働く人々が、業務中や通勤中に怪我を負った場合、それは労災と判断されます。労災の怪我や病気は、労災保険による補償を受けることが可能です。
業務中や通勤中に負う可能性のある怪我にはさまざまなものがありますが、作業現場や調理現場で多いのが、やけどです。
業務中に負ったやけどやそれにより残ってしまったやけど跡は、労災になるのでしょうか。また、労災になるのなら、どのような補償を受けられるのでしょうか。
今回は、やけどの労災上の扱いについて解説します。
仕事中のやけどは労災になるのか
労災は、業務災害と通勤災害の2種に分かれます。
・業務災害・・・業務中に負った怪我や病気のこと
・通勤災害・・・通勤中に負った怪我や病気のこと
業務災害と通勤災害には、それぞれ労災認定を受けるための要件があります。仕事中や通勤中にやけどを負った場合でも、この要件を満たせば、そのやけどは労災になります。
働いている人の中には、「軽いやけどだから労災にはならないだろう」と考える人もいますが、労災認定にやけどの度合いは関係ありません。軽いやけどであっても、業務災害および通勤災害の要件を満たせば、労災認定を受けることができます。
業務災害の要件
業務災害の要件は、次の2つです。
業務災害の2つの要件
①業務遂行性が認められること
②業務起因性が認められること
業務遂行性とは、「労働契約に基づいて、その労働者が事業主の支配・管理下にあること」を指します。また業務起因性とは、「怪我や病気と業務に因果関係があること」です。
業務遂行性と業務起因性が認められる場合、その怪我や病気は労災だと認定されます。
通勤災害の要件
通勤災害については、「通勤中に発生した怪我や病気であること」が要件になります。この要件を満たすには、労災が起こった時の状況が「通勤」の定義を満たしていなければなりません。
労働者災害補償保険法では、「通勤」の定義を次のように定めています。
「通勤」の定義
就業に際し、労働者が合理的な経路および方法で、次に挙げる移動を行うこと。(※ただし、業務の性質を有するものは除く)①住居と就業の場所との間の往復
②厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
③第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動労働者が、上記の移動経路を逸脱したり移動を中断したりした場合には、逸脱・中断後の移動は通勤とはしない。
(労働災害補償保健法 第7条より)
このように、「通勤」は、自宅と職場における合理的な経路・方法での移動を指します。移動を中断して退勤後にお酒を飲みに行ったり、合理的な経路を逸脱して趣味のショッピングに寄ったりした場合には、移動の中断・経路の逸脱以降の移動は「通勤」とは認められません。
ただし、厚生労働省が認める日常生活上必要な行為については、合理的な経路での移動を逸脱・中断した後でも、元の経路に戻ってからは、再び「通勤」として扱われます。
厚生労働省が認める日常生活上必要な行為とは、次のようなものを指します。
厚生労働省が認める日常生活上必要な行為
1. 日用品の購入やこれに準ずる行為
2. 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校で行われる教育、またこれらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
3. 選挙権の行使やこれに準ずる行為
4. 病院や診療所において診察および治療を受けること、またこれに準ずる行為
(東京労働局『通勤災害について』より)
やけどが労災認定された場合、給付される労災保険
怪我や病気で労災認定を受けた場合、その労働者は労災保険から給付金を受け取ることができます。
労災保険の給付金は、次の7種に分けられます。
労災保険の給付金の種類
・療養(補償)給付
・休業(補償)給付
・障害(補償)給付
・傷病(補償)給付
・介護(補償)給付
・遺族(補償)給付
・葬祭料(葬祭給付)
このうち、やけどが労災認定された場合に受け取る可能性が高いのは、療養(補償)給付と休業(補償)給付でしょう。
療養(補償)給付とは
療養(補償)給付は、労災による怪我や病気の療養費を補償する給付金です。労災による怪我や病気の治療費や手術費、入院費、薬代などは、療養(補償)給付で賄うことが可能です。
この療養(補償)給付は、医療や薬を現物支給する「療養の給付」と、医療や薬にかかったお金を支給する「療養の費用の給付」に分かれます。
被災労働者は、労災病院や労災指定病院を受診した場合には「療養の給付」を、労災指定病院以外の医療機関を受診した場合には「療養の費用の給付」を受けることになります。
