業務に起因した怪我や病気は、労災として、労災保険による補償がなされます。そして、労災保険による補償の中には、労災により休業している労働者を支える「休業補償」というものが存在します。
一方、健康保険にも、怪我や病気による休業中に給付される「傷病手当金」があります。
では、労災保険による休業補償と健康保険による傷病手当金の違いは何なのでしょうか。また、これらをどちらも受け取ることは可能なのでしょうか。
今回は、労災保険の休業補償と健康保険の傷病手当金について詳しくご説明しましょう。
何が違う?労災の休業補償と健康保険の傷病手当金
まずは、労災保険の休業補償と健康保険の傷病手当金、さらに混同しやすい雇用保険の傷病手当の詳細やそれぞれの違いについてご紹介します。
労災保険の休業補償とは
- 労災保険とは
- 業務中の事故や通勤中の事故など、業務を起因として起こった怪我や病気のことを労災(労働災害)といい、労災に備える労働者への補償制度のことを労災保険(労働者災害補償保険)という。保険料は労働者を雇用している事業主が支払う。
労災保険は、労災に備えるための保険です。労災が起こった時には、怪我や病気を被った労働者に対し、労災保険から療養費などが給付されます。
この労災保険への加入は、労働者を雇用している事業主に対し、労働基準法によって義務づけられています。
- 労災保険の休業補償
- 労災による怪我や病気で休業した労働者に対し支払われる、労災保険からの給付金。
業務中に発生した労災の場合は「休業補償給付」、通勤中に発生した労災の場合は「休業給付」と呼ばれる。
また、労災保険の休業補償を受け取るためには、以下の3条件を満たすことが条件となります。
休業補償を受け取るための条件
- 仕事に従事できない状態であること
- その原因が労災による怪我や病気の療養による休業であること
- 会社から賃金を受け取っていないこと
条件を満たし手続きを行えば、休業して4日目から休業補償給付が行われます。それまでの3日間は待機期間となりますが、この期間は会社からの補償が行われるのが通常です。
健康保険の傷病手当金とは
- 健康保険とは
- 日常的な怪我や病気の治療に備えるための公的保険制度。保険料は被保険者本人と事業主が負担しあっており、サラリーマンやその扶養家族が加入対象となる。個人事業主の場合は「健康保険」ではなく、「国民健康保険」への加入となる。
日本では、国民皆保険を原則とし、年齢や職業に関わらず誰もが保険に加入しています。その中でも、サラリーマンとその扶養家族が加入しているのが「健康保険」です。
- 健康保険の傷病手当金
- 健康保険の加入者が、怪我や病気で休業しなければならなくなった場合に、健康保険から支給される手当金。
また、健康保険の傷病手当を受け取るためには、以下の4条件を満たすことが条件となります。
傷病手当金を受け取るための条件
- 業務外の事由による怪我や病気の療養による休業であること
- 仕事に従事できない状態であること
- 会社から賃金を受け取っていないこと
- 連続する3日間を含む4日以上仕事に就けなかったこと
健康保険の傷病手当金は、業務外の事由によることが条件です。業務を事由とする怪我や病気の休業は、労災保険の休業補償対象となるためです。
ただし、労災保険の休業補償と同じように、初めの3日間は待機期間になります。
また、「国民健康保険」には、傷病手当金の制度はありません。
雇用保険の傷病手当とは
- 雇用保険とは
- 労働者が失業した場合に失業給付などを行う公的制度。「勤務開始時から最低31日間以上働く見込みがある」「1週間あたり20時間以上働いていること」「学生ではないこと(例外有り)」という3条件を満たす労働者の加入が、事業主に義務付けられている。保険料は事業主負担。
雇用保険は、労働者が失業した場合に備える保険制度です。雇用保険に加入しており、一定条件を満たせば、失業後に失業給付を受け取ることができます。
- 雇用保険の傷病手当
- 失業給付の受給資格者が、怪我や病気によって求職活動が行えない時に、雇用保険から支給される手当金のこと。公共職業安定所に求職の申し込みをした後に、15日間以上続けて病気や怪我により職業に就くことができない場合に受け取れる。
14日以内に怪我や病気が回復した場合には、通常の失業給付が行われます。
つまり、休業時の補償利用は、怪我・病気の事由や自身の現状によって、以下のように分けられるのです。
- 労災での怪我や病気による休業の場合は「労災保険の休業補償」
- 労災以外の事由での怪我や病気による休業の場合は「健康保険の傷病手当金」
- 失業時に怪我や病気により求職活動ができない場合には「雇用保険の失業手当」
これが、休業補償や傷病手当金の違いです。
休業補償と傷病手当金は、どっちももらえる?
結論から言うと、労災保険の休業補償と健康保険の傷病手当金のどちらもを受け取ることはできません。
労災保険の休業補償は労災による怪我や病気の場合、健康保険の傷病手当金は労災以外での怪我や病気の場合であり、補償対象が異なるためです。
また、業務外の事由による怪我や病気で休業した時に、他の事由によって労災保険の休業補償を受け取っていた場合にも、健康保険による傷病手当金は給付されません。(ただし、休業補償と傷病手当金の日額に差額がある場合は差額分を受け取れます。)
同じ事由ではもちろん、異なる事由であっても、休業補償と傷病手当金のどちらもを受け取ることはできないのです。
労災なのに、傷病手当金をもらってしまったら
休業の事由が労災によるものである場合、労災保険からの給付金を受け取ることが適切です。
しかし、もし労災による怪我や病気での休業であるにも関わらず健康保険の傷病手当金を受け取っていた場合には、「労災への切り替え」をすることになります。労働基準監督署へ、労災申請の手続きを行いましょう。
これにより労災が認められれば、労災保険からの休業補償が給付されるため、既に受け取った健康保険による傷病手当金は返還しなければなりません。
ただし、労災認定には一定の時間を要します。そのため、労災申請中に健康保険による傷病手当金を受け取っておき、労災が認められ休業補償が給付されれば、健康保険に傷病手当金を返還することは、多くの場合認められています。
労災が認定されなかったら、傷病手当金はもらえる?
前述の通り、健康保険の傷病手当金は「業務外の事由による怪我や病気の療養による休業」に対し支払われる給付金です。そのため、労災認定されなかった怪我や病気による休業は「業務外の事由」にあたり、健康保険による傷病手当金給付の対象となります。
怪我や病気で休業した場合には、条件さえ満たせば、必ず休業補償もしくは傷病手当金のどちらかを受け取ることはできるので、安心してください。
ただし、前章でも触れたように、労災認定までは時間がかかることが多いため、生活を保つためにまず傷病手当金を受け取っておくのもひとつです。その場合、労災認定の可否および休業補償の有無に応じて、後から受け取った手当金を返還することになります。
まとめ
労災保険の休業補償と健康保険の傷病手当金についてご紹介しました。
休業補償と傷病手当金は、働けなくなった労働者の生活を支えるものです。ケガや病気により休業を余儀なくされた場合には、適した手続きを踏み、状況に合った給付金の申請を行うようにしてください。
もし手続きに関する不安や疑問が会社の担当者に相談しても解決しなかった場合には、弁護士への相談も視野に入れましょう。法律の専門家の手を借りれば適切な手続きがスムーズに進み、安心して療養に専念できるはずです。