する
⑳賃金を受けなかった日の日数
労災による傷病の療養で休業した日の中で、賃金を受けなかった日数を記入する
有給休暇を使った場合、その分はこの日数に含めない
振込を希望する金融機関の名称、口座名義人
㉓預金の種類
㉔口座番号
㉕メイギニン(カタカナ)
給付金を受け取る口座情報
基本的に被災労働者本人名義の口座を記入する
事業の名称、事業場の所在地、事業主の氏名
事業主が記入する証明欄(※本人は記入しない)
労働者の所属事業場の名称、所在地
事業主証明欄の事業場と被災労働者が所属する事業場が異なる場合のみ記入する
死傷病報告提出年月日
労働基準監督署に死傷病報告を提出した年月日
診療担当者の証明(㉘〜㉛)
受診した医療機関の医師による証明欄(※本人は記入しない
請求人の住所、氏名
被災労働者本人の郵便番号、住所、電話番号、氏名
また管轄の労働基準監督署名と書類の提出日

裏面の書き方

請求書の表面では、以下の項目を記入します。

㉜労働者の職種
被災労働者本人の職種
㉝負傷又は発病の時刻
怪我また発病した時刻(午前・午後)
精神疾患や脳・心臓疾患など具体的な発病時刻の特定が難しい場合は記入しなくていい
㉞平均賃金
平均賃金の金額(別紙1を用いて計算する)
㉟所定労働時間
被災労働者本人の、傷病を負った日の所定労働時間
㊲災害の原因、発生状況及び発生当日の就労・療養状況
労災が発生した原因やその時の状況をできるだけ詳しく記入する
㊳厚生年金保険等の受給関係
同一の事由で障害年金等を受けている場合のみ記入する
㊴その他就業先の有無
労災に遭った事業場以外に就業先がある場合のみ記入する

記入箇所は以上で、その他の項目については記入する必要はありません。

また、様式8号については、「労災の様式8号は、どんな時に必要?提出先、休業補償期間の書き方を解説」でも詳しく解説しています。

休業給付支給請求書(様式第16号の6)の書き方

休業給付支給請求書(様式第16号の6)表面の書き方は、先ほどご紹介した休業補償給付支給請求書(様式第8号)とほぼ同じです。

ただし、裏面の項目には違いがあります。
ここでは、様式第16号の6の裏面の書き方を見ていきましょう。

㉜労働者の職種
被災労働者本人の職種
㉝負傷又は発病の年月日及び時刻
怪我をした時刻(午前・午後)
㉞平均賃金
平均賃金の金額(別紙1を用いて計算する)
㉟災害時の通勤の種別
イ〜ホの選択肢から、当てはまるものを選択し記入する
㊱災害発生の場所
労災が発生した場所の住所
㊲就業の場所
就業先の住所、会社名
㊳就業開始の予定年月日及び時刻
就業開始の予定時刻
㉟でイ、ハ、ニのどれかを選択した場合に記入する
㊴住居を離れた年月日及び時刻
通勤のため、住居をでた時刻
㉟でイ、ハ、ニのどれかを選択した場合に記入する
㊵就業終了の年月日及び時刻
終業時刻
㉟でロ、ハ、ホのどれかを選択した場合に記入する
㊶就業場所を離れた年月日及び時刻
終業後、就業場所を出た時刻
㉟でロ、ハのどれかを選択した場合に記入する
㊷災害時に通勤の種別に関する移動の通常の
経路、方法及び所要時間並びに災害発生の日に住居又は就業の場所から災害発生の場所に至った経路、方法、所要時間その他の状況

通勤経路や労災が発生した場所、所要時間など
地図などを用い、状況がひと目でわかるように記入する㊸災害の原因及び発生状況労災が発生した原因やその時の状況をできるだけ詳しく記入する㊹現認者の住所、氏名労災発生時に現場にいた人、または上司などの住所や氏名、電話番号㊺第三者行為災害第三者行為災害の有無㊻健康保険日雇特例被保険者手帳の記号及び番号健康保険の日雇特例被保険者に該当する場合に記入㊼転任の事実の有無転任の有無
㉟でニ、ホのどちらかを選択した場合に記入する㊽転任直前の住居に係る住所転任前の自宅住所
㉟でニ、ホのどちらかを選択した場合に記入する㊿厚生年金保険等の受給関係同一の事由で障害年金等を受けている場合のみ記入するその他就業先の有無労災に遭った事業場以外に就業先がある場合のみ記入する

記入箇所は以上で、その他の項目については記入する必要はありません。

まとめ

申請手続きをしてから実際に労災保険の給付金が振り込まれるまでには、ある程度の期間が必要です。この期間をなるべく短くし、スムーズに給付金を受けるためには、提出書類の不備をなくすことが大切です。
補償申請の書類には複雑な部分もありますが、内容に間違いや抜けのないよう、よく確認しながら作成するようにしてください。

また、「会社が労災を認めない」「会社に損害賠請求を検討している」など、労災に関する問題を抱えている方は、一度弁護士にご相談ください。法律の知識と経験を持つ弁護士の手を借りることで、より有利で円滑な解決を目指せます。