労働災害は、様々な職場の中で起こり得ますが、特に工事中の建設現場は最も多くの労働災害が発生する現場と言えるでしょう。
1月7日に、平成30年度の死傷者が発生した労働災害の速報値が出ました。
これによると、建設現場における労災発生の類型は、全体の発生件数14020件のうち、最も多いのが「墜落・転落」で4702件とほぼ3分の1を占めており、続いて「はさまれ・巻き込まれ」が1593件、「転倒」がほぼ同じ件数ともいえる1482件、「飛来・落下」が1306件、「切れ・こすれ」が1156件となっており、さらに「激突され」777件、「激突」585件、「崩壊・倒壊」454件と続きます。
それぞれどのような事例か、そして会社に対し責任を追及する場合に問う、過失のポイントについて、具体的に見ていきましょう。
1.墜落・転落
事例1
解体工事現場において、トラックの荷台に解体した部品の積込み作業中、崩れ落ちそうになった部品を支えようとして荷台から転落し、落ちていた資材で足を切り、7針縫う怪我を負った。
この場合、積込み作業において、十分な荷崩れ防止措置をとっていなかったことが原因です。
積込み作業は、偏荷重とならないように荷台に平均して積み上げ、崩れやすい荷物については、荷崩れ防止の措置を講じなければいけません。また、保護帽を正しく着用し、荷台の端で、背中を荷台の外側に向けた姿勢で作業は行わないようにする必要がありました。
事例2
住宅の建設工事中のボード張り作業において、手すりなし2連式脚立上で約20kgのボードを持ち上げ壁張りをしていたところ、足元がふらついて足場から転落し右足を骨折した。なお、作業者は連日の残業であった。
この場合、高さ1.2m長さ1.8m巾40cmの2連式脚立足場が安全な手すり付の脚立足場でなかったことと、残業が続き当日も午後7時頃の作業で疲れが蓄積するとともに、集中力が低下していたことが原因と考えられます。
したがって、手すり付き脚立を使用するか、もう少し広い作業台を準備して作業するとともに、安全帯を使用し、作業心得、作業手順を作成してその安全作業の徹底を図る必要がありました。
これらに配慮して作業をさせていなかった場合、会社は損害賠償責任を負います。
また、労働者の勤務時間について管理し、長時間労働や過重労働にならないよう、チェックする義務が会社にあったと言えます。
事例3
マンション建設工事において、塗料缶運搬のため、1層目地上2.2mの足場上で、被災労働者が塗料缶を地面にいる同僚の作業者に渡そうとしたとき、同僚が足元の部品に気を取られていたため渡すタイミングが合わず、塗料を支えきれなかったため、地面に墜落し、手首を骨折する怪我をした。
この場合、塗料缶を渡すため足場板の前に出過ぎて不安全な位置で渡そうとしており、さらに受け渡しに際してお互いの合図が一致しなかったこと、そして墜落防止の手すり等がはずされていたことが原因と考えられます。
高さ2m以上の足場では、手すり、中桟、幅木等を取り付けるとともに、滑車などを設けて作業をすること、及び高所での荷受け作業では安全帯を使用するとの支持をしていなかった会社側は損害賠償責任を負います。また、塗料缶を受け取ろうとした同僚のミスでもあり、この同僚の責任についても、会社は使用者責任を負うことになります。
2.はさまれ・巻き込まれ
事例1
作業員二人でクレーンを用いて資材の玉掛け作業中、吊上げ開始のタイミングが合わず、手を放す直前にクレーンを吊り上げ始めたので、手の指をはさまれ右手中指と薬指を第一関節から失った。
この場合、作業時の二人の声掛けが不十分だったと考えられます。
玉掛け作業においては、相互の声掛けを頻繁に行うとともに、クレーンの吊り上げ開始時は声だけでなく身振り手振り等で合図する必要があります。
クレーン作業をしていた労働者の過失は会社が使用者責任を負うため、損害賠償が認められることになります。ただこの事例では、被災労働者側の過失も認められるため、損害額は減額されます。
事例2
住宅の建設現場でインパクトドライバーを用いて穴をあけようとしていたところ、手袋をはめた手がドリルに巻き込まれ、左手薬指にドリルが接触し、第一関節が曲がらなくなった。
この場合、インパクトドライバーの回転部に手を近づけてしまったことと、手袋を使用していたのが原因と考えられます。
インパクトドライバー等の電動工具(電動ドリル、電動のこぎり、ディスクグラインダー、電動かんな等)の使用中は、絶対に回転部に手足や身体を近づけてはなりません。
