機械に巻き込まれたり、倒れた荷物の下敷きになったり、異物が飛んできたりと、業務中の事故で従業員がケガを負い、労災となるケースは少なくありません。中には、労災事故の結果、被災労働者が片目を失明してしまったというケースも存在します。
失明は、その人の今後の人生に大きく影響する深刻な症状です。
では、労災で片目を失明してしまった場合には、労災保険による補償のほかに、どのようなお金を請求できるのでしょうか。
今回は、労災による片目失明時の損害賠償請求金額について、請求できる・できないケースの説明を交えながら、わかりやすく解説します。
目次
片目失明後、会社に約6,600万円請求した事例
まずは、労働者が労災で片目を失明し、そのことについて会社の責任を問い、損害賠償請求を行った事例をご紹介します。
【概要】
Aは、国から委託を受けた元請会社の命を受け、下請会社の派遣社員として多摩川の堤防沿いの除草作業を行っていた。その作業中、他の作業員の刈払機によって飛散した石がAの左眼に当たり、Aは左眼を失明することとなった。
この事故について、Aは会社側の債務不履行・不法行為を指摘し、約6,600万円の損害賠償を請求した。
【詳しい状況】
- 下請・元請会社は刈払機による異物飛散の危険性を周知徹底させていなかった
- ゴーグルを購入・用意していたものの、作業中のゴーグルの着用を強制せず、各派遣元リーダーに判断を委ねていた
- 下請・元請会社は新規入場者教育や安全管理ミーティングを行なっていたとしているが、その実態は明確に確認できるものではなかった
【判決】
上記のことから、下請・元請会社は注意義務を十分に果たしていなかったと判断できる。結果として、裁判所は「下請・元請会社には安全配慮義務違反または使用者責任に基づく不法行為があった」と判断し、下請・元請会社に対し約4,800万円の損害賠償の支払いを命じた。
(参考:公益社団法人全国労働基準関係団体連合会 労働基準関係判例検索 「北川建設・南野興業事件」)
片目を失明した場合の請求額目安(年収500万円40歳の場合)
ここからは、業務に起因した事故によって労働者が片目を失明した場合に、会社に請求できる損害賠償の金額の目安を解説します。
今回は、年収500万円・40歳の労働者が、業務中に片目を失明(もう片方の目は無事)し、3ヵ月休業後・6ヵ月通院したケースについてご紹介します。
後遺障害逸失利益:約4,123万円
後遺障害逸失利益とは、「事故の後遺障害により、本来得られるはずであったのに得られなくなった利益」のことを指します。
後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出するのが一般的です。
【後遺障害逸失利益の計算式】
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
後遺障害には状態による等級が定められていて、等級によって損害賠償の金額の目安は異なります。片目失明は障害等級8級に該当し、労働能力喪失率は45%となります。また40歳(症状固定時)の労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表」より)は、18.327となります。
すると、このケースにおける後遺障害逸失利益の計算式は
「5,000,000円×0.45×18.327=41,235,750円」
となるため、請求可能金額は約4,123万円が目安になります。
後遺障害慰謝料:約830万円
後遺障害慰謝料とは、「事故により後遺障害が残ってしまったことに対する精神的苦痛」に支払われる損害賠償です。
片目の失明の場合、障害等級は第8級となり、その慰謝料の弁護士基準額は約830万円です。
入通院慰謝料:約116万円
入通院慰謝料とは、「傷病によって入院や通院を余儀なくされた精神的苦痛に対する慰謝料」を指します。
通院6ヶ月の今回のケースの場合、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」から算出すると、慰謝料の基準額は約116万円(目安)となります。
休業損害金:約123万円
休業損害金とは、「傷病によって休業したために減少した収入」に対する損害賠償です。
休業損害金は、以下の計算式で算出します。
【休業損害金の計算式】
基礎収入日額 × 休業日数
今回のケースでは、基礎収入日額は13,699円(500万円÷365日)、休業日数は90日(3ヶ月)なので、計算式は
