労災認定とは?給付の種類、手続き方法、認定のポイントを解説

労災で怪我や病気を被った被災労働者は、労災保険からの給付を受け取ることができます。しかしそのためには、労災給付の請求手続きを行い、労災認定を受ける必要があります。手続きを行わなかったり労災認定を受けられなかったりすれば、補償として給付を受け取ることはできません。

そこで今回は、労災給付を受け取るための基本となる、労災認定や給付手続きについて詳しくご紹介します。
認定を受けるにあたって知っておきたいポイントについても触れているので、万が一の労災に備え、チェックしておいてくださいね。

労災認定とは

労災保険からの補償を受けるには、まず労災認定を受ける必要があります。この労災認定とは何なのか解説していきましょう。

労災とは業務に起因する労働者の傷病

労災認定について知る前に、まずは労災とはどのようなものなのか知っておきましょう。
労災とは、以下のようなことを指します。

◆労災
業務に起因して発生した、労働者の怪我や疾病、死亡のこと。「業務災害」と「通勤災害」の2種類に分けられる。

◆業務災害
業務中に、業務に起因して発生した、労働者の怪我や疾病、死亡のこと。

◆通勤災害
通勤中に発生した、労働者の怪我や疾病、死亡のこと。

このような労災による労働者の怪我や疾病、死亡に対する補償を行うのが、労災保険です。労災保険は、正式名称を労働者災害補償保険と言い、労災によって治療や休業が必要になった労働者に対し、金銭補償(労災指定病院での治療や薬剤は現物支給となります)を行います。

労働者の労災保険への加入は事業主に義務付けられていて、事業主はパートやアルバイトを含む労働者を1人でも雇用していれば、その労働者を労災保険に加入させなければなりません。その保険料も事業主が負担することになっており、加入を怠った場合にはペナルティが発生する可能性もあります。

労災認定とは労働基準監督署の判断のこと

労働者が労災保険からの補償を受けるためには、「その怪我や病気、死亡が労災によるものである」ことが、労働基準監督署によって認められなくてはなりません。
この労働基準監督署の判断のことを、労災認定と呼びます。

労災保険からの給付にはいくつか種類がありますが、それぞれに給付を受けるための要件が定められています。
労働基準監督署は「その怪我や病気、死亡が労災によるものか」「各補償の要件を満たしているか」等を総合的に判断し、労災認定・不認定の判断を行い、労働者へ通知します。
労災認定が受けられれば、その労働者は労災保険の給付を受け取ることができ、不認定の場合は給付を受け取ることはできません。

つまり、被災労働者が労災保険の給付を受けられるかどうかは、労働基準監督署による労災認定次第なのです。

労災認定された際に受け取れる給付の種類

労災認定された際に、被災労働者が受け取れる労災保険の給付は、傷病の状況等によって異なります。労災保険の給付には、以下のような種類があります。

◆労災保険の給付の種類

給付の種類 内容
療養(補償)給付 労災による傷病の治療や薬剤支給、手術等、療養費用に対する補償
休業(補償)給付 労災での傷病による休業に対する補償
障害(補償)給付 労災による傷病が治ゆした後、規定の障害等級に該当する一定の障害が残った場合に支給される補償
遺族(補償)給付 労災により死亡した労働者の遺族に支給される補償
葬祭料・葬祭給付 労災により死亡した労働者の葬祭料の補償
傷病(補償)年金 療養(補償)給付を支給されている労働者の傷病が療養を始めてから1年6か月経っても治ゆせず、その傷病の程度が規定の傷病等級に該当する場合に支給される補償
介護(補償)給付 傷病(補償)年金、または障害(補償)年金を受けている被災労働者が、規定の障害・傷病等級に該当し、介護を受けている場合に支給される補償
二次健康診断等給付金 一次健康診断の結果として以上の所見が見られた場合に、精度の高い二次健康診断と保健指導を無料で受けられる制度

上記のうち、業務災害に対する給付は「〇〇補償給付」、通勤災害に対する給付は「〇〇給付」と呼ばれます。
また、それぞれの給付には要件があり、それを満たしていると労働基準監督署に判断されれば、被災労働者および遺族はその給付を受けることができます。

労災申請の手続き方法

労災認定を受け、労災保険の給付を受け取るためには、手続きが必要です。

この手続きについては、請求する給付に応じた請求書を労働基準監督署のホームページからダウンロード(労働基準監督署窓口での入手も可)し、必要事項を記入して、労働基準監督署へ提出するというのが大まかな流れになります。給付の種類によっては、事業主の証明や医師の証明、診断書等が必要になることもあるので、事前によく確認しておきましょう。
ただし、怪我や病気が発生し、療養(補償)給付を請求する時の手続きについては、労災指定病院を受診するかどうかで対応が異なるので、以下でご説明します。

労災指定病院を受診した場合の療養(補償)給付請求手続き

①労災指定病院で労災を使って治療を受ける(窓口で労災の旨伝えれば、治療費を払う必要はありません。)
②「療養の給付請求書」を用意し記入。請求書の事業主証明欄は事業主に記入してもらう。
治療を受けた労災指定病院の窓口に請求書を提出する
④労働基準監督署が労災認定すれば、治療を受けた労災指定病院に直接治療費が支払われる。

