労災のリハビリの通院中に休業補償はもらえる?受け取れないケース・支給額等を解説

会社に勤める従業員が業務中、または通勤中にケガや病気を負うことを、労働災害(労災)と呼びます。
労災による休業は、休業補償の対象です。では、労災によるケガのリハビリで通院しながら会社に出勤している場合には、休業補償は支給されるのでしょうか。

今回は、仕事をしながらの通院における休業補償について詳しく解説します。

労災のリハビリの通院中に休業補償給付はもらえる?

休業補償給付(休業給付)は、労災にあたって次の3つの要件を満たす休業(4日目から)について、支給される給付金です。

  1. 労災による傷病で療養中である
  2. 働くことができない
  3. 賃金を受けていない

上記の3つを全て満たす間、その労働者は給付金を受け取ることができます。

労災のリハビリでの通院において注目したいのが、「③賃金を受けていない」という要件。休業補償給付が支給されるのは、「賃金を受けない日」に限定されます。
そしてこの「賃金を受けない日」は、次の2つに分類されます。

【賃金を受けない日とは】
・その日の全ての所定労働時間を労働できない日
・その日の所定労働時間の一部を労働できない日

つまり、1日のうちの数時間を休業した場合でも、休業補償は受け取れるのです。

ただし、「その日の所定労働時間の一部を労働できない日」と認められるのは、「平均賃金(給付基礎日額)」と「実働に対し支払われる賃金」の差額の60%未満の賃金しか支払われていない場合に限られます。この差額が60%を超える場合には、その日は「賃金受けない日」と認められません。

被災労働者が労災のリハビリによって通院しながら仕事をしている場合、「賃金を受けない日」に該当する日については、休業補償給付の支給対象となります

「症状固定」になると、休業補償は受け取れない

前述のとおり、休業補償給付は「①労災による傷病で療養中である」「②働くことができない」「③賃金を受けていない」という3つの要件を満たしている期間中、支給され続けます。
給付が打ち切りになるのは、「症状固定」になった時。「症状固定」とは次のような状態を指します。

【症状固定(治ゆ)】
傷病の状態が安定していて、医学上一般的に認められている医療を行なっても、その効果が期待できなくなった状態のこと
その判断は担当の医師が行う

症状固定になると、療養は終了です。よって、「①労災による傷病で療養中である」という休業補償給付の要件は満たされなくなり、給付金の支給は終了します。
またこの時、労災の療養にかかった治療費等を補償する療養補償給付(療養給付)の支給も終了となります

労災保険の補償期間については「労災保険はいつまでもらえる?休業補償期間を詳しく解説」でも詳しくご紹介しています。

後遺障害が残った場合は別の給付を受けられる可能性も

労災の症状固定後に後遺障害が残った場合には、その被災労働者は労災保険から別の給付を受けられる可能性があります。
それが、障害補償給付(障害給付)です。

障害補償給付では、労災の後遺障害の程度が規定の障害等級に該当する場合に、その等級に応じた給付金が支給されます。給付形式は年金型と一時金型の2種です。
症状固定後に後遺障害が残っている場合には、この給付金の請求を行いましょう。

休業補償給付の支給額

休業補償給付の支給額は、「給付基礎日額」をもとに算出されます。

【給付基礎日額】
労働基準法における平均賃金に相当する金額のこと
事故発生の直前3ヶ月間に、被災労働者に支払われた賃金の総額をその期間の日数で割って算出する

計算方法は次の通りです。

休業補償給付の支給額=給付基礎日額×80%(休業補償給付60%と休業特別支給金20%)×休業日数

ここでの80%とは、休業補償給付として支給される60%と休業特別支給金として支給される20%を足した数字。被災労働者は、合計で給付基礎日額の80%の金額を受け取ることができます

