労災で身体に障害が残った場合、被災労働者は労災保険から障害(補償)給付を受け取れる可能性があります。
ただし、障害(補償)給付を受けるには、「規定の障害等級に該当すること」という条件を満たさなければなりません。この判断には、後遺障害認定の面談が重要な役割を果たします。
では、労災の後遺障害認定における面談とは、どのようなものなのでしょうか。
今回は、労災の後遺障害認定に対する面談の影響と認定ポイントについてわかりやすく解説します。
労災による後遺障害とは
労災に遭った場合、そのケガや病気の療養費は、労災保険の療養(補償)給付によって補償されます。例えば、医療機関での治療費や入院費、薬代、通院の交通費などは、この給付の補償対象です。
また、労災のケガや病気によって仕事を休業することになった場合には、労災保険から休業(補償)給付が支給されます。
ただし、これらの給付が行われるのは、ケガや病気が「治ゆ」するまで。医師が「治ゆ」の判断を行った場合、療養(補償)給付および休業(補償)給付は打ち切りとなります。
とはいえ、ここで言う「治ゆ」とは完治を指すものではありません。よって、「治ゆ」の判断を受けても身体に障害が残っているケースはあり、これを後遺障害と呼びます。
そして、労災による後遺障害については、労災保険の障害(補償)給付によって補償が行われます。
労災の「治ゆ」とは
労災保険上での「治ゆ」は、身体が完全に回復したことを指すものではありません。ケガや病気の症状が安定して、これ以上一般的な治療を施してもその効果が期待できなくなった状態を指すものです(症状固定)。
よって、身体に障害が残っていても、症状が安定し医療による効果も期待できないような場合には、医師により「治ゆ」の判断が行われます。
「治ゆ」つまり症状固定については「労災における症状固定とは|労災保険給付の申請方法や再発した際の対応を解説」でも詳しくご紹介しています。
障害(補償)給付の支給条件とは
労災の後遺障害で障害(補償)給付を受けるための認定基準は、「その症状・状態が既定の障害等級に該当していること」です。
労災保険では、障害の程度によって第1級〜14級までの障害等級が設定されています。このどれかに該当すると認められた場合、障害(補償)給付は支給されます。
補償の形は、年金と一時金の2種。これは、障害等級によって次のように分類され、金額も等級ごとに異なります。
- 第1級〜7級→年金
- 第8級〜14級→一時金
また実際の補償では、障害(補償)給付だけではなく、障害特別支給金や障害特別年金、障害特別一時金も支給されることになります。
ただし、これらの給付を受けるためには、障害等級の認定を受ける必要があり、面談はこの認定に大きく影響します。
後遺障害の申請の流れ
労災の後遺障害で障害(補償)給付を申請する場合の流れは、以下のとおりです。
- 医師による「治ゆ(症状固定)」の診断
- 医師へ診断書の作成・必要資料の用意を依頼
- 障害(補償)給付の請求書を作成
- 事業所を管轄する労働基準監督署へ請求書・診断書・必要資料を提出
- 労働基準監督署による調査・面談
- 障害等級の認定・不認定の決定
「治ゆ」の判断を受けたら、医師に診断書や資料の用意を依頼しましょう。
また、請求書の作成・提出は多くの場合会社が代理で行ってくれますが、会社の協力が得られない場合には被災労働者自らが行わなければなりません。
必要書類の提出が終わったら、労基署がその内容を精査し、障害等級の認定・不認定の判断を行います。
後遺障害認定までの流れについては「労災による後遺障害認定までの流れ|労災給付金額、慰謝料について解説」もご一読ください。
労災による後遺障害の面談とは
労災の後遺障害で障害等級の認定を受けるためには、必ず担当者による面談を受けなければなりません。面談では、実際の症状の確認が行われます。
またこの面談は、労基署への書類提出後に行われます。基本的には実施場所は労基署ですが、後遺障害により来署が困難な場合等には、担当者が被災労働者の自宅を訪問する形で面談を行うことも可能です。
面談実施のタイミングとその結果の通知は個々のケースで異なりますが、面談実施は書類提出後1〜2ヶ月後、そして結果の通知は面談後1ヶ月半を目安にすると良いでしょう。
通知はハガキで行われますが、ハガキの到着よりも早く給付金が入金されることも多いようです。
面談結果の等級への影響
労災保険の後遺障害では、担当者との面談が、障害およびその等級の認定に大きな影響を与えます。場合によっては、主治医による診断書の内容よりも、この面談による被災労働者の言動や状態、労災医師による所見が重視されることもあるようです。