労災指定病院以外の医療機関を受診した場合の療養(補償)給付請求手続き

①労災指定病院以外の医療機関で治療を受け、治療費を支払う。(この時健康保険は使ってはいけません。)
②「療養の給付請求書」を用意し記入。請求書の事業主証明欄は事業主に、医療機関証明欄は治療を受けた医療機関に記入してもらう。
管轄の労働基準監督署に請求書を提出する。
④労働基準監督署が労災認定すれば、立て替えた治療費が後日振り込みで返金される。

労災認定のポイント

ここからは、労災認定について知っておきたい4つのポイントについて見ていきます。

1 労災認定の基準

労災認定・不認定の基準は、その事故が業務災害か通勤災害かによって異なります。それぞれの認定基準についてご説明しましょう。

業務災害の場合

業務災害における労災認定の基準とされる大きな要素が、「業務遂行性」と「業務起因性」です。

◆業務遂行性
その労働者が労働契約に基づき、事業主の支配・管理下にあること

◆業務起因性
業務と傷病・死亡に一定の因果関係が認められること

業務遂行性と業務起因性が認められた場合、その事故および労働者の傷病、死亡は業務災害として、労災認定されることになります。
逆に、これら片方または両方の要素が認められない場合の事故や傷病は、労災とは認められません。

通勤災害の場合

通勤災害における労災認定は、「その時の状況が通勤の要件を満たしているかどうか」が大きな基準となります。

◆通勤の要件
就業に際して合理的な経路・手段で行う、以下の移動。
①住居と就業の場所との間の往復
②就業の場所から他の就業の場所への移動
③住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動

通勤の要件を満たしている状況で何らかの事故に遭い、傷病を負ったり死亡したりした場合には、通勤災害として、労災認定が行われます。
ただし、合理的なルートを逸脱したり中断したりした後の移動(厚生労働省が認める日常的に必要な行為によるものを除く)については、労災の対象にはなりません。

2 解雇の制限について

事業主は、労災で休業中の労働者を自由に解雇することはできません。なぜなら、解雇制限というものがあるからです。
労働基準法では、以下のように定められています。

◆労働基準法第19条1項
「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間(中略)は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。」

条文にあるように、労災で休業中、および休業後30日間は、事業主は被災労働者を解雇することはできません。
ただし、以下のような場合には、事業主は解雇制限を受けず、被災労働者を解雇することができます。

◆事業主が解雇制限を受けない場合
・通勤災害の場合
・打切補償を支払った場合
・契約社員の雇止めの場合
・被災労働者が傷病補償年金受け取っている場合
・定年退職の場合
・やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合

このうち打切補償とは、「被災労働者が療養を開始してから3年を経過しても傷病が治らない場合、事業主が平均賃金の1200日分(打切補償)を被災労働者に支払えば、解雇が可能になる」というものです。

3 労災認定の結果に不服がある場合

労働基準監督署による労災認定の結果に不服がある場合、労働者は以下のような審査請求や再審査請求を行うことができます。

◆労働基準監督署(長)の決定に不服がある場合
手続き:審査請求
期日:決定を知った日の翌日から起算して3ヶ月以内
請求先:労働者災害補償保険審査官

◆労働者災害補償保険審査官の決定に不服がある場合
手続き:再審査請求
期日:決定書の謄本が送付された翌日から起算して2ヶ月以内
請求先:労働保険審査会

◆労働保険審査会の決定に不服がある場合
手続き:原処分の取消訴訟の提起
期日:決定があったことを知った日から6ヶ月以内(ただし、決定があった日から1年経過した場合を除く。)
請求先:地方裁判所

このように、審査請求、再審査請求でも納得のいく決定がなされない場合には、労働者は国に対し、原処分取消の訴訟を起こすことができます。

4 労災申請の期限

労災保険から補償を受けるには、前述したような請求書による申請手続きが必要です。
この申請手続きには、給付の種類ごとに以下のような期限が設けられています。

◆労災給付の申請期限

給付の種類 期限
療養(補償)給付 療養の費用を支出した日の翌日から2年(支出日ごとに請求権が発生する)
休業(補償)給付 賃金を受けない日の翌日から2年(賃金を受けない日ごとに請求権が発生する)
障害(補償)給付 傷病が治ゆした日の翌日から5年
遺族(補償)給付 労働者が亡くなった日の翌日から5年
葬祭料・葬祭給付 労働者が亡くなった日の翌日から2年
傷病(補償)年金 なし
介護(補償)給付 介護を受けた月の翌月の1日から2年
二次健康診断等給付金 一次健康診断を受診した日から3ヶ月以内

これらの期限を過ぎてしまうと、補償を受ける権利がなくなってしまうので注意してください。

まとめ

労災認定や手続き、労災認定のポイント等ご紹介しました。
労災保険から補償給付を受けるには、各種要件や手続きの流れをきちんと把握しておくことが大切です。間違った認識で補償を受けられないことがないよう、気をつけたいですね。

また、もし労災に関するトラブルに巻き込まれた場合は、労災問題に強い弁護士への相談を検討してください。弁護士のサポートによる速やかなトラブル解決は、心と体の負担を軽減することができます。
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