「13,699円×90日=1,232,910円」
つまり、休業損害金の目安は約123万円です。
合計:約5,192万円
ここまで計算した以下の4項目を合算して、上記条件において片目失明時に請求できる損害賠償の金額は約5,192万円(目安)となります。
- 後遺障害逸失利益:約4,123万円
- 後遺障害慰謝料:約830万円
- 入通院慰謝料:約116万円
- 休業損害金:約123万円
※上記はあくまで目安であり、ケースによって実際に請求できる金額は異なります。
会社へ損害賠償請求ができるケース
労災事故について会社へ損害賠償を請求できるのは、会社に労災事故の法的根拠(債務不履行・不法行為)に基づく責任が認められる場合に限られます。
主な例としては、以下のような法的根拠が挙げられます。
- 安全配慮義務違反(会社が従業員の安全に配慮する義務を果たさないこと)
- 使用者責任(会社が雇用する従業員が第三者に損害を与えた場合、会社もその賠償責任を負うもの)
- 工作物責任(敷地内の工作物の瑕疵によって第三者に損害を与えた場合、その占有者または所有者が賠償責任を負うもの)
1章でご紹介した事例のように、安全のための指導や環境整備が不十分であったことが労災事故の原因であった場合には、被災労働者は会社の安全配慮義務違反を問うことができます。
また、同僚のミスや不注意により機械に巻き込まれてケガをしたり荷物の下敷きになったりした場合には、会社は使用者責任に基づき賠償責任を負うことになります。さらに、事業所内の階段の手すりが壊れて落下したり棚が倒れてきたりした場合には、工作物責任に基づき賠償責任を負うことになります。
ただし「法的責任を問い損害賠償を請求できるか」は、法律と過去の判例を踏まえ、ケースごとに判断する必要があります。具体的な判断については、労災無料相談センターにお問い合わせください。
請求には「時効」がある
損害賠償請求には時効がある点に注意が必要です。債務不履行、不法行為に基づく損害賠償請求の時効は、以下のとおりです。
【債務不履行(安全配慮義務違反等)の時効】
- 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
- 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき
- (生命・身体の侵害の場合)権利を行使することができる時から20年間行使しないとき
(e-Gov法令検索「民法第166条及び167条」より)
【不法行為(使用者責任・工作物責任等)の時効】
- 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないとき
- 不法行為の時から20年間行使しないとき
(e-Gov法令検索「民法第724条の2」より)
それぞれ上記のいずれかが経過した場合、時効となり、請求権は消滅します。請求権の消滅を避けるためにも、損害賠償請求の手続きはなるべく早く進めるよう意識しましょう。
また、事故から申請までに時間が空いてしまうと、調査時に関係者が退職してしまっていたなどして、損害賠償請求に必要な証拠を取れなくなってしまう可能性が高くなります。損害賠償だけでなく労災保険についても、請求に時効があり、証拠が必要になる可能性もあるため、同様の理由で早めに手続きを進めた方が良いでしょう。
まずはお早めに、労災無料相談センターへご相談ください。
まずは労災無料相談センターへ相談を
労災保険による補償と違い、慰謝料や損害賠償は、労働者が自ら会社に対して請求しなければ受け取ることができません。しかし、「そもそも自分のケースで慰謝料や損害賠償を請求できるのか」「請求できるとして、いくらくらいが見込めるのか」を、ご自身だけで判断するのは簡単ではありません。
こうしたお悩みは、一度、専門家である第三者に相談してみることをおすすめします。
労災無料相談センターでは、労災にともなう損害賠償請求に関するご相談を無料で受け付けています。
弁護士が、次のような点について具体的にアドバイスします。
・会社にどの程度の損害賠償を請求できる見込みがあるか
・会社側に安全配慮義務違反などの落ち度が認められそうか
・実際に請求を進める場合、どのような手続きを踏めばよいか
損害賠償請求には時効があり、時間の経過とともに証拠集めが難しくなることもあります。「請求できるか分からない」という段階でも構いませんので、まずはお気軽にご相談ください。

