【介護職向け】労災になる?腰痛・利用者からの暴力・コロナ感染

少子高齢化が進むにつれ、介護職として働く方の社会における役割は、重要性を増しています。
とはいえ、介護職は体に負担がかかることが多く、人と間近で接することも多い職種です。腰痛やコロナ感染などのリスクは、他の職種に比べ高いと言えます。
では、業務で腰痛を発症したり、新型コロナウイルスに感染したりした場合、これらは労災となるのでしょうか。

今回は、介護の現場での労災について、発生状況や労災認定の可否、具体的な事例など詳しくご紹介します。

社会福祉施設における労災発生状況

社会福祉施設における労災の死傷者数(休業4日以上)は、令和2年で13,267人でした。これは、前年比3,222人・32.1%増、平成29年比4,529人・51.8%増であり、数年で大幅に増加していることがわかります。(厚生労働省『令和2年の労働災害発生状況を公表』より)
ただし、これは休業4日以上を要した労災の数字であり、休業4日未満のケースを含めると、その数はさらに大きいと予想されます。

また、社会福祉施設を、訪問系・通所系・短期入所系・居住系・施設系・多機能系の大きく6種に分けた場合、労災事故の型には次のような傾向が見られました。(厚生労働省『社会福祉施設の労働災害発生状況』より)

●訪問系・通所系施設
最も多いのが「転倒」、継いで「動作の反動・無理な動作」
●短期入所系、居住系、施設系、多機能系施設
最も多いのが「動作の反動・無理な動作」、継いで「転倒」

つまり、社会福祉施設の労災は、「転倒」もしくは「動作の反動・無理な動作」によるものが大部分を占めるのです。

近年、社会福祉施設での「転倒」「動作の反動・無理な動作」による死傷者数は増加傾向にあります。これらは長期間の休業を要する大きな傷病に繋がる恐れもあるため、従業員自身が気をつけることはもちろん、事業主による環境の安全確保も喫緊の課題です。

介護の現場でのケガや病気は、労災になる?

前章では、社会福祉施設では「転倒」「動作の反動・無理な動作」による労災が多いとご紹介しました。
この「動作の反動・無理な動作」によって、特に介護の現場で起こりやすいのが、腰痛です。では、この症状は労災となるのでしょうか。

また、介護の現場では利用者からの暴力でケガをしたり、人と近くで接することによって新型コロナウイルスに感染してしまったりといった例も見られます。
ここからは、これらの場合の労災認定の可否について解説します。

腰痛・ぎっくり腰

腰痛の労災認定については、腰痛を「災害性の原因による腰痛」と「災害性の原因によらない腰痛」に分けた上で、それぞれに認定要件が定められています。

●災害性の原因による腰痛
負傷などによる腰痛で、次の2つの要件を満たすもの
①腰の負傷またはその負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたことが明らかであること
②腰に作用した力が腰痛を発生させ、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること

●災害性の原因によらない腰痛
突発的な出来事が原因ではなく、重量物を取り扱う仕事など腰に過度の負担がかかる仕事に従事する労働者に発症した腰痛で、作業の状態や期間などから見て仕事が原因で発症したことが明らかであること
(参考:厚生労働省『腰痛の労災認定』より)

それぞれの腰痛において、上記の要件を満たした場合、その腰痛は労災だと認められることになります。
動作の反動や無理な動作による腰痛の発生が多く見られる介護職員の場合、その腰痛は「災害性の原因による腰痛」に当てはまる可能性が高いと予想されます。

また、腰痛の一種としてぎっくり腰がありますが、実はぎっくり腰は労災とは認められず、労災補償の対象にはなりません。なぜなら、ぎっくり腰は日常的な動作によって発症するものであり、災害性のある突発的な出来事や腰に過度な負担のかかる業務が原因で発生するものではないためです。

(腰痛・ぎっくり腰の労災認定については、こちらの記事で詳しく解説しています。「ぎっくり腰は労災になる?腰痛の労災認定基準について」

利用者からの暴力

介護職員が利用者から叩かれたりつねられたりといった暴力を受け、ケガを負うケースは少なくありません。
この場合、ケガを負った介護職員は業務災害として労災申請を行うことが可能です。

業務災害と認められるためには、「業務起因性(業務と被った傷病に、一定の因果関係があること)」と「業務遂行性(労働契約を結んだ事業者の支配下で起こった災害であること)」の2点を満たす必要があります。利用者から受けた暴力による介護職員のケガは、この2点を満たしていると判断できます。

