労災保険の休業補償は、労災にあった労働者の生活を支える重要なものです。そのため、働けない間の安定した生活を守るためには、「休業補償期間はいつまでなのか」、「どんな場合に打ち切られるのか」という点についても知っておく必要があります。
今回この記事では、労災保険の休業補償と打ち切りについて、詳しくご紹介しましょう。
労災の休業補償とは?
まずは、労災の休業補償について知っておきましょう。
労災保険の補償には、治療費の補償や障害が残った場合の補償等、いくつかの種類があります。そのひとつが、休業補償です。
- 労災保険の休業補償とは
- 労災による怪我や病気で働くことができず、休業した場合の補償。業務中の労災の場合は「休業給付」、通勤中の労災の場合は「休業補償給付」と呼ばれる。
労災により休業する場合の収入補償として給付されるのが、労災保険の休業補償です。休業補償の基本的な給付額は給付基礎日額※の60%ですが、労災保険の補償とは別に特別支給金として給付基礎日額の20%が給付されるため、労働者は休業しても、給付基礎日額の80%を受け取れることになります。
※基礎給付日額とは一日当たりの平均賃金額のこと。
労災の休業補償は、いつまでもらえるのか?
労災にあって休業を余儀なくされた労働者は、労災保険による休業補償を受けられます。
では、この休業補償はいつまで受け取れるのでしょうか。
結論から言うと、労災保険の休業補償には、「いつまで」という給付期間が定められているわけではありません。以下の3要件を満たしている限り、休業補償の給付は続きます。
労災保険の休業補償3要件
- 業務または通勤による負傷や疾病の療養中であること
- 労働できる状態にないこと
- 賃金を受け取っていないこと
これらの要件を満たしていれば休業補償が打ち切られることはありません。しかし、逆を言えば、これらの要件がひとつでも欠けた場合には、休業補償は打ち切りとなります。
また、受給開始から1年6ヶ月後になっても怪我や病気が治らず、その状態が規定の障害等級に該当する場合には、補償が休業補償から傷病補償年金に切り替わります。
休業補償の打ち切りについては、次章で詳しく触れていきましょう。
労災の休業補償が打ち切りになる理由
ここからは、労災保険の休業補償が打ち切りになる理由について見ていきましょう。
労災保険の休業補償は、以下のような理由によって打ち切られる可能性があります。
理由1:休業補償の支給要件を満たさなくなったため
前述の労災保険の休業補償3要件を満たさなくなった場合、休業補償は打ち切りになります。例えば、怪我や病気が完治し、労働できる状態になって賃金を受け取る場合には、3要件全てから外れるため、休業補償は打ち切られます。
ただし、ここで注意しておきたいのが、症状固定についてです。
- 症状固定とは
- 治療を続けても、怪我や病気の症状の改善が見込めない状態になること
労災保険においては、労災前の体の状態に戻っていなくても、症状固定となれば「治療終了」と判断されます。よって、怪我や病気が治っていなくても症状固定となれば、①の「療養中」という要件を満たさないとして、休業補償は打ち切られることになります。
ただし症状固定後に障害等級に該当する障害が残った場合には、以下のような障害(補償)給付を受け取れます。
障害(補償)年金 | 業務災害又は通勤災害による傷病が治った後に障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残ったとき | 障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日分から131日分の年金 |
障害(補償)一時金 | 業務災害又は通勤災害による傷病が治った後に障害等級第8級から第14級までに該当 する障害が残ったとき | 障害の程度に応じ、給付基礎日額の503日分から56日分の一時金 |
(厚生労働省 東京労働局HPより)
理由2: 受給開始から1年6ヶ月後になっても怪我や病気が治らず、その状態が規定の障害等級に該当するため
前章でも触れましたが、休業補償は受給開始から1年6ヶ月後に以下の要件を満たす場合、打ち切りとなります。
- 労災による負傷や疾病が治っていないこと
- 負傷や疾病による障害の程度が傷病等級表の傷病等級(第1級〜第3級)に該当すること
上記の場合、休業補償に変わって傷病(補償)年金が給付されるようになります。つまり、補償の切り替えだと考えて良いでしょう。
傷病(補償)年金の内容は、以下のようになります。
傷病等級 | 給付内容 |
傷病等級第1級 | 給付基礎日額の313日分 |
傷病等級第2級 | 給付基礎日額の277日分 |
傷病等級第3級 | 給付基礎日額の245日分 |
傷病等級該当者は、上記の傷病(補償)年金に加え、傷病等級に応じた傷病特別支給金・傷病特別年金の支給も受けられます。
労災の休業補償の打ち切りに関するよくある疑問
次に、労災保険の休業補償の打ち切りに関してよく挙げられる疑問を2点解決していきましょう。
休業補償期間に退職したら打ち切りになるのか?
労災によって休業し休業補償を受けている最中に会社を退職したとしても、それを理由に労災保険の休業補償が打ち切られることはありません。労働者災害補償保険法には、以下のように定められています。
労働者災害補償保険法第12条の5
「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によつて変更されることはない。
このように、労働者が退職しても、労災保険の休業補償を受ける権利は変わらないのです。そのため、退職後に、退職前の労災による休業補償請求を行うことも可能です。
休業補償打ち切りの連絡は来るのか?
労災保険の休業補償では、労働基準監督署への定期的な(毎月)請求書類提出が求められます。その度に労働基準監督署は休業補償の支給可否を判断し、支給される場合には「支給決定通知」を、支給されない場合には「不支給決定通知」を労働者の元へ配送します。この「不支給決定通知」が、休業補償打ち切りの通知だと考えて良いでしょう。
ただし、事前に打ち切りの連絡をもらえることはほとんどないようなので、不安な場合は労働基準監督署に問い合わせるようにしてください。
打ち切りに納得できない場合の対処法
休業補償の打ち切りに納得できない場合、労働者は審査請求を行うことができます。
- 審査請求とは
- 決定に対する不服申し立てのこと。
労災に関する審査請求の場合は、決定を行った労働基準監督署を管轄する労働局の労働者災害補償保険審査官に対し審査請求を行う。
審査請求による調査の結果によっては、休業補償の打ち切りが覆る可能性があります。
また、審査請求の決定に不服がある場合には再審査請求を、その決定に不服がある場合には行政訴訟を起こすことも可能です。
ただし、これらの手続きには以下のような期限が設けられています。
手続き | 期限 |
審査請求 | 保険給付に関する決定があったことを知った日の翌日から3ヶ月以内 |
再審査請求 | 決定書の謄本が送付された日の翌日から2ヶ月以内 |
行政訴訟 | 裁決があったことを知った日から6ヶ月以内 |
期限を過ぎてしまうと手続きはできなくなるので注意しましょう。
また、ご紹介したような申し立て手続きを行い、補償の打ち切りを覆すことは、労働者だけの力では困難です。複雑な手続きや決定に戸惑い、必要な手続きを失念したり間違ったりすることもあるでしょう。
労災に関する困り事がある場合には、一人で抱え込まず、労災案件に強い弁護士に相談し、最適なアドバイスやサポートを受けることが大切です。
まとめ
休業補償の給付期間に決まった期限はありません。しかし、症状固定により補償が打ち切られる可能性はあります。急な補償の打ち切りに戸惑うことのないよう、労災前の状態まで治る「完治」と補償が打ち切られる「症状固定」とでは、判断基準が異なるということを押さえておきましょう。
また、労災に関する手続きはもちろん、支給決定に不服がある場合の審査請求等については、弁護士にご依頼ください。法律の知識と経験を生かした弁護士のサポートは、労災にあった方の力になるはずです。まずは気軽にご相談ください。