労災の治療費は療養(補償)給付で自己負担なし|仕事しながら通院する場合も解説

「業務中に機械の操作をミスして怪我を負った」「通勤中に交通事故にあって入院した」など、業務中や通勤中の怪我は、働くどの人にも起こり得ます。このような怪我の治療費は、怪我を負った本人が支払わなければならないのでしょうか。

業務中や通勤中に被った傷病は、労災と呼ばれ、労災保険の補償対象になります。そのため、治療費や通院費は、療養(補償)給付として、労災保険からの給付金で賄うことが可能です。

今回は、この療養(補償)給付について、対象や手続き方法など詳しく解説していきます。

労災の治療費には療養給付が支給される

前述の通り、労災による怪我や病気にかかる治療費は、加入している労災保険の療養(補償)給付で賄うことができます。まずは、この療養(補償)給付がどのようなものなのか確認していきます。

療養(補償)給付とは

療養(補償)給付は、労災保険給付の一種です。業務もしくは通勤が原因で傷病を負い、療養が必要な場合に給付される給付金です
この給付金は、業務が原因の「業務災害」の場合には「療養補償給付」、通勤中に怪我を負った「通勤災害」の場合には「療養給付」と呼ばれます。
療養(補償)給付を使えば、労災で傷病を負った労働者は、自費負担なしで、療養に必要な治療や薬の処方、手術などを受けることが可能です。

療養(補償)給付は2種類

療養(補償)給付は、大きく2種類に分けられます。それが、「療養の給付」と「療養の費用の支給」です。どちらの給付を受けるかは、傷病の治療に際して、「労災指定医療機関を受診するか、労災指定医療機関以外の医療機関を受診するか」で決まります。

①療養の給付
療養のための治療や薬の処方を現物支給する形の補償のこと。
労災による傷病において、労災指定医療機関を受診した場合には、無料で治療や薬の処方を受けられます。

②療養の費用の支給
療養のための治療や薬の処方にかかった費用を現金給付する形の補償のこと。
労災による傷病において、労災指定医療機関以外の医療機関を受診した場合には、その治療や薬の処方にかかった費用の支給を受けられます。ただし、費用の支給は後日になるため、被災労働者は一旦治療費等を立て替える必要があります。

療養(補償)給付を受け取れるのは「治ゆ」まで

療養(補償)給付の受給期限は、「傷病が治ゆするまで」です。
ただし「治ゆ」とは、傷病が治って完全に元の状態に戻ったことを指すものではありません。この場合の「治ゆ」とは、「傷病の状態が安定して、一般的な医療行為を行っても症状の改善が期待できなくなった状態」を指します。
また、この状態は「症状固定」とも呼ばれ、判断は医師によって行われます。

療養給付の対象となるもの

療養(補償)給付では、通常の療養のために必要なものは全て補償対象になります。具体的な項目の例を挙げてみましょう。

◆療養(補償)給付の対象となる項目例
・治療費
・薬代
・手術費
・入院費
・入院時の食事代
・特別な理由がある場合の個室利用による差額ベッド代
・看護費
・通院費
・療養に必要なマッサージやはり、灸等の施術費 など

このうち、通院費については、支給にあたって以下の条件が定められています。

◆通院日の支給条件
労災で傷病を負った労働者の居住地もしくは勤務地から、原則片道2km以内であり、下記の①〜③のいずれかに該当すること。
①同一市町村内の適切な医療機関へ通院した
②同一市町村内に適切な医療機関がなく、隣接する市町村の医療機関を通院した
③同一市町村内および隣接市町村内に適切な医療機関がなく、それらの市町村を超え、最寄りの医療機関へ通院した

この場合の「適切な医療機関」とは、負った傷病の治療に適した医療機関のことを指します。
また、上記条件では「原則片道2km」となっていますが、状況によっては、通院が片道2km以内でなくても、通院費として認められるケースがあります。

療養給付の請求手続き

療養(補償)給付を受給するためには、請求手続きが必要です。この手続きは、会社が代理で行ってくれることが多いですが、そうでない場合は被災労働者自らが行わなくてはなりません。

また、療養(補償)給付の申請手続きは、「労災指定医療機関を受診する場合」と「労災指定以外の医療機関を受診する場合」で異なります。
ここからは、それぞれの請求手続きの流れを確認していきましょう。

ケース1:労災指定医療機関を受診する場合

労災に遭い、労災指定医療機関を受診する場合には、まず医療機関の受付で「労災による傷病である」旨を伝えてください。そうすれば、無料で必要な治療や薬の処方を受けることができます。

その後、業務災害の場合には「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」を、通勤災害の場合には「療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)」を用意します。各請求書は、労働基準監督署でもらうか、厚生労働省のホームページからダウンロードすることが可能です。

請求書の必要事項を記入したら、事業主に証明欄の証明をもらってから、受診した労災指定医療機関の窓口に提出します。
被災労働者側の手続きは、ここまでです。後は医療機関が労働基準監督署へ請求書を提出し、労働基準監督署が労災の調査を行って、労災認定の判断を通知します。

ケース2:労災指定以外の医療機関を受診した場合

労災指定以外の医療機関を受診する場合には、労災でも無料で治療を受けることはできません。被災労働者は、治療や薬の処方にかかった費用の全額を、一旦立て替えて支払う必要があります。
この時、健康保険は使えないので、健康保険証を提示しないよう気をつけてください。

その後、業務災害の場合は「療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号)」、通勤災害の場合は「療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5)」を用意し、必要事項を記入します。事業主と受診した医療機関それぞれに請求書への証明をもらってから、管轄の労働基準監督署へ請求書を提出します。
後は、労働基準監督署が労災の調査を行って、労災認定の判断を通知し、労災認定されれば、指定口座に立て替えた治療費等が返金されます。

仕事しながら通院した場合の治療費は補償されるのか

労災によって傷病を負った人の中には、仕事しながら通院を続けている人もいるでしょう。この場合の治療費や通院費は、当然療養(補償)給付の対象になります。
労災によって被った傷病が治ゆするまでの通院であれば、その治療費や通院費は療養(補償)給付で賄うことが可能です。

ただし、気をつけておきたいのは、休業(補償)給付についてです。労災による傷病で休業した場合に支給される休業(補償)給付には、以下の3つの支給要件が定められています。

◆ 休業(補償)給付の支給要件
① 業務中または通勤中に負った傷病の療養中である
②働くことができない
③賃金を受けていない

仕事をしながらであれば、②と③の要件に当てはまりません。そのため、働きながら通院している場合、療養(補償)給付は受け取れても、休業(補償)給付を受け取ることはできません。

まとめ

ご紹介した通り、労災による傷病の治療は、労災保険の療養(補償)給付の対象となります。そのため、業務中や通勤中に傷病を負った被災労働者が、自ら治療費や薬代、入院費等を負担する必要はありません。

ただし、労災指定ではない医療機関を受診した場合には、被災労働者は一旦100%の治療費や薬代を立て替えなければなりません。また、給付金請求時の手続きもやや複雑になります。
それを踏まえると、労災による傷病の治療を受ける際には、なるべく労災指定の医療機関を選んだ方が、被災労働者自身の負担は軽くなると言えるでしょう。

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