労災で仕事を休む時に有給は使えるのか?待機期間には?

労災にあって休業を余儀なくされた場合、労働者は労災保険による休業補償を受けられます。休業補償では、休業中にも平均賃金の数割が給付金として労働者に給付されます。
では、労災による休業に、給料が満額出される有給休暇をあてることは可能なのでしょうか?また、休業補償の空白期間にあたる待機期間に有給休暇をあてることは可能なのでしょうか?
今回この記事では、労災による休業補償と有給休暇について詳しくご説明しましょう。

労災の休業補償について

労災保険の休業補償とは、労災にあって休業を余儀なくされた労働者に休業補償として支給される給付金のことです。
休業補償は、労災の種類によって、「休業補償給付」と「休業給付」に分けられます。

休業補償給付
業務災害(※1)による休業時に給付される休業補償。
休業給付
通勤災害(※2)による休業時に給付される休業補償。

また、労災による休業時には、上記給付に加え、特別給付として「休業特別支給金」も支給されます。この「休業特別支給金」は国の労働福祉事業の一環として給付されるもので、労災保険から給付されるものではありません。
このように、労災によって休業した労働者は、労災保険の休業補償と特別給付による補償を受けることができます。その額や注意点については、以降の章でご紹介していきましょう。

※1業務災害とは
業務中に起こった労災のこと
※2通勤災害とは
通勤中に起こった労災のこと

労災で会社を休む時に有給は使えるか?

労働者が労災で会社を休まなくてはならなくなった場合、通常は労災保険の休業補償を受け、休職します。この時、休業補償ではなく、有給を使って休むことは可能なのでしょうか。

労災保険の休業補償と有給休暇の違い

まずは、労災保険の休業補償と有給休暇の違いについて見ていきましょう。

有給休暇とは
出勤している場合と同じように、使用者から給与が払われる休暇のこと。100%の給与が支給される。
労災保険の休業補償
労災による休業時に、補償として労災保険から給付される給付金のこと。休業(補償)給付60%+休業特別支給金20%= 給付基礎日額の80%が支給される。

このように、有給休暇では100%の給与を受け取れる一方で、労災保険の休業補償は給付基礎日額(※3)の80%の支給にとどまります。

※3:基礎給付日額とは
一日当たりの平均賃金額のこと。労災が発生した日の直前3ヶ月間にその労働者に支払われた金額の総額÷日数で求められる。

労災によって休む場合にも有給は使える

ご紹介したように、労災保険の休業補償が80%程度の支給になるのに対し、有給休暇では100%の給与が支給されます。そのため、労災によって休む場合に、残っている有給休暇の利用を希望する方もいるでしょう。労災での有給休暇の利用は可能なのでしょうか。
結論を言うと、労災によって休む場合に有給休暇を利用することは可能です。有給休暇を使うか、休業補償を受けるかは、労働者自身の意思によって決定してかまいません。
ただし、有給休暇による会社からの給与と労災保険の休業補償を同時に受け取ることはできないので注意してください。

労災の待機期間について

次に、労災の待機期間について見ていきましょう。

労災の待機期間とは
労災で休業してから労災保険の休業補償が給付されるまでの期間のこと。休業1日目〜3日目の3日間は待機期間として、労災保険の休業補償給付は行われない。

このように、労災による休業補償は休業4日目からの支給となり、休業開始から支給開始までには3日間の待機期間が設けられています。なぜこのような待機期間があるのかというと、仮病による休業補償の支給申請を抑制するためです。
しかし、労災の待機期間中に労働者は給与も補償も受けられないのかというと、そうではありません。
労災の待機期間中については、「1日につき平均賃金の60%」を事業主が支払うことになっています。(満額支給する事業主も多いようです。)
ただし、これは業務災害の場合に限られます。よって、通勤災害の場合は待機期間中に収入を得られません。

労災の待機期間のカウント方法

労災の待機期間は、休業開始の状況によってカウント方法が異なります。表で見てみましょう。

休業開始の状況 待機期間のカウント方法 4/1を労災発生日とした場合の待機期間
所定労働時間中に労災にあい、所定労働時間中にそのまま病院へ行った場合 待機期間に労災発生日を含む 4/1〜4/3まで
所定労働時間中に労災にあい、所定労働時間後に病院へ行った場合 待機期間に労災発生日を含まない(労災発生の翌日からカウント) 4/2〜4/5まで
残業中(所定労働時間後)に労災にあい、病院へ行った場合 待機期間に労災発生日を含まない(労災発生の翌日からカウント) 4/2〜4/5まで
出勤中に労災にあった場合 待機期間に労災発生日を含む 4/1〜4/3まで
帰宅中に労災にあった場合 待機期間に労災発生日を含まない(労災発生の翌日からカウント) 4/2〜4/5まで

このように、所定労働時間中や出勤中に労災にあってそのまま病院に行った場合以外は、労災発生日を待機期間に含めません。
また、待機期間は土日祝日でもカウントされること、連続した休業でなく断続した通算3日間の休業でもカウントされることも押さえておきましょう。

労災の待機期間に有給は使えるか?

労災の待機期間である3日間は、労災保険による休業補償が行われません。では、この期間に有給を使うことは可能なのでしょうか。

労災の待機期間を有給休暇にあてることは可能です。
ただし、それは有給休暇の利用を労働者が希望した場合に限ります。会社側から有給取得を強制することはできません。

業務災害の場合、待機期間に事業主が労働者へ支払う額は、「1日につき平均賃金の60%」です。一方の通勤災害の場合には賃金も補償もありません。このようなことと比較すると、100%の給与が出る有給休暇を待機期間にあてたいと考える労働者は少なくないでしょう。
その意思決定は、労働者自身に委ねられることになります。

また、もし会社側が待機期間の補償を行ってくれない場合には、条件を満たすことで、国による「休業補償特別援護金」を受け取れる可能性があります。

労災の休業補償をもらいつつ、有給を使うことはできるか?

労災保険による休業補償の給付を受けながら、有給を使って給与を満額受け取ることはできません。
そもそも、労災保険による休業補償給付は、以下の要件を満たしていなくては受けられません。

労災保険の休業補償支給要件

  • ①業務上の事由又は通勤による負傷や疾病による療養であること
  • ②労働することができないこと
  • ③賃金を受けていないこと

(厚生労働省 労災保険 請求(申請)のできる保険給付等より)

休業補償を受け取るには、これらの3要件を全て満たすことが求められます。よって、有給休暇によって100%の給与を受け取る場合には要件③を満たさず、休業補償の給付は行われません。

まとめ

労災による休業補償の額や待機期間について把握し、状況によって有給を利用することは、労働者にとってメリットになります。労災による休職時には、有給休暇の残日数や有給休暇時と休業補償時の収入を比較し、自身や家庭にとって最適な手段を検討するようにしましょう。

また、最適な手段が分からなかったり、会社側から有給取得を強制されたりといった労災に関する困り事がある場合には、弁護士にご相談ください。労災関連の法律を熟知した弁護士によるアドバイスやサポートは、速やかな問題解決に繋がります。