通常の労働業務において起こった事故による怪我や病気は、労災と判断され、労災保険の対象となります。
では、ボランティアとして活動中に何らかの事故が起こり、怪我や病気を被った場合には、どのような扱いになるのでしょうか。通常の労働業務の場合と同じように、労災の対象となるのでしょうか。
そこで今回の記事では、「ボランティア中の事故による怪我や病気は労災になるのかどうか」について、ご説明しましょう。
ボランティアと労働の違い
ボランティアと労働の定義
まずは、ボランティアと労働(者)の定義についてご紹介します。
ボランティアの定義 | ボランティア活動の種類 |
自発的な意志に基づき他人や社会に貢献する行為。
自主性、社会性、無償制を特徴とするが、有償によるボランティアも存在する。(厚生労働省社会・援護局資料より) | 高齢者支援子どもの支援
被災者支援 被害者支援 環境保護 動物愛護 地域の安全管理 イベント運営など |
労働(者)の定義 | 労働(者)の種類 |
職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者(労働基準法第9条より) | 正社員
契約社員 嘱託社員 派遣社員 パートタイマー アルバイトなど |
このように、ボランティアは厚生労働省による資料によって、また労働(者)は労働基準法によって、定義が示されています。
ボランティアと労働は何が違う?
ボランティアと聞くと、多くの人は自主的に行う無償での活動をイメージするでしょう。一方の労働では、労働の対価として必ず賃金を受け取ります。
しかし、ボランティアと労働の違いは「賃金を受け取るかどうか」ではありません。ボランティアの中には交通費や経費、報酬としての金銭を受け取る「有償ボランティア」もいます。
では、ボランティアと労働の違いはどこにあるのでしょうか。
一般的に、ボランティアと労働の違いは、「自発的に行動できるか」「自らの意思で断れるか」にあると言われています。
ボランティアは自発的に行動し、自らの意思によって行う仕事・断る仕事を選択することができます。しかし、使用者と雇用関係にある労働者は、使用者の指示に対して労働を提供し、自らの意思だけで行う仕事・断る仕事を決めることはほとんどありません。
有償ボランティアと労働の違いについてはさまざまな意見がありますが、「自発性」を元に判断するのもひとつでしょう。
ボランティア中の事故や怪我は労災の対象になる?
労災の対象か否かは、自発的行動か業務命令かによる
ボランティアと労働には、前述のような違いがあります。では労災については、ボランティアの場合どのように扱われるのでしょうか。労働者と同じように、義務として労災保険の加入・適用がなされるのでしょうか。
ボランティアの場合、ボランティア中の事故や怪我は労災の対象にはなりません。ボランティアは、業務ではなく、自発的な行動であるためです。
ただし、もし会社が強制力を持って社員にボランティア活動をさせたのであれば、その時起こった事故や怪我は労災の対象になります。自発的な行動ではなく、業務命令としてのボランティアにあたるためです。
ボランティア活動を奨励した程度であれば会社が強制したとは言えませんが、絶対参加を促されたボランティアの場合、ボランティア中に起こった事故や怪我は会社への責任が生じます。
ボランティア保険による備えを
自発的なボランティア活動中の事故による怪我は、会社の責任による者ではないとされるため、労災の対象にはなりません。
しかし、その代わりに「ボランティア保険」というものが存在します。
- ボランティア保険とは
- ボランティア活動中の怪我や死亡、他人へ与えた損害を補償する保険のこと。
ボランティア保険は任意加入にはなりますが、加入しておくことで、安心してボランティア活動を行えます。
ただし、海難救助や山岳救助ボランティアは対象にならなかったり、無償の活動のみを対象としていたりと、加入には多くの条件が定められているため、事前によく確認しておきましょう。
有償ボランティアは労働?ボランティア?労災はどうなる?
自発的な有償ボランティアは労災対象外
先ほども少し触れましたが、有償ボランティアが労働にあたるのかボランティアにあたるのかという点に関しては、多くの意見があります。
ただし、厚生労働省の資料にて、ボランティアの概要として有償ボランティアについての記述があることを鑑みると、自発性を伴う有償ボランティアはあくまでボランティアであって、労働ではないと言えるでしょう。
ボランティアと労働の違いは、「無償性」にはなく、あくまで「自発性」にあると考えられます。
また、ボランティアには労働基準法の適用はありません。そのため、たとえ有償であっても、ボランティアは労働基準法に定められている「労災保険加入」の対象にもなりません。
ただし、ボランティア活動を謳いながらその活動に使用従属関係がある場合、活動者は労働者と判断され、労働基準法や最低賃金法の対象になります。労災保険も同様です。
有償ボランティアの問題点
近年、有償ボランティアを利用した悪質な雇用が問題となっています。実質の労働内容は派遣社員や契約社員と変わらないものであるにも関わらず、有償ボランティアとして契約を行う会社が存在するためです。
有償ボランティアの場合、労働基準法適用外により労災保険や雇用保険の加入が不要であり、受け取る金銭は「謝礼」にあたるため最低賃金法も適用外とされます。それを悪用し、劣悪な条件の元で労働を強いられる事案は、少なくはありません。
有償ボランティアとしての契約には、労働基準法の外にあるボランティアという立場を悪用されないよう、注意が必要です。
東京オリンピックのボランティアにボランティア休暇で参加する場合
ボランティアへの参加には、「ボランティア休暇」を利用できる場合があります。
- ボランティア休暇とは
- 従業員のボランティアへの参加を奨励し支援するために、有給休暇および休職を認めるという、企業制度。
90年代以降、ボランティア休暇制度を取り入れる企業は増えました。今回の東京オリンピックについても、東京都は「ボランティア休暇制度整備助成金」により、ボランティア休暇制度の整備を推奨しています。
とはいえ、実際のボランティア休暇制度を取り入れている企業の割合は、総合的に見て多くないのが現実です。
そのため、東京オリンピックにボランティアとして参加する場合には、以下のような事を確認する必要があります。
- 自社のボランティア休暇制度の有無
- 休暇制度がある場合は利用対象かどうか
- 有給か無給か
- 取得可能日数
- 申請手続き
東京オリンピックのボランティアは10日以上の活動を求められるため、勤める会社に休暇制度なかったり、条件が厳しかったりする場合は、参加が難しい可能性もあります。そのため、事前によく自社の制度を確認し、必要な手続きを済ましておくようにしましょう。
また、東京オリンピックのボランティアは、自発的なボランティアにあたるため、労災対象にはなりません。しかし、組織委員会により一括の保険に入るとされています。
さらに、交通費として1日1,000円程度をプリペイドカード等で支払うことが検討されているため、東京オリンピックのボランティアは有償ボランティアにあたると言えるでしょう。
まとめ
ボランティアと労災について詳しくご紹介しました。
ボランティアには労働基準法が適用されず、何かあった場合には労災の対象にもなりません。そのため、活動によってはボランティア保険へ加入するなどし、自身で万が一に備えておくことが大切です。
また、ボランティアという立場を悪用する会社の存在を把握し、そのような会社との契約はしないよう気をつけましょう。