また、回転するインパクトドライバーのビット(軸)に手が巻き込まれるおそれがあるため(手袋の素材や、指の先端部分のだぶつく部分がインパクトドライバーのビットに巻き込まれてしまう)、手袋は着用してはいけません。
これらについて指示をしていなかったり、現場に適切な上司を配置できていなかった場合、会社は損害賠償責任を負うことになります。
事例3
解体工事現場で、土砂をトラックに乗せ運搬しようとしたところ、トラックの運転手の後方確認が
不十分だったため、同僚が作業をしているにもかかわらず誤って後方に発進し、トラックと壁の間に挟まれた同僚は、胸部圧迫による重傷を負った。
この場合、運転手の後方確認不足が原因であることは明らかですが、加えて車両の走行範囲への立ち入り禁止措置を取るべきでしたし、誘導員を配置しておけば免れた事故と言えるでしょう。
会社側としては、特に後方発進時の安全確認を従業員に徹底させる必要があります。なお、徹底させていたとしても会社は使用者責任により損害賠償責任を負います。
3.転倒
転ぶだけで労働災害だなんて大げさな気もしてしまいますが、実は職場で転倒し休業(4日以上)となってしまう「転倒災害」が多発しており、労働災害全体の2割を占め、深刻な問題となっています。
人口動態調査によれば、職業生活を含めた一般生活の中でも、転倒・転落で亡くなる方は交通事故で亡くなる方より多く、転倒の防止は今や国民的課題となっています。
事例1
住宅の建設現場において、住宅の屋上で吹付け作業を行っていた際、吹付け作業を停止したとき、残圧により吹付けホースが跳ねた反動で体勢を崩して転倒し、顔面を4針縫うけがをした。
この場合、吹付け作業を停止した後も、塗装ノズルや吹付けホース内に空気圧が残っていることに十分な注意を払わなかったことが原因です。
吹付け作業の停止後も、吹付け機が完全に停止し、ホース内の空気圧が低下するまで塗装ノズルをしっかり握り、吹付け作業時の体勢を保持する必要がありました。
会社としては、吹付け作業後の残圧について注意を喚起していない場合は過失が認められますが、この事例では本人の過失がある程度認定され、損害賠償額が減額される可能性が大きいと言えます。
事例2
解体現場において、同僚作業員と二人で鉄板を持ち後ろ向きに運搬していたところ、同僚の足がもつれて転倒し、自らも鉄板を支えきれずに転倒し、右足を打撲した。
この場合、どちらの作業者も鉄板を持っていたため 、足元が見えにくい状態で作業していたことが原因です。また、双方の目配り、声掛けが不十分であったことも転倒の原因であると考えられます。
特に後ろ向きに運搬する者にとっては、鉄板を含む足元が見えないため、前向きに運搬する作業者が目配り、声掛けのタイミングを考慮する必要があります。
そもそも、足元が見えにくくなるほどの大きさの物を持ち運ぶ際は、できるだけ台車等の運搬用具を使用しなければなりません。
また、複数の作業者で運搬する際は、互いに十分な周囲の目配り、声がけを行う必要があります。
会社としては、鉄板などを運搬させる際は、運搬用具を使用させること、使用できない環境の場合は、人員の配置や声掛けのタイミング、場所を周知させる必要がありました。
これらの環境を整備できていない点において会社は過失が認められ損害賠償責任を負います。また、前向きに運搬していた従業員が転倒したことが直接の労災事故の原因となっているため、この従業員の責任も、使用者責任として会社が負うことになります。
事例3
大規模マンション建設現場において、資材を運搬中の従業員が、未施工部分に設置した仮通路の端につまずき転倒し、自らが持っていた資材に手を挟み、右手首を骨折した。
この場合、資材を運搬しており視界が制限された中で、仮通路に認識しずらい段差があったことが原因です。
仮通路は、段差やつまずきのないよう整備しておく必要があり、やむを得ず段差がある場合には、段差の箇所が目立つよう通路上に注意表示しなければなりません。
これらに配慮して作業をさせていなかった場合、会社は損害賠償責任を負います。
転倒の労災事例が増えていることと、転倒は労働者のちょっとした心がけにより防げることに鑑み、厚生労働省は転倒災害防止対策に役立つ安全活動を事業主に対して行うよう周知しています。
逆に言えば、転倒を防止する措置をしていない会社は、労働者の転倒事故が起きた場合、これについて過失があると言えるでしょう。
具体的な転倒防止措置とは?
