労災認定されたケガや病気が再発した場合、労災保険はもらえるのか?

事業主に雇用され働く人々は、労災保険による補償を受けられます。基本的に、労災によるケガや病気が治ゆすれば補償は打ち切られますが、もし一度治ゆした症状が再発した場合にはどうなるのでしょうか。補償は再度受けられるのでしょうか。
今回は、労災認定されたケガ・病気の再発における補償について詳しく解説します。

そもそも労災保険を受け取れるのはいつまで?

ケガ・病気が治ゆしたと診断されれば、労災保険の療養補償給付や休業補償給付は打ち切りとなります。労災保険による治ゆとは、以下のような状態のことを指します。

労災保険の治ゆ
傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態。症状固定とも呼ばれる。
(厚生労働省「労災保険における傷病が治ったときとは・・・」)

労災保険の治ゆとは、傷病が完全に治って元通りになることを指すものではありません。治療を続けても改善を見込めない症状固定の状態を治ゆとし、その判断は医師によって行われます。

再発が認められる3つの要件

治ゆ後に症状が再発してしまった場合の補償の有無と満たすべき要件について解説していきます。

治ゆ後の再発も補償対象になる

労災における「再発」とは、一旦治ゆの診断を受けた人が、その後、労災の旧傷病との因果関係が認められる症状を発症することを指します。

この治ゆ後の再発については、「治ゆにより一旦消滅した事業主又は政府の補償義務を再び発生させるもの」とされています。
そのため、治ゆ後の再発は労災保険の補償対象になります。

傷病の再発認定には3要件を満たす必要がある

前述の通り、治ゆ後の傷病の再発は労災保険の補償対象になります。ただし、傷病の再発として取扱いを受けるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

労災による傷病の再発における3つの認定要件
①その症状の悪化が当初の業務上の又は通勤による傷病と相当因果関係があると認められること
②症状固定の時からみて明らかに症状が悪化していること
③療養を行えば、その症状の改善が期待できると医学的に認められること
(厚生労働省「労災保険における傷病が治ったときとは・・・」)

上記要件を全て満たした場合、その症状は傷病の再発として認定され、労災保険による給付が再開されることになります。

また、労災における再発とは、傷病が症状固定の時の状態よりも悪化した状態を指し、再び症状固定の状態に回復するまでの療養に対し補償給付が行われます。再発では、症状固定の時の状態が基準となることを押さえておきましょう。

再発で受け取れる労災保険の給付とは

ここでは、再発の場合に受け取れる労災保険給付の種類と手続きについてご説明します。

再発時には療養給付や休業給付を受け取れる

労災による傷病の再発時には、要件を満たすことで、療養(補償)給付、および休業(補償)給付などの労災給付を受けることが可能です。

■療養(補償)給付
労働者が、業務や通勤が原因で傷病を負い、療養を必要とする場合に支給される。
病院や薬局での無料の治療や薬剤支給、または治療や薬剤支給にかかった費用を現金給付で補償する。手術や入院、看護、搬送などに関する費用も対象となる。

■休業(補償)給付
労災による休業において、以下の3要件を満たす場合に支給される。

①業務上の事由、または通勤による負傷や疾病による療養のため、
②労働することができないため、
③賃金を受けていない
(厚生労働省「労災保険請求のためのガイドブック」)

ただし、通常の労災発生時においては、休業(補償)給付には3日間の待機期間がありますが、再発の場合はこの待機期間がなく、休業1日目から給付を受けられます。

再発時に給付を受けるための手続き

労災による傷病が再発した場合には、再度手続きを行い、労働基準監督署の労災認定を受ける必要があります。
療養(補償)給付を受ける場合には療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)を、休業(補償)給付を受ける場合には休業補償給付支給請求書(様式第8号)を作成のうえ、職場を管轄する労働基準監督署に提出してください。
基本的に書類の記入方法ははじめの補償申請時と同じですが、再発の場合には一度治ゆした傷病が再発した旨を書き加えておくと良いでしょう。

便宜上「再発」として扱われるものもある

労災による傷病の治療の中には、便宜上「再発」として扱われるものもあります。
その代表的なものが、髄内釘による治療です。

骨折などのケガを負った場合、骨を固定するために髄内釘を体内に挿入することがあります。一旦症状が治ゆしても、その後髄内釘を体内から抜く時には、再度手術をしなければなりません。入院や通院が必要になることもあるでしょう。

この髄内釘の抜去については、もともとの症状が再び現れたわけではないものの、労災においては「再発」として扱うことが決められています。
よって、髄内釘抜去のための手術費や入院費、通院費、および手術に伴う休業については、傷病の再発として、労災による補償を受けられます。

労災の再発に関する裁判例

労災における傷病の再発に関しては、訴訟も多く行われています。中でも精神疾患における再発の判断は難しく、訴訟の数も特に多くなっています。
ここでは、労災に関する精神疾患の再発の裁判例を2つご紹介しましょう。

労災によるうつ病の再発が認められたAさんの事例

システム管理業務を担うAさんは、うつ病により休職していた。
約半年後に職場復帰を果たしたが、その後業務ミスが目立つようになった。このことから、使用者はAさんに具体的な仕事を与えないようになり、作業部屋への入室も禁止した。
やがてAさんはうつ病を再発。労災請求を行うも認められず、「うつ病の再発はパワハラが原因」として労災不支給処分の取り消しを求め裁判を起こした。
裁判では、心理的負荷は強度であったと判断され、労災支給が決定された。

労災によるうつ病の再発が認められなかったBさんの事例

日用品卸会社に勤めるBさんは、残業が月120時間を超える過剰労働によりうつ病を発症し、休職した。
数ヶ月後職場復帰を果たしたBさんだったが、4年後に再度うつ病となり、会社を退職した。
2度目のうつ病は1度目のうつ病の再発だとして、Bさんは労働基準監督署に労災補償を申請するも、労災認定はされなかった。
これを不服としてBさんは裁判を起こすも、高裁は「1度目のうつ病は業務に起因するが、2度目のうつ病は業務に起因しない」として、Bさんの請求を却下。再発の労災認定はされなかった。

まとめ

ご紹介したように、傷病の再発により労災補償を再度受けるためには、3つの要件を満たす必要があります。要件を満たしているかの判断は難しい部分もあるため、気になる症状が現れたら、まずは専門医に相談し、判断を仰ぐようにしましょう。

また、労働基準監督署の判断に不服がある場合や会社が労災手続きに協力的でない場合などは、一度弁護士にご相談ください。弁護士は法的な観点から適切な手続きを行い、あなたの労災手続きをサポートします。
労災トラブルにあった場合には1人で抱え込まず、まずは弁護士事務所の無料相談を利用するようにしてください。