労災には、状況や症状に応じた労災認定基準が定められています。この基準を満たすことで、労災にあった労働者は、労災保険の補償を受けることができます。

今回は、労災認定基準について、「業務災害」「通勤災害」「精神障害」「脳・心疾患」の4つの分野に分けてご紹介します。労災にあった場合にはこの基準が重要になるので、ぜひ確認しておいてください。

業務災害(仕事中のケガや病気)の認定基準

「業務災害」は労災の一種であり、仕事中に被ったケガや病気、死亡のことをいいます。まずは、「業務災害」の認定基準について解説していきます。

認定基準は「業務起因性」と「業務遂行性」 の有無

労働基準監督署によって業務災害が認められると、被災労働者は労災補償を受けることができます。
ただし、業務災害の認定を受けるには、一定の認定基準を満たす必要があります。それは、「業務起因性」と「業務遂行性」の2点です。

・業務起因性
業務と傷病の間に因果関係があること

・業務遂行性
労働契約を結んだ事業主の支配下において起きた事故であること

これら両方の性質が認められる場合、その事故は業務災害と認定されます。
反対に、両方、もしくはどちらか一方の性質が認められない場合には、業務災害の認定を受けることはできません。

業務遂行性の3パターン

「業務遂行性」は「業務起因性」の前提条件として発生するもので、大きく以下の3つのパターンに分けることができます。

①事業主の支配・管理下で業務に従事している場合(担当業務やそれに付随する行為、生理的行為など)
②事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない場合(休憩時間の事業所内での休憩など)
③事業主の支配下にはあるものの、管理下を離れて業務に従事している場合(出張、外出、運送、配達など)

事業所内外での業務中はもちろん、事業所内での休憩や業務中のトイレ、水を飲むなどの行為も、事業主の管理下で行うものであり、「業務遂行性」が認められます。
また、③の場合は就業場所への往復や食事、トイレなども業務の付随行為となり、特に出張の場合は行き帰りの全行程において(寄り道を除く)、「業務遂行性」が認められます。

業務災害と認められない場合

就業中であれば、また事業所内であれば、どんな状況で起こった事故でも「業務災害」が認められるというわけではありません。以下のような場合には、「業務起因性」と「業務遂行性」という条件が揃わず、「業務災害」の認定は受けられないと考えられます。

・就業中の私的行為による災害
・就業中の業務を逸脱する行為による災害
・労働者の故意による災害
・個人的な怨恨によって、第三者から暴行を受けた場合
・就業時間外の私的行為による災害
・天災事変によって被災した場合 etc.

休憩中に遊んでいてケガをした場合など、就業時間外の私的行為による災害は「業務災害」になりません。しかし、休憩中に階段から落下した場合など、事業所の施設や設備が原因となる場合は「業務災害」と認められます。
また、休憩中に事業所の外のコンビニへ行った時に事故にあった場合などは、私的行為による事故で「業務災害」とは認められません。

状況によって「業務災害」認定の判断は異なるので、ケースごとに判断するようにしましょう。

通勤災害(通勤中のケガ)の認定基準

「業務災害」が業務中に被った傷病を指すのに対し、「通勤災害」は通勤中に被った傷病のことを指します。「業務災害」と「通勤災害」では認定基準が異なるので、注意してください。

「通勤災害」の認定基準は、災害にあった時の状態が「通勤」と認められるかどうかです。
「通勤」は、労災保険法によって以下のように定められています。

通勤とは
労働者が、就業に際して以下のような移動を、合理的な経路および方法によって行うこと。業務の性質を有するものは除く。

①住居と就業の場所との間の往復
②厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
③第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
(労災保険法第7条2項より)

③の後続する住居間の移動とは、転任によって住居と就業場所を往復することが距離的に難しく、家族と別居して就業場所近くに転居した労働者の住宅間の移動などを指します。

これらの移動を一般的に合理的なルート・方法で行っていた最中に起こった事故の場合、事故によって被ったケガは労災補償の対象になります。
ただし、事業主が提供する専用交通機関を利用した出退勤や休日に呼出しを受けて緊急出動する場合などは「業務の性質を有する」と判断されるため、通勤にはあたりません。これらの場合のケガは「業務災害」にあたります。

精神障害の労災認定基準

近年では、仕事に関するストレスにより、労働者が精神障害を発症するケースが増加しています。
精神障害の労災認定基準については、「心理的負荷による精神障害の認定基準」として、3つの要件が定められています。

精神障害の労災認定3要件
①認定基準の対象となる精神障害を発病していること
②認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
③業務以外の心理的負担や個体側要因により発病したとは認められないこと