(1)4S活動
4S活動とは、災害の原因を取り除く活動のことで、4Sは「整理・整頓・清掃・清潔」の頭文字です。
凍結した路面や油汚れ・水濡れなどによる「滑り」や、通路上の荷物への「つまずき」による転倒災害を防ぐには、職場内の4S活動(整理、整頓、清掃、清潔)が、基本的かつ最も重要な対策です。
4S活動により転倒の原因を除去すれば、作業性が向上し、生産性の向上も期待されます。
➀整理:必要なものと不要なものを区分し、不要、不急なものを取り除くこと
➁整頓:必要なものを、決められた場所に、決められた量だけ、いつでも使える状態に、容易に取り出せるようにしておくこと
➂清掃:ゴミ、ほこり、かす、くずを取り除き、油や溶剤など隅々まできれいに清掃し、仕事をやりやすく、問題点が分かるようにすること
➃清潔:職場や機械、用具などのゴミや汚れをきれいに取って清掃した状態を続けること、作業者自身も身体、服装、身の回りを汚れの無い状態にしておくこと
(2)KY活動
KY活動とは、潜んでいる危険を見つける活動のことで、Kは「危険」、Yは「予知」の頭文字です。
KY活動は、業務を始める前に「どんな危険が潜んでいるか」を職場で話し合い、危ない点について合意をした上で対策を決め、設定された行動目標や指差し呼称項目を一人一人が実践することで、安全衛生を先取りしながら業務を進める方法です。
忙しい時間帯などは、4S活動がおろそかになって作業通路が汚れてしまったり、作業を急ぐあまり注意力が散漫になるなどにより、転倒災害のリスクが増加するため、過去の災害事例を基にしたKY(危険予知)活動を積極的に進める必要があります。
4.飛来・落下について
労災が発生しやすい工事現場において、「飛来・落下」及び「切れ・こすれ」の事例について見ていきましょう。
事例1
排水路を増設する工事現場でコンクリート製のU字溝をバックホーでトラックから降ろし2段に積み置く作業をしていたところ、バックホーで吊り上げたU字溝が既に積んであった2段目のU字溝に接触して落下し、近くにいた作業員の足に接触した。作業員は右足の親指と人差し指を骨折する怪我を負った。
U字溝の吊り上げ高さが2段目より低かったことが直接の原因ですが、加えて、バックホーの作業エリア内に作業員が入り込んだこと、およびバックホーの運転者が作業エリア内の状況を十分に確認しなかったことが原因です。
バックホーでU字溝を吊り上げる高さは、既に積み上げているU字溝より高くしなければなりません。そのために、余裕を持った高さにU字溝を持ち上げたことをバックホーの操縦者以外の者に確実に確認させ、移動させる必要があります。また、落下の危険がある範囲にはロープを張り、表示をするなりして、バックホーの作業エリアに人を入れないようにしなければなりません。
事例2
分譲マンション新築工事において、外部型枠解体作業とその上段で足場の組み立て作業が行われていた。型枠解体工である被災者は外部足場上(22層目)で外壁の型枠を解体していたところ、上階の足場組立作業箇所の鋼製布板の上に置いてあったブラケット材が落下し、首部打撲による頸椎捻挫を負った。
外部足場内側で上下作業を行っていたことと、足場上に不安定な状態でブラケット材が置かれていたことが原因です。
上下作業は原則禁止されているため、安全打ち合わせ時に、上下作業とならないよう元請けが主体となって工程等の調整を確実に行わなければなりません。やむを得ず上下作業となる場合、事前に物体の落下に対して有効な措置を講じることが重要であり、下請け任せにしないで元請けが関わることが大事です。
また、資材等は振動等で落下しないよう番線等で固定したり、小物類は箱に入れるなどの落下防止措置を講じる必要がありました。
事例3
寺院新築工事において、2階のフロアーに置いてあった鉄骨材(長さ500mm、重量3kg)を外部足場に載せようとした時、手が滑って躯体と外部足場の隙間から落下し、下を歩行していた大工の腕にあたり、左手部打撲、挫傷を負った。躯体から外部足場までは60cm程度の離隔があり、高低差が約1.6mであった。
