自分に過失がある場合の労災保険給付はどうなる?損害賠償における過失相殺とは?

業務に起因する労働者の怪我や病気、死亡は、労働災害(労災)と呼ばれます。
労災事故で怪我を負った場合、その労働者は労災保険の給付を受けることができます。労災保険には複数の種類の給付があり、怪我の治療費や怪我による休業補償などを賄うことが可能です。

ではこの給付は、事故の原因が自分の過失にある場合にも受け取れるのでしょうか。労働者自身の過失によるペナルティはないのでしょうか。

今回は、自分に過失がある場合の労災の取り扱いについて解説します。

自分に過失がある場合でも労災保険は満額受け取れる

結論から述べると、被災した労働者自身に労災事故発生の過失があったとしても、労災認定された場合の給付金は満額受け取れます。なぜなら、労災保険の給付に過失の有無は関係ないためです。

そもそも労災保険は、弱い立場に置かれやすい労働者を守るための社会保険制度です。ミスによる事故だからと給付金が支給されなかったり減額されたりすれば、労働者の権利を守ることはできません。
よって、労災の認定条件さえ満たせば、過失の有無に関係なく、労災認定および労災保険給付は行われます

例外として、労働者が故意に起こした事故は労災とは認められず、労災給付は行われません。落ち度の大きい重過失による事故の場合も、労災不認定の可能性があります。

労災認定の基準

次に、労災認定の基準についてご説明しましょう。
労災は、業務上の事故である「業務災害」と通勤中の事故である「通勤災害」に分けられ、これらにはそれぞれ次の認定条件が設けられています。

業務災害の認定条件

業務災害の認定条件は、次の2つです。

  • 業務遂行性が認められること
  • 業務起因性が認められること

業務遂行性とは「労働関係を結ぶ事業主の支配下における事故であること」、また業務起因性とは「業務と災害に一定の因果関係があること」を意味します。
これらの両方の条件を満たす場合に限り、労災(業務災害)は認められます。

通勤災害の認定条件

通勤災害の認定条件は、以下の「通勤」の定義を満たすことです。

【通勤の定義】
就業に際する以下の移動を、合理的な経路かつ方法によって行うこと

  1. 住居と就業の場所との往復
  2. 就業場所から他の就業場所への移動
  3. 住居と就業場所との往復に先行・後続する住居間の移動

※業務の性質を有するものは除外
※合理的な経路を逸脱したり移動をやめたりした場合、それ以降の移動は「通勤」とは認められない
※厚生労働省からみとめる日常生活で必要な最小限度の行為については、逸脱・中断後、合理的経路に戻ってからの移動も「通勤」と認められる

上記の定義を満たす移動において発生した災害は、労災(通勤災害)と認められ、保険給付の対象となります。

怪我が労災認定される場合

前述した条件をもとに、怪我が労災認定される例を挙げてみましょう。

【業務災害が認定されると考えられる例】

  • 工場業務中、操作を誤って機械に手を挟まれ、怪我を負った
  • オフィスで棚の上の荷物を取ろうとして手が滑り、荷物が足の上に落ちて骨折を負った
  • 営業の外回り中、駅の階段で転倒し、腰を痛めた

これらのケースでは、業務遂行性と業務起因性の両方が認められます。よって、労災は認定されると予想されます。

【通勤災害が認定されると考えられる例】

  • 冬の朝、家から会社へ出社する途中、道路で滑って怪我をした
  • 会社から家に帰る途中、車に轢かれ足を骨折した

これらが合理的な通勤経路・方法における事故であった場合、通勤災害として労災認定されると考えられます。

会社に損害賠償請求をすることはできる?

