労災で損害賠償は請求できるか?(安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求について)

仕事中に怪我や病気にあった場合(労働災害)には、労災保険から法で定められた給付金(労災補償金)が支給されますが、この労災補償金は必要最低限度の金額であるため損害の全額補填にはなりません。
したがって、労災申請の手続きにより、慰謝料は請求できないことになります。
しかし、被災労働者は、労災とは別に、会社に対して損害賠償を請求することができます。

損害賠償金

仕事中の怪我や病気に対して会社に責任(安全配慮義務違反)がある場合には,会社は労働者の損害の全部を賠償金として支払う義務があります。
ですので、被災労働者は、全損害からすでに支給された労災補償金を差し引いた金額を損害賠償として請求できます。
損害賠償請求の内容は、休業中の賃金の4割相当分,入院や通院中の慰謝料,後遺症が残った場合の慰謝料や逸失利益などです。

労働災害について事業主に損害賠償を請求しようとする場合、民法の不法行為責任(民法709条、715条、717条など)を理由にすることもできるのですが、不法行為責任は3年という短い期間で消滅時効にかかってしまいます(民法724条)。
そこで、この場合、債務不履行責任を求めるのが一般的です。
債務不履行責任であれば、時効期間が10年と、不法行為責任に比べてかなり長いためです(民法167条)。

「安全配慮義務」の内容

労働災害について事業主に債務不履行責任に基づく損害賠償を求めることができるのは、使用者に安全配慮義務の違反がある場合です。
「安全配慮義務」とは,労働契約に伴い使用者が労働者に対して負う義務であり、労働者が生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるように配慮しなければならない義務を言い、 労働契約法第5条に規定があります。
生命,身体等の安全には心身の健康も含まれます。
そして、必要とされる配慮は一律に定まるものではなく労働者の職種・労務内容・労務提供場所等の具体的な状況に応じて必要な配慮をすることが求められます。

安全健康配慮義務

これまで安全配慮義務といわれてきた概念は、働き方の多様性や時代の変化に応じて、現在では安全健康配慮義務と解されています。
したがって、使用者は労働者に対し、消極的な健康管理を行うだけでは不十分で、積極的な健康の保持増進に努めなければなりません。
新たな疲労やストレス問題が注目されることに伴い快適な職場環境を形成すること過労死等の予防対策として健康診断に基づいた対策を講じること等が使用者に義務づけられるようになってきています。

最近の裁判例

◎安全配慮義務違反が認められた事例

●サニックス事件(広島地裁福山支判平30・2・22)

新人研修の「24キロ歩行」で膝関節等を負傷し、労災認定を受けた48歳男性が、会社に損害賠償を求めた。
研修の講師養成学校では、「地獄の訓練」と称していた。
裁判所は、訓練を中断せず病院受診を認めなかったとして安全配慮義務違反を認めた。

●アンシス・ジャパン事件(東京地判平27・3・27)

「二人体制」の部署でリーダーを務める従業員が、人間関係の悪化などから業務遂行は困難で、会社は職場環境を整える義務を怠ったとして損害賠償等を求めた。
東京地裁は、指揮監督権を有する部長が心身の健康を損なわないよう注意する義務を負うと判断し、配転や負担軽減が必要だったとし、安全配慮義務違反を認めた。

●ティー・エム・イーほか事件(東京高判平27・2・26)

うつ病自殺した派遣労働者の遺族が、派遣元・先らに損害賠償を求めた。
罹患を認識できなかったとして棄却されたため控訴した。
東京高裁は自殺に至るまでの重篤さは認識できないとしたが、「先」は健康面の不安を「元」に確認したうえで本人と面談しており、両社は体調不良を把握した以上、安全配慮義務の一環として、診断名や薬の把握など体調管理で配慮すべき義務を負うとした。

◎安全配慮義務違反が認められなかった事例

●七十七銀行(女川支店)事件(仙台高判平27・4・22)

