近年、健康志向の高まりや感染症の流行を受け、通勤のスタイルは変化しています。電車やバスなど公共交通機関での移動だけではなく、自転車で通勤する人も増えてきました。
では、自転車での通勤中に事故に遭い、怪我をした場合、その怪我は労災になるのでしょうか。
今回は、自転車通勤と労災について解説していきます。
通勤災害とは?
労働災害(労災)は、業務災害と通勤災害の2種に分けられます。
◆業務災害
労働者が業務中に被った怪我や病気、死亡のこと◆通勤災害
労働者が通勤によって被った怪我や病気、死亡のこと
通勤災害は労災の中でも通勤中の災害を指します。この場合の「通勤」とは、就業に際して合理的な経路・手段で行う、以下のような移動を指します。
①住居と就業の場所との間の往復
②就業の場所から他の就業の場所への移動
③住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動
※業務の性質を有するものを除く
通勤中に合理的な経路を逸脱したり、移動を中断したりした場合には、逸脱・中断以降の移動は通勤とは認められません。例えば、会社からの帰宅途中に飲みに行ったりショッピングに行ったりした場合などは、通勤の逸脱・中断にあたります。
しかし、一部の日常生活上必要な行為については、厚生労働省が例外として定めています。これにより、以下のような場合については、逸脱又は中断の間を除いて、合理的な経路に戻った後には再び通勤として認められます。
◆通勤の逸脱・中断の例外
・日用品の購入その他これに準ずる行為
・職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
・選挙権の行使その他これに準ずる行為
・病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
(厚生労働省 東京労働局「通勤災害について」)
自転車通勤中の事故で怪我をしたら労災になるのか
ここからは、自転車通勤の事故が労災になるのかどうかについてご説明します。
自転車通勤中の事故も労災(通勤災害)になる
自転車通勤中に事故に遭った場合、その怪我は通勤災害として扱われます。
自転車通勤における通勤災害の条件は、通常の通勤災害と同じで、「合理的な経路・手段で行う、自宅から就業場所、または就業場所から他の就業場所への移動であること」。
厚生労働省が定める一部の日常生活上必要な行為を除いて、通勤経路を逸脱・中断して行う私的行為後の移動は、通勤と認められなくなります。
自転車通勤の労災、こんな場合は?
自転車通勤における労災の具体例について、3つのケースを見ていきましょう。
①会社から定期代をもらっているのに自転車通勤をしていた場合の事故は?
会社から公共交通機関による通勤の定期代をもらっているかどうかは、労災(通勤災害)の認定には関係ありません。
会社に申請せずに自転車通勤をしていて事故に遭ったとしても、その経路や手段が労働基準監督署に「合理的」だと認められれば、事故によって負った怪我は労災(通勤災害)になります。
ただし、不正に定期代をもらっていることで、会社から処分を受けることはあるかもしれません。通勤手段については、労災とは関係なく、会社に正しく申請しておくべきでしょう。
②仕事帰りに寄り道をした時の事故は?
自転車でカフェに寄ったりショッピングに行ったりと、私的行為による寄り道で通勤を逸脱・中断した場合、逸脱・中断以降の移動は「通勤」と認められません。そのため、通勤ルート逸脱・中断後の事故は、労災(通勤災害)にはなりません。
ただし、前述のような厚生労働省が定める日常生活上必要な行為については、例外とされています。例えば、夕飯の買い出しにスーパーに寄ったり、選挙に行ったりなど。
このような場合、逸脱又は中断の間を除き、合理的な経路に戻った後の事故は労災(通勤災害)と認められます。
③仕事帰りの飲み会後の事故は?
仕事帰りの飲み会は、私的行為です。そのため、飲み会後に自転車で事故を起こした場合の怪我は、労災(通勤災害)とは認められません。(そもそもアルコールを飲んだ後に自転車に乗ることもできません。)
ただし、会社主催の懇親会など、業務の一環としての飲み会に参加した場合には、私的行為とされず、その後の事故が労災(通勤災害)になる可能性もあります。
受けられる労災保険の給付
業務災害および通勤災害が認められた場合、怪我や病気を負った労働者は、条件に応じ、労災保険から以下のような補償を受けられます。
・療養(補償)給付
・休業(補償)給付
・障害(補償)給付
・遺族(補償)給付
・葬祭料・葬祭給付
・傷病(補償)年金
・介護(補償)給付
・二次健康診断等給付金
※業務災害は〇〇補償給付、通勤災害は〇〇給付
今回は、労災給付の中でも受け取るケースが多い、療養(補償)給付、休業(補償)給付、障害(補償)給付についてご紹介します。
療養(補償)給付
労災による療養の費用(治療費や薬代など)を補償する給付金。
労災指定病院を受診した場合には治療や薬の現物給付となり、労災指定病院以外の病院を受診した場合には一時的な費用立替後、治療費や薬代が後日返還されます。
休業(補償)給付
労災による傷病で休業を余儀なくされた場合に支払われる給付金。
以下の条件を満たした時に給付されます。
◆ 休業(補償)給付の条件
①労災による傷病であること
②療養のため労働することができないこと
③賃金を受けない日が4日以上あること
金額は、休業1日ごとに給付基礎日額の80%(うち20%は休業特別支給金)となります。
障害(補償)給付
労災による傷病が治ゆした時、一定の障害が残った場合に支払われる給付金。規定の障害等級によって、以下のように給付の種類および金額が変わります。
◆障害等級第1級〜第7級に該当する場合
障害(補償)等年金、障害特別支給金、障害特別年金
◆障害等級第8級〜第14級に該当する場合
障害(補償)等一時金、障害特別支給金、障害特別一時金
通勤災害申請に必要な手続き
通勤災害の申請に必要な手続きと業務災害の申請に必要な手続きは同じです。申請書類の番号は異なるので、間違えないよう気をつけてください。
◆通勤災害申請の流れ(労災指定病院を受診する場合)
①労災指定病院で診察・治療を受ける。窓口で労災の旨を伝える。
②受診した労災指定病院に、会社から証明をもらった申請書類を提出する。
◆通勤災害申請の流れ(労災指定病院以外の病院を受診した場合)
①労災指定病院以外の病院で診察・治療を受ける。窓口で労災の旨を伝える。健康保険証は使わず、かかった費用の全額を一旦労働者自身が負担する。
②会社・受診した病院から申請書類に証明をもらう。
③労働基準監督署へ申請書類を提出する。
④労災が認められれば、後日診察・治療にかかった費用が口座へ返還される。
まとめ
自転車通勤でも公共交通機関による通勤でも、通勤災害における取り扱いは変わりません。合理的な経路・手段での通勤中の事故であれば、自転車に乗っていても労災と認められます。
また、労災の手続きについて不安がある場合や労災や事故のトラブルに巻き込まれた場合には、一度弁護士にご相談ください。法律の専門家として、弁護士はご相談者様の速やかなトラブル解決を目指します。まずは弁護士事務所まで、お気軽にお問い合わせください。