物体の落下防止設備が無く、立入禁止もしていなかったことに加え、作業の連絡調整が不十分だったこと、無理な態勢で作業したことが原因です。
会社としては、落下防止ネットを設置するべきでしたし、物体の落下の影響区域を立入禁止とする必要がありました。また、朝礼時等に各作業場所の作業状況や注意事項を確実に伝達するKY活動を徹底しておかなければなりません。
また、高低差がある場所への運搬は単独では行わせず、複数人で行わせる必要があります。
5.切れ・こすれ
事例1
家畜糞尿の処理施設建設現場において、経験年数1年の型枠工作業員が、コンクリート構造物の型枠組立作業中、頂版開口部に面木を取付けるため、プラスチック製の面木をカッターナイフで切断しようと力を入れて手前に引いたところ、面木からカッターナイフが滑り、右足太ももを切創した。
被災労働者である作業員は経験年数が1年と浅いにも関わらず、面木の適切な切断方法を指導されておらず、プラスチック製面木の切断方法が不適切でした。また、職長も含めカッターナイフに対する危険意識が低かったことも原因と言えます。
今回の場合、まずはKY活動でカッターナイフに関する危険ポイントを周知すべきでしょう。
カッターナイフは子供でも使用できる日常の道具ですので一般的に危険に対する意識が低いですが、一歩間違えれば大事故にも繋がるため使用に際して細心の注意が必要です。特に経験の浅い作業員に対しては使用方法について指導が必要です。
プラスチック製の部材をカッターで切断する場合は押し切りするか、若しくは専用ののこぎりを使用します。
事例2
マンション建設現場において、鉄筋工である被災者が長尺鉄筋を人力で運搬中、床に置いてある切断面が鋭利な刃物のようになっている加工筋の端部に接触し、左足首を縫うけがを負った。
被災者側の要因としては、鉄筋の切断面が刃物のように危険な状態であることの認識がない上に、重量物を担いでいたため、疲れていて周囲の角材に気を取られていたことが原因としてあげられます。また、通路に面した部分に危険なものを置いていた作業環境も今回の事故の原因の一つでしょう。
マンションの鉄筋組立て作業場は、狭い場所で多くの材料を使用するため、固定した安全通路の設置が困難な場合が多いでしょう。
しかし、労災事故を防ぐためにできるだけの措置を講じる必要があります。具体的には、担当責任者がKY活動時に鉄筋の切断面は危険であることを周知する、
切断面が通路の反対側になるように置く、切断面が通路側に来る場合は、カラーコーン等で養生する、敷角材が通路にはみ出さないよう設置するなどです。
事例3
多目的ホールの新築工事現場において、経験年数30年超の大工が、丸ノコでシージングボードの下方(地面付近)に取り付けた )サイディング材に長さ12cm、幅1cm、深さ1cmの水切り溝を垂直に切り込んでいたところ、何らかの拍子で丸ノコが跳ね、ボードについていた左手に刃が接触し被災、左指を骨折する全治2か月のけがを負った。
作業位置が地面付近で無理な態勢で作業していたこと、溝を切る作業で安易に丸ノコを使用したこと 、経験年数が長いことで、逆に丸ノコに対する危険意識が薄れていたことが要因として考えられます。
そこで、溝切り作業はサイディング下地材をボードに取り付ける前に平坦な場所で行い、合わせて電動トリマーという溝切り専用の道具の使用を義務付ける必要があります。
また、KY活動時に経験年数の長い者に対しても、改めて丸ノコの危険を再認識させ、慎重に作業に取り組むよう促すことが求められます。
6.激突され・激突など
1.激突され
事例1
建物の解体工事現場にて、作業員が廃材をトラック荷台の廃材コンテナに積載していたところ、コンクリート圧砕機に付属するコンクリート粉砕機の金属製のピンが外れ、コンクリート粉砕機が大きく揺れ、廃材コンテナ内で作業していた被災者の頭部に激突し、被災者はコンテナから約1.2m下のコンクリート地面に墜落し、死亡した。
