通勤中のケガは労災がおりない!?労災にならないケースを解説

労災には、2つの種類があります。それが、業務中に発生した労災を指す「業務災害」と通勤中に発生した労災を指す「通勤災害」です。
業務災害と通勤災害には、それぞれ労災と認定されるための条件が定められており、それを満たすことで労災保険の補償を受けることができます。逆を言うと、要件を満たさない場合の傷病については、労災保険の補償はおりません。

では、労災がおりないケースとは、具体的にどのようなケースなのでしょうか。

今回は労災の中でも通勤災害について、労災認定の条件や労災がおりないケースをご紹介します。

通勤中のケガが労災認定される条件

労働者が通勤中に負ったケガは、通勤災害として労災の対象となる可能性があります。
通勤中のケガが労災認定されるかどうかは、「その時の状況が通勤にあたるかどうか」で決まります。この場合の通勤とは、労災保険法で定められている次のようなことを指します。

“通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
一 住居と就業の場所との間の往復
二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動”
(『労働者災害補償保険法第7条②』より)

合理的な経路や方法を取っていない場合や住居と就業場所の移動の間にどこかへ立ち寄っている場合などは、上記条件を満たさない場合は、通勤にはあたりません。労働者が合理的な通勤経路を逸脱したり、移動を中断したりした場合、逸脱・中断の間、およびその後の移動は「通勤ではない」ということになります。

ただし、厚生労働省が日常生活上必要な行為と定める次のような行為については、通勤の逸脱・中断の間を除き、その後合理的な通勤経路に戻った場合は再び「通勤である」と認められます。

厚生労働省が定める日常生活上必要な行為
① 日用品の購入その他これに準ずる行為
② 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
③ 選挙権の行使その他これに準ずる行為
④ 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
(厚生労働省 東京労働局『通勤災害について』より)

このような通勤の条件を満たした状況で、労働者が負ったケガは労災と認定されます。
逆に通勤の条件を満たさないと判断された場合、そのケガは労災とは認められません。

(通勤災害については、こちらの記事で詳しく解説しています。「通勤災害(通勤労災)とは?通勤中の怪我に労災は使えるのか?」

通勤中のケガが労災にならないケース

前述の通勤災害の条件を踏まえ、通勤中に負ったケガが労災にならないと考えられる具体的なケースを挙げていきましょう。

ケース1 趣味の寄り道中のケガ

就業後、通勤経路にある映画館に寄って映画を鑑賞し、その帰りに事故に遭って救急車で運ばれた。

【解説】
映画鑑賞は趣味であり、「日常生活上必要な行為」にはあたりません。
そのため、映画鑑賞後に元の通勤経路に戻ってから事故にあったとしても、通勤の逸脱・中断後のものとして、そのケガは労災とは認められないと考えられます。

ケース2 コンビニ内でのケガ

会社から帰宅中、日用品の購入のため、通勤経路の途中にあるコンビニに立ち寄った。当時は雨でコンビニの床が濡れており、滑って転倒し骨折した。

【解説】
日用品購入のための通勤経路の途中にあるコンビニへの立ち寄りは、厚生労働省の定める「日常生活上必要な行為」にあたります。そのため、コンビニへの立ち寄り後、通勤経路に戻ってからは「通勤」と判定されます。
しかし、通勤中断中であるコンビニ内での行動は「通勤外」です。その際のケガは労災にならないと考えられます。

ケース3 業務終了後に歓談後のケガ

業務が終わってから、同僚と社内で数時間歓談してから帰宅した。その帰宅途中、駅の階段から落下し、ケガを負った。

【解説】
業務終了後に数時間に及ぶ歓談をしていたとなると、その後の帰宅については就業との関連性が失われていると判断されてしまいます。そのため、数時間の歓談後の帰宅は通勤とは認められず、そのケガは労災認定されない可能性が高いです。
ただし、「どれくらいの時間の歓談なら就業との関連性が失われないのか」については、ケースによって判断が異なります。

ケース4 友人宅からの出社中のケガ

前日に友人宅に泊まり、そこから出社する途中で事故に遭ってケガをした。

【解説】
友人宅は通勤の定義にある「住居」にはあたりません。そのため、友人宅からの出社は「通勤」にはあたらず、この場合のケガは労災にならないと考えられます。
ただし、合理的なやむを得ない理由により友人宅に泊まり、その旨を会社も了承済みである場合には、通勤災害と認められる可能性もあります。