療養(補償)給付は、症状が治ゆ(症状固定)となるまで支給を受けることが可能です。
休業(補償)給付とは
休業(補償)給付とは、労災による怪我や病気で休業し、次の3つの要件を満たしている場合に支給される給付金です。
休業(補償)給付支給の3要件
①業務に起因する、または通勤中の怪我や病気の療養のため
②働くことができない
③賃金を受けていない
休業(補償)給付は休業4日目から給付され、その金額は「給付基礎日額の80%(休業特別支給金を含む)×休業日数」となります。
また、休業(補償)給付の支給は、上記3つの要件を満たす限り続きます。
労災によるやけどでやけど跡が残った場合
労災によるやけどで跡が残ってしまった場合、後遺障害として、障害(補償)給付を受け取れる可能性があります。
障害(補償)給付は、労災の怪我や病気が治ゆした後に障害が残った場合、その障害の程度を規定の障害等級で表し、等級に応じた給付を行うものです。
やけどで跡が残ってしまった場合、障害(補償)給付を受けるための障害等級とその基準は次のようになります。
障害等級 | 障害の状態 |
第7級 | 外貌に著しい醜状を残すもの |
第9級 | 外貌に相当程度の醜状を残すもの |
第12級 | 外貌に醜状を残すもの |
第14級 | 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの |
(厚生労働省『障害(補償)給付の請求手続』より抜粋)
障害(補償)給付では、等級が上がるほど、後遺障害の程度は重くなります。よって、等級が上がるほど、給付金額は高くなります。
バイトやパートでも労災は使える
業務中にやけどを負うケースが多い職業のひとつが、飲食業です。
飲食業では、調理や配膳の際にやけどを負う恐れがあります。そのリスクは、社員だけでなく、アルバイトやパートの方も同じでしょう。
労災保険の対象は、全ての労働者です。雇用形態は関係ありません。
そのため、正社員だけでなく、アルバイトやパートの方も、要件さえ満たせば労災保険の補償対象となります。
飲食店ではアルバイトやパートとして働く方が多いですが、中には「アルバイトだから労災は使えないのでは」と思っている方もいるでしょう。これは間違いです。
アルバイトやパートでも、業務中にやけどや怪我を負ったなら、それは労災として労災保険の補償対象になることを覚えておいてください。
詳しくはこちらで解説しています。
「アルバイトでも労災は適用される|適用される・されないケースを解説」
「知っておこう!パートにも労災保険が適用される」
会社から労災を使うなと言われた場合
やけどに限らず、業務に起因する怪我や病気、または通勤中に負った怪我や病気は労災になり、その療養などのために労災保険の給付金申請を行うことができます。
しかし、会社によっては、「労災保険を使うな」「労災の申請をするな」と、労災を隠そうとするケースがあります。その理由は、労災保険を使ったことによる保険料の上昇や面倒な申請手続きを避けるためです。
しかし、労災を隠したり労災について虚偽の申告をしたりすることは、「労災隠し」という犯罪です。
「労災隠し」が発覚すれば、会社は罰金などのペナルティを課せられる可能性があります。
もし会社から「労災を使うな」と指示されても、それに従う必要はありません。それで会社とトラブルになるようなら、労働基準監督署や弁護士にご相談ください。
労災申請は自分でもできる
労災の給付金申請の手続きは会社が進めてくれるのが一般的です。しかし、会社が労災申請に協力的でなく、手続きを進めてくれない場合もあるでしょう。
そのような場合には、自身で書類を作成し、管轄の労働基準監督署へ提出してください。
書類には会社の証明欄がありますが、会社の協力が得られない場合は空欄にしておき、その旨を労働基準監督署への提出時に伝えましょう。
労災を会社が認めない場合は、こちらの記事を参考にしてください。「労災を会社が認めない場合、どうすればいいか? 」
まとめ
業務中や通勤中に負ったやけどは、要件さえ満たせば、労災認定される可能性が高いです。やけどが労災認定された場合、被災労働者はその療養や休養に対して労災保険からの補償を受けることができます。また、やけどでひどい跡が残った場合にも、後遺障害としての補償を受けられる可能性があります。
労災の認定には、雇用形態や怪我の度合いは関係ありません。アルバイトやパートであっても、軽いやけどであっても労災申請を行うことはできるので、雇用形態や怪我の度合いを理由に労災申請をあきらめないようにしてください。
また、会社が労災を隠そうとしたり労災手続きに協力的でなかったりと、労災トラブルに巻き込まれた場合には、弁護士に相談し、速やかなトラブル解決を目指しましょう。