【労災(労働災害)】業務災害と通勤災害の違いとは?

業務災害と通勤災害の違いは、簡単に言うと「就業中の労災か、通勤中の労災か」という点にあります。
就業中の労災を業務災害、通勤中の労災を通勤災害と呼ぶのですね。
ただし、違いはそれだけではありません。労災と認められるための要件や補償申請の手続きについても、異なる部分はあります。

そこで今回は、業務災害と通勤災害の違いについて詳しく解説していきます。

業務災害・通勤災害の定義

まずは、業務災害と通勤災害について、定義と労災認定のための要件の違いを見ていきましょう。

業務災害の定義

厚生労働省では、業務災害の定義を次のように定めています。

●業務災害・・・業務上の事由による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡

この定義にある「業務上」という文言を満たすためには、労災が起きた時の状況に次の2点の要件が認められなくてはなりません。

①業務起因性・・・業務と被った傷病に、一定の因果関係があること
②業務遂行性・・・労働契約を結んだ事業者の支配下で起こった災害であること

つまり、「業務起因性」と「業務遂行性」を満たした状況での災害により被った傷病が、業務災害であると認められるのです。業務災害が認められた場合、その被災労働者は、労災保険による補償を受けることができます。

通勤災害の定義

次に、通勤災害の定義について見ていきましょう。
厚生労働省では、通勤災害の定義を次のように定めています。

●通勤災害・・・通勤による労働者の傷病

通勤災害の認定を受けるには、「通勤」の定義を満たさなくてはなりません。「通勤」の定義は、労働者災害補償保険法によって次のように定められています。

通勤とは、労働者が就業に際して、合理的な経路・方法によって、次のような移動を行うこと。ただし、業務の性質を有するものを除く。

①住居と就業の場所との間の往復
②厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
③第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(転任や別居の直前の住居への移動など)
(『労働災害補償保健法 第7条』より)

通勤の定義を満たすにあたって重要なのは、自宅と職場、または他の職場への移動にあたって、「合理的な経路・方法」を取ることです。
寄り道したり遠回りしたりした場合、それは合理的ではなく、通勤とは認められません。
労働者災害補償保険法では、労働者が移動の経路を逸脱・中断した場合、逸脱・中断の間とその後の移動は「通勤」と認めないと定めています。

つまり、通勤災害が認められるのは、自宅と職場(または別の職場)などの移動を合理的な経路・方法で行っていた場合に負った傷病のみです。合理的経路の逸脱・中断後に負った傷病は、通勤災害とは認められないのです。

ただし、厚生労働省により定められた次のような行為については、逸脱・中断の間を除き、その後合理的経路に戻った時から再び「通勤」と判断されます。

①日用品の購入その他これに準ずる行為
②職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
③選挙権の行使その他これに準ずる行為
④病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
⑤要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護
(参考:厚生労働省『労災保険給付の概要』より)

業務災害と通勤災害の違い

業務災害と通勤災害には、定義以外にも次のような違いがあります。

・給付の名称
・待機期間の休業補償
・解雇制限
・休業給付の負担金200円
・申請用紙

補償の内容や手続きにどのような違いがあるか、詳しく見ていきましょう。

給付の名称

業務災害と通勤災害では、労災保険から補償される給付金の名称自体が次のように異なります。

業務災害通勤災害
療養補償給付療養給付
休業補償給付休業給付
傷病補償年金傷病年金
障害補償給付障害給付
介護補償給付介護給付
遺族補償給付遺族給付
葬祭料葬祭給付
二次健康診断等給付

基本的には、名称に「補償」の文字が入るのは業務災害の給付、入らないのが通勤災害の給付だと考えてください。

待機期間の休業補償

休業補償給付・休業給付を受ける場合、休業した日から3日目までは待機期間となります。この3日間は、労災保険からの給付を受けられません。

この待機期間については、業務災害の場合には事業主が休業補償(1日につき平均賃金の60%)を行うことになっています。
しかし、通勤災害における事業主による待機期間の休業補償は法律で規定されておらず、事業主には待機期間の休業補償を支払う義務がありません。そのため、通勤災害の被災労働者は、待機期間の休業補償を受けられないことが多いので気をつけてください。

解雇制限

労働基準法には、次のような項目があります。

使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間(中略)解雇してはならない
(『労働基準法第19条 解雇制限』より)

これを解雇制限と呼びますが、ここで注意したいのが、「業務上」という文言がある点です。
つまり、この解雇制限は業務災害の場合にのみ適用されるものなのです。
そのため、通勤災害の場合には解雇制限はありません。事業主は期間に関係なく、従業員を解雇することができます(就業規則に基づいた休職期間の休職は可能)。

また、業務災害であっても、事業主が被災労働者に打切補償を支払う場合や天災事変などのやむを得ない事由で事業継続ができなくなった場合には、解雇制限は適用されません。

休業給付の負担金200円

通勤災害で休業給付を受け取る時には、被災労働者に一部負担金が発生します。
その額は、通常200円(健康保険の日雇特例被保険者は100円)で、給付金から差し引かれる形になります。

この一部負担金は、業務災害による休業補償給付の場合には発生しません。

申請用紙

前述の通り、業務災害と通勤災害で、労災保険の給付金の名称は違います。よって、給付金請求の際に用意する申請用紙も次のように異なります。

 業務災害通勤災害
療養(補償)給付療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第5号もしくは7号)療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の3もしくは第16号の5)
休業(補償)給付休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書(様式第8号)休業給付支給請求書(様式16号の6)
傷病(補償)年金傷病の状態等に関する届(様式16号の2)
障害(補償)給付障害補償給付支給請求書(様式第10号)障害給付支給請求書(様式第16号の7)
介護(補償)給付介護補償給付・介護給付支給請求書(様式第16号の2の2)
遺族(補償)給付遺族補償年金支給請求書(様式第12号)遺族年金支給請求書(様式第16号の8)
葬祭料・葬祭給付葬祭料請求書 (様式第16号)葬祭給付請求書 (様式第16号の10)
二次健康診断等給付二次健康診断等給付請求書(様式第16号の10の2)

労災の給付金申請の際には、これらの申請書類を管轄の労働基準監督署に提出することになります。
間違った申請書類では申請を受け付けてもらえないため、注意してください。

厚生労働省の労災関係の申請用紙がダウンロードできるページはこちらです。厚生労働省「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」

まとめ

労災は、業務中に被った傷病を指す「業務災害」と通勤中に被った傷病を指す「通勤災害」の2種類に分けられます。これらは定義や認定要件が異なり、また労災保険の給付にあたっての対応や手続きにも違いがあります。

特に気をつけておきたいのが、待機期間や解雇制限の扱いについてです。業務災害と違い、通勤災害には待機期間中の補償や解雇制限がありません。生活を安定させるためにも、補償が少なくなるリスクや解雇のリスクについては、事前に把握しておく必要があります。

また、労災については手続きの不明点やトラブルに悩む方が少なくありません。労災問題でお悩みの方は、一度弁護士にご相談ください。
労災問題に強い弁護士のサポートを受ければ、速やかな問題解決を目指せます。