この事例では、運転中の解体用機械の可動範囲内に労働者を立ち入らせたことが最も大きな原因です。また、今回のコンクリート圧砕機の使用は、コンクリートを粉砕するのではなく、廃材の積載作業行っており、重量のある危険な機械を、主たる用途以外の用途に使用したことも大きな原因です。
それに加えて、コンクリート粉砕機を完全に固定していない状態を看過し、金属製のピンの1つが外れたことに気づかず、コンクリート粉砕機がぶら下がっている状態になっていたことも原因でしょう。
今回のような災害の防止のためには、まず第一に、運転中の解体用機械の可動範囲内に、労働者を立ち入らせないことが重要です。
そして、解体用機械を、解体以外の用途で使用してはなりません。作業の責任者は機械の用途について熟知しているのはもちろん、有資格者に機械を適切に扱わせなければなりません。解体用機械については、メーカーが示した点検基準に沿って日常点検、定期点検を実施し、異常を認めた場合には、適切な修理等を行う必要があります。
事例2
工業団地建設のため、敷地内の立木の伐採作業中、伐倒木を油圧ショベル(アタッチメントを林業用のはさむ機械に変更)で押したところ、伐採方向がずれ、伐倒木が退避していた被災者に激突した。被災者は倒れてきた杉の枝が体に当たり、外傷性ショックで死亡した。
なお災害時、油圧ショベルを運転し伐倒及び集材作業を行っていたのは一次下請けの作業員であり、チェーンソーを使用して伐採したのは二次下請けの作業員、伐採した木の枝打ちを行ったのは、同じく二次下請けの作業員であり今回の被災者である。
この事例では、被災者が、十分に安全の確保できない、立木が倒れてくる可能性のある場所に退避してしまったことが最も大きな原因です。この点について、そもそも機械の位置や伐倒の方向などに関して、適切な作業計画が作成されていなかったこと、及びチェーンソーを用いて行う伐木作業について、的確な作業手順を作成しておらず伐倒作業における明確な指揮命令系統が確立されていなかったことが原因となっています。これは、作業者が一次下請けと二次下請けが共同で作業をしており、作業を行うメンバーの間で事前の打ち合わせが行われず、作業中もコミュニケーションが十分ではなかったからと推測されます。
このような災害を防止するためには、伐倒作業の作業手順について、伐倒方法の選択・安全な退避場所の指示・退避の確認方法を明記する等の見直しを行うことはもちろん、その内容に関して、事前の打ち合わせで連絡・確認をするとともに、関係請負事業場に対しても周知徹底をすることが重要です。また、伐倒作業における指揮命令系統や作業分担を明確に定め、特に複数の企業が関わる場合には、指揮者の選任と、その者の指揮により作業を行うよう徹底しなければなりません。
2.激突
事例1
無資格者である被災者が、高所作業車を使用して高さ10m以上の大木の枝切り作業中、転倒の警告音が鳴ったにもかかわらず作業を継続し、高所作業車が後方に転倒、バスケットに乗っていた被災者が地面に激突し、死亡した。
まず、高所作業車が転倒した原因として、高所作業車を設置していたのは、山を掘削、整地して造った地面であり、傾斜がある不安定な場所でした。さらに、高所作業車を水平かつ堅固な面の上にある状態とするため、敷鉄板等を敷き、その上に高所作業車を載せる必要があったが、この対策を講じていなかったため、地面が沈下しており不安定でした。また、高所作業車を使用して作業を行っている間、転倒のおそれがある警告音を発していたにもかかわらず、作業者は高所作業車の使用を停止しませんでした。
次に、高所作業車が転倒した間接的な原因として、当該作業について、あらかじめ、作業に係る場所の状況等に適した作業計画を作成しておらず、作業指揮者が、被災者が高所作業車の技能講習修了者であるかを確認しておらず、無資格者が作業したことは大きいでしょう。さらに、作業指揮者は被災者に対し、「取扱説明書」や「安全マニュアル」等を示し、高所作業車の操作による労働災害を防止するために必要な事項を通知していませんでした。
