労災で慰謝料請求はできるか?(不法行為責任に基づく損害賠償請求について)

仕事中に怪我や病気にあった場合(労働災害)には、労災保険から法で定められた給付金(労災補償金)が支給されます。
給付金の内容は、療養補償給付、休業補償給付、そのほかの保険給付(障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金、介護保障給付など)があり、これらの保険給付については、それぞれ労働基準監督署に請求書などを提出することにより申請します。

しかし、この労災補償金は必要最低限度の金額であるため損害の全額補填にはなりません。

したがって、被災労働者は、労災保険の申請とは別に、会社に対して損害賠償を請求することになります。
損害賠償請求は、安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任と、不法行為責任に基づく慰謝料請求の2つが考えられ、事案に応じてどちらの法的構成で請求していくかを検討することになります。
安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任は既に述べたところですので、今回は不法行為責任に基づく慰謝料請求について詳しく見ていきましょう。

そもそも慰謝料とは、生命・身体・自由・名誉・貞操などが不法に侵害された場合の、精神的損害に対する損害賠償金を言い、民法は,不法行為について精神的損害の賠償請求を認めています(710条)。
賠償額は,財産的な損害ではないから算定不可能であるため,両当事者の地位,加害行為の悪性などを総合的に考慮して,裁判官が決定します。

損害賠償請求を検討する際、債務不履行責任か、不法行為責任かどちらの法的構成を採用するかが問題となります。
民法の不法行為責任(民法709条、715条、717条など)の場合、3年という短い期間で消滅時効にかかります(民法724条)。
これに対し、債務不履行責任の場合、時効期間が10年と不法行為責任に比べてかなり長いため(民法167条)、債務不履行責任を求めるのが一般的でしょう。

では、不法行為責任に基づく法律構成を全く採らないかと言うと、そうではありません。

まず、労災が認められるケースはさまざまで、そもそも労災に関して、不法行為しか成立しないケースがあります。
このケースでは、不法行為責任に基づかなければ損害賠償請求ができないため、当然不法行為責任に基づくことになります。

 

労災が認められるケース

➀不法行為責任のみ認められる

使用者責任(民法715条)が認められる場合が挙げられます。作業中、同僚がミスしたせいで自分が怪我した場合などです。

例えば、重いものを同僚と二人で運んでいる際、同僚がうっかり手を滑らせてしまい、重い荷物が自分の足にあたり怪我をしたというような場合です。
この場合、会社としては同僚が手を滑らせたことについてまで責任を負わないため、安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任は生じません(会社が作業手順の教育、環境整備を怠ったようなケースは除きます)。

しかし、使用者は従業員を雇っている以上、過失がなくても従業員が与えた損害ついて使用者責任を負うことになります。

 

➁債務不履行責任のみ認められる

会社が従業員の健康安全配慮義務を怠った場合が挙げられます。
会社には、定期的に従業員の健康に配慮し、健康診断を受けさせる義務、場合によっては従業員本人からヒアリング等を行い、適切な環境で働いているかどうか、もし業務量が多すぎたり、周囲の人間関係が悪い場合には、業務量を軽減したり部署を変えるなどの配慮をする必要があります。したがって、これらの配慮を怠ることは債務不履行責任に該当すると言えます。

しかし、これを怠ったからと言って不法行為にまでなるケースは少ないでしょう。

 

➂不法行為責任と債務不履行責任両方認められる

相談に来られる方で、最も多いケースです。労働環境が悪いため、うつ病を発症したにも関わらず、会社がこの状態を放置したような場合、あるいは作業場所の環境を整備していなかったため、従業員が負傷した場合などです。
会社側は、従業員が病気あるいは怪我をするかもしれないことを認識しているため、故意または過失が認められるため不法行為責任を負いますし、従業員の病気や環境の悪さを放置することは安全配慮義務違反に当たり、債務不履行責任を負います。

遅延損害金の起算日から見て、不法行為責任に基づく請求が有利な場合があります。

遅延損害金とは、定められた期日までに金銭が支払われなかった場合、相手方に損害賠償としてもともとの請求されていた金銭に加えて支払わなければならない金額のことを言います。
遅延損害金の割合は、債務不履行責任、不法行為責任どちらも年5%と変わりません。しかし、起算日すなわち、いつから遅延損害金が発生するかという起算日が変わってくるため、最終的な金額に大きく影響を及ぼすため、慎重に検討する必要があります。

債務不履行に基づく場合、配達証明付内容証明郵便で「この書面到達の日から○日以内に支払うこと」というような催告をした場合は,その支払期限の翌日が起算日となります。そのような催告をしていない場合は, 一般的には「訴状送達の日の翌日」が遅延損害金の起算日になります。平たく言うと、請求する側から催告というアクションを起こした翌日から、遅延損害金が発生します。
これに対し、不法行為に基づく損害賠償請求の場合、当該不法行為の日(労災事故のあった日)が起算日となります。

したがって、遅延損害金の起算日という観点からみると、不法行為責任に基づく方が、多くの金額を得られることになるでしょう。

また、立証責任の負担の面からみて、どちらが労働者側にとって有利か検討されることもありますが、前述のとおり、不法行為責任を追及する場合は使用者責任などを主張し、他方債務不履行責任を追及する場合は安全配慮義務違反を主張するわけですので、主張する内容が違います。どちらが有利かは事案によって異なるので、一般的に議論することはあまり意味がないでしょう。

使用者に対して不法行為責任に基づく慰謝料請求ができる場合、得られる金額は労災申請のみで得られる金額に比べて大幅にアップすることが多いです。
それだけに会社側も争ってくることが予想され、訴訟になるケースも多いでしょう。
弁護士法人法律事務所テオリアでは、労災に遭われた際、会社側に対し損害賠償請求をも検討します。ご相談の段階で申請書の記載内容、今後の見通しや、請求できる見込みの金額について詳細にアドバイスすることもできます。ご相談は無料ですので、是非お気軽にご相談ください。