労災のアフターケアについて、知っておこう!

労災保険による補償と聞くと、労災にあった場合の給付金を思い浮かべる方が多いでしょう。確かに労災保険では、労災により傷病を患った方に対し、症状に応じた給付を行います。
しかし、労災保険は給付を行うだけの制度ではありません。
そこで今回は、労災保険による補償の中でも、給付金とは別に行われているアフターケアについてご説明しましょう。

労災のアフターケア制度とは?

労災保険には、アフターケア制度が存在します。
このアフターケア制度とは、労災による傷病が治った後、必要に応じて、労災保険の指定医療機関において、診察や検査、指導などといったアフターケアを受けられるという制度です。傷病が再発したり、後遺症による新たな症状が発生したりすることを防止し、労災にあった労働者の社会生活をサポートするために整備されています。
ただし、労災によるすべての傷病について、アフターケアが受けられるわけではありません。アフターケアの対象となる傷病は決められた20種で、さらに障害等級の規定も設けられています。これについては、次章でご説明しましょう。

誰がアフターケアを受けられる?

前述の通り、労災保険のアフターケア対象としては20種の傷病が定められており、各傷病について障害等級の規定もあります。下記の表をご確認ください。

労災による傷病名 障害等級等条件
脊髄損傷 障害等級第3級以上の障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方

医学的にアフターケアが必要と認められた障害等級第4級以下の障害(補償)給付を受けている方

頭頸部外傷症候群等

(頭頸部外傷症候群、頸肩腕障害、腰痛)

頭頸部外傷症候群・頸肩腕障害・腰痛を発症した方で、障害等級第9級以上の障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方

医学的にアフターケアが必要と認められた障害等級第10級以下の障害(補償)給付を受けている方

尿路系障害 尿道狭さくの障害が残った方、あるいは尿路変向術を受けた方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方
尿路系腫瘍 尿路系腫瘍を発症し、療養補償給付を受けている方
眼疾患

(白内障、緑内障等)

白内障、緑内障、網膜剥離、角膜疾患、眼瞼内反等の眼疾患を発症し、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方

障害(補償)給付を受けていなくても医学的にアフターケアが必要と認められた方

振動障害 振動障害を発症した方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方
大腿骨頸部骨折、股関節脱臼、脱臼骨折 大腿骨頸部骨折や股関節脱臼、脱臼骨折を発症した方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方

障害(補償)給付を受けていなくても医学的にアフターケアが必要と認められた方

人工関節、人工骨頭置換 人工関節または人工骨頭の置換を行った方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方
慢性化膿性骨髄炎 化膿性骨髄炎を発症し、慢性化膿性骨髄炎に移行した方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方
虚血性心疾患 虚血性心疾患を発症した方で、障害等級第9級以上の障害補償給付を受けている方、受けると見込まれる方

医学的にアフターケアが必要と認められた障害等級第10級以下の障害(補償)給付を受けている方

脳の器質性障害 外傷による脳の器質的損傷・一酸化炭素中毒・減圧症・脳血管疾患・有機溶剤中毒等による脳の器質性障害を発症した方で、障害等級第9級以上の障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方

医学的にアフターケアが必要と認められた障害等級第10級以下の障害(補償)給付を受けている方

外傷による末梢神経損傷 外傷による末梢神経損傷の疼痛が残る方で、障害等級第12級以上の障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方
熱傷 熱傷により、障害等級第12級以上の障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方
サリン中毒 サリン中毒により、療養(補償)給付を受け、以下のような後遺症によりアフターケアが必要だと認められる方

a.縮瞳、視覚障害等の眼に関連する障害

b.筋萎縮、筋力低下、感覚障害等の末梢神経障害及び筋障害

c.記憶力の低下、脳波の異常等の中枢神経障害

d.心的外傷後ストレス障害

慢性肝炎 ウイルス肝炎を発症した方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方
精神障害 精神障害を発症し、療養(補償)給付を受け、以下のような後遺症によりアフターケアが必要だと認められる方

a.気分障害

b.意欲障害

c.慢性化した幻覚性障害もしくは慢性化した妄想性障害

d.記憶障害もしくは知的能力障害

循環器障害 心臓弁を損傷した・心膜の病変障害を残している・人工弁に置換した方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方