順に詳しく見ていきましょう。

①認定基準の対象となる精神障害を発病していること

労災認定基準の対象となる精神障害は、国際疾病分類第10回修正版 第5章「精神および行動の障害」に分類される精神障害のみです。対象の精神障害は大きく10種類に分けられ、このどれかに当てはまるかどうかが、労災認定第一の要件となります。
(分類表はこちらから。厚生労働省「精神障害の労災認定」)

②認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

業務による強い心理的負荷の有無は、「業務による心理的負荷評価表」にもとづき判断されます。状況を評価表に照らし合わせ、心理的負荷「強」と判断されれば、2つ目の要件を満たしたことになります。
(「業務による心理的負荷評価表」はこちらから。厚生労働省「精神障害の労災認定」)

③業務以外の心理的負担や個体側要因により発病したとは認められないこと

「業務以外の心理的負荷評価表」にもとづき、業務以外に精神障害発症の原因がないか判断していきます。また、精神障害の既往症の有無やアルコールへの依存状況など、個体側要因による発症の可能性についても判断を行います。
業務以外の強い心理的負担や個体側要因がない場合、精神障害の労災認定における3つ目の要件を満たすことになります。
(「業務以外の心理的負荷評価表」はこちらから。厚生労働省「精神障害の労災認定」)

脳・心疾患の労災認定基準

脳や心疾患による死亡率が高くなっていることを受け、20年ぶりに脳・心疾患の労災認定基準が改正、2021年9月から運用が始まっています。今回の改正では、労働時間以外の要素も重要視されるようになり、以前より柔軟に脳・心疾患を労災として取り扱うことが可能になりました。
ここでは、改正された脳・心疾患の労災認定基準について解説していきます。

厚生労働省資料によると、「業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、業務上の疾病として取り扱われる」とされています。
ここでいう「業務による明らかな」とは「業務に関することが発症の有力な原因であること」、「過重負荷」とは「脳・心疾患発症の基礎となる血管病変等を著しく増悪させ得ると客観的に認められるような負荷」を指します。

「業務による明らかな過重負荷」は、以下の3つの要件を全て満たすことで「有り」と判断され、その脳・心疾患は労災と認定されます。

「業務による明らかな過重負荷」3要件
①異常な出来事 ②短期間の過重業務③ 長期間の過重業務

それぞれの要件を詳しく見ていきましょう。

①異常な出来事

「発症直前から前日までの間において、発生状況を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと」という点を満たすかどうかが第一の要件です。

この「異常な出来事」は「精神的負荷」「身体的負荷」「作業環境の変化」という3種に分けられます。そして、その出来事は、「通常業務で遭遇することが稀な、甚大な出来事だったか」「気温等の作業環境の変化が急激で著しいものだったか」という点から、客観的な判断が行われます。

②短期間の過重業務

「発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと」があるかどうかは、脳・心疾患の労災認定に対する第二の要件にあたります。

「特に過重な業務」とは、通常の業務と比較して身体的・精神的に負荷が大きいと認められる業務を指し、労働時間や業務量、業務内容、作業環境などを鑑みて客観的に判断されます。
また、「近接した時期」とは、脳・心疾患発症前のおおむね1週間を指します。

③長期間の過重業務

「発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす過重な業務に就労したこと」があったかどうかが、脳・心疾患の労災認定における第三の要件です。

「発症前の長期間」とは、発症前のおおよそ6か月間を指し、「著しい疲労の蓄積」や「過重な業務」の判断は、労働時間や業務量、業務内容、作業環境を鑑みて客観的に行われます。
目安としては、1か月ごとの時間外労働が45時間を超え長くなるほど、業務と脳・心疾患発症の関連性は高いと判断されます。
(詳しくはこちらから。厚生労働省「脳・心疾患の労災認定」)

まとめ

ご紹介したように、労災の認定基準(要件)は、状況や症状の種類によって定められています。とはいえ、要件を満たすかどうかはケースバイケースです。それぞれの災害によって状況は異なるため、労災認定の判断も異なると考えられます。
また、「労災かどうか」を判断するのは、労働基準監督署です。適切な判断を受けるためにも、被災した方は状況を正しく伝えることが大切です。

また、労働基準監督署の判断に不満がある場合は、弁護士の手を借りるのもひとつの方法です。労災の中でも、特に精神障害については証明が難しく、納得いく判断を受けられていないという方も少なくはありません。
弁護士なら、法律の専門家の立場から、労災認定に向けたアドバイスやサポートを行うことができます。
まずは無料相談から、お気軽にご相談ください。