また、リハビリの通院のように「その日の所定労働時間の一部を労働できない日」の支給額については、次の計算式で算出されます。

一部労働の日の休業補償給付の支給額=(その日の給付基礎日額-実働に対して支払われる賃金の額)×80%

休業補償の計算方法については「労災の休業補償の計算方法を詳しく解説|賃金の総額や土日のカウントについて」もご一読ください。

休業特別支給金とは

特別支給金は、複数の労災給付に上乗せされ、支給されています。そのうち、休業補償給付に上乗せされるのが、休業特別支給金です。

この支給金の支払いは、被災労働者に対する社会復帰促進事業の一環として行われています。
休業特別給付金の場合、具体的な支給額は給付基礎日額の20%。つまり被災労働者は、休業補償給付(60%)と合わせて、80%の給付を受け取れることになります。

休業特別給付金については「労災の休業特別支給金は、誰がもらえるのか?」でもご説明しています。

仕事をしながら通院する際に休業補償給付を受け取れないケース

労災で傷病を負って仕事をしながら通院する場合でも、休業補償給付を受け取れないことはあります。
それが、次のようなケースです。

・会社から賃金の100分の60以上を支払われている
・通院のために休業した時間が短い

詳しくみていきましょう。

【ケース①】会社から賃金の100分の60以上を支払われている

休業補償給付では、「賃金を受けていないこと」が給付要件のひとつとなります。

「賃金を受けていないかどうか」の目安となるのが、会社からの「平均賃金の100分の60以上」の賃金支払い。つまり、会社から平均賃金の60%以上を受け取っているのであれば、その日は休業補償給付の対象とならず、60%未満ならその日は対象となるのです。

そのため、仕事をしながら通院していて早退や遅刻をしても、その日の賃金が会社から平均賃金の60%以上支払われているのなら、被災労働者は給付を受け取れません。

【ケース②】通院のために休業した時間が短い

通院のために休業した時間が極端に短い場合も、休業補償給付は支払われません。所定労働時間のうち1,2時間程度を休業した場合、その日の賃金が平均賃金の60%以上になることがほとんどだからです。

例えば、平均賃金が10,000円で、所定労働時間は8時間、そのうち2時間を休業したとしましょう。
この場合、実働6時間に対して支払われる賃金は、7,500円。これは、平均賃金の60%を超えています。よって、その日は給付金の対象になりません。

損害賠償請求の際の会社へのステップ

労災については、被災労働者は会社や第三者を相手に、損害賠償請求を行うことも可能です。
ただし、全ての労災がその対象になるわけではありません。損害賠償請求を行えるのは、会社や第三者に、労災にあたっての法的責任が認められる場合に限られます。

ここでいう法的責任とは、「安全配慮義務違反」や「使用者責任」、「工作物責任」などのこと。
「相手に法的責任を問えるかどうか」を一般の方が適切に判断するのは難しいため、請求を検討する際には、まず弁護士に相談すると良いでしょう。

賠償を請求できる損害の種類

労災で請求できる損害賠償には、次のようなものがあります。

財産的損害:積極損害(治療費や通院交通費、将来的な介護費など)
消極損害(休業損害や逸失利益など)

精神的損害:各種慰謝料

損害賠償請求では、労災保険では補償されない慰謝料も補償対象となります。より手厚い補償を受けるためにも、この手続きは有効です。

会社に対する損害賠償請求の手続き

一般的な損害賠償請求では、まず相手側との示談交渉を行います。この交渉で双方ともに納得が得られれば示談を行い、被災労働者は相手側から交渉時に決まった額の慰謝料を受け取ります。

とはいえ、場合によっては双方の意見が食い違い、交渉が決裂してしまうこともあるでしょう。そのような場合には、訴訟を起こし、裁判で決着をつけることになります。
しかし、裁判で争うとなると、金銭的・体力的な負担は大きくなります。この負担を避けるためにも、損害賠償請求の交渉は非常に重要です。

まとめ

ご紹介したように、労災のリハビリで通院をしながら仕事をしている場合でも、要件さえ満たせば、被災労働者は休業補償給付を受け取ることができます。ポイントは、「平均賃金の60%以上を会社から支払われているか」ということ。労災による一部労働にあたっては、自身の賃金を必ず計算するようにしてください。

また、労災では会社に対し損害賠償請求を行うことも可能です。
この手続きを検討する際には、労災問題の経験豊富な弁護士にご相談ください。弁護士に依頼すれば、被災労働者本人の負担は減り、よりスムーズかつ有利に手続きを進められるでしょう。