労災によって怪我などを負った労働者は、事故の原因を作った会社や第三者に対し、損害賠償請求を行うことが可能です。ただしそれは、相手に法的責任(安全配慮義務違反や使用者責任など)がある場合に限られます。

この損害賠償請求では、労災保険では補償されない慰謝料の補償が可能です。労災保険と別に損害賠償を請求すれば(同一事由の二重給付は不可)、より手厚い補償を受けることも可能でしょう。
そのためにも、可能な場合には損害賠償請求を検討するようにしましょう。

損害賠償における「過失相殺」とは

労働者自身の過失による事故の場合であっても、相手に法的責任が認められる場合には、損害賠償請求を行うことができます。
ただし、気をつけておきたいのが「過失相殺」の可能性についてです。

過失相殺とは、事故の責任割合に基づいて賠償額を決定することを指します。この仕組みを前提とすると、労働者に事故発生の過失があった場合、支払われる賠償額はその過失分を差し引いた金額になります。
つまり、労働者に過失がある場合に支払われる損害賠償額は、過失がない場合に比べ、減額される可能性があります

そのため、過失相殺が行われる損害賠償請求については、過失割合の主張が賠償額に大きく影響することになります。

労災隠しをされた場合の対処法

「労災隠し」とは、会社が意図的に労災の発生を隠そうとすること。このような場合、会社は労働者に労災保険を使わないよう指示したり、労災の申請手続きを進めてくれなかったりします。

しかし、労災隠しは犯罪です。労災申請や労災保険の利用は労働者の権利であるため、労災隠しを求められても応じる必要はありません。

会社から労災隠しを求められた場合には、次のような対処を行うようにしましょう。

健康保険を使用しない

業務上の怪我や病気の治療は、労災保険の補償対象です。一方の健康保険の補償対象は、業務以外の原因による怪我や病気です。

よって、労災の怪我や病気に健康保険を使うことはできません。もし誤って健康保険を使ってしまっても、その後労災保険への切り替え手続きが発生します。

労災隠しでは会社から健康保険の使用を命じられることがありますが、余計な手続きを増やさないためにも、それには応じないようにしましょう。

労働基準監督署に相談する

会社に労災隠しを求められた場合には、労働基準監督署への相談を検討しましょう。

労働基準監督署は、法律に基づいて労働環境を管理する機関です。相談を行うことで、会社の労災隠しを調査し、それを是正してもらえる可能性があります。

各労基署には相談窓口が設けられているので、それを利用するようにしてください。

自分で労災申請を行う

労災の申請手続きは、会社が代理で行うのが一般的です。しかし、労災隠しをしようとする会社がこの手続きを進めてくれることはないでしょう。

そのような場合には、被災労働者は自身で労災申請を行う必要があります
手続きは難しくはなく、必要な書類を揃え、事業所を管轄する労基署に提出するだけ。申請書類は厚生労働省のWebサイトから入手できます。

会社が手続きを拒否する場合でも、労災申請を行う権利は被災者にありますので、諦めずに申請を進めることが重要です。

労災隠しについては「労災隠しは違法!泣き寝入りしないための対処方法は?」で詳しく解説しています。

自分に過失がある場合の損害賠償請求は弁護士に相談するのがおすすめ

自分に過失がある労災事故について、会社や第三者への損害賠償請求を行う場合には、弁護士への依頼を検討しましょう。弁護士のサポートを受けることで、被災労働者は次のようなメリットを得ることができます。

  • 会社に損害賠償請求できるかどうかを判断してくれる
  • 適正な過失割合で交渉してくれる
  • 訴訟手続きも任せることができる

損害賠償請求を行えるのは、相手に法的責任がある場合に限られます。弁護士は、この法的責任の有無を的確に判断することが可能です。

また、適正な過失割合での交渉を行うことで、実際の過失以上の賠償額の減額を避けることもできます。

損害賠償請求は、交渉で双方が合意できない場合、訴訟に発展することもありますが、この場合の手続きも、弁護士の手を借りればスムーズに進められるでしょう。

自身の負担を減らし十分な賠償を得るためにも、労災の損害賠償請求は弁護士に相談することを推奨します。

労災問題を任せる弁護士の選び方については「労災に強い弁護士の選び方を徹底解説!」をご一読ください。

まとめ

労災保険の給付金支給に、事故における労働者の過失の有無は影響しません。中には「自分のミスで起こった事故だから」と労災申請を遠慮する方もいますが、労災申請・労災保険の給付受け取りは、労働者の権利です。自身に過失がある場合でも、業務上の怪我については、必ず労災申請を行うようにしましょう。

また、労災事故では会社へ損害賠償を請求できる可能性もあります。しかし、損害賠償請求には専門的な知識や交渉技術が必要です。
交渉を有利に進めるためにも、労災の損害賠償請求を検討する場合には、まずは弁護士に相談するようにしてください