労災に健康保険を使った場合の手続き方法について

業務中や通勤中に負ったケガ(労災)は、労災保険による補償の対象です。
しかし、労災にもかかわらず、ケガの治療や薬の受け取り時に健康保険を使ってしまうケースが後を立ちません。

なぜ、労災の治療に健康保険は使えないのでしょうか。また誤って健康保険を使った場合、どのように対応すれば良いのでしょうか。

今回は、労災と健康保険についてご説明します。

なぜ労災に健康保険を使ってはいけないのか?

労災による傷病の治療には、健康保険は使えません。その理由について見ていきましょう。

健康保険とは

健康保険は、ケガや病気の治療や休業、出産、死亡などに際して保険給付を行う公的保険制度のひとつです。会社勤めの人とその家族が加入する「健康保険」とそれ以外の人が加入する「国民健康保険」という大きく2種に分けられます。
日本では国民の公的保険への加入が義務付けられていることから(国民皆保険)、全ての人は何らかの健康保険に加入していることになります。

医療機関において(国民)健康保険を使った場合の自己負担額は原則3割です。出産にあたっての一時金や手当金(健康保険のみ)も給付されます。

(国民)健康保険のこのような仕組みは、加入者が毎月保険料を支払うことによって運用されています。

健康保険の目的

健康保険の目的は、健康保険法で以下のように定められています。

「この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。」
(健康保険法第1条)

「支給は、同一の疾病、負傷又は死亡について、労働者災害補償保険法(省略)に基づく条例の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない。」
(健康保険法第55条)

健康保険は業務災害、つまり労災以外の傷病や死亡、出産に対して保険給付を行う制度なのです。労災の治療に健康保険を使用することは、この条文から外れ、法律違反にあたります。
また、第55条からもわかるように、労災保険と二重の給付も行わないとされています。

労災保険の目的

次に、労災保険の目的についても確認してみましょう。
労働者災害補償保険法では、労災保険の目的を以下のように定義しています。

「労働者災害補償保険は、業務上の事由、(省略)又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、(省略)社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。」
(労働者災害補償保険法第1条)

労災保険の目的は、「業務上の事由、または通勤による傷病や死亡」を対象とすると、定められています。そのため、業務や通勤以外の傷病の治療に労災保険を使うことはできません。

それぞれの目的条文からわかるように、健康保険と労災保険は補償対象が異なります。両方の保険に加入することで、労働者は普段の傷病にも、労災による傷病にも備えることができます。

労災にも関わらず、健康保険を使った場合の手続き

労災のケガや病気の治療時に、健康保険を使ってしまった場合には、その後労災保険への切り替え手続きを行わなければなりません。
ここからは、健康保険から労災保険への切り替え手続きをご紹介します。

手順①医療機関への問い合わせ

健康保険から労災保険への切り替えにあたって、まずは健康保険を利用した医療機関や薬局に問い合わせを行ってください。自分の傷病が労災によるものであったことを伝え、そのままその医療機関で労災保険への切り替えが可能か確認します。

接骨院や整骨院も受診している場合には、やや手続きが複雑になるため、管轄の労働基準監督署に一度相談するようにしましょう。

【切り替えできた場合の手順②】一部負担金の返還と請求書提出

医療機関で労災保険への切り替えができる場合には、「療養補償給付たる療養の給付請求書」 (業務災害の場合)または「療養給付たる療養の給付請求書」(通勤災害の場合)を作成し、事業主の証明をもらった上で、受診した医療機関に提出します。

健康保険利用時に負担した一時負担金は返還されることになります。この返還手続きは医療機関によって異なるため、医療機関に確認しておいてください。

医療機関で労災保険への切り替えができた場合の手続きは、以上で完了です。

【切り替えできなかった場合の手順②】健康保険組合への申告

医療機関で労災保険への切り替えができなかった場合には、健康保険組合とのやり取りが必要になります。
加入している健康保険組合に連絡し、労災の治療に健康保険を使った旨を申告してください。健康保険組合が、健康保険組合で負担した治療費の返納手続きに対応し、その後の手続きについても説明してくれます。

【切り替えできなかった場合の手順③】費用の返納

健康保険組合の指示に従って、治療費の返納を行います。健康保険が負担した治療費7割分の納付書が送られてくるので、それを一旦支払ってください。
健康保険組合からのレセプト(診療明細)と領収書は必ず受け取るようにしましょう。

※一時的な治療費の全額負担が難しい場合は、一度労働基準監督署にご相談ください。

【切り替えできなかった場合の手順④】労働基準監督署への請求

返納が完了したら、労働基準監督署への請求手続きに入ります。以下の書類を用意し、事業所を管轄する労働基準監督署に提出してください。労災保険より立て替えた費用が振り込まれれば、完了です。

・「療養補償給付たる療養の給付請求書」 (業務災害の場合)
・「療養給付たる療養の給付請求書」(通勤災害の場合)
・健康保険で受診した時の領収書(原本)
・切り替え時に健康保険組合に返納した時の領収書(原本)
・健康保険組合からのレセプト(未開封で)

労災にしたくないから健康保険を使うのはダメなのか?

労災にあった方の中には、「労災にしたくない」と、意図的に健康保険を使う人もいます。その原因としては、以下のような心理が働くためだと考えられます。

「労災を使ったら会社に迷惑がかかるのでは・・・」
「自分の不注意によるケガなので労災を使いにくい」
「会社が労災を使うことを認めてくれない」
「労災を使ったら会社から睨まれるのでは・・・」

このような心理はわからなくはないですが、労災保険は労災時に利用するものです。そのために事業主は毎月の保険料を払っています。
労災時に利用しないのでは、何のために労災保険に加入しているのかわかりません。

また、前述の通り、労災の治療には健康保険ではなく労災保険を使うことが法律で定められています。労災の治療に健康保険を使うのは、法律違反です。
会社が従業員の労災利用を認めないことについても、労災隠しという犯罪にあたる可能性があります。

労災を使いたくないからと健康保険を使うのは×。法律に反しないためにも、労災には労災保険を使用しましょう。

まとめ

日本では、労災の治療は労災保険、それ以外の治療は健康保険を使用するのが基本です。間違って労災の治療に健康保険を使用してしまった場合には、必ず切り替え手続きを行うようにしてください。

また、事業主が労災の使用を認めなかったり、労災を使用したことで不当な扱いを受けたりと、労災に関するトラブルに遭っている場合には、弁護士にご相談ください。労災保険を使用することは労働者の当然の権利であり、脅かされるようなことがあってはなりません。弁護士が間に入って然るべき手続きやサポートを行えば、労災トラブルは解決しやすくなるでしょう。