ケース5 帰宅中に一駅分歩いた場合のケガ

健康増進のため、会社から帰宅中に最寄り駅の一駅手前で下車し、ウォーキングしながら自宅へ帰った。その途中で自転車と接触し、ケガを負った。

【解説】
最寄り駅の一駅手前から歩いて帰ることは、合理的な経路・方法とは言えません。そのためこのケースは「通勤」とはならず、ケガが労災認定される可能性は低いです。
ただし、事故や災害による電車の運行停止やダイヤの乱れなどで徒歩での帰宅を余儀なくされた場合には、「通勤」と認められるでしょう。

ケース6 自宅敷地内のケガ

冬の寒い日に、通勤のために車に乗ろうとして、凍結していた自宅車庫の床で転倒し、足を負傷した。

【解説】
自宅敷地内である車庫は、住居にあたります。そのため、住居から出ていないこの状況は「通勤」とはならず、労災認定はされません。戸建て住宅に住んでいる場合、自宅の敷地から出ているかどうかが、通勤と判断されるかどうかの基準になります。

ただし、アパートやマンションに住んでいて、玄関から出てアパートやマンションの共用部分である階段で転倒した場合などは、労災と認定される可能性が高いです。アパートやマンションにおいては、玄関が境界部となると考えて良いでしょう。

こういうケースは要注意!会社からこう言われたら

通勤災害による労災申請を申し出て、会社から次のように言われることがあります。

「通勤中の怪我は労災にならない」
「アルバイトだから労災にならない」
「自転車通勤の申請がされていないから労災にならない」
「労災は使わないでほしい」

会社からこのように言われても、労災申請を諦める必要はありません。
そもそも、通勤中のケガは労災になります。
また、労災保険の対象者は全ての労働者であり、雇用形態は関係ありません。アルバイトもパートも、正社員同様、労災時には労災保険が適用されます。
また、申請なしに自転車通勤をしていた場合のケガでも、その経路や方法が合理的なものであれば、労災認定される可能性が高いです。

(自転車通勤中のケガについては、こちらの記事で詳しく解説しています。「自転車通勤中の事故で怪我をしたら労災になるのか?」

労災発生率の上昇による保険料のアップや会社のイメージ低下を防ぐため、労災保険の使用を嫌がる会社は少なくありません。
しかし、万が一の労災のために掛けている保険を、労災時に使用しないというのもおかしな話です。労災に遭った労働者は、会社に遠慮することなく、労災申請を行って構いません。
会社が手続きをしてくれない場合、自身で請求書類を作成し、労働基準監督署へ提出しましょう。

申請したが、労災認定されなかった場合

労災申請を行なったものの、労災認定されなかった場合、その後労働者がとるべき対応には次の2つがあります。

①健康保険への切り替え
②不服申し立て

詳しく見ていきましょう。

①健康保険への切り替え

労災認定されず、労災保険の補償を受けられない場合、ケガの医療費の支払いについて健康保険への切り替えが必要です。
労災が認定されなかった医療費については労働者本人に請求がいくので、医療機関および健康保険組合に問い合わせを行い、健康保険への切り替えを申し込んでください。健康保険が適用されれば、医療費の自己負担は3割で済みます。

②不服申し立て

労災不認定の判断に不服がある場合には、労働者は不服申し立てを行うことが可能です。
その場合、3ヶ月以内に労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行うことになります。この審査請求に不服がある場合には労働保険審査会に対する再審査請求を、さらに地方裁判所への取消訴訟を提起することも可能です。

(労災認定されなかった場合の対処法については、こちらの記事で詳しく解説しています。「労災が認められなかった場合、どうすればいいか?」

まとめ

通勤災害の認定は、「通勤」の条件を満たすかどうかで判断されます。私的行為により、通勤に就業との関連性がなくなった場合、その状況において発生したケガは労災(通勤災害)にはなりません。

労災の判断はケースバイケースです。
しかし、どのようなケースが通勤災害となり、どのようなケースは通勤災害とならないかという事例を把握しておくことは、通勤時の行動の指針になるでしょう。

また、会社が労災の使用を認めない場合でも、ケガを負った労働者自身が手続きを行うことで、労災保険の補償を受けることは可能です。会社が労災を隠そうとする場合、労災隠しという犯罪にあたる可能性もあります。
このような場合には、一度弁護士にご相談ください。弁護士により、労災申請の手続きや会社への対応のサポート受ければ、労災トラブルは早期解決が可能になります。