そのため、症状に見合った正しい障害等級認定を受けるためには、面接時の対応には十分に注意する必要があります。
労災で後遺障害認定されるためのポイント
労災で適切な後遺障害認定を受けるためには、次のポイントに注意する必要があります。
- 通院・検査を継続する
- 事故発生直後の検査記録を提出する
- 説得力のある診断書・医師の意見書を作成してもらう
上記3つのポイントについて詳しくみていきましょう。
【ポイント①】通院・検査を継続する
労災の傷病については、必ず主治医の指示に従って、通院・検査を継続するようにしましょう。自身の判断で通院を途中で辞めてしまったり検査を受けなかったりすると、治療が進まないだけでなく、医師との関係性も壊れてしまいます。
今後「治ゆ」の判断を受けたり診断書を作成してもらったりすることを考えても、医師とは良い関係を築いておくことをおすすめします。
【ポイント②】事故発生直後の検査記録を提出する
労災事故発生直後の検査記録は、労災認定の判断において非常に重要です。なぜなら、この検査記録が「労災事故が原因の傷病である」証拠となるためです。
事故から時間が経ってからの検査記録しかない場合、傷病と労災事故との因果関係が疑われてしまう可能性もあります。
この点については医師によく相談し、事故発生直後の検査記録は労災請求時に提出できるようにしておきましょう。
【ポイント③】説得力のある診断書・医師の意見書を作成してもらう
後遺障害の認定では、面談だけでなく、主治医による後遺障害診断書や意見書も重要な判断材料となります。これらの書類に説得力のある内容の記載があれば、その分後遺障害認定の可能性は高くなるでしょう。
また、診断書や意見書の作成においては、被災労働者から医師に記載してもらいたい内容を伝えておくことも大切です。医師は労災の専門家ではないため、認定の可能性を上げるためには、被災労働者の意思表示が重要になるのです。
申請結果に不服がある場合の手続き方法
「後遺障害が認定されなかった」「等級が低すぎる」など、労基署の判断に納得がいかない場合、被災労働者は「審査請求」「再審査請求」「取消訴訟」の手続きを取ることができます。
審査請求
労災請求後の労基署(署長)の決定に不服がある場合には、被災労働者は労働者災害補償保険審査官に対し、審査請求を行うことができます。その期日は、労基署の決定を知った日の翌日から3ヶ月以内。この手続きには、労働保険審査請求書の提出が必要です。
審査請求では、労基署の決定の全てまたは一部を取り消せる可能性があります。
再審査請求
審査請求の結果に不服がある場合には、被災労働者は労働保険審査会に対し、再審査請求を行うことができます。その期日は、決定書の謄本が送付された翌日から2ヶ月以内。また、審査請求から3か月経っても決定が行われない場合も、再審査請求は可能です。
再審査請求でも、原処分の全てまたは一部を取り消せる可能性があります。
取消訴訟
審査・再審査請求の結果に不服がある場合には、地方裁判所に対して取消訴訟を提起することもできます。その期日は、審査・再審査請求の決定があったことを知った日から6ヶ月以内です。
取消訴訟で判断を担うのは、裁判所です。そのため、審査・再審査請求とは異な
る判断が出る可能性が考えられます。
後遺障害等級認定のために弁護士ができること
弁護士は、正しく後遺障害等級の認定を受けるために、次のようなサポートを行うことができます。
- 障害等級の想定
- 認定のための診断書記載内容のアドバイス
- 診断書の確認と不備部分に対する医師への訂正依頼
- 自己申立書の作成のサポート
- 面談のアドバイス
ここまでご紹介してきたとおり、診断書や自己申立書、面談の内容は後遺障害等級の認定に大きな影響を与えます。弁護士は、多くの労災問題に携わってきた経験と知識から、これらの対応について適切なサポートやアドバイスを行うことが可能です。
労災で正しく後遺障害認定を受けるためには、弁護士への相談も検討しましょう。
まとめ
労災によるケガや病気の「治ゆ」後に身体に障害が残った場合、被災労働者は労災保険の障害(補償)給付を受けられる可能性があります。ただし、この給付を受けるには、規定の障害等級の認定を受けなければなりません。
この認定の判断には、労基署の面談や医師の診断書などの内容が大きく影響します。正しい認定を受けるためには、面談時の対応に注意し、診断書の作成においても医師にしっかりと意思を伝えることが大切です。
また、適切な後遺障害認定を受けるには、弁護士に相談するのもひとつの方法です。弁護士による適切なサポートを受ければ、適切な後遺障害認定を受けられる可能性は高くなり、また被災労働者自身の負担も軽減されるでしょう。