人工血管置換を行なった方で、医学的にアフターケアが必要と認められた方

呼吸機能障害 呼吸機能障害を残す方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方
消化器障害 消化吸収障害等を残す方もしくは消化器ストマを造設した方で、障害(補償)給付を受けている方、受けると見込まれる方
炭鉱災害による一酸化炭素中毒 炭鉱災害による一酸化炭素中毒で療養(補償)給付を受けていた方

以上が、労災保険のアフターケア対象となる傷病と条件です。これらの条件を満たし、アフターケアが必要だと判断された方は、労災保険のアフターケアを受けることができます。
ただし、傷病の種類によって、アフターケアを受けられる頻度や処置、検査の内容は異なります。また、症状固定(※)していることをアフターケア対象の条件とする場合もあるため、労災保険のアフターケアを検討する場合には、自身が対象に当てはまるのかどうか、厚生労働省の資料などで確認するようにしましょう。

※症状固定
傷病がこれ以上改善しない状態にあること

アフターケアを受けるには?手続き方法

アフターケアを受けるための手続き

次に、労災保険のアフターケアを受けるための手続き方法についてご説明します。
労災保険のアフターケアを受けるためには、労災保険の指定医療機関に「健康管理手帳」を提示しなければなりません。そのため、まずは健康管理手帳の申請を行うことが、アフターケアを受けるためには必要です。
健康管理手帳の申請は、以下のような手順で行います。

健康管理手帳の申請手順

  1. 労災による傷病の治癒
  2. 健康管理手帳申請書を労働局へ提出
  3. 労働局による精査・判断
  4. 労働局から交付決定通知書が届く
  5. 健康管理手帳が届く
  6. 労災保険の指定医療機関に健康管理手帳を提示の上、アフターケアを受ける

もし、労働局による審査において、申請者がアフターケアを受ける条件を満たしていないとされれば、交付決定通知書ではなく、不交付決定通知書が届き、健康管理手帳は交付されません。その場合は、不交付決定を知った翌日から3ヶ月以内であれば、厚生労働大臣に対する審査請求を行うことが可能です。
また、健康管理手帳の新規申請を行える期限は、傷病の種類によって以下のように定められています。

傷病名 健康管理手帳新規申請期限
脊髄損傷 いつでも
頭頸部外傷症候群等

(頭頸部外傷症候群、頸肩腕障害、腰痛)

2年
尿路系障害 3年
尿路系腫瘍 3年
眼疾患

(白内障、緑内障等)

2年
振動障害 2年
大腿骨頸部骨折、股関節脱臼、脱臼骨折 3年
人工関節、人工骨頭置換 いつでも
慢性化膿性骨髄炎 3年
虚血性心疾患 3年

(ペースメーカーの場合はいつでも)

脳の器質性障害 外傷による脳の器質的損傷・一酸化炭素中毒・減圧症の場合は2年

脳血管疾患・有機溶剤中毒の場合は3年

外傷による末梢神経損傷 3年
熱傷 3年
サリン中毒 3年
慢性肝炎 3年
精神障害 3年
循環器障害 3年

(人工弁・人工血管の場合はいつでも)

呼吸機能障害 3年
消化器障害 3年
炭鉱災害による一酸化炭素中毒 3年

これらの期限は、傷病が治った日の翌日から起算したものになります。同じ傷病であっても、症状や治療方法によって申請期限が異なることもあるので注意しましょう。

健康管理手帳の更新

交付された健康管理手帳には有効期間があります。そのため、アフターケアを継続して受けていくためには、有効期間が終わる前に健康管理手帳の更新を行わなくてはなりません。更新は、以下のような手順で行います。

