派遣社員に労災は適用されるか?必要な手続きやよくあるトラブルを解説

労災保険は、労働者の万が一に備える公的保険制度です。業務中や通勤中に怪我を負った場合、労働者は労災保険による補償を受けられます。
では、労災保険の対象となる「労働者」とは誰のことなのでしょう。派遣社員であっても、労働者として労災保険の対象にはなるのでしょうか。
そこで今回は、派遣社員は労災保険の対象となるのかどうか、また必要な手続きやトラブル対処法などについてご紹介しましょう。

労災保険とは?

まずは、そもそも労災保険とはどのような保険なのか、誰を対象とするのかご説明します。

労災保険と補償の種類

労災保険とは
労働者災害補償保険のこと。
労働者が業務に起因するケガや病気(労災)を負った場合に、治療費や休業補償などの補償を行う公的制度。

労災保険は、労災時の補償を行う保険制度です。労災とは、業務を原因として起こったケガや病気のことで、業務中の労災は「業務災害」、通勤中の労災は「通勤災害」と呼ばれます。
労災保険には、以下のような8つの補償の種類があります。

労災保険における補償の種類

  • 療養(補償)給付
  • 休業(補償)給付
  • 傷病(補償)年金給付
  • 障害(補償)給付
  • 遺族(補償)給付
  • 葬祭料・葬祭給付
  • 介護(補償)給付
  • 二次健康診断等給付金

それぞれの受給要件を満たせば、労災にあった労働者はこれらの補償を受けることができます。

労災保険の補償対象は?

では、労災保険の補償対象となるのは、どのような人なのでしょうか。
労災保険の対象は、「労働者」と定められています。この「労働者」は、法律において以下のように定義されています。

労働基準法第9条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

労働組合法第3条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。

つまり、「労働者」とは雇用されて賃金を受け、生活する者のことを指します。
例えば、会社の社員やアルバイト、パートは雇用されて賃金を受け取っているため、当然「労働者」にあたります。派遣社員も同様であり、一種の労働者として、労災保険の対象になります。

一方、代表権・執行権を持つ法人役員や個人事業主、家族従事者などは、「労働者」とみなされず、労災保険の対象にはなりません。(一部特別加入は可能)
労災保険への加入は、「労働者」ではなく、「労働者」を雇用する事業主に義務付けられています。1人でも「労働者」を雇っていれば、事業主は必ず労災保険の加入手続きを行わなければなりません。加入義務を怠った場合にはペナルティを課せられる可能性もあります。
よって、すべての「労働者」は自身で手続きをしていなくても、当然労災保険に加入していることになります。

派遣社員が労災申請する際に必要な手続き

前述の通り、派遣社員は労災保険の対象になります。派遣社員が労災にあった場合には以下のような手続きを経て労災申請を行います。労災申請の手続きは派遣元の会社が行ってくれることが多いと思いますが、申請に必要な手続きを理解しておきましょう。

派遣社員の労災申請手続き①

労災にあったら、まずは派遣先の会社と派遣元の会社両方に連絡しましょう。
派遣社員は派遣元で労災保険に加入するため、派遣元会社にも労災の旨を伝えることを失念しないよう気をつけてください。

派遣社員の労災申請手続き②

病院を受診し治療を受けます。
この時、「労災指定病院を受診する」か「一般の病院で労災の旨を伝え、健康保険を使用せずに受診する」かのどちらかの方法を取りましょう。(労災で健康保険は使えません!)
労災指定病院の場合、労働者は治療費を負担することなく治療を受けられます。また一般病院の場合は、労働者は治療費を一旦立て替えることになりますが、後日請求手続きを行えば労災保険から治療費が戻ります。

派遣社員の労災申請手続き③

労災請求書を作成します。
労災指定病院で治療を受けた場合には労災請求書(様式第5号)を、労災指定病院以外の病院で治療を受けた場合には労災請求書(様式第7号)を使用しましょう。
労災請求書は、事業主証明欄を派遣元に、派遣先証明欄を派遣先に記入してもらう必要があります。

派遣社員の労災申請手続き④

労災請求書が完成したら、労災請求書(様式第5号)は治療を受けた病院に、労災請求書(様式第7号)は派遣元、もしくは労働基準監督署に提出します。病院や派遣元に提出した書類は、病院や派遣元を通し、労働基準監督署に提出されることになります。
労働基準監督署は請求書の内容を受け労災の判断を行い、労災が認められれば補償給付が行われます。

派遣社員が労災申請する際によくあるトラブル

ご紹介した通り、派遣社員は労災保険の対象です。
しかし、派遣社員の労災保険については、以下のようなトラブルが発生しています。

  • 労災手続きに時間がかかる
  • 労災申請が認められにくい
  • 労災手続きに事業主の協力が得られない
  • 労災によって休職したら会社を解雇された
  • 労災申請を原因に会社で嫌がらせを受けるようになった

派遣社員は、派遣元の会社で労災保険に加入します。よって、労災手続きにおいては派遣元の事業主による労災証明が必要になります。

しかし、派遣社員が実際に働いているのは派遣先の会社です。派遣元の事業主は、労災が起こった現場にはいないので、労災について証明することは簡単ではありません。
このような派遣社員ならではの環境の違いにより、派遣社員の労災には、労災手続きに時間がかかったり、事業主の協力が得られなかったりというようなトラブルが起こりやすい傾向にあります。

また、労災を申請されるのを嫌う会社では、労災申請をしたことによって不当な解雇を受けたり、嫌がらせを受けたりする例も報告されています。このような場合は法律違反やハラスメントにあたる可能性もあるため、弁護士をはじめとした専門機関に相談すべきでしょう。

労災申請を拒否された時の対処法

労災申請は、労働者の権利であり、その権利を妨げる権利は誰にもありません。もし労災申請において派遣元の事業主に手続きへの協力を拒否された場合には、以下のように対処しましょう。

請求書を自身で労働基準監督署へ提出

事業主の協力を得られなかった場合でも労災請求書の提出は可能です。その場合は、事業主欄を空白にしておき、労働基準監督署への提出時に協力を得られなかった旨を伝えましょう。
労災に関して不明点があったり事業主の対応に悩んだりしている場合には、その点についても窓口で相談すると良いでしょう。

弁護士へ相談する

労災手続きについては、弁護士に相談することで手続きのサポートや取るべき行動のアドバイスを受けられます。
また、労災やその対応については、労災自体が事業主の安全配慮義務違反にあたる可能性や、労災を原因とした事業主の不当な対応が法律違反やハラスメントにあたる可能性があります。場合によっては、損害賠償の請求が可能になるケースもあり、弁護士による適切な判断を仰ぐことは、被災労働者にとってメリットとなるでしょう。

まとめ

派遣社員は労働者であり、労災保険の対象です。万が一労災にあった場合には、労災申請を遠慮するのではなく、労働者の権利として労災保険による補償を受けましょう。

また、もし労災申請にあたって不当な対応を受けた場合には、労働基準監督署、または弁護士に相談してください。弁護士に相談する場合には、労災に強い弁護士や弁護士事務所を選べば、よりスムーズな問題解決が目指せます。法律の専門家である弁護士のサポートを受ければ、労災やその対応による不安も和らぎ、治療にも専念できるでしょう。