公務員の労災保険制度とは?補償内容や申請方法をまとめて解説

労働者が業務のせいで傷病を負った場合には、労災保険から補償が行われます。
ただしこれは民間企業の場合のみで、公務員は対象にはなりません。代わりに、公務員には別の労災保険制度が整備されています

では、この制度とはどのようなものなのでしょうか。

今回は、公務員の労災保険制度について、補償内容や申請方法などをわかりやすく解説します。

公務員の労災保険制度とは

民間企業の従業員が業務で傷病を負った時には、労働災害として、労災保険から補償がおります
一方、公務員が公務に起因した傷病を負った時、その傷病は公務災害として、公務員災害補償制度から補償がなされます。具体的には、警察官や消防士、国公立学校教員等が、この制度の対象になります。

また、この制度において適用される主な法律は2種類。国家公務員に対応する国家公務員災害補償法と地方公務員に対応する地方公務員災害補償法に分類されます。

公務員災害補償制度が適用される公務員

前述のように、公務員災害補償制度では、国家公務員と地方公務員で適用される法律が異なります。さらに、常勤職員か非常勤職員か、現業か非現業かによっても、適用法律は変わってきます。

例えば地方公務員の場合、適用される法律は次のようになります。

常勤職員

  • 現業   地方公務員災害補償法
  • 非現業  地方公務員災害補償法

非常勤職員 

  • 現業   労働者災害補償保険法
  • 非現業  地方公共団体の補償条例

上記の表からわかるように、地方公務員でも被災職員の雇用形態によっては、労働者災害補償保険法(労災保険)が適用されることもあるのですね。

このように、公務員の公務災害に対する補償は、根拠となる法律が条件によって異なり、それによって補償内容なども変わります。判断が難しい場合には、人事院または労基署への相談を検討しましょう。

公務災害と労働災害の違い

公務災害と労働災害の違いとしては、ここまで述べてきた通り、適用される法律が挙げられます。

一般の労働者が対象となる労働災害の場合、法律は労働者災害補償保険法が適用されます。
一方の公務員が対象となる公務災害の場合、適用となるのは基本的に国家・地方公務員災害補償法(前章の表のとおり例外も有り)。
労働災害も公務災害も、その認定に際して業務(公務)遂行性・起因性が重要視される点は共通しています。しかし、根拠となる法律が異なることで対応が異なる可能性があることは知っておきましょう。

また、公務災害と労働災害では、認定期間にも違いがあります。労働災害では数ヶ月程度で認定結果が出ますが、公務災害ではこの認定期間はかなり長くなるのが一般的で、中には数年を要するケースもあるようです。

公務災害の認定基準

公務災害では、「公務遂行性・起因性が認められること」が基本的な認定基準となります。
また、対象となる傷病としては「公務上の負傷」「公務上の疫病」「通勤災害」が考えられます。それぞれの具体的な内容は次のとおりです。

公務上の負傷

  • 職務に起因する負傷
  • 出張・赴任期間中の負傷
  • レクリエーションに参加中の負傷
  • 特別の事情下における出退勤途上の負傷
  • 勤務場所や附属施設の設備管理不足による負傷
  • 入居が義務付けられている宿舎など設備管理不足による負傷
  • 職務に起因する怨恨による負傷
  • 公務上の負傷や疾病と関連して発生した負傷 など