健康管理手帳の更新手順

  1. 「健康管理手帳の有効期間満了のお知らせ」が届く
  2. 「アフターケアの実施期間の更新に関する診断書」の記入を、アフターケアの担当医に依頼
  3. 「健康管理手帳更新・再交付申請書」と「アフターケアの実施期間の更新に関する診断書」を労働局へ提出する
  4. 労働局による精査・判断
  5. 労働局から交付決定通知書が届く
  6. 健康管理手帳が届く
  7. 労災保険の指定医療機関に健康管理手帳を提示の上、引き続きアフターケアを受ける

アフターケアの継続を希望しない場合には、手続きは行わなくて構いません。また、新規申請時同様、不交付決定通知書が届いた場合には、不交付決定を知った翌日から3ヶ月以内であれば、厚生労働大臣に対する審査請求を行うことが可能です。
ただし、脊髄損傷や人工関節・人工骨頭置換、虚血性心疾患等(ペースメーカー)、循環器障害(人工弁・人工血管)の場合には、更新時の診断書は不要です。
また、健康管理手帳の更新については、傷病の種類によって期間が異なり、中には更新ができない場合もあります。各傷病の健康管理手帳の有効期間と更新期間を表で見てみましょう。

傷病名 健康管理手帳有効期間

(交付日から)

健康管理手帳更新期間
脊髄損傷 3年 5年
頭頸部外傷症候群等

(頭頸部外傷症候群、頸肩腕障害、腰痛)

2年 更新不可
尿路系障害 3年 1年
尿路系腫瘍 3年 1年
眼疾患

(白内障、緑内障等)

2年 1年
振動障害 2年 1年
大腿骨頸部骨折、股関節脱臼、脱臼骨折 3年 1年
人工関節、人工骨頭置換 3年 5年
慢性化膿性骨髄炎 3年 1年
虚血性心疾患 3年 1年

(ペースメーカーの場合は5年)

脳の器質性障害 外傷による脳の器質的損傷・一酸化炭素中毒・減圧症の場合は2年

脳血管疾患・有機溶剤中毒の場合は3年

1年
外傷による末梢神経損傷 3年 1年
熱傷 3年 1年
サリン中毒 3年 1年
慢性肝炎 3年 1年
精神障害 3年 1年
循環器障害 3年 1年

(人工弁・人工血管の場合は5年)

呼吸機能障害 3年 1年
消化器障害 3年 1年
炭鉱災害による一酸化炭素中毒 3年 1年

健康管理手帳の更新申請は、有効期間が満了する1ヶ月前までに行い、失念しないように気をつけましょう。

アフターケアで通院する際の交通費について

労災保険のアフターケアでは、アフターケアのための通院費給付も行われています。
通院費給付を申請するためには、以下の2種の書類を労働局に提示しましょう。

  • アフターケア通院費支給申請書
  • 通院費の額を証明する書類(領収書)

また、通院費給付の対象となるのは、以下のような場合に限られます。

アフターケアによる通院費が請求できる場合

  • 自宅や勤務先から同一市町村内にある医療機関へ、片道2キロ以上を、バスや鉄道、自家用車等により通院する場合
  • 傷病の状態によりバスや鉄道、自家用車等を使わなければならず、同一市町村内にある片道2キロメートル未満の医療機関へ通院する場合
  • 同一市町村内にアフターケアを受けられる医療機関がない、もしくは隣接する市町村にある医療機関の方が通院しやすく、隣接する市町村の医療機関へ通院する場合
  • 同一市町村および隣接する市町村内にアフターケアを受けられる医療機関がなく、それ以外の市町村における医療機関へ通院する場合

自身が通院費給付の対象となる場合には、必ず交通機関等の領収書を受け取り、申請を行うようにしましょう。

まとめ

労災保険のアフターケアについてご紹介しました。
傷病の種類は限られているものの、通院費を含め、労災保険では手厚いアフターケアを受けられます。一度発症した傷病には治癒後も不安が付きまといますが、一定期間の診察や検査を労災保険から受けられるのであれば、安心感が増しますね。
このように、労災保険はただ給付金を支払うだけの制度ではありません。万が一労災にあった場合には、必要に応じてアフターケアも利用し、心身の回復を目指しましょう。