震災の津波で亡くなった従業員の遺族が、会社に安全配慮義務に基づき損害賠償を求めたが棄却されたため控訴。
仙台高裁は、災害規程の避難場所に屋上を追加したことは、臨機応変に場所を選べる観点から合理性があり、津波到達予定時刻までの情報からは屋上を超える危険性は予見できず、避難場所を変更しなかったことも移動中被災する危険性があり義務違反はないとした。

●ヤマダ電機事件(前橋地裁高崎支判平28・5・1)

月100時間を超える残業等からうつ病を発症し自殺したとして労災認定され、遺族が安全配慮義務違反の損害賠償を求めた。
前橋地裁高崎支部は、直近の残業を月94時間と認定したうえで、医学的知見からは長時間労働と精神疾患発症の関連性は示されておらず、時間のみで強い負荷とはいえないと判断した。

このように、安全配慮義務違反の判断は事案ごとに異なり、微妙なケースもあります。
判断の指針として参考になるのが、労働安全衛生法に基づき発せられた、快適な職場環境の形成のための措置に関する指針です。
以下の指針に沿った措置を講じていない場合、安全配慮義務違反を問える余地があります。

快適職場指針のポイント

目標の設定及び講ずる措置の内容

1.作業環境

不快と感じることがないよう、空気の汚れ、臭気、温度、湿度等の作業環境を適切に維持管理すること。

空気環境:空気の汚れ、臭気、浮遊粉じん、タバコの煙
温熱条件:温度、湿度、感覚温度、冷暖房条件(外気温との差、仕事にあった温度、室内の温度差、気流の状態)
視環境:明るさ、採光方法、照明方法、(直接照明、間接照明、全体照明、局所照明)、グレア、ちらつき、色彩
音環境:騒音レベルの高い音、音色の不快な音
作業空間等:部屋の広さ、動き回る空間(通路等)、レイアウト、整理・整頓

2.作業方法

心身の負担を軽減するため、相当の筋力を必要とする作業等について、作業方法を改善すること。

不良姿勢作業:腰部、頚部に大きな負担がかかる等の不自然な姿勢
重筋作業:荷物の持ち運び等をいつも行う作業等、相当の筋力を要する作業
高温作業等:高温・多湿や騒音等にさらされる作業
緊張作業等:高い緊張状態の持続が要求される作業や一定の姿勢の持続が求められる作業
機械操作等:操作がしにくい機械設備等の操作

疲労回復支援施設

疲労やストレスを効果的に癒すことのできる休憩室等を設置・整備すること。

休憩室(リフレッシュルーム等):疲労やストレスを癒す施設
シャワー室等の洗身施設:多量の発汗や身体の汚れを洗う施設
相談室等:疲労やストレスについて相談できる施設
環境整備:運動施設、緑地等

職場生活支援施設

洗面所、トイレ等職場生活で必要となる施設等を清潔で使いやすい状態にしておくこと。

洗面所・更衣室等:洗面所、更衣室等就業に際し必要となる設備
食堂等:食事をすることのできるスペース
給湯設備・談話室等:給湯設備や談話室等の確保

快適な職場環境づくりを進めるに当たって考慮すべき事項

1.継続的かつ計画的な取り組み

快適職場推進担当者の選任等、体制の整備をすること。
快適な職場環境の形成を図るための機械設備等の性能や機能の確保についてのマニュアルを整備すること。
作業内容の変更、年齢構成の変化、技術の進展等に対応した見直しを実施すること。

2.労働者の意見の反映

作業者の意見を反映する場を確保すること。

3.個人差への配慮

温度、照明等、職場の環境条件について年齢等、個人差へ配慮すること。

4.潤いへの配慮

職場に潤いを持たせ、リラックスさせることへの配慮をすること。

使用者に対して債務不履行に基づく損害賠償請求ができる場合、得られる金額は労災申請に比べて大幅にアップすることが多いです。
それだけに会社側も争ってくることが予想され、訴訟になるケースも多いでしょう。
弁護士法人法律事務所テオリアでは、労災に遭われた際、会社側に対し損害賠償請求をも検討します。
ご相談の段階で申請書の記載内容、今後の見通しや、請求できる見込みの金額について詳細にアドバイスすることもできます。

ご相談は無料ですので、ぜひお気軽にご相談ください。