労災を後から申請することは可能か?手続きと気をつけるポイント

労災保険は、労働者の業務に起因する傷病を補償する公的保険です。労災保険による補償は、労働基準監督署への申請手続きを行うことで受けられます。
では、労災保険の補償申請はいつでもできるのでしょうか。退職した後から申請することも可能なのでしょうか。

今回は、労災保険の申請期限と後からの手続きの可否について解説していきます。

いつまでに申請すればいいか

労災保険による補償には、補償の種類ごとに申請期限が設けられています。

労災保険の8つの補償

まずは、労災保険の補償の種類を見ていきましょう。
労災保険による主な補償には、8つの種類があります。労災にあった労働者は、傷病の状態もしくは要件を満たすことで、それぞれの補償を受けることができます。

①療養(補償)給付
労災による傷病の診察や薬剤支給、治療、手術、入院、看護、移送などの療養費用の補償

②休業(補償)給付
労災による傷病で働けず休業し、賃金を受けない場合に受け取れる補償

③障害(補償)給付
労災による傷病が治ゆ(症状固定)した後、一定の障害が残った場合に支給される補償
障害(補償)年金と障害(補償)一時金の2種

④遺族(補償)給付
労災によって亡くなった労働者の遺族に支給される補償
遺族(補償)年金と遺族(補償)一時金の2種

⑤葬祭料・葬祭給付
労災によって亡くなった労働者の葬祭料補償

⑥傷病(補償)年金
療養(補償)給付を受けている労働者の傷病が療養開始から1年6か月経っても治らず、その障害の程度が傷病等級に該当する状態が続いている場合に支給される補償

⑦介護(補償)給付
傷病(補償)年金もしくは障害(補償)年金を受けている労働者で、一定の障害があり介護を受けている場合に支給される補償

⑧二次健康診断等給付金
一次健康診断の結果として、脳血管や心臓疾患の発症にかかわる身体の検査の全てにおいて異常の所見があり、脳・心臓疾患の症状はないと認められた労働者に給付される精度の高い二次健康診断と保健指導
(厚生労働省福岡労働局HP)

各労災補償の申請期限

ご紹介した8種類の労災補償には、それぞれ申請期限が設けられています。

①療養(補償)給付
療養の費用の支出が確定した日の翌日から2年
費用の支出確定ごとに請求権が発生する

②休業(補償)給付
働けず賃金を受けない日の翌日から2年
賃金を受けない日ごとに請求権が発生する

③障害(補償)給付
・障害(補償)年金
傷病が治癒した日の翌日から5年
・障害(補償)一時金
傷病が治癒した日の翌日から5年

④遺族(補償)給付
・遺族(補償)年金
被災労働者が亡くなった日の翌日から5年
・遺族(補償)一時金
被災労働者が亡くなった日の翌日から5年

⑤葬祭料・葬祭給付
被災労働者が亡くなった日の翌日から2年

⑥傷病(補償)年金
なし(監督署長の職権により移行される)

⑦介護(補償)給付
介護を受けた月の翌月1日から2年

⑧二次健康診断等給付金
一次健康診断を受診した日から3ヶ月以内
(厚生労働省HP)

申請期限は2年および5年が基本ですが、補償ごとに起算日の考え方が異なるので注意してください。また、未支給の保険給付(※)や特別支給金の期限については、各補償の申請期限と同じになります。

申請期限を過ぎてしまった場合には、時効として労災補償を受ける権利が消滅することになり、被災労働者は労災申請を行えません。手続きを先延ばしにして時効を迎えてしまったり失念してしまったりしないためにも、労災申請は早めに行うようにしましょう。

※ 未支給の保険給付
労災保険給付を受ける権利を持つ被災労働者が死亡した時に残っている、その人に支給すべき保険給付のこと。この未支給の保険給付については、被災労働者の家族が代わりに請求できる。

健康保険から労災に切り替えるには?

労災による傷病の治療は労災保険の補償対象であり、健康保険の補償対象にはあたりません。そのため、労災による傷病の治療に健康保険を使った場合には、労災保険への切り替え手続きが必要です。
健康保険から労災保険への切り替え手続きは、以下のような手順で行います。

①受診した医療機関へ問い合わせて、労災保険への切り替えが可能か確認する

切り替え可能だった場合
②「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」を作成のうえ、事業主の証明をもらい、受診した医療機関に提出する。健康保険使用時の負担金の返還を受ける。
切り替えできなかった場合
②健康保険組合に、労災の治療に健康保険を使った旨を申し出て、その後の手続きの指示を受ける。

③健康保険組合の指示に従って、納付書で治療費を返納する。
④「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」に「健康保険で受診した時の領収書(原本)」と「切り替え時に健康保険組合に返納した時の領収書(原本)」、「健康保険組合から送られてきたレセプト(未開封)」を添えて、労働基準監督署に提出する。

労災申請には、前述のように期限があります。健康保険から労災保険への切り替えが必要な場合、切り替え手続きにある程度の時間を要するため、手続きが遅れれば労災申請の時効に間に合わない恐れもあります。時効を過ぎれば、治療費は自己負担になってしまいます。労災申請の手続きだけでなく、健康保険から労災保険への切り替え手続きも、気付いたらすぐに行うようにしてください。

会社を退職した後でも、労災申請できる?

労災にあった後、労災申請を行う前に退職してしまったというケースも珍しくはありません。
しかし、会社を退職した後でも労災申請は行えます。
法律の条文では以下のように定められています。

「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によつて変更されることはない。」
(労働者災害補償保険法第12条の5)

退職が労災補償の受給に影響を与えることはありません。よって、各補償の要件さえ満たせば、退職後に労災申請を行うことも、退職前から受け取っていた補償給付を継続して受けることも可能です。
ただし、最初にご紹介した申請期限(時効)内に手続きしなければ、保険給付を受ける権利は消滅します。

会社が労災申請していなかったので、自分で申請したい。可能か?

労災案件の中には、会社が労災申請の手続きをしてくれなかったり、申請書類の証明欄に記入してくれなかったりするケースも多く見られます。
もし、会社が労災申請の手続きに協力的でなかったとしても、労災申請をあきらめる必要はありません。書類を作成し、労働基準監督署へ提出することで、自分自身で労災申請を行うことは可能です。
申請書の証明欄を会社に記入してもらえなかった場合には、書類提出時にその旨を労働基準監督署の窓口で伝えてください。

申請期限(時効)を迎えれば、保険給付を受ける権利が消滅し、補償を受けられなくなってしまいます。会社が労災手続きをなかなかしてくれない時には、自ら手続きを行うようにしましょう。

また、「労災隠し」は違法です。会社が労災の発生を隠蔽したがったり、労災を申請したことで嫌がらせをしたりするような場合は、労働基準監督署や弁護士に相談するようにしてください。

まとめ

労災による補償を受けるにあたっては、労災申請の期限を意識しておく必要があります。特に療養(補償)給付や休業(補償)給付は、都度請求権と申請期限が発生するので、正確に日程を管理しておくようにしましょう。

また、会社が協力的でなくても、労災申請は行えます。さらに、労災申請の時効を迎えてしまった後であっても、会社に対する損害賠償請求によって賠償を受けられる可能性があります。
「会社が手続きしてくれないから」「過去に労災にあったけど時効を過ぎてしまったから」と手続きをスムーズに進められなくても、補償をあきらめるのではなく、まずは一度弁護士にご相談ください。