雇用され働く人々が負った労災は、労災保険によって補償されます。ただし補償を受けるには、労働者側が然るべき手続きを行わなくてはなりません。
この手続きで使用されるのが、様式8号という請求書類です。労災保険の休業補償給付を受け取る時には、労働者は様式8号を作成し、労働基準監督署へ提出する必要があります。
今回は、この様式8号の使い方や記入時の注意点について、詳しく解説します。
労災の様式8号は、どんな時に必要?
労災被害に遭って、労災保険の給付金を受け取るには、労働者側の手続きが必要です。請求する給付金用の請求書を作成し、職場を管轄する労働基準監督署に提出するというのが、手続きの流れです。
請求書は、給付金の種類によって仕様に違いがあります。また、業務災害(※)の傷病か、通勤災害(※)の傷病かによっても、使う請求書の様式は異なります。
※業務災害・・・業務が原因の傷病のこと
※通勤災害・・・通勤中に負った傷病のこと
使用する書類を間違うと、給付金の請求を進めることはできません。よって、請求時には「どの請求書・どの様式を使うべきか」よく確認する必要があります。
今回ご紹介する請求書の様式8号は、次のようなものを指します。
業務災害による傷病で4日以上休業し、労災保険の休業補償給付を請求する際に使用する請求用紙。
正式には、「休業補償給付支給請求書(様式第8号)」という。
労災保険の休業補償給付を請求する時に使用する用紙が、様式8号です。
休業補償給付は、労災による傷病が原因で休業を余儀なくされた労働者に対する給付金です。受給のための条件は、「①労災による傷病を負っていること」「②働ける状態にないこと」「③賃金を受けていないこと」の3つです。
この条件を満たせば、休業補償は休業4日目から支給されます(休業3日目までは待機期間)。
様式16号の6との違い
様式8号については、誤って様式16号の6を使用してしまう例も見受けられます。様式8号と様式16号の6は似ていますが、使うべきケースは異なります。
その違いについて確認しておきましょう。
通勤災害による傷病で4日以上休業し、労災保険の休業給付を請求する際に使用する請求用紙。
正式には、「休業給付支給請求書(様式第16号の6)」という。
様式16号の6は、様式8号と同じように、労災による休業に対する給付金請求に使う書類です。
しかし、様式8号では業務災害の休業が対象であるのに対し、様式16号の6では通勤災害の休業が対象となります。
また、労災による休業に対する給付金は、業務災害では「休業補償給付」、通勤災害では「休業給付」と、名前が異なります。これに倣って、様式8号は「休業補償給付支給請求書」.様式16号の6は「休業給付支給請求書」と呼ばれています。
労災の様式8号の提出先
労災の様式8号の提出先は、被災労働者の勤務先を管轄する労働基準監督署です。
会社が代理で手続きするケースでは会社が書類提出も担いますが、労働者自身が手続きを行う場合には自ら労働基準監督署の窓口へ行き、書類を提出してください。
書類を受け付けた労働基準監督署は、その労災事案の調査を行い、労災の認定・非認定を判断します。この時、労災が認定されれば、被災労働者は労災保険の休業補償給付を受け取れます。
提出期限(時効)に注意!
労災申請には、時効があります。この時効は、実質請求書類の提出期限にあたります。
様式第8号で手続きする休業補償給付の場合、時効は次のように定められています。
賃金を受けない日の翌日から2年
※ 賃金を受けない日ごとに請求権が発生
つまり、休業補償給付を請求するための様式第8号の提出は、請求権が発生した日の翌日から2年以内に行わなくてはならないのです。
時効になると請求は行えず、補償を受けることはできなくなります。手続きはなるべく早めに、期限に余裕を持って進めましょう。
労災の様式8号は、いつ提出する?
休業補償請求に必要な様式8号は、どのタイミングで作成・提出すれば良いのでしょうか?