このような災害の防止のためには、高所作業車は、水平かつ堅固な面の上に据え付け、転倒を警告する警報音を発したときは、即座にその使用を停止することは最も重要です。また、高所作業車の使用に際しては、予め、作業に係る場所の状況、当該高所作業車の種類及び能力等に適応する作業計画を定め、かつ、当該作業計画により作業を行わせることが大切です。
さらに、作業指揮者は、労働者を高所作業車の運転業務に就かせる場合は、有資格者であることを修了証等で確認し、運転業務を行う者に対しては、「取扱説明書」、「安全マニュアル」等を示すことにより、労働災害を防止するため必要な事項を通知しなければなりません。
事例2
高速道路舗装工事で、被災者はドラグショベルを運転し、山砂をならした後、次の作業場所へ向け、ドラグショベルを自走で回送し始めた。途中400mほど走った所にあるコンクリート製高架橋をくぐろうとした際、ドラグショベルのアーム部が橋げたに接触し、その衝撃により運転席のハンドルで強打した。被災者は入院した後、死亡した。
この事例では、ドラグショベルのアームを十分下ろさずに走行したことと、ドラグショベルの走行速度が速かったことが大きな原因として考えられます。
具体的には、コンクリート製高架橋のけた下の高さは5.7mあり、ドラグショベルのアームを最も高く上げたときのアーム部の高さは5.8mで、事故当時、被災者はアームをほぼいっぱいの高さまで上げたまま走行していたものと推測されます。また、事故当時、アームの折れ曲がり具合から見て、事故当時、相当のスピードで走行していたと考えられます。ドラグショベルの最高走行速度は時速34kmであり、現場内には、数百メートルおきに時速30kmの速度標識が設置されていました。
このような労災を防止するために、ドラグショベルを走行させる際には、アームを安全な位置まで下ろしたことを確認してから走行させること、及び、進行方向にアームが接触するおそれのある障害物があるときは、障害物の手前に、接触防止の注意を喚起する表示をすることが大切です。また、現場内の制限速度について周知徹底させ、特に危険な場所では、一時停止、徐行運転等実情に即した速度規制をし、それに従って運転させなければなりません。そのためには、現場内での車両走行について、作業者に対する安全教育を適時行うことが必要です。
7.崩壊・倒壊
事例1
平屋建て古民家を解体工事中、高さ3m、幅10mのコンクリートブロック壁を引き倒すため、地上から50cmの位置を電動ハンマー等ではつり作業を行っていたところ、突如コンクリート壁が倒壊し労働者2名が下敷きとなり死亡した。
この事例では、大型ブロック塀に適切な倒壊防止措置を講じないまま、はつり作業を行ったことが大きな原因です。
また、解体工事に関する作業の経験・知識のない者だけが、今回の作業を行っており、解体工事中発生する恐れのある災害についての知識が不十分であり、解体工事に対する危険性の認識が不足していました。
今回のような災害の防止のためには、まず第一に、解体対象物に倒壊の危険性がある時には、倒壊防止のための控えスペースの設置、または立ち入り禁止区域を定め、作業員の立ち入りを禁止することが大切です。
また、大型の解体対象物の倒壊による危険を防止するため、専門家を交えて、解体を行う対象物の形状、き裂の有無、周囲の状況などを調査し、作業計画を定め、作業員に教育を実施する必要がありました。
さらに、危険が伴う解体工事を行う際には、作業に必要な知識・経験を有する者の中から職長を定め、その者に現場の指揮を行わせなければなりません。
事例2
宅地造成地で、ブロックを積み上げる作業中、積み上げたブロックが倒壊し、被災者4名が下敷きになり、死亡した。
作業現場は、比較的幅の狭い道路しか利用できず、既に電線が設置されていたことから、当初使用予定であったクレーンではなく、車両積載形トラッククレーンを用いてブロック積みの作業が行われた。また、当該作業は、現場作業者が行うのではなく、ブロックの配送業者に行わせており、その指揮・命令は、現場責任者ではなく、一般の作業員によって行われていた。
