通勤中に転倒して怪我をしたら労災?8つのケースを解説

業務中に負ったケガが労災になるということは、多くの人がご存知でしょう。作業中に機械でケガをしたり、トイレに行こうとして転倒したりした場合、それらは業務災害として労災保険の補償対象となります。

では、通勤中に転倒しケガを負った場合、それは労災になるのでしょうか。

通勤中のケガは、通勤災害として労災認定される可能性があります。
今回は、通勤に関する具体的な事例をご紹介し、それが労災になるかどうか解説していきます。

通勤災害(通勤労災)とは

労災は、通勤災害と業務災害の2種類に分けられます。

●通勤災害・・・労働者が通勤時に負った傷病のこと
●業務災害・・・労働者が業務中に負った傷病のこと

通勤災害とは、主に自宅から勤務先までの移動において、労働者が被ったケガや病気、死亡などのことを指します。
通勤災害として労災認定を受けるためには、傷病を負った時の状況が次の通勤の定義を満たしていなければなりません。

【通勤の定義】
労働者が就業に際して、合理的な経路・方法によって、次のような移動を行うこと。ただし、業務の性質を有するものを除く。

①住居と就業の場所との間の往復
②厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
③第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(転任や別居の直前の住居への移動など)
(『労働災害補償保健法 第7条』より)

ここで重要なのは、通勤は合理的な経路・方法でなければならない点です。
寄り道や回り道など非合理的な移動は通勤とはならず、その移動中の傷病は労災になりません。

通勤中に転倒して怪我をしたら労災?ケース別に解説

では、具体的にどのようなケースが通勤災害になるのでしょうか。
ここからは、具体的なケースを挙げ、それが通勤災害を中心とした労災になるのかどうか解説していきます。

①出社準備中に自宅内で転倒した場合

通勤とは「住居と就業の場所との間の往復」のことで、通勤経路で負ったケガは通勤災害となります。
この通勤経路とは、住居から出て会社に入るまでの道筋のことを指します。住居内は通勤経路ではなく、住居から出ていない状態は通勤にはあたりません。

出社準備中に自宅内で転倒してケガを負った場合、それは通勤中のケガではなく、労災(通勤災害)にはなりません。

②自宅アパートの階段で転倒した場合

このケースに関して押さえておきたいのが、通勤経路の境界線についてです。
住居と通勤経路の境界線は、次のようになります。

一戸建て・・・自宅の敷地が境界線(敷地内は住居、敷地外は通勤経路)
アパート・マンション・・・玄関のドアが境界線(ドア内は住居、ドア外は通勤経路)
会社・・・会社の敷地が境界線(敷地内は就業の場所、敷地外は通勤経路)

上記を踏まえると、自宅アパートの階段で転倒してケガをした場合、それは労災(通勤災害)と認められる可能性が高いです。アパートの場合、ドアを出ればそこは通勤経路となるためです。

③通勤中、駅の階段で転倒した場合

この場合のケガは通勤災害として労災認定される可能性が高いです。
その駅が通勤の合理的な経路上にあり、さらに電車での移動が合理的な移動方法であれば、通勤災害となるでしょう。

しかし、友人宅や私的な旅行先などから出社した場合などに、自宅から勤務先までの合理的な通勤経路にはない駅で転倒した場合には、労災認定は難しくなります。

④通勤中、雪ですべって転倒した場合

通勤中に雪ですべって転倒した場合、そのケガは通勤災害として労災認定される可能性が高いです。ただし、合理的な通勤経路上での転倒によるケガに限ります。

雪による通勤中の転倒は、毎年特に雪国で多く発生しています。横断歩道や店舗の入り口の前、マンホールの上、バスの乗降場所などは特に転倒が起きやすいため、地方労働局も注意喚起を行っています。