まず知っておきたいのが、休業補償給付は、実際に休んだ日数で請求するということです。休業予定の見込み日数では、請求手続きは行えないので注意しましょう。
実際に休んだ日以降に請求するのであれば、そのタイミングはいつでも構いません。
休業した期間が短い場合であれば、休業期間が終わってから手続きしても良いですし、休業期間が長い場合であれば期間を区切って手続きを行っても良いでしょう。
ただし、休業が長期になる時の請求では、1ヶ月ごとに請求手続きを行うのが一般的です。
労災の様式8号の書き方・記入例
様式8号の書類作成にあたっては、労働者本人は次の項目を記入します。
・労働保険番号
・性別・生年月日
・負傷又は発病年月日
・氏名・住所
・療養のため労働できなかった期間
・賃金を受けなかった日の日数
・振込を希望する口座情報
・事業の名称・事業場の所在地・事業主の氏名
・所属事業場の名称・所在地
・死傷病報告提出年月日
・診療担当者の証明(※医師に記入してもらう)
・請求人の住所・氏名
・職種
・負傷又は発病時刻
・平均賃金
・所定労働時間
・災害の原因、発生状況及び発生当日の就労・療養状況
・厚生年金保険等の受給関係
・その他就業先の有無
・平均賃金算定内訳(別紙1)
このように、様式8号は記入箇所がかなり多いです。また、別紙1では平均賃金に関する計算もしなくてはなりません。
記入内容を間違えないよう、よく確認しながら書類を作成するようにしましょう。
様式8号は、「厚生労働省 労災保険給付関係請求書等ダウンロード」からダウンロードすることが可能です。
具体的な様式8号の記入方法・記入例については、『厚生労働省『休業(補償)等給付の請求手続』をご参照ください。
「療養のため労働できなかった期間」とは
様式8号には、「療養のため労働できなかった期間」を記入する欄が存在します。
ここで注意したいのが、この期間には待機期間を含めるという点です。
前述の通り、休業補償給付の最初の3日間は待機期間にあたります。この待機期間は、給付の対象にはなりません。
しかし、様式8号「療養のため労働できなかった期間」の欄には、待機期間の3日間を含む期間を記入する必要があります。誤って待機期間を除いた期間を記入しないよう気をつけましょう。
「賃金を受けなかった日の日数」とは
次に気をつけたいのが、「賃金を受けなかった日の日数」という項目です。この項目には、「①労災による傷病を負っている」「②働ける状態にない」「③賃金を受けていない」という3条件を満たした休業日数を書きます。
ここでは、待機期間の3日間、および公休日・所定休日も含む日数を書いてください。
ただし、有給休暇を取った日は、この日数に含めません。有給休暇は賃金が出るため、「賃金を受けていない」という条件に反するためです。
また、この日数には一部休業した日も含みます。一部休業とは、1日のうちの一部だけ働いてその分の賃金を受け、一部は休業した日のこと。「午前中は病院に行って、午後から働いた」「体を慣らすため3時間だけ勤務した」等が一部休業にあたります。
ただし一部休業が含まれる場合には、様式8号の別紙2の書類も作成しなければなりません。
この書類には、一部休業の日と受けた賃金の額を記入し、様式8号と一緒に提出します。
まとめ
様式8号は、業務災害で休業を余儀なくされた場合に使用する書類です。この書類を作成し、労働基準監督署に提出して労災が認定されれば、労災の被害に遭った労働者は休業補償給付を受け取れます。
ただし、様式8号は記入しなければならない項目が多く、中には計算が必要な項目もあります。記入内容に間違いがあって書類が差し戻しになれば、給付金の支給が遅くなってしまうことも考えられます。
スムーズな給付金支給のためにも、様式8号の書類作成は、厚生労働省のホームページを参考にしながら、慎重に行うようにしましょう。
また、労災に関しては、会社との間にトラブルが発生することも少なくありません。中には労災隠しに遭ったり、損害賠償請求を検討したりしている方もいるでしょう。
そのような場合には、一度弁護士にご相談ください。弁護士は法律の専門家として、会社に然るべき対応を求めます。
速やかなトラブル解決のためにも、弁護士の手を借りることを検討しましょう。