さらに、ブロック製造業者から積み上げ前に下段ブロックを固定するよう指定されていたにもかかわらず、現場では、下段ブロックを固定せず積み上げ工事を行っていた。
この事例でも、複数の原因が重なって生じています。まず、倒壊したブロックは、下段を固定せずに積み上げると、2段目であっても倒壊の危険性があったことから、製造業者から固定するよう指示されたにもかかわらず、ブロックの固定を怠ったことが大きいでしょう。
また、被災者らは、狭い場所で作業をしたため、倒壊による衝撃を避けられませんでした。
さらに、ブロックの積み上げは、下請け業者の従業員によって当初のクレーンにより行う予定でしたが、実際の現場では、ブロックの配送業者に車両積載形トラッククレーンによりこれを行わせていました。しかも、この配送業者は移動式クレーン運転士資格を有していませんでした。
今回のような災害の防止のためには、まず、重量物の積み上げ作業時には、作業員は、移動式クレーン作業を行っている周辺に近づかないこと。が重要で、作業がある場合は、一旦その場から離れ、安全が確保されていることを確認してから作業現場に戻る必要があります。
また、ブロックの積み上げに際しては、ブロックの製造業者の指定する方法がある場合には、その方法により施工を行わなければなりません。
さらに、移動式クレーンによる荷の運搬作業を行う場合は、有資格者に行わせることは当然、作業の指揮・監督をする者を選任し、その者に現場管理を行わせます。
そして、下請と元請の連絡・協力体制を確保し、下請は元請の指示に従って作業を進めるようにします。
事業主側としては、作業に入る前に、ブロックの施工に対応した安全教育を実施し、作業員に適切な作業手順・方法を教育し、作業現場に適した危険予知活動を行う必要があります。
8.荷崩れによる労働災害
ここ数年、陸上貨物運送事業の需要の増加により、荷崩れによる死亡災害、死傷災害が共に増加傾向にあります。
運送の際の、荷崩れによる労災事例を見ると、「積みおろし時における被災」が半数以上を占めており、荷物の固定・固縛が不適切だった例が散見されます。特にトラックなどの運送の現場においては、積み荷を行った者と積みおろしを行う者は別のケースが多く、積み下ろしを行う者は積み込んだ際の荷物の配置、固定の仕方など積付け時の状況が分からないため、積みおろし時の危険を予測できず、その結果災害に至ることが多くあります。
今回は、荷崩れに関する事例と、荷崩れを防止するための措置、及びこれにより労働災害が生じた場合の法的責任について見ていきたいと思います。
1.荷崩れの事例
(1)固定ベルトを外した途端に多くの角材が落下( 死亡災害 )
被災者は、トラック(ウイング車)の積荷である角材 180本の束の積み付け状況を点検していました。角材はラッシングベルトで固定されていたものの、点検のためベルトを緩めたところ、角材の束が崩壊し、被災者は角材の下敷きになりました。なお、同被災者は保護帽を着用していませんでした。
(2)ドラム缶とともに転落。ドラム缶が被災者に直撃( 死亡災害 )
被災者は、積載されているドラム缶を、トレーラーコンテナの奥からフォークリフトのあるトラック荷台側面に移動させる作業をしていましたが、コンテナから地面へドラム缶とともに転落し、ドラム缶が被災者に直撃しました。なお、コンテナ内部の底面には雪が残っており、非常に滑りやすい状態でした。
(3)荷卸しのためチェーンを緩めたところ、荷が崩れ、荷とともに墜落( 死亡災害 )
被災者は、別の事業場でトラックに荷(鋼製約1.6t)を積み込んだ後に、配送先に輸送し、荷卸しをしていました。荷は、ワイヤーロープとレバーブロック(荷締めに使用する用具で、レバーを上下させてフック付のチェーンを動かして用いる)で固定されており、被災者は、レバーブロックを緩めようとしましたが、レバー部分の損傷により緩まなかっため、単管パイプを差し込んで動かそうとしたところ、安定した形状でなかった荷に力がかかり、荷がバランスを崩し、被災者とともに転落しました。
2.荷崩れを防止するための措置
