労災事故に警察が介入するケースはある?労働者が知っておくべき解決までの流れを解説

業務に関連した事故によって労働者が負った傷病を「労働災害(労災)」と呼びます。
労災については、基本的に労働基準監督署がその管理を行います。労災申請を受けて調査し、労災認定・非認定を決定し、労災補償を支給するのは労基署の役目。さらに、労基署は労災関連の相談も受け付けます。
一般的なトラブルは警察が介入することが多いですが、労災関連のトラブルは労基署が担当します。

では、労災事故にあたって、労基署ではなく、警察が介入することはあるのでしょうか。またそれはどのようなケースなのでしょうか。

今回は、労災事故と警察の役割について解説します。

労災事故で警察が介入するケースはある?

労災事故は、基本的に労基署の管轄です。しかし、重大な事故の場合には警察が介入することもあります。

警察には社会の治安を維持するという役割があります。ですので、労災事故において事件性があると疑われるケースには警察が介入します。

このような事故では、通報を受けた警察は現場に駆け付け、事故の捜査や責任の追及などを行います。
労災事故に警察が介入する可能性が高いケースは以下の3つです。

  1. 被災者が死亡、または重い後遺障害を残す可能性がある重篤な災害
  2. 3人以上が被災する重大災害
  3. 有毒ガスなど、特別な状況下で発生する特殊な災害

労災における重大災害とは、3人以上の労働者がケガや病気を負った事故、または死亡者が出た事故のこと。上記以外のケースでも、故意の事故や危険性の高い事故には、警察が介入します。

警察と労働基準監督署の役割

労災事故における、警察の役割は労基署とは大きく異なります。というのも、警察だけでは、労災事故は解決しません。
ですので、警察と労働基準監督署の役割の違いについて確認していきましょう。

警察法によると、警察は次のような役割を持っています。

【警察の役割】
個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ること
(e-Gov法令検索 警察法第2条

一方の労基署は、次のような役割を持っています。

【労働基準監督署の役割】
各種労働関連法への違反の有無の調査やその是正、再発指導などを行い、労働者の安心・安全を守ること

警察の役割は、あらゆる犯罪や事故について捜査を行い、その犯人の責任を追求することにあります。労災事故の場合であれば、その事故を起こした個人について捜査し、必要に応じて鎮圧・逮捕することになるでしょう。

一方の労基署は、労働関連の法令に基づいて事業主を監督し、必要に応じて処罰を行います。労働者を劣悪な環境で働かせていた会社や労災隠しを行なっていた会社などは、労基署による指導や処罰を受けることになるでしょう。
また、労基署は労災保険の手続き全般も担います。

このように、警察と労基署は役割もその対象も異なります。

【労働者がやるべきこと】労災で警察に通報する際の流れ

重大な労災事故が発生した場合の警察への通報や労災手続きの流れは次のとおりです。

  1. 労災事故発生
  2. 警察に通報
  3. 労災指定病院で治療する
  4. 労災保険給付申請
  5. 損害賠償請求

それぞれの手順について解説します。

①労災事故発生

労災事故が発生したら、まずは事実確認や会社への連絡、ケガの処置などを行います。ケガの度合いによっては、救急車の要請も必要でしょう。
被災労働者自身による対処が難しい場合には、周りの人間がこれらの対応を速やかに行います。

この時、現場の物はなるべく触らず保存し、警察の捜査に備えるようにしてください。また、可能であれば、発生時の状況を整理しておくようと良いでしょう。

②警察に通報

重大な労災事故が発生した場合には、警察にも速やかに通報を行います。特に次のような場合であれば、必ず警察に介入してもらうべきでしょう。

  • 被害が甚大な場合
  • 故意による事故の場合
  • 危険が継続している場合
  • 事故の原因特定が難しい場合 など

迷った場合には、とりあえず通報することをおすすめします。危険を小さく見積もって通報しなかったことで、後から被害が拡大する恐れもあるためです。

③労災指定病院で治療する

労災事故でケガを負った被災労働者は、医療機関で治療を受けなければなりません。
この時受診する医療機関は、労災指定病院を選ぶようにしてください。労災指定病院であれば、被災労働者は無料で治療を受けられます。

労災指定以外の病院でも治療は可能ですが、その場合には、一時的な治療費の立て替えが発生します。その後の手続きも少し複雑になるので、被災労働者自身の負担を軽減するためには、労災指定病院を受診した方が良いでしょう。