⑤自転車で通勤中に転倒した場合

自転車での通勤中に転倒してケガを負った場合、それが合理的な通勤経路上での出来事であれば、労災認定される可能性は高いです。

また、自転車関連の労災については、会社が自転車通勤を認めていないのに自転車で通勤していて転倒したというケースもあるでしょう。しかし、労災の認定において、会社が通勤手段として認めていたかどうかは関係ありません。労災の認定・非認定は、状況を総合的に鑑みて、労働基準監督署が決定します。
そのため、会社が認めていない自転車通勤で転倒しケガを負った場合でも、労働基準監督署によってそれが合理的な経路・方法だと認められた場合には、労災認定される可能性があります。

(自転車通勤でのケガの労災認定については、こちらの記事で詳しく解説しています。「自転車通勤中の事故で怪我をしたら労災になるのか?」

⑥会社内の階段で転倒した場合

②の事例でもご紹介しましたが、通勤経路と会社の境界線は会社の敷地であり、会社の敷地内は就業の場所、会社の敷地外は通勤経路と判断されます。
つまり、会社内の階段は通勤経路ではなく、このケガは通勤災害にはなりません。代わりに、事業者の支配下で起こった事故として、業務災害として労災認定される可能性が高いと考えられます。

⑦仕事帰りに食事をして、その後帰宅途中に転倒した場合

通常、通勤経路を逸脱・中断した場合、逸脱・中断の間やその後の移動は通勤とは認められません。例えば、退勤後友人と飲みに行ったり、映画館に寄ったりして、居酒屋や映画館の帰りに事故にあったとしても、そのケガは労災とは認められないのです。

しかし、「日常生活上必要な行為」については、逸脱・中断の間を除き、その後通勤経路を戻った後は通勤と認めることが定められています。
仕事帰りの食事は、「日常生活上必要な行為」にあたる可能性があります。ただし、普段は自宅で食事をしている場合などでは、仕事帰りの食事が「日常生活上必要な行為」とは認められず、労災認定が降りないことも考えられます。

⑧出張先へ移動中に転倒した場合

労働災害補償保健法では「通勤」について、「業務の性質を有するものを除く」と定められています。
出張は、移動から実務を含め、その全体が業務の性質を有するものだと考えられます。そのため、出張先へ移動中の転倒は、通勤中ではなく業務中の事故と判断され、そのケガは業務災害となる可能性が高いです。

労災で補償される給付内容

労災で補償される給付金には、次のような種類があります。

療養(補償)給付・・・労災による傷病(治療や手術など)の療養に対する給付金
休業(補償)給付・・・労災による休業に対する給付金
傷病(補償)年金・・・傷病が療養開始から1年6か月経っても治ゆせず、その程度が傷病等級に該当する場合に支給される給付金
障害(補償)給付・・・労災による傷病が治ゆした後、障害等級に該当する障害が身体に残った場合に支給される給付金
介護(補償)給付・・・傷病(補償)年金、または障害(補償)年金を受けている労働者が、障害・傷病等級に該当し、介護を受けている場合に支給される給付金
遺族(補償)給付・・・労災によって死亡した労働者の遺族に支払われる給付金
葬祭料・葬祭給付・・・労災によって死亡した労働者の葬祭料

傷病の状態によって、受け取れる給付金の種類やその内容は異なります。
申請書類もそれぞれの給付金によって異なるので、自身が請求する給付金用の申請書類を間違えないよう気をつけてください。

(労災の給付の種類や手続きについては、こちらの記事で詳しく解説しています。「労災認定とは?給付の種類、手続き方法、認定のポイントを解説」

まとめ

通勤中に労働者が被った傷病は通勤災害として労災認定される可能性があります。
ただし、今回ご紹介した複数のケースからもわかるように、通勤災害と認められるかどうかはケースバイケースです。それぞれの状況によって、労災認定の判断は異なります。
この判断は労働基準監督署が行うので、会社側の判断によって労災申請をあきらめることのないよう注意してください。

とはいえ、会社側が被災労働者の労災申請に消極的であったり労災を申請させなかったりするケースも少なくはありません。労災保険を使わせず意図的に労災の発生を隠すような行為は、「労災隠し」という違法行為にあたる可能性もあります。
トラブルに巻き込まれた場合には、まず弁護士に相談し、法律の観点からトラブル解決を目指しましょう。