荷崩れを防止するためには、積付け時に際し、積荷の状態を確認すること(積みおろし配慮)が重要です。
積みおろし担当者が安全な積みおろしができるよう作業手順を予測し、積付け時の積みおろし配慮を行う必要があります。また、荷崩れを防ぐために、適切な固定・固縛を行うなど、適正な方法で荷を固定させることが非常に重要となります。
具体的な防止措置として、以下のようなものが挙げられるでしょう。
・作業手順書の作成
・積荷の状態に応じて作業指揮者を定めること
・荷の固定・固縛方法に係る研修の実施
・積付け・積みおろし時に渡し板等が必要な場合には、板の脱落防止や荷の滑り止め措置を実施
・荷物をトラックなどで運搬する際には、トラックの走行途中にも、定期的に積荷の固定・固縛方法を点検すること
・運搬に際し、荷崩れに繋がりやすい荒い運転(急制動、急発進、急旋回など)をしないこと
・荷台のあおりやウイング等を動かす際、荷物を立てかけていないか確認すること
3.荷役災害における荷主等の法的責任
(1)労働安全衛生法等に基づく責任
事業者は、労働安全衛生法等によって、直接雇用する労働者に対する災害防止のための措置を講ずる責任を負っており、労働災害が発生した場合、労働安全衛生法違反や刑法第211 条(業務上過失致死傷)違反として罰則を受ける可能性があります。
具体的には、安全衛生教育実施違反が認められた場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金となり、衛生管理者の未選任や労働災害防止措置違反、健康診断実施違反、書類の未保存、虚偽の記載などが認められた場合は50万円以下の罰金となります。
(2)安全配慮義務違反に基づく責任
労働災害が発生した場合、事業者は、上記(1)のような労働安全衛生法や刑法違反による罰則に加えて、安全配慮義務違反として損害賠償責任を負う可能性が高いでしょう。
これまでのコラムで見てきた通り、「安全配慮義務」とは,労働契約に伴い使用者が労働者に対して負う義務であり、労働者が生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるように配慮しなければならない義務を言い、 労働契約法第5条に規定があります。
生命,身体等の安全には,心身の健康も含まれます。そして、必要とされる配慮は一律に定まるものではなく,労働者の職種,労務内容,労務提供場所等の具体的な状況に応じて,必要な配慮をすることが求められます。
一般的には雇用契約に付随する義務とされていますが、直接的な雇用関係にない場合であっても義務違反を問われることがあり、下請け労働者の労働災害に関して、元請け業者の安全配慮義務違反が認められるケースもあります。
損害賠償額は、事例にもよりますが労災申請によって得られる金額より大幅に多くなることが予想されます。
(3)不法行為に基づく責任
安全配慮義務違反が認められると、ほぼ同時に事業者には民法第 709 条による不法行為責任に問われることが多いでしょう。
ただ、不法行為責任は3年という短い期間で消滅時効にかかるため(民法724条)、この場合、債務不履行責任を求めるのが一般的です。債務不履行責任であれば、時効期間が10年と、不法行為責任に比べてかなり長いためです(民法167条)。ただ、どの理由により損害賠償責任を主張するかは事例ごとに異なります。
不行為責任は雇用契約の有無に関係なく問うことが出いるため、トラック運転者の労災事故などて、直接雇用関係にない運搬発注者に対する不法行為責任が認められるケースもあります。
荷崩れによる労災事故が発生した場合、会社側がとるべきであった防止措置を検討し、責任を追及することになります。損害賠償請求に際しては、労働者側の過失が認められると賠償額が減額される場合もありますので、慎重な分析が必要となります。
監修弁護士
弁護士:松村 龍一 (第二東京弁護士会所属)
コメント:
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