また、介護の現場では、利用者からの暴言により精神障害を被る介護職員もいます。精神障害についても、労災認定を受けることは可能です。
しかし、精神障害の労災認定のための要件は厳しく、また客観的証拠も必要になるため、認定のハードルは高いという現状があります。

コロナ感染

2020年から感染が爆発的に広まった新型コロナウイルス。介護の現場ではクラスターの発生などもニュースになりました。
新型コロナウイルスの感染については、次のような場合、労災の対象となります。

・感染経路が業務によることが明らかな場合
・感染経路が不明の場合でも、感染リスクが高い業務に従事し、それにより感染した蓋然性が強い場合
・医師・看護師や介護の業務に従事される方々については、業務外で感染したことが明らかな場合を除き、原則として対象
・症状が持続し(罹患後症状があり)、療養等が必要と認められる場合も保険給付の対象
(参考:厚生労働省『職場で新型コロナウイルスに感染した方へ』より)

介護職員のコロナ感染の場合、業務外で感染したことが明らかな場合を除いて、原則として労災保険の補償対象となります。
必ず労災申請の手続きを行うようにしてください。

介護の現場での労災事例

前章をもとに、介護の現場での労災事例を2つご紹介します。

事例①

デイサービスの職員であるAさんは、トイレ介助のため利用者の体を抱きかかえて移動させていた際に、強い腰痛を発症した。
(参考:厚生労働省「職場のあんぜんサイト」労働災害事例「高齢者通所介護施設におけるトイレ介助の際、腰痛を発症した」

この事例の腰痛は、仕事中の突発的な出来事によって生じたこと、腰に作用した力が腰痛を発症させたことが明らかです。そのため、前章でご紹介した「災害性の要因による腰痛」を満たすものとして、労災認定されると考えられます。

事例②

介護職員として働くBさんは、施設で日常的にコロナ感染が疑われる複数の利用者に接していた。そんな中、Bさん自身のコロナ感染が発覚した。
(参考:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災認定事例 」

感染経路の特定には至らなかったものの、Bさんの業務の現状から、業務による感染である可能性が濃厚とされ、Bさんのコロナ感染は労災と認定されました。

労災認定されたら、支給される給付とは?

労災認定された場合に受け取ることができる労災保険の給付金には、次の8種があります。

①療養(補償)給付
②休業(補償)給付
③傷病(補償)年金
④障害(補償)給付
⑤介護(補償)給付
⑥遺族(補償)給付
⑦葬祭料・葬祭給付
⑧二次健康診断等給付

労災認定後、多くの人がまず給付を受けるのが、①療養(補償)給付と②休業(補償)給付でしょう。

(労災の給付の種類や手続き方法はこちらの記事で詳しく解説しています。「労災認定とは?給付の種類、手続き方法、認定のポイントを解説 」

①療養(補償)給付

療養(補償)給付とは、労災によって被った怪我や病気の療養に対する給付のこと。具体的には、労災による傷病の治療や薬剤の支給、手術、入院などを、現物給付またはそれにかかった費用を後から振り込む形で補償します。

療養(補償)給付は、傷病が治ゆするまで受け取ることができます。

②休業(補償)給付

休業(補償)給付とは、労災による傷病で休業を余儀なくされた場合に支給される給付金。「労災による傷病を負っていること」「労働できない状態であること」「賃金を受けていないこと」という3つを満たすことが、給付の条件となります。

休業(補償)給付は、休業して4日目から(休業して3日間は待機期間)支給され、上記3条件を満たす限り支給は続きます。

まとめ

体への負担が大きい介護職では、毎年労災が多数発生しています。無理な動作や転倒などによって体を痛めてしまえば、療養が必要になったり休業を余儀なくされたりすることもあるでしょう。
このようなリスクに備えるためには、どのようなケースが労災になるのか把握するとともに、労災保険の補償内容を確認しておくことも大切です。
万が一労災でケガや病気を被った場合には、必ず労災保険の申請を行い、補償を受けるようにしましょう。

また、もし「労災の手続きがわからない」「会社に労災を使うなと言われた」など、労災に関して不明点や悩みがある方は、一度弁護士にご相談ください。弁護士から然るべき対応のアドバイスやサポートを受け、労災に関する不安や悩みを速やかに解決しましょう。