労災時の医療費の支払い方法については「【ケース別】労災で受診した場合の支払い方法|労災指定病院とは?」で詳しくご説明しています。

④労災保険給付申請

労災による傷病は、労災保険で補償されます。例えば、治療や投薬にかかった費用は「療養補償給付」で補償されますし、労災による休業は「休業補償給付」で補償されます。

このような補償を受けるためには、労災保険の給付申請手続きが必要です。手続きは会社側が代理で行うことが多いですが、会社が手続きに協力的でない場合には、被災労働者自身が手続きを行うと良いでしょう。

手続きに際しては、該当する給付金の請求書を作成し、必要書類とともに労基署に提出することになります。書類の不備は給付の遅れに繋がるので、よく確認するように
してください。

⑤損害賠償請求

労災については、会社や第三者に対して損害賠償を請求できる場合があります。

損害賠償請求が可能なのは、労災事故の発生に際して、会社や第三者の法的責任が認められる場合です。
損害賠償では、労災保険では補償されない入通院や後遺障害、死亡などについての慰謝料も請求することができます。十分な補償を受けるためには、この手続きも検討すべきでしょう。

また、損害賠償請求を行う場合には、弁護士に相談するようにしましょう。損害賠償請求の手続きは複雑ですが、弁護士に依頼すれば、これを代理で任せることができます。
示談交渉や交渉が決裂した場合の裁判においても、流れを有利に進めるためには弁護士の力が必要でしょう。

労災事故における会社側の責任義務

労災事故では、会社が大きな責任義務を負います。警察が介入した場合の対応も、労基署への届出も基本的には会社が行わなければなりません。

労災事故が発生した場合に会社が負う責任義務には、次のようなものがあります。

  • 現場対応
  • 事故状況の把握と原因調査
  • 労働基準監督署への届出
  • 再発防止策の検討と実施

上記4つの義務について詳しくみていきましょう。

現場対応

万が一労災が発生したら、その場にいる会社の責任者はもちろん、従業員も、会社の一員として現場対応を行う必要があります。
具体的には、次のような対応を行いましょう。

  • 被災した労働者の救護、病院への搬送
  • 被災した労働者へ労災の旨を連絡
  • 重大な事故の場合は警察・労基署への連絡 など

これらの対応を速やかに行うためには、日頃から事故時の対応について決めておくことが大切です。特に次の項目については明確にし、その内容を周知しておくようにしましょう。

  • 応急処置用品の用意やその置き場所、使い方
  • 労働者の家族の連絡先、警察・労基署の連絡先
  • 誰が警察や労基署に連絡するか など

このような対応の仕方がきちんと決まっていれば、労災発生時にも会社の従業員一人ひとりが適切な行動を取れるでしょう。

事故状況の把握と原因調査

事故後には、会社は事故状況の把握と原因調査を行わなければなりません。
この作業については、重大な事故や原因を特定しにくい事故の場合、警察や労基署が介入することもあるでしょう。そのような場合には、会社は警察および労基署の現場検証に立会ったり事情聴取へ対応したりする必要があります。
これらの機関への対応も会社が負う責任義務です。

労働基準監督署への届出

労災事故が発生して従業員が休業した場合には、会社は労基署に「労働者死傷病報告」を提出しなければなりません。この報告は、休業4日以上かどうかによって対応が変わります。

  • 休業4日以上の場合・・・速やかに労基署に報告を提出する
  • 休業4日未満の場合・・・4半期に1度、期間ごとに取りまとめて労基署に報告を提出する(1〜3月分を4月末まで、4〜6月分を7月末まで、7〜9月分を10月末まで、10〜12月分を翌年1月末まで)

報告を失念すると労災隠しに問われる可能性もあるので、手続きはなるべく速やかに行うようにしましょう。

再発防止策の検討と実施

労災事故後に再発防止策を講じることも、会社が負う重要な責任義務です。
事業所の設備や道具を点検することはもちろん、作業手順を見直したり従業員教育を実施したりして、二度と労災の起こらない安全な職場を作る努力を行いましょう。

まとめ

ご紹介したように、労災事故には労基署だけでなく、警察が介入することもあります。ケガ人が多かったり死亡者がいたりするような重大な事故が起こった場合、また犯罪が疑われるような場合には、速やかに警察に通報するようにしましょう。

また、労災事故の発生について、会社や第三者に法的責任がある場合には、被災労働者は相手に対し損害賠償請求を行うことができます。損害賠償請求を検討する際には、手続きを円滑に進めるためにも、労災問題に強い弁護士に相談するようにしましょう。