公務上の疫病

  • 公務での負傷に起因する疾病
  • 職業病
  • その他公務に起因することが明らかである疾病 など

通勤災害

  • 住居と就業の場所との間の往復
  • 就業の場所から他の就業の場所への移動
  • 上に掲げる往復に先行または後続する住居間の移動

上記3種の移動について、合理的な経路かつ方法で行なっていた時に負った傷病

公務災害の補償内容

公務災害に対する主な補償としては、次の7つの種類が挙げられます。


療養補償

公務災害による傷病の療養に必要な費用を補償する給付金

診療費や薬剤費、手術費、入院費、通院費などが対象

休業補償

公務災害による傷病で休業する場合に支給される給付金

給付額は1日につき平均給与額の60%

傷病補償年金

公務災害による傷病が療養開始から1年6ヶ月を経過しても治ゆせず、その症状が地方公務員災害補償法施行規則で定められている傷病等級に該当する場合に支給される給付金      

等級は1級から3級までで、等級ごとに支給額は異なる

障害補償年金・一時金

公務災害による傷病が治ゆした時、身体に地方公務員災害補償法施行規則で定められている障害等級に該当する障害が残った場合に支給される給付金            

等級は1級から14級までで、1級から7級までは年金、8級から14級までは一時金での支給となる

介護補償

傷病補償年金または障害補償年金の受給権者であり、総務省令で定める程度の障害を有し、常時またら随時介護を受けている場合に支給される給付金

遺族補償

公務災害により公務員が死亡した場合に、遺族に対して支払われる給付金          

個人と対象遺族との関係性によって年金給付か一時金給付かが決まる

葬祭補償

公務災害によって公務員が死亡した場合、遺族等の総裁をとり行うとみられる者またはとり行った者に対して支払われる給付金

金額は「315,000円+平均給与額の30日分」または「平均給与額の60日分」のうち高い方



このように、公務災害の補償内容には種類があるため、被災職員は自身の症状に合った給付金を申請する必要があります。

公務災害の申請方法

公務災害の申請は、次の手順で行います。

  1. 所属長、事務担当者などへ連絡
  2. 公務災害認定請求書の提出
  3. 基金による審査・認定通知

各手順について詳しく確認していきます。

1.所属長、事務担当者などへ連絡・病院の受診

公務災害発生時には、まず被災職員またはその場にいた職員が所属長や事務担当者に公務災害発生の旨を連絡します。その後の手続きをスムーズに進めるために、この連絡は必ず行うようにしましょう。

被災労働者は速やかに病院を受診し、傷病の治療を受けます。この時、病院の窓口では公務災害であることを必ず伝えるようにしてください。

2.公務災害認定請求書の提出

公務災害の認定を受け、給付金を受け取るためには、公務災害認定請求書を作成しなければなりません。被災職員は所属部署の担当者に相談し、この書類の作成を進めるようにしてください。

また、公務災害の発生日から1ヶ月以上経ってから請求手続きを行う場合には、遅延理由書の提出も必要になるので注意しましょう。

3.基金による審査・認定通知

被災職員が、所属庁・任命権者経由で、基金に対し請求書を提出すれば、手続きは完了です。あとは基金で公務災害の認定・不認定を判断するための審査が行われるので、その結果が出るのを待つことになります。

また、基金の判断に不服がある場合、被災職員は認定通知書を受け取った日の翌日から3ヶ月以内であれば、審査請求を行うことが可能です。

損害賠償請求できるケース

公務災害に遭った被災職員は、国や第三者に対し、損害賠償請求を行える可能性があります

現在の公務員災害補償法による補償では、慰謝料が支払われない、補償が薄いなどの課題があり、補償内容は十分でありません。しかし、損害賠償請求が成功すれば、公務員災害補償法の範囲では足りない補償を補うことも可能になります。

損害賠償のケースとしては、次の2つが考えられます。

  • 国に対する損害賠償請求
  • 第三者に対する損害賠償請求

職員の使用者である国や地方公共団体の落ち度によって公務災害が起こったと考えられる場合、被災職員は国に対し、損害賠償を請求できます。
また、第三者の加害による公務災害の場合であれば、その第三者に対し損害賠償請求を行うことも可能です。

まとめ

公務員の労災保険制度は、一般労働者のものとは異なり、国家・地方公務員災害補償法が適用されます。制度の内容は一般の労災保険制度と比べてもやや複雑なので、対応に困ったら、人事院や労働基準監督署に相談すると良いでしょう。

また、公務災害の対応については弁護士への相談もご検討ください。弁護士は、然るべき対応のサポートはもちろん、損害賠償請求手続きにも対応します。
傷病の療養に専念するためにも、労災問題は弁